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エクリプス  作者: 元蔵
第3章 全身全霊をかけてあなたを祝福します
88/98

88.空中庭園

残酷な表現が含まれます。

苦手な方は、ご注意くださいませ。

 世界中に支部を持つ、冒険者ギルドの本部。


 時間が早いからか、利用者もまばらだ。

 祭壇へはオーブを持つ者しか行けないので、カナンと2人でやって来たのだけれど。



「掲示板はどこかしら?」



 肝心の掲示板が見付からなかった。


 MSGに登場するエスタディオだと、冒険者ギルド前の広場に掲示板があったのに。

 その場所には噴水があり、冒険者たちの待ち合わせ場所となっていた。

 


「ルーク様をお呼びしましょうか?」



 電話で聞くのではなく、ここに呼ぶの?



「いいえ。中で誰かに聞いてみましょう」



 冒険者ギルドに入ると、奥からフードを被った2人組の冒険者が歩いてくるのが見える。

 なんだか、私たちを見ているようにも見えるような。



「カナン、あちらの方に聞いてみましょう」



 私は2人組に近付いて行くのと同時に、2人組が近付いてきた。



「リリー? どうして、ギルドにいるんだ?」


「えっ?」



 この声は。

 2人は目深く被っていたフードを脱いだ。



「アレフ様とマキシ様でしたのね。私は、掲示板を探していましたの」



 私は父に説明されたことを簡単に説明した。

 


「このオーブで古代遺跡に入れるのか」


「ええ。オーブを持つ者しか、祭壇のある場所には行けないそうなのです」


「見た目は変哲も無い、ただの石みたいだけどな。ん? 」



 オーブを色んな角度から見つめ、アレフ様が言う。



「アレフ様。何か、おっしゃいましたか?」


「いや。掲示板の場所がわからないんだろう? 案内するよ、こっちだ」


「ええ。ありがとうございます」



 掲示板は、ギルドの地下にあった。

 すれ違う冒険者たちと気さくに挨拶をし、掲示板の前まで行く。



「へぇ。こういうことか」



 オーブを手に、掲示板を見ていたアレフ様は1人、納得したように言った。

 冒険者でもなく、オーブを持たない私には掲示板を見ても移動方法がわからない。



「アレフ様。そろそろ、オーブをお返しいただけますか? 掲示板を操作することもできませんわ」


「うん。……掲示板を使わなくてもワープできるみたいだ。」


「え? どういたしますの?」


「こうやって」



 ぐいっと抱き寄せられた瞬間、眩い光に包まれた。



「着いたよ、リリー」



 耳元で囁かれ、私は目を開ける。

 私たちの前は台座があり、オーブと同じ色の大きな石が置かれていた。



「ここが祭壇ですの?」


「ここは遺跡の入り口で、祭壇は奥にあるよ。 この台座の石がオーブと対になっていて、ここに飛ばされたんだ」


「オーブを持つ者しか来ることができないハズなのに、どうして2人で来られたのかしら?」


「一緒にいた、からかな? 魔石を置いて来るんだろう? 行くぞ」


「ええ」



 空中に浮いている細い石畳の道を進むと、神殿のような建物が建っている。

 行けばわかると言っていたし、あの建物が祭壇ね。

 雲みたいな、ふわふわとした白いモヤが所々にあってちょっと、不気味だわ。

 少し怖くなった私は、前を歩くアレフ様に話しかけた。



「アレフ様は、何故エスタディオの冒険者ギルドにいらしたのですか?」


「君の父上に呼ばれたんだ」


「お父様に?」



 そんな事、何も言ってなかったのに。



「ああ。フル装備でって言われたし、何かあるんだろうと思っていたんだが、まさか空中庭園に行くことになるとは思ってもいなかったよ」


「空中庭園?」


「この遺跡の通称。空中に浮かんでるから、そう言われているんだよ」


「詳しいのですね」


「うん、まあな。それにしても、すれ違っていたらどうするつもりだったんだか。中に入るぞ」


「ええ」



 建物の前に行くと、光に包まれる。

 なんだか、MSGで街からワールドに移動する時みたい。

 いくつか道があるのに、迷わず真っ直ぐ進んで行く。



「道を知っているようですが、ここに来たことがありますの?」


「いや、無いけど……。こういうのは、正面の奥って決まっているんだ。この扉の奥がそうだろ」



 アレフ様は突如として現れた大きな扉を指す。

 見事な彫刻が刻まれた扉は、開くことなく私たちを吸い込んだ。



「なんだか、不思議な所ですわね。扉を開けずに入るなんて」


「ワープと同じだ。遺跡に多い、って、なっ……!?」



 アレフ様が驚いて声を上げた。

 どこか薄暗く、禍々しい空気が漂う部屋の奥。

 祭壇にゆったりと女性が座っていた。



「ふぅん。今度は自分から食べられに来たの?」



 妖艶な微笑みを浮かべ、禍々しい気を放ちながら彼女が言った 。

 紅い瞳、異様な程黒い唇。

 淡く光るその姿は、花宮で見た得体の知れない彼女だ。



「今度は? 何を言っている?」



 アレフ様のつぶやきに目を細め、



「あら、騎士ナイトを連れて来たの? 往生際の悪い娘ね。いいわよ。望み通り、2人纏めて食べてあげる」



 祭壇から降りると、彼女は片手を上げた。



「もう、戦闘開始かよ。サンクチュアリ! 何があってもここから出るなよ」



 頷いた私を聖域サンクチュアリの中に座らせ、剣を構えてアレフ様は彼女の方へ走って行く。


 戦闘開始?

 彼女はモンスター?

 イバラの蔓が鞭のようにアレフ様目掛けて飛んでいく。

 思わず手で顔を覆って目を閉じる。

 聞こえてきたのは蔓を切り捨てた音と、彼女の楽しそうな声だった。



「娘と違って、結構楽しめそうね」


「それは、どうも!」



 剣で蔓を切り捨てながら彼女との距離を縮め、剣を薙ぎ払う。

 2人の動きは速すぎて、何をしているのかよくわからない。

 どちらが攻勢で劣勢なのかも。

 必殺技っぽいスキルが飛び交い、どちらかの血しぶきが飛ぶ。

 時折、サンクチュアリを掛け直す他は、派手なスキルを使っていないみたい。

 ボス級のモンスターなのか、戦闘は長く続いた。



「飽きて来たわ。私は食事ができれば、それでいいのよね」



 彼女が指を鳴らすと、私の周りに木と花でできたパペット(人形)が現れる。

 私を囲むように現れたパペットは、太い木の棒で作られた腕を振り上げてきた。



「きゃぁああああー」



 囲まれて逃げる場所がない。

 ううん。

 足がすくんで動くこともできない。


 スキル攻撃を無効化してくれるサンクチュアリも、物理攻撃には意味を成さない。

 私は祈るように両手を組んだ。


 一瞬で、風に吹き消されたようにパペットたちが消える。



「大丈夫か!?」



 片手を私の方へ向けたアレフ様が叫ぶ。

 そっか、アレフ様が気付いて魔法で倒してくれたのね。



「はい。大丈夫ですわ」


「そうか」



 アレフ様が彼女に向き合う。



「もう、SPが尽きていたのかと思っていたけれど、まだだったようね。この私相手に力を温存していたの?」


「そんな事、言うわけないだろ」


 何度、剣で斬られようと、再生してくるイバラの鞭。

 もう、しばらく戦い続けているけれど、まだ決着は付かなさそうだわ。

 ずっとアレフ様は魔法を使っていない。

 彼女の言う通り、SP切れなのかな?


 戦いながらも、時折アレフ様は私の方を見ては、手をかざす。

 その姿を見て、魔法省の練習場での言葉を思い出した。


『リリーを守りながらでは俺がレイドボスと戦えない』


 私がいる所為で、アレフ様は全力で戦えていないんだ。

 私にも、何かできることがあればいいのに。

 何か、無いかしら?



 カツーン



 私の手から何かが落ちた。

 透明な石? ううん、光属性の魔石だわ。

 いつの間に、持っていたのかな?

 回復魔法が使えるのに、アレフ様はダメージを受けたままだ。


 戦闘に魔法を使わないのは、私にサンクチュアリを掛ける為。

 私がさっきみたく、パペットに囲まれた時に魔法で援護する為。


 光属性の魔石を両手で握りしめる。

 もしかしたら、魔力を集める呪文があるのかも。

 でも、そんなの知らないし!

 集まれ、集まれ、集まれ!

 お願い! アレフ様の元へ!!



「ダールポーダー・マジア!」



 魔法がちゃんと発動しているのかわからないけれど、SP回復を唱えた。

 私の声に驚いた彼女が見せた一瞬の隙に、アレフ様の攻撃が命中する。



「ギヤァアアー! 小娘、舐めた真似を!」



 傷口を押さえながら、彼女が私を睨んだ。

 ひとっ飛びで目の前に来ると、私に向かって鋭く尖った爪を振りかざす。



「させるか! エクスプロッシオン!」



 彼女が爆発を受け、横へ吹き飛んでいく。



「ボンバルイス!」



 凝縮した光の渦が爆発する。

 その爆風の中へアレフ様が飛び込んでいき、断末魔の叫びが聞こえた。


お読みいただきありがとうございます。

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