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『吸血鬼の憂鬱記』  作者: 坂田クロキ
12/15

〜Vampire’s Annui10.5〜


「……面白い………」


『彼』は喧騒を眺めてそう呟いたー……。





〜Vampire’s Annui10.5〜







「…今日は雨になるはずだったのにな……」


久しぶりに街に出てみたらば、天気予報が外れて、十一月だと言うのに暑さを感じる気候に少々参っていた……。


「相変わらず人間の世界は騒がしい…」


興味深そうに人でごった返す通りを歩く。すれ違う人――特に女性――が彼を見て振り返る。黒い艶やかな髪に白い肌、瞳はきりりとして美しい。芸能界でも中々いないような美形の男性が歩いていたー……。しかし彼が目立つのはそれだけではない。彼は今時珍しい『着物』を着ていたのだ。どこからか、『コスプレ…?』などと言う声も聞こえてくる……。


「…どこかで休みましょうかね……」


一人呟いて、手近な喫茶店に入った。店員が注文を聞きに来る。シンプルなコーヒーを頼んだ。


「おや…、この気配は……」


運ばれて来たコーヒーの芳しい香りを楽しんでいると、慣れ親しんだ『同族(なかま)』の匂いがする…。気取られぬよう、スッと気配を消した……。家の一族は、この手の術に秀でているのだ。


(……人間の、女性ですか……彼女かな…?)


入って来た一組のカップルが目に入る。背の高い外国人の男性のほうが『同族』のようだ……。彼らは一つの皿を二人で分け合い、デザートも二人でつつき合って、仲睦まじげだ。


(彼女、彼が『吸血鬼』だって知ってるんでしょうかね……)


二人の様子を眺めながら、そんなことを考えてしまう。“我々”は、闇に生きる化け物なのだから。カップルが席から立ち、店の外に出る。彼も少しして、会計に向かった…。


「……ストーカーの趣味はございませんよ、と……」


本当に久しぶりに人の多くいる街に来たものだから、気分が高揚していたのか、はたまた外で会う同族に一片の興味が湧いたのかーー…黒髪の美形男性は、そのカップルをしばし追ってみることにした。もちろん気配は消してー……。


「…ふむ、普通のカップルのようですね……」


彼が尾行しているカップルは、今服を選んでいる。傍目から見ると、本当に人間同士のカップルにしか見えない。最初、黒髪の彼は、カップルの男性――オレンジブラウンの髪のイケメンーーが獲物として彼女を誑かそうとしているのかと思った。


「……最近は、この辺りも物騒な事件が増えましたからねえ………」


溜め息混じりにそう零す。物騒な事件というのは、言わずもがな、『吸血鬼』絡みの事件である。平和呆けしたこの国にも吸血鬼の脅威は流れ込んで来ているのだ……。


「次はどこへ行くのかな…?」


服のショップを出た二人は、ぶらぶらとした足取りで街をさまよう。途中、彼氏のほうが何か項垂れていたが、気にしないでおこう。と、そこに一つの違和感を感じる。


「…はて、これは……?」


急に察知した別の気配に、彼は周りに不審がられぬように辺りを探った。離れた所を歩いているオレンジブラウンの彼も気づいたようで、どこからこの違和感が漂って来ているのか、気配を辿っているみたいである。と、そこに違和感、もとい緊迫感の元が視界に入る。黒瞳が細められた。


「……あれ、か………」


意識を失った運転手を乗せたトラックーー…。それが少し離れた前方を歩く人の集団に近づいて来る。


「……やだ…何あれ………」


「……え……危なくない……?…」


遅れて気づいた人々も、危険を感じ始めた…。


「…きゃ……!!」


「……避けろ………!!」


暴走するトラックに、逃げ惑う人々………。


(…どうするか……)


黒髪の彼は、一瞬逡巡した。吸血鬼の力を持ってすれば、あんなトラック一つ止めるくらい朝飯前、いや、晩飯前である。だが同時に、人前で『力』を使うのはあまり良くないともされている。隠されて来た吸血鬼たちの存在が世間に露呈してしまう危険性が高まるし、そうなると自分たちの居場所が無くなるばかりか、人間たちもパニックに陥らせてしまう。双方の益のためにも、『吸血鬼』と『人間』は、棲み分けをしてきたのだー……。だがーー……。


「――……明菜……――!!……」


あのオレンジブラウンの髪の毛の彼である。多分彼女の名前を呼んで、一瞬後、ガァン!!という派手な音がした。


「………ほう…………」


彼の瞳に映ったのは、オレンジブラウンの髪の彼が、茶髪の可愛い感じのする彼女を抱えてトラックを足で止めた姿である。人間であれば到底出来ない業であるが、我々なら出来る。フリーズ状態から解放された人々に英雄扱いされ、一方で、嫌忌の対象にもなる声が聞こえる。


「……中々豪気な子たちじゃないですか……」


吸血鬼の彼の、彼女に対する接し方には明らかに愛情があった。彼の彼女に向ける瞳の奥に、深い優しさと、ほんの少しの欲が見て取れる。対する彼女のほうは、彼に対する恐怖なんて微塵もない。


「……面白い………」


思わず声と笑みが零れた。瞬間、オレンジブラウンの彼がこちらに振り向く。黒髪の男性は素早く気配を消すと共に、姿を分からなくする術もかけた……。





「危ない、危ない……彼の使った力で、わたしの術が破れてしまったんですね……」


街からだいぶ離れた場所をゆっくりと歩きながら独り言を言う。久方ぶりに人間の世界を堪能した。その上、興味深いものも見つけた……。


「…これはちょっと、面白くなりそうだなあ……」


綺麗な顔に悪戯な笑みを浮かべて、青年は一人囁くのだったーー…。






おまけ


「スキあり!!」


「うわっ…!何だよ!!」


同じように上着を脱いでいたと思っていた明菜が、いつの間にか接近していて、突然カイルの靴下を脱がして来た。


「カイルくん!足見せて!!」


「……ハァ……しょうがねえな………」


明菜は脱がせたカイルの靴下をクンクン嗅ぎだした……。


「…!!…何やってんだ!やめろ!!」


「ふあぁ〜男の人の何とも言えない匂い〜……」


「この変態!!」


「ついでに足も〜」


「やめろー……!!」


――変態な彼女――……。





おまけ2


「スキあり!!」


「うわっ…!何だよ!!」


同じように上着を脱いでいたと思っていた明菜が、いつの間にか接近していて、突然カイルの靴下を脱がして来た。


「カイルくん!○○(ピーッ)を見せて!!」


「そこ伏せなくていい!!意味が変わるから!!」


――変態な彼女2――





おまけ3


「スキあり!!」


「ふはは、貴様に見せる隙などない!!」


「…くっ……おぬし、やりおるな…!!」


ーー時代劇な彼氏彼女ーー






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