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『吸血鬼の憂鬱記』  作者: 坂田クロキ
2/15

〜Vampire’s Annui2〜



「……遅いな………」


翌朝、カイルは再び時計を見つめていた。時計の針が指す時刻は午前八時過ぎ。明菜の行っている会社は他の会社に比べて出勤時刻が遅く、服装も自由でシフトも緩い。だが、このままでは遅刻する。さすがに遅刻や無断欠勤は社会人としてまずいだろう。


「明菜、そろそろ起きないと会社遅刻するぞ…?」


彼女の部屋に入り、布団団子のようになっている明菜の枕元で声をかける。彼女の部屋は漫画棚が二つ三つもあった……。足元のローテーブルの上にも数冊積み重ねられている。


「…〜う〜ん……あと八時間……」


「そんなに寝たら仕事終わってるだろ…!」


思わず突っ込むカイル。ムニャムニャと何か言ったかと思うと、また静かに、いや、寝息を立て出した明菜…。


「…っとに…しょうがねーな……」


髪をかき上げまた溜め息をつきつつ、カイルは明菜の布団を剥がした。出て来た本体の肩と膝裏に手を回し、ふわりと彼女の体を持ち上げる。そう、いわゆるお姫様抱っこだ。そのままベッドから引き剥がし、リビングまで連れて行って下ろした。自室でおろすと、再度眠る可能性があるからだ。


「ほら、顔洗って支度しろよ…ってどうした?」


明菜がおろされた状態のままで固まっている。どこか体調が悪いのかと、カイルが心配になっていると、


「もう一回さっきのして!!」


「…は……?」


「だから、お姫様抱っこ!!」


キラキラした瞳で下から上目遣いで見上げられる。明菜は普通に可愛い。飛び切りの美人というわけではもちろんないが、愛嬌がある。何か癒されるのだ。そんな明菜に見惚れてー……。


「しねーよ!!」


「えっ、“死ねーよ”!?」


「違う!!さっさと仕事行け!!」


「…え〜……」


ブーブー言いながらやっと明菜が支度をし出した。ちなみにこの時点ですでに朝ご飯を食べる時間はなくなっている。カイルは準備しておいたお昼のお弁当と共に、朝用のサラダとフルーツのパックも持たせてやることにした。


「じゃあ行って来るね〜」


「ああ、気をつけて」


ようやく支度の出来た明菜が玄関に立つ。ぴょこぴょこ跳ねていた茶髪は綺麗にセットされ、肩口でそろっている。オフィスカジュアル的な服を来たその姿は一応立派な社会人だ。この姿を見ると、家にずっといる自分が少し申し訳なく思えてくる。


「…悪いな……俺も早く仕事探さないといけないんだが……」


吸血鬼ゆえに色々難しい。


「いーよいーよ!カイルくんは家事全部してくれてるし!お金も入れてくれてるじゃない!わたし、家事全然ダメだからね〜…」


明菜が明るくフォローした。その言葉に甘えてしまう。


「お姉様に任せなさい!大きな船に乗った気持ちで!!」


「フッ…はいはい、ありがとな……」


明菜の笑顔にカイルの顔も綻ぶ。年齢に関してはカイルのほうがかなり歳上なのだが。明菜はカイルのことを“歳下の不憫な外国の留学生”くらいに思っているのだろう。『あ、そうだ!』と明菜がドアを開けた状態で振り返る。


「今晩、飲み会があるんだ!わたしはご飯いいから先に食べててね〜!」


「迎えに行こうか?」


「大丈夫!遅くなったらタクシー使うよ〜」


「…気をつけろよ……」


「了解〜行って来まーす〜」


バタバタと階段を降りて行く彼女にカイルはほう、と息をつく。どこかそそっかしくて、抜けてる彼女。


「……本当に大丈夫かよ……」


つい心配性になる。だが心配ばっかりしていても仕様がないので、部屋に戻り夕方まで休むことにした……。



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