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『吸血鬼の憂鬱記』  作者: 坂田クロキ
1/15

〜Vampire’s Annui1〜


ーーここは日本の首都、東京。そこにあるとあるアパートの一室。夜も深まり人々が寝静まる頃、一人の青年が目を覚ました……。


「…ん……そろそろ起きるか……」


ベッドから起き出し、上半身裸のままオレンジブラウンの髪をかき上げる。よく整えられた部屋を後にし、洗面台へと向かう。


彼の名は『カイル・アレンディーナ』、由緒正しい“吸血鬼(ヴァンパイア)”だー……。


「…だいぶ髪が伸びたな……」


顔を洗い、前髪から滴る水滴を払いながら鏡を覗き込む。そこにはグレーがかった薄茶の少し目付きが鋭いが、それさえ魅了ポイントになりそうな野性味のあるイケメンがいた。


「…“ブラッディキャンディ”、あともうこれだけか……また補充しておかないとな…」


キャニスターから取り出した深紅に輝く飴玉を二粒ほど口の中に放り込む。その時開けた口元から鋭い八重歯がのぞいた…。顔周りをさっぱりさせて部屋に戻る。綺麗に整頓されたクローゼットからストライプのシャツを取り出し、軽く着こなした。


「…さて、と……」


おもむろに棚に置かれた時計を見る。


現代、特に日本では吸血鬼の存在はごく一部の限られた人間にしか知られていない。理由は簡単、要らぬ混乱を避けるためだ。だから彼らの内多くの者は吸血鬼であることを隠すために、必要以上に人間と接触しない。ましてや、“人間と一緒に住む”など言語道断なのだがー……。


「…午前一時十五分……そろそろ『明菜(アキナ)』を起こさないとマズい……!!」


時間を確認したカイルは自室を飛び出し、隣りの部屋へと足早に向かう。そしてゆっくりとドアを開けた……。中に入り、ベッドの膨らみに向かって声をかける。


「……おい、明菜……そろそろ起きないとヤバイぞ……」


「……ん〜………」


布団の中の声の主は唸るだけで、中々起きて来ない。カイルは更に耳元でささやく。


「…『ヴァンパイア・ジャンプ』、見逃しても良いのか…?」


「…『ヴァンパイア・ジャンプ』……?」


布団の中の声の主―女性―は、ハッと目が覚めて、ガバッとベッドから起き上がりそのまま寝ぼけまなこで、リビングのテレビのほうへと駆けて行った…。


「…ったく……」


リビングからは賑やかなアニメのオープニングソングと、それを観ながら鼻歌を歌っているご機嫌な明菜の声が聞こえてくる。そんな彼女に溜め息をつき、苦笑しながらもカイルの表情は柔らかい。


そう、“吸血鬼”であるカイルは彼女、『楓 明菜(カエデ アキナ)』というオタクな“人間”の女性と一緒に暮らしていたーー…。



「あー面白かった〜!!カイルくん、いつも起こしてくれてありがとね〜!」


ソファにバフっと、背中からダイブした明菜が満面の笑みで言う。


「どういたしまして…起きてる時間だからな…」


カイルも口元に軽く笑みを浮かべて返した。


「さあ、もう寝ないと明日仕事ヤベーぞ…」


「わっ、ホントだ!じゃあまた明日ね〜おやすみ〜」


午前二時過ぎを指した時計を見て明菜が慌てて自室に戻る。それを見送り、カイルも片付けや掃除などをして過ごす。


明菜はカイルが吸血鬼であることを知らないーー……。吸血鬼は血を吸う化け物、人間とは異なる生き物だ。治癒力も身体能力も人より遥かに高いし寿命は無いに等しい。


(……バレないようにしないとな……)


本来なら相容れない存在の二人だが、中々上手くやっている。それはもちろん明菜がカイルのことを知らないというのもあるのだが、多分に明菜の性格にもあると彼は思う。細かいことは気にしない大雑把な性格というか、オタクというか、変わっているというか……。


そんな恋人でもない吸血鬼と人間の二人の奇妙な同居生活だが、カイルはこの生活を気に入っているのであったー……。




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