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(13)夏の初めの再始動

<第35話>


 試合の後、帰宅した高橋はゆっくり風呂に入った後、柏木の家に向かった、一刻も早く、今日の試合について語りたい。それは、2人とも同じ考えだった。


「お疲れ。今日は相当タックルしたよな。身体、大丈夫か?」高橋が柏木に確認する。

「ああ、フロント面の踏ん張りのおかげで、良いタックルもたくさん出来た。おかげで身体の芯までクタクタだ。高橋だって、ボールを持つ回数が相当多かったな?」

「今日は児玉のランを封印したら、結果的にボールを持つ回数は増えたよ。でも、ブロック陣が頑張ってくれたから、走りやすかったさ。」


 2人とも、試合中はアドレナリンにより痛みを感じる暇などないが、試合が終わって数時間が経過し、心地よい痛みと疲労感が全身に広がっている。試合の夜くらいはゆっくりと休む予定だったが、やはり今日の試合が気になった。

「収穫は大きかった。チーム力は、順調に底上げ出来ている。ラインもセカンダリーも戦えている。あの制限されたプレー内容で、よく17点取ったよ。選手たちを褒めるべきだ。」柏木が高橋に伝える。

「そうだな。守備陣も前半は完封だったし、最初の失点は攻撃陣のミスだから、よく戦えているよ。本当に。」高橋も同感だ。さらに続ける。

「選手たちは、本当によくやったよ。思い切りよく、全力だった。出来ていなかったのは俺達だけだよ。完全にブレブレだった。」高橋が反省を述べる。

「迷ったな。迷いが生じた。それだけは絶対にやってはいけない。」柏木も反省を述べる。

「リーダーたるもの、軸がぶれてはいけない。そんな主将じゃ、誰もついてこなくなるよな。」高橋が続ける。

「頑張った1年生は試合に出すと言っておきながら、森保と田島までしか出せなかった。試合、出たかっただろうな、みんな。」こんな弱気な高橋は、珍しい。

「おいおい主将。そんなに落ち込むなよ。それこそ誰もついて来なくなるぞ、弱気な顔は俺以外に見せるなよ。おまえは主将なんだから、何があっても自信を持っていてくれ。明日のミーティングで、1年生には素直に頭を下げよう。その時何を考えたか、全て正直に説明しよう。明日で終わりだ。絶対に、このわだかまりを引きずってはいけない。」柏木が熱く高橋に想いをぶつける。

「そうだな。明日は素直に頭を下げて、また明日から全員で前に向かって進まなければならないからな。俺たちに、立ち止っている時間などない。」高橋は、少しだけ元気が出てきた。


「それよりも、ベンチワークだろ?一番の問題は。俺とお前が、ベンチで話し合う時間がない。意思疎通が取れない。このままでは、試合中のアジャストが出来ない。選手の交代やプレー指示など、全てにおいて機能していないな。致命的な状態だ。」柏木が語る。

「そうだな。薄々感じていて、問題意識は持っていたが、手つかずだったな。本当に致命的だ。うちのチームは、OBもいなければ、学生として残留しているコーチも不在だから、尚更だ。わかってはいるんだけど、こればっかりは良いアイデアが浮かばないんだ。」


 2人の間に、重たい沈黙が続いた。




<第36話>


 時は7月に入った。7月は中旬から2週間、大学の前期試験が行われ、試験が終わると8月から約2か月の夏休みに突入する。試験期間中は、月曜から木曜までは自主連、金曜と土曜に全体練習を行い、日曜はオフ、また月曜から木曜まで自主連となる。よって、7月は試験期間中の前までにシステム的な全体練習を終え、そのシステムの習得を各自の自主連で取り組めるような段取りが必要だ。


 この前の試合の翌日、全体ミーティングで試合の内容と今のチームの現状を振り返った、試合前に掲げていた「実戦経験」と「チーム力の現状認識」について議論を重ねた。総括すると、児玉や朝長や2年生を中心に実戦経験を積み、特に後半は強力な相手守備陣とのマッチアップや相手オプション攻撃との対戦等、重要な経験を積むことが出来た。一方、1年生を中心に試合経験を積ませられなかったことが反省点だ。また、チーム力としては、基本プレーだけである程度戦えるくらいまで底上げが出来ていること、システムの完成度が高まればさらに伸びしろは大きいことを認識した。ただし、ベンチワークを含めコーチ陣不在の影響が大きく、秋までに組織として対策を取らなければならないという反省点を共有した。またチームとして成長の階段を一段登ったことを、全員が実感出来ていた。


 日曜日が試合の場合は、月曜日にミーティングにより試合のビデオを観て反省する等を行い、身体を休めるために火曜日はオフ。また水曜日から通常の練習が再開される。ミーティングの翌日、3年生のDB多田おおたが柏木リーダーに相談していた。


 3年生になる多田は、柏木リーダーと同じポジションのDB。チームが同好会から部に格上げした時からの付き合いだ。多田は、中学時代は将棋部、高校時代は弓道部を経て、大学でアメフト部に入部した。高橋と柏木の魅力にひかれた部分もあり、またアメフトというスポーツに興味を持ったからだ。運動能力はあまり高くなかったが、弓道部で培った精神力は強く、何よりも努力家だった。ウェイトトレーニングも理論的に行い、アメフトの動きについてもしっかりと勉強した。しかし、頭では十分理解出来ていても、身体がついていかなかった。

 2年生だった昨年は、夏合宿で肩の怪我をして秋のシーズンは試合に出られなかった。しかし、縁の下の力持ちとしてマネージャーとともに下働きを精一杯頑張った。ビデオの撮り方や練習時のマネージャーの動きなど、普段はプレーヤーが気付かないような視点で、マネージャーと連携し、チームに貢献していた。今年に入り3年生となり、後輩達が増えてきたものの、試合経験のない自分にとってプレーに関することを指導するのは難しく、悩みを掲げていた。


「柏木リーダー、ご相談があるのですが。」多田は、柏木に電話をする。

「わかった、今日はオフだ。夜に飯でも食いに行こうか。」柏木が伝える。


「あいつ、頑張ってきたけど・・・。まさか、辞めるつもりなんじゃ・・・。」




<第37話>


 店に入り、柏木と多田がそれぞれ食事を注文した。おしぼりで顔を拭きながら、柏木が話しかける。

「どうした?恋の悩みか?」絶対に違うとわかっていながら、場を和ませる。

「いえ、アメフト部のことです。」水を一口飲み、多田が続ける。

「春合宿から考え始めていましたが、今回の試合で決めました。僕はもう、選手としては無理です。諦めました。」

「辞めちゃうのか?」柏木が聞く。

「プレーヤーは辞めます。」多田の決心は揺るがない。

「でも、アメフト部は辞めません。アナライジングスタッフとして、スポッターやベンチワークの責任者になります。それが、僕に出来る一番のチームへの貢献だと思います。」


 その日、主将の高橋も合流し、3人でいろいろと話し合った。チームにとって、プレーヤーの充実は当然重要だが、ベンチスタッフの充実も重要だ。プレーヤーとしての兼務を勧めたものの、多田の決意は固く、アナライジングスタッフとなることを承諾した。


 秋のシーズンでは、多田がスタジアムの観戦席(グラウンドの場合は設置するやぐら)からフィールド全体を見渡し、ヘッドホンでベンチと情報のやり取りを行うこととなった。自分のチームの攻撃の時は、高橋がフィールドに入っているので、柏木がベンチでヘッドホンを装着する。自分のチームが守備の時は、柏木がフィールドに入っているので、高橋がベンチでヘッドホンを装着する。高橋と柏木の間で情報の伝達が必要な場合も、多田を介することで問題なくなった。また、相手チームのプレー傾向やシステム的な話も試合中に全て相談や分析が出来る体勢となる。怪我で試合に出られない選手又はマネージャーをスポッターに加えれば、さらに精度は高まっていく。


「これから1ヶ月で、俺と柏木の頭の中の戦術を全て理解してもらうからな。頼むぞ。」高橋が、多田に握手を求める。

「わかりました。精一杯頑張ります。やるべきことは変わっても、僕とチームの目標は変一緒ですから。」


 男達は熱く手を握りしめ、誓い合った。



<登場人物>

・宮脇拓哉/みやわきたくや

 …主人公(僕)。1年生。LB(守備)。

・児玉悠斗/こだまはると

 …1年生。アスリートで自信家。QB(攻撃)

・朝長幹男/ともながみきお

 …1年生。巨漢。AKB好き。OL(攻撃)兼DL(守備)

・高橋湊斗/たかはしみなと

 …アメフト部主将兼オフェンスリーダー。4年生。RB(攻撃)。

・柏木行雄/かしわぎゆきお

 …アメフト部副将兼ディフェンスリーダー。4年生。LB(守備)

・前田奈津子/まえだなつこ

 …4年生。主務兼女子マネージャー。

・大島陽子/おおしまようこ

 …1年生。女子マネージャー。

・森保/もりやす

…1年生。高身長。WR(攻撃)。

・田島/たしま

 …1年生。万能タイプ。DB(守備)。


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