95.違和感
落ち着いたのか、私のいる場所までは2人の話す内容までは聞き取れなくなった。
さっきの大きな声は気のせいだったのかな?
今日は誕生日だし、誕生日イベントが起こる。
そんな日に、言い争うことは起きないわ。
私は2人に声をかけようと歩いて行った。
「……心配かけたくないから」
「そんなに言うならわかった。誰にも言わないよ。リリーにも」
私?
思いがけない言葉に、思わず足が止まってしまう。
「ありがとう」
「寮まで送って行くよ。それくらいならいいだろ?」
「ええ。お願いします」
そして、2人は私に気付くこともなく行ってしまった。
えっと、今のは誕生日イベでも私の知っているイベの中でも、思いつくものは無い。
2人に隠し事をされるなんて。
うまくやってると思っていたけれど、そうじゃなかったの……?
まるでバッドエンドを迎えた気分だ。
声をかけていいかわからず、私は2人とは違う道、王族の寮へ向かった。
何だったのかわからなかったけれど、多分、アレフ様はすぐに戻られない。
悩んでも仕方がない。
これからの事を考えなくちゃいけない。
君セナは学園生活3年間を過ごせばどんなエンドを迎えてもゲームはクリアになる。
きっと元の世界に戻るには、ここで3年過ごすこと、だと思う。
方法がわからないから、そうだったらいいなぁーって希望でもあるけれど。
その間にシャムエラが誰か(できればアレフ様以外の方)と恋を実らせていくんだろうな、と。
何の根拠もないけれど、そう思っていた。
寮への近道に入ると、クリフ様がいた。
「リリーじゃねーか。どうしたんだ?」
「ごきげんよう。今日はアレフ様の誕生日ですから、プレゼントを届けに参りましたの」
プレゼントが入ってる鞄をクリフ様に見せて言う。
「チッ、そういや、アレフの誕生日か」
「何も舌打ちされなくても」
「いいんだよ。野郎の誕生日なんてめでたくもねーんだから」
「毎年、プレゼントをご用意されてる癖に」
「してねーよ。勝手に俺の発明品を持っていかれてるだけだ! そういや、誕プレありがとな。あんな珍しい素材、初めて見たぜ」
照れ隠しなのは見え見えだよ、クリフ様。
君セナの中でも1年で一番のお気に入りのメカをプレゼントしているんだよね。
王宮のアレフ様の宮にはクリフ様のメカらしき物が置いてあったし。
まぁいっか、触れないでおこう。
「気に入ってもらえて嬉しいですわ」
「アレ、長い年月をかけて金属が魔力反応を起こした物なんだぜ。魔力反応は成功率が低いから欲しくても売ってないんだよな」
「また必要な時は、おっしゃってください」
「ああ、ありがとよ」
寮に着くと、当然のことながらアレフ様はいなかった。
代わりに出迎えてくれたマキシ様にプレゼントを渡す。
「殿下はすぐ戻られると思います。上がって行かれませんか?」
「オレんトコに来るか? 色々あるから退屈はしねーと思うぜ?」
2人の言葉に私は首を振る。
「いいえ。来週、テストがありますから、勉強しないといけませんもの。今日は失礼致しますわ」
「テストなんてどうでもいいだろ」
「そんなわけにはいきませんわ。赤点を取ってしまったら、ベンフィカ侯爵家の恥ですもの」
クリフ様の言う通り、テストはこじつけだった。
誕生日にシャムラと一緒なのよ?
戻って来ないアレフ様を部屋で待つのって辛すぎるでしょ。
婚約解消されたら私、どうなってしまうのだろう?
引き下がるべきか、正面から立ち向かうべきか。
「と言うわけで、失礼致しますわ」
私は2人の返事も待たずに背を向けた。
マキシ様がドアを開け、私は当然の様に外へ出る。
「おい、何かあったのかよ?」
「何もありませんわ」
クリフ様の言葉に私は振り返って言った。
睨み付けるような鋭い瞳に、私はたじろいだ。
いけない。
クリフ様は勘が鋭いんだった。
「初めてのテストを頑張りたいだけです」
「勉強なんて必要ねーだろ? それに家名まで出してなんだよ、リリーらしくねーな!」
「それは、最近、家に戻ることが多かったからですわ」
そうだった。
リリアーナは学園で家の名前を名乗らない。
危ない。
これ以上ボロが出る前に帰らないと。
「ごきげんよう、クリフ様、マキシ様」
何事もなかったように言って外へ出ると、アレフ様が帰ってきた。
「ただいま。リリー、何? 帰るの?」
「えっ? アレフ様?」
なんで、もう帰ってきたの?
誕生日イベはプレゼントを渡した後もしばらく会話が続くし、それにさっきの訳アリな会話の後ですぐに帰って来る?
ありえないよ。
マキシ様と話すアレフ様は特に変わった様子もなく普段通りだ。
「殿下のお帰りが遅いので、帰られるところでした」
「そうか、悪い悪い。ん? クリフもいたのか」
「チッ。いたら悪いのかよ?」
「いや、全然。じゃあな。行くぞ、リリー」
「え、ええ。ごきげんよう、クリフ様」
私を見つめるクリフ様の視線は何か言いたげで、私は逃げるようにアレフ様の後を追った。
投稿まで間が空いてしまって、すみません。
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