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(9)試合前の葛藤

<第25話>


 ディフェンスシステムの理解も深まり、いよいよ春の第2戦まで1週間となった週明けの月曜日。試合デビューが決まっている児玉と朝長以外の1年生は、何とか試合に出るチャンスを貰おうといつも以上に練習では気合いが入り、先輩達に猛アピール。チーム全体も盛り上がってきた。

 そんな中、注文していた1年生のユニフォームが届いた。ホーム用のブルーのジャージと、ビジター用のホワイトのジャージだ。みんな早速身につける。憧れのスタイル。やっぱり格好いい。

 「おいおい、練習で破れて穴が開いたらもったいないから、試合までとっておけよ!」先輩達に注意されるも、今日はこのまま練習したい気分だ。僕の背番号は「97」。アメフトのユニフォームは1番~99番まで、一部はポジションによって制約があるものの、好きな番号をつけることが出来る。僕は、他のスポーツではあり得なくて、これぞアメフトという番号をつけようと思い、「97」を選んだ。深い意味はないけど、気に入っている。ユニフォームを身にまとうと、やはり「試合に出たい」という気持ちが強くなる。同じ1年生の中でも、何も考えずに「絶対に出たい」と全力で願うやつもいれば、自分はどちらかというと「試合に出たい」という気持ちと「自信がないし、怖い」という気持ちもあるのが本音だ。でも、ユニフォームの魔力は強く、「試合に出たい」気持ちが膨らんでいく。

 

 今日の練習は、試合形式のスクリメージが中心。僕もダミーチームではLBで出させてもらい、2週間前と比べて少しずつプレー判断が出来るようになってきた。とは言え、攻撃のシステムを理解しているからついていけてるだけだと思うけど。実際にQB児玉と対戦すると、パスの迫力も出てきているし、貫録というか凄みが出てきた。これがエースのオーラなのかもしれない。パスを止めてやると意識すると、児玉と高橋主将のランは全然追いつかない。切れ味抜群だ。この攻撃力がどこまで通用するのか楽しみになる。でも、北都大の攻撃陣も同等か、またはこれ以上の攻撃力があるかと思うと、僕は、秋までにどれだけ戦力に近付けるのか不安にもなる。もっと成長の速度が必要だなと痛感しながら、僕は練習後にシャワーを浴びながら練習を振り返っていた。


 試合前の練習は緊張感が増して、質が高まるこの充実感が気持ちいいな、と思いながら帰ろうとすると、人影が見える。6月で日が長くなってきたとはいえ、北海道はまだまだうす暗くなるのも早い。「誰だろう」と心の中で考えると、テニスラケットを担いだジャージ姿の女の子がいた。

「あ、宮脇くん。ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

 一般教養の授業のグループワークとかでよく一緒になるテニス部の女の子だ。僕たちは、校庭にあるベンチに腰をかけた。さっき、ユニフォームを貰った時と同じように感情が高まりつつあった。 




<第26話>


「宮脇くん、お疲れ様。ごめんね、練習でお疲れのところ。」彼女が話しかける。

「全然大丈夫だよ。テニス部も遅くまで頑張っているんだね。お疲れ様。」

「アメフト部は大会近いとか、忙しいの?

「アメフトは、秋のシーズン一本勝負だから夏から秋にかけてがピークだよ。春は調整の時期だから、そんなに忙しいってわけじゃないかな。でも、今週末に春の最後の試合があるから、今日は緊張感があったね。テニス部は?」

「テニス部は春の大会が終わったところで、ほっと一息かな。」2人の間の空気が少し緊張している。

「私さ、宮脇くんと授業が一緒だったり、グラウンドで練習している姿を見たりして、ちょっと気になる存在になってきている。だから、もっと仲良くなりたいな。良かったら、明日練習終わった後、ご飯でもいきませんか?」たぶん僕は、彼女に誘われている。

「明日もこの時間に終わると思うけど、それでも良かったらいいよ。」僕は快諾する。

「ありがとう。じゃあ、明日練習が終わったら連絡してね。」連絡先を渡されて、彼女は立ち去った。遠くの方に同じジャージの女の子達が待っていたみたいだ。僕は、「デートをしたい」気持ちと、「自信がなくて、怖い」気持ちが混在していた。


 翌日、僕達は練習後に待ち合わせをし、パスタを食べに行った。ジャージ姿の彼女とは違い、オシャレな姿に驚いた。彼女からはお姉さんのような雰囲気を感じた。僕達は、部活の話、大学生活の話し、いろんな話題で盛り上がった。久しぶりにアメフトを忘れて楽しい時間を過ごすことが出来た。


 そして試合前の最後の本格的な練習となる金曜日。僕は、朝長達と学食で昼食を食べていた。僕は、A定食にササミチーズカツをプラス。朝長は、ご飯代わりに「牛とろ丼」、味噌汁代わりに「みそラーメン」、そして飲み物代わりに「カレー」。見ているだけで胸やけを起こしそうだ。

学食を出ると、テニス部の彼女が僕を見つけて手を振ってきた。

「ごめんね。今ちょっといい?」彼女に言われ、僕は校舎の影に連れて行かれた。

「私、宮脇君のことが好きです。もっと知りたいし、もっと一緒にいたい。だから、つき合ってください。」告白された。

 こないだの火曜日に一緒にご飯を食べて、とても楽しい時間を過ごせた。彼女は可愛いし、話も合うし居心地の良い女性だった。声をかけてくれて嬉しかったし、告白されたことは本当に嬉しかった。中学生の時はよく告白されたが、高校生の時は告白されず、久しぶりのトキメキだった。

 でも、今はアメフトのことで精一杯だし、時間があればもっとアメフトに染まりたい。秋までは時間がない。たぶん、彼女を優先することは出来ないし、彼女の気持ちにも応えることは出来ないだろう。ここ数日で考えていた結論だ。

「その気持ちはとても嬉しいけど、ごめんなさい。今はアメフトに集中したいから、お付き合いは出来ません。」僕は、明日の試合に集中したかった。


<登場人物>

・宮脇拓哉/みやわきたくや

 …主人公(僕)。1年生。LB(守備)。

・児玉悠斗/こだまはると

 …1年生。アスリートで自信家。QB(攻撃)

・朝長幹男/ともながみきお

 …1年生。巨漢。AKB好き。OL(攻撃)兼DL(守備)

・高橋湊斗/たかはしみなと

 …アメフト部主将兼オフェンスリーダー。4年生。RB(攻撃)。

・柏木行雄/かしわぎゆきお

 …アメフト部副将兼ディフェンスリーダー。4年生。LB(守備)

・前田奈津子/まえだなつこ

 …4年生。主務兼女子マネージャー。

・大島陽子/おおしまようこ

 …1年生。女子マネージャー。


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