9.努力して頑張っても報われないときってツラいよね
クラウディオ様はすぐに出て行ってしまい、私は何とも言えない空気の中にいた。
何て言っていいのかわからないけれど、不安が募る。
「食べないの?」
「え?」
気付けば、食事が用意されていて、既にアレフ様は食べ始めていた。
「いえ、いただきます」
サラダのトマトをフォークで口へと運ぶ。
中々食指が進まず、私はフォークを置いてアイスティーを手に取った。
「ああ。そう言えば婚約者だもんな。ビックリした?」
ふと、思い出したかのような言葉が来た。
「ええ。クラウディオ様もあんなにお怒りになっていましたし」
「兄上が怒るのはいつものことだよ。気にするな」
「気にしますわ。それに、冒険者ってご職業を初めて聞きましたし」
アイスティーのグラスを置き、フォークでベビーコーンを突き刺す。
「リリーは、ソルシティから出たことが無いんだろう? ここら辺はあまりいないけど、山の近くや辺境に行くとモンスターがいるんだよ。小さい町や村の被害報告もあるんだ」
ソルシティとはソルーア王国の首都であり、エストレイラ学園のあるこの街の名前だ。
「え? モンスター? ……被害って、人が襲われたりするの?」
「そうだよ、って食事中にする話じゃないか、悪いな」
視線をずらし、コーヒーを飲むアレフ様はゲームで見るよりも大人びて見える。
ベビーコーンの先を小さく齧った。
かすかな塩味の後から仄かな甘さが広がる。
「そう言えば、何か話があるんじゃなかったか?」
「あ……」
忘れてた。
驚いた所為か、リリアーナを演じることも忘れてしまっていた。
冒険者やモンスター、魔法と剣だなんて、まるでMSGみたいだ。
フォークを置き、姿勢を正す。
折角アレフ様から振ってくれたんだもの、頑張れリリー。
「あの、来週に行われる新入生歓迎ダンスパーティのエスコートをまだ頼んでいなかったのを思い出したのです。お願いできますか?」
そして、柔らかく微笑む。
今朝、何度も練習した『令嬢の微笑み』だ。
スッとアレフ様の頬が朱色に染まる。
効果は抜群だ!
しかし。
「ダンス……。俺、パーティ欠席するから他当たってくれ。」
「ありが、え? 今、なんて?」
断られたの?
婚約者なのに、なぜ断るの?
もしかして、もう主人公と?
「ダンスなんて踊るの恥ずかしいじゃないか。俺は無理。クリフにでも頼めよ」
「ええ? こ、困ります! それに、ダンスパーティは新入生全員参加ですのよ。欠席なんてできないのですよ?!」
「俺は病人になるからいいんだ!」
「そんなこと、許されるハズありません!」
「とにかく、俺は絶対休むからな。話がこれだけなら俺、教室戻るから」
そう言い捨ててアレフ様はカフェから出て行ってしまった。
「え?」
1人残された私は状況が呑み込めず、しばらくそのまま呆然としていた。
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