〜Vampire’s Annui6〜
『…ああ、どうか、私に貴方の美しい名前をお教えください……』
『いいえ、我が姫、わたしはヴァンパイア、貴女は人間……決して交わることのない深い谷がわたしたちの間にはあるのです…わたしのことなどお忘れください………』
「……っ…ゔっ…ゔう〜……っ…ううぅ………」
「………何の動物の唸り声だ………」
まだ陽の高い正午頃、カイルは女の呻き声で目を覚ましたーー…。
吸血鬼の憂鬱記
「…〜うぅ〜…カイルくん〜……ずっ…起こじでごめんね〜…ずずっ…」
「……いいから、鼻をかめ…ヒドい顔になってるぞ……」
寝床を起き出してすぐにティッシュ渡すって、何だこの状況、という感じなのだが。明菜は礼を言って遠慮なくふーん!と鼻をかんだ…。
「…あぁあ〜!カイン様、哀しすぎるよ〜!!『吸血鬼と人は絶対に相容れないのです』って、うわーん〜!!そんなことないよ〜!!」
「……そんなことあるぞ………」
カイルは明菜に聞こえないくらいの声で言う。明菜は最近この『ヴァンパイア・ジャンプ』というアニメにハマっている。吸血鬼(ヴァンパイア)である主人公、“カイン・アルフォード”が、人間界で起こる問題を華麗なジャンプやキックでバッサバッサと解決して、人間の女性たちから慕われる、というストーリーである。
(…それにしても…名前…似過ぎだろ……)
誰かの悪意があるとしか思えない程、カイルの名前に似ている。それとストーリー設定等も吸血鬼的にヒヤヒヤするものがある…。総じて、カイルからすると『何だかなー……』な、アニメなのであった……。顔を洗い、そんなことをぼんやりと考えながらリビングに戻る。
「“ヴァンパイアー・キーック”!!」
「うわ…っ……!」
ドアを開けるといきなり明菜がドロップキックをかましてきた。態勢を崩して背中から床に落ちようとしている明菜を咄嗟に抱き止める。
「……おい………」
「えへへ〜、カイルくんなら避けられるかと思って〜…」
さすがにカイルが怒りを抑えた低い声で明菜を見ると、明菜もちょっと悪いと思ったのか、バツが悪そうに頭をかきながら視線をさ迷わせた…。
「お前、ドアを開け越しに急にキックかましてくるやつがあるか…!危ないだろ…!!」
「…う〜……ごめんなさ〜い……」
「大体、お前はな、部屋の片付けもしないで朝から晩までーー……」
日頃の鬱憤もあったのか、カイルのお説教モードはしばらく続いたーー…。
(……ったく…俺が避けたら、お前が怪我するだろ………)
何てことのない、日常の始まりーー……。




