2騎 メンバー
「わたしは魔法術士のクーネル・アン・ソヴリュ。クーネルで結構です。
今のうるさいのがマイク・マイキー、レンジャーです。
こちらは癒術士のエレーナ・ぽんぽこ和尚さん。
で、今回体験で参加されますてろてろさん。ご覧の通り女戦士さんです」
マイキーをスルーして、クーネルが話を始める。
「てろてろです、よろしくお願いします」
「ひゅーひゅー! よろしくっス、てろてろちゃん! なんかあってもこのオレっちが、やさ~しくエスコートしちゃうからね!」
「エレーナ・ぽんぽこである。よしなに頼む」
「えっと、よ、よろしくお願いします」
「てろてろさん、あんまりマイキーのことは気にしないでいいですからね。レンジャーとしては優秀だけど、性格は信用しないでください」
「うわークーネルさん、ドイヒーっスよー」
「はぁ。おぬしは黙っておれば、それなりに見られるもんなのじゃがのう」
「エレちゃん、オレっちに惚れるなよ?」
「それはないから安心せい」
白衣とも見えるヒーラーの衣装を身に着けた女性がマイキーに肘打ちを入れる。
エレーナ・ぽんぽこ和尚。メンバーにはエレーナと呼ばれている。
金色のロングヘアーをポニーテールにまとめ、垂れた前髪からハシバミ色の瞳がのぞく。
北欧のとある国から来たらしいが、ここの国の文化に影響されたらしく、微妙なネーミングと、微妙な話し方が特徴の美少女である。
「今日はこの5名でのパーティですね。では、これからてろてろさんに、アビスクロニクルの説明をしますので、その間にアインツさんは着替えと準備をお願いしまーす」
了解ですと残し、アインツが支度部屋に下がる。
酒場の一角で、クーネルがてろてろに説明を行う。
「ここ居酒屋フィットネスクラブ、アビスクロニクルの特徴は、いうなればファンタジーRPG風のサバイバルゲームといったところです。
とはいえ、プレイヤー同士では戦わないのですが」
「あ、じゃあ敵っていうのは」
「敵は、仮想現実立体映像が作り出すモンスターで、それを狩っていくゲームです。
店の奥のエレベータから地下100メートルの広大なフィールドに行き、モンスターを狩りに行きます。
ローテフェザーはそのフィールドの入り口の一つで、他にも入り口となる店はあるのですが、それぞれがギルドとなっています」
クーネルは、酒場とエレベーター、地下のフィールドと、断面図に書かれた内容を説明する。
「ゲーム感覚でといっても、重たい鎧を着て剣を振るったり、ダンスやストレッチに発声練習の要素を加えた呪文詠唱を駆使したりで、遊びながらフィットネスもできちゃう、一石二鳥なシステムなんですよ」
「でも、こんな広い地下室、ゲームのために作っちゃうなんてすごいですね」
「それがじゃな、地下のフィールドは以前地下放水路として使っていたようじゃが、護岸工事諸々でのう、閉鎖されていたものを再利用したそうじゃ」
「エレちゃん、地下放水路ってなに~?」
エレーナの解説に、マイキーが質問を挟む。
「地下放水路は河川の氾濫や洪水の際にの、一時的な貯水槽としてな、また川の迂回路としても役立つ、まぁ地下トンネルのようなものじゃな」
「へぇ~、ここの地下ってそうだったんだぁ。オレっちも今まで知らんかったわ~。エレちゃん物知り~!」
エレーナは、マイキーの称賛を華麗にスルーする。
「モンスターや地形、魔法などは全てリアビューシステムと、装備品に埋め込まれたセンサーと振動装置でリアルに表現されますが、映像なので物理的なダメージはありません。
攻撃を受けた場合は、バーチャルステータス画面に表示されているHP、右上の緑色のゲージですね。これが減少しHPが0になるとゲームオーバー。一度セーフティエリアへ戻ってもらって、リスポーン待ちとなります。
セーフティエリアにいれば一定時間でHPが回復しますので、完全回復したらまた戦線に復帰できますよ」
一拍入れてクーネルが続ける。
「ゲームオーバー時は死人扱いなので、他者への攻撃や物の受け渡し、会話は厳禁ですが、例外としてダウン通ります、などのダウン宣言で死者をアピールすることは認められています。これはサバゲー時代から続いているルールみたいなものですね」
「いろいろと、難しいんですね」
「まぁ、初めの内はルールも判らなくて難しいっスから、オレっちたちと一緒に楽しんでくれたらそれでいいっスよ」
クーネルが説明をしている頃、アインツは店奥の更衣室でロッカーに用意された衣装へ着替えていた。
(女戦士かぁ。初めてらしいから、今日は上層でゆっくり肩慣らししようかな。
折角だから定着してもらいたいしね)
会員登録をすると個人個人にロッカーが割り当てられ、そこに武器や防具が保管できるようになる。
てろてろは体験プレイなのでゲスト用ロッカーを使い、装備もゲスト用レンタルアイテムを使うようになっているが、アインツは自分専用のロッカーがあり、過去に冒険で得た装備を継続して使うことができる。
アビスクロニクルでは雰囲気を大切にするため、フィールドへ文明社会の産物を持ち込まないようルール付けられている。
スマートフォンや時計といったものは、このロッカーに保管することになっている。
また、本物の武器やそれに近いものも持ち込ませないようにしている。
同士討ちの危険を回避するため、金属の棒やカッターナイフなど、プレイヤーに怪我を負わせる可能性のあるものは徹底的に排除されているのだ。
そのため、装備する武器はギルドからレンタルされる物かプレイ内で入手した物限定で、それらもゴム刃やウレタンなどで出来ているため、間違って同士討ちをしたとしても相手にはダメージが行かないように配慮されている。
一通りクーレルがてろてろへの説明を終えたころ、アインツが完全武装で合流する。
聖騎士として白銀のフルプレートメイルに身長と同じくらいあろうかというタワーシールドを携え、腰にはブロードソードを佩き、右手にはショートスピアを握っている。
「お待たせしました。ではまずは習うより慣れろ、です。早速行きましょうか!」
「あのお店って、ちょっと、冒険者の酒場みたいな感じなんですね」
フィールドへ向かう縦坑のエレベーターの中で、てろてろが話しかける。
「そうなんですよ。店に入ると、よし冒険するぞーって感じになるんですよねー」
「あんまり違和感なくって、そのまんまの格好で帰っちゃったりするヤツもいるくらいっスからねー」
「そりゃマイキー、ぬしくらいじゃろ」
「っちゃー、エレちゃん、ドイヒー!」
和気あいあいと談笑するメンバーを見て、アインツは既視感を覚えた。
「なんだか昔を思い出しますね」
「なんじゃ、懐かしいのか」
アインツの独り言に、エレーナが反応する。
「そうですね。こういう雰囲気最近ありませんでしたから」
アインツは新人を迎えたパーティのリーダーとして、久しぶりな感覚を味わっていた。