96.身代わりの鈴は、私にこそ必要な気がしてきました。
「テスト、不安なのか?」
「ええ。順位が貼り出されますもの。低かったら恥ずかしいですわ」
「そんなこと、気にする必要無いだろ」
机に鞄を置き、アレフ様はベッドに身を投げ出す。
私はベッドの端に座った。
「気にいたしますわ。お兄様方は常に10番以内だったのですよ。私だけ低かったら両親が悲しみます」
咄嗟についた言い訳とは言え、不安なのは事実。
リリアーナは君セナの中では5番前後をキープしてた。
ここはゲームの世界なんだし、勉強をしなくてもその成績を取れる。と思いたいところ。
けれど、ここで2カ月を過ごした私の心が警笛を鳴らす。
勉強をしなければ絶対に赤点だと。
優雅に踊っていたダンスは踊れなかった。
魔法が得意なのに魔力を封印されていて、クラスで1人だけ発動できなかった。
テストだって絶対そうだ!
「それに、今日はお誕生日ですし、お友達と交流を深められているのを邪魔してはいけませんもの。そのための3年間なのですから」
「交流って言ったって、ただのゴマすりだぜ? 思ってもいないことを延々と聞かされてただけだよ」
「そんなことありませんわ。私だって……」
あ! いけない。
マキシ様にプレゼントを預けたままだった。
「アレフ様、少し失礼いたしますわ」
「急になんだよ……」
ベッドから降りてリビングに向かうと、お茶を運んでいたマキシ様の表情が強張った。
「リリアーナ様、もうお帰りですか? 今、お茶をご用意いたしました。」
「いいえ。マキシ様にプレゼントをお預けしたままだったことを思い出しましたの」
「そうだったのですね。こちらにございます」
心配させちゃったかな?
微笑みを浮かべるマキシ様に私はバツ悪そうに笑って受け取った。
「ありがとうございます。お茶は私が運びますわ」
「よろしくお願い致します」
マキシ様からお茶が乗ったトレイを受け取り、ベッドルームに戻る。
「お茶、ここに置きますね」
サイドテーブルにトレイを置き、プレゼントを隠すように持つ。
「さんきゅ。なんだ、喉が渇いてたの?」
アレフ様がカップを取ると、ふわりと香りが部屋の中を漂う。
「お茶はマキシ様から受け取っただけですわ。こちらを取りに行きましたの。あの、お誕生日おめでとうございます」
プレゼントをアレフ様に渡す。
「ありがとう。なんだ、これを取りに行ってたの?」
「ええ。そうですわ」
「後でも良かったのに」
「忘れたら嫌ですし、それに、感想を聞きたいものですわ」
「感想と言っても、ん?」
どうせテディーベア、と思っていたらしいアレフ様の手が止まった。
テディーベアが抱きかかえた鈴に気付いたからだ。
「魔石の鈴? いや、これは身代わりの鈴?」
青い魔晶石でできた鈴を鳴らそうと振っては、光に翳すように見て、また振る。
それを何度か繰り返す。
「ご存知でしたのね。もうすぐ夏季休暇でしょう? 危険なことはしてほしくありませんが、冒険に行かれるのならお持ちになってくださいね」
「初めて見たよ。ありがとう。鈴が壊れるような無茶はしないよ」
「約束ですよ」
「ああ」
アレフ様は立ち上がると身代わりの鈴を机に置き、真っ直ぐに私を見た。
「今日は何かあった?」
「何もありませんわ」
どうして私に聞くの?
何かあったのはアレフ様じゃない。
「いつもと様子が少し変だから。マキシやクリフも気付いているのに、俺が気付かないと思った?」
「それは……それは、アレフ様がシャムエラ様と2人きりでいるのを見てしまったから」
「あの場にいたの?」
アレフ様の言葉に頷き、私は意を決してぶちまけることにした。
ウジウジ悩んでいても辛くなるだけだもの。
「お2人が話す声が聞こえたのでそちらに向かったら、私にも内緒にするからと言って2人で行ってしまわれたのですわ。ですから、私」
いつかはそうなるって覚悟はしていた。
していたけれど、早すぎるよ。
鼻の奥がツーンと痛くなる。
ダメ、絶対に泣きたくない。
「オレの婚約者はリリーだよ」
「そんな言葉だけで、信じられませんわ」
「言葉だけって、行動で示してほしいってこと?」
抱き寄せられ身体がゆっくりと傾いていく。
ベッド倒された私の身体にアレフ様の重みがのしかかってくる。
「え? あっ。ち、違います! 離してください!」
「違うって何が?」
アレフ様はこの状況を楽しんでいる。
ニヤニヤと悪戯っ子のように笑っていた。
「とにかく離れてください」
「嫌だ。そうだな。見ていたんなら内緒にする必要もないだろう。さっきは、シャムエラが3年の女子に囲まれていたんだ。さすがに気付いたら止めるだろう?」
「3年の女子? いませんでしたわ」
「すぐ消えたよ。いじめられてた子をそのまま置いて帰るわけにもいかないだろう? 内緒にしてほしいと頼まれたのはそのことだ」
「なぜ、いじめなんか……」
意地悪をするのはリリアーナの役割なのに。
「さぁな。自分のことは自分で解決するから誰にも言わないでくれって頼まれたんだよ」
そうだったんだ。
そういえば、クリシュナもシャムエラにきつい態度を取っていたわ。
「シャムエラ様は貴族ではなく一般家庭の方だからと、不当な対応をされていましたわ」
「まぁ、そんなところだろうな」
「ええ。内緒にしないでご相談してくださればいいのに」
「さてと、どうやら誤解も解けたみたいだな」
ドキッとするくらい艶やかに笑って言い、顔が近付いて来る。
「もう、帰ります!」
私の一言に、アレフ様の身体は私の上からずれた。
ベッドから文字通り飛び降りると、私は勢いに任せて走る。
「ごきげんよう!」
「痛っなんなんだよ。フィアンセがいるのに、できないってどうなってんだよ。このゲーム。」
ドアを乱暴に閉めたせいでアレフ様の言葉は聞き取れなかったけれど、私は気に留めもしなかった。
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