88.空中庭園
残酷な表現が含まれます。
苦手な方は、ご注意くださいませ。
世界中に支部を持つ、冒険者ギルドの本部。
時間が早いからか、利用者もまばらだ。
祭壇へはオーブを持つ者しか行けないので、カナンと2人でやって来たのだけれど。
「掲示板はどこかしら?」
肝心の掲示板が見付からなかった。
MSGに登場するエスタディオだと、冒険者ギルド前の広場に掲示板があったのに。
その場所には噴水があり、冒険者たちの待ち合わせ場所となっていた。
「ルーク様をお呼びしましょうか?」
電話で聞くのではなく、ここに呼ぶの?
「いいえ。中で誰かに聞いてみましょう」
冒険者ギルドに入ると、奥からフードを被った2人組の冒険者が歩いてくるのが見える。
なんだか、私たちを見ているようにも見えるような。
「カナン、あちらの方に聞いてみましょう」
私は2人組に近付いて行くのと同時に、2人組が近付いてきた。
「リリー? どうして、ギルドにいるんだ?」
「えっ?」
この声は。
2人は目深く被っていたフードを脱いだ。
「アレフ様とマキシ様でしたのね。私は、掲示板を探していましたの」
私は父に説明されたことを簡単に説明した。
「このオーブで古代遺跡に入れるのか」
「ええ。オーブを持つ者しか、祭壇のある場所には行けないそうなのです」
「見た目は変哲も無い、ただの石みたいだけどな。ん? 」
オーブを色んな角度から見つめ、アレフ様が言う。
「アレフ様。何か、おっしゃいましたか?」
「いや。掲示板の場所がわからないんだろう? 案内するよ、こっちだ」
「ええ。ありがとうございます」
掲示板は、ギルドの地下にあった。
すれ違う冒険者たちと気さくに挨拶をし、掲示板の前まで行く。
「へぇ。こういうことか」
オーブを手に、掲示板を見ていたアレフ様は1人、納得したように言った。
冒険者でもなく、オーブを持たない私には掲示板を見ても移動方法がわからない。
「アレフ様。そろそろ、オーブをお返しいただけますか? 掲示板を操作することもできませんわ」
「うん。……掲示板を使わなくてもワープできるみたいだ。」
「え? どういたしますの?」
「こうやって」
ぐいっと抱き寄せられた瞬間、眩い光に包まれた。
「着いたよ、リリー」
耳元で囁かれ、私は目を開ける。
私たちの前は台座があり、オーブと同じ色の大きな石が置かれていた。
「ここが祭壇ですの?」
「ここは遺跡の入り口で、祭壇は奥にあるよ。 この台座の石がオーブと対になっていて、ここに飛ばされたんだ」
「オーブを持つ者しか来ることができないハズなのに、どうして2人で来られたのかしら?」
「一緒にいた、からかな? 魔石を置いて来るんだろう? 行くぞ」
「ええ」
空中に浮いている細い石畳の道を進むと、神殿のような建物が建っている。
行けばわかると言っていたし、あの建物が祭壇ね。
雲みたいな、ふわふわとした白いモヤが所々にあってちょっと、不気味だわ。
少し怖くなった私は、前を歩くアレフ様に話しかけた。
「アレフ様は、何故エスタディオの冒険者ギルドにいらしたのですか?」
「君の父上に呼ばれたんだ」
「お父様に?」
そんな事、何も言ってなかったのに。
「ああ。フル装備でって言われたし、何かあるんだろうと思っていたんだが、まさか空中庭園に行くことになるとは思ってもいなかったよ」
「空中庭園?」
「この遺跡の通称。空中に浮かんでるから、そう言われているんだよ」
「詳しいのですね」
「うん、まあな。それにしても、すれ違っていたらどうするつもりだったんだか。中に入るぞ」
「ええ」
建物の前に行くと、光に包まれる。
なんだか、MSGで街からワールドに移動する時みたい。
いくつか道があるのに、迷わず真っ直ぐ進んで行く。
「道を知っているようですが、ここに来たことがありますの?」
「いや、無いけど……。こういうのは、正面の奥って決まっているんだ。この扉の奥がそうだろ」
アレフ様は突如として現れた大きな扉を指す。
見事な彫刻が刻まれた扉は、開くことなく私たちを吸い込んだ。
「なんだか、不思議な所ですわね。扉を開けずに入るなんて」
「ワープと同じだ。遺跡に多い、って、なっ……!?」
アレフ様が驚いて声を上げた。
どこか薄暗く、禍々しい空気が漂う部屋の奥。
祭壇にゆったりと女性が座っていた。
「ふぅん。今度は自分から食べられに来たの?」
妖艶な微笑みを浮かべ、禍々しい気を放ちながら彼女が言った 。
紅い瞳、異様な程黒い唇。
淡く光るその姿は、花宮で見た得体の知れない彼女だ。
「今度は? 何を言っている?」
アレフ様のつぶやきに目を細め、
「あら、騎士を連れて来たの? 往生際の悪い娘ね。いいわよ。望み通り、2人纏めて食べてあげる」
祭壇から降りると、彼女は片手を上げた。
「もう、戦闘開始かよ。サンクチュアリ! 何があってもここから出るなよ」
頷いた私を聖域の中に座らせ、剣を構えてアレフ様は彼女の方へ走って行く。
戦闘開始?
彼女はモンスター?
イバラの蔓が鞭のようにアレフ様目掛けて飛んでいく。
思わず手で顔を覆って目を閉じる。
聞こえてきたのは蔓を切り捨てた音と、彼女の楽しそうな声だった。
「娘と違って、結構楽しめそうね」
「それは、どうも!」
剣で蔓を切り捨てながら彼女との距離を縮め、剣を薙ぎ払う。
2人の動きは速すぎて、何をしているのかよくわからない。
どちらが攻勢で劣勢なのかも。
必殺技っぽいスキルが飛び交い、どちらかの血しぶきが飛ぶ。
時折、サンクチュアリを掛け直す他は、派手なスキルを使っていないみたい。
ボス級のモンスターなのか、戦闘は長く続いた。
「飽きて来たわ。私は食事ができれば、それでいいのよね」
彼女が指を鳴らすと、私の周りに木と花でできたパペットが現れる。
私を囲むように現れたパペットは、太い木の棒で作られた腕を振り上げてきた。
「きゃぁああああー」
囲まれて逃げる場所がない。
ううん。
足がすくんで動くこともできない。
スキル攻撃を無効化してくれるサンクチュアリも、物理攻撃には意味を成さない。
私は祈るように両手を組んだ。
一瞬で、風に吹き消されたようにパペットたちが消える。
「大丈夫か!?」
片手を私の方へ向けたアレフ様が叫ぶ。
そっか、アレフ様が気付いて魔法で倒してくれたのね。
「はい。大丈夫ですわ」
「そうか」
アレフ様が彼女に向き合う。
「もう、SPが尽きていたのかと思っていたけれど、まだだったようね。この私相手に力を温存していたの?」
「そんな事、言うわけないだろ」
何度、剣で斬られようと、再生してくるイバラの鞭。
もう、しばらく戦い続けているけれど、まだ決着は付かなさそうだわ。
ずっとアレフ様は魔法を使っていない。
彼女の言う通り、SP切れなのかな?
戦いながらも、時折アレフ様は私の方を見ては、手をかざす。
その姿を見て、魔法省の練習場での言葉を思い出した。
『リリーを守りながらでは俺がレイドボスと戦えない』
私がいる所為で、アレフ様は全力で戦えていないんだ。
私にも、何かできることがあればいいのに。
何か、無いかしら?
カツーン
私の手から何かが落ちた。
透明な石? ううん、光属性の魔石だわ。
いつの間に、持っていたのかな?
回復魔法が使えるのに、アレフ様はダメージを受けたままだ。
戦闘に魔法を使わないのは、私にサンクチュアリを掛ける為。
私がさっきみたく、パペットに囲まれた時に魔法で援護する為。
光属性の魔石を両手で握りしめる。
もしかしたら、魔力を集める呪文があるのかも。
でも、そんなの知らないし!
集まれ、集まれ、集まれ!
お願い! アレフ様の元へ!!
「ダールポーダー・マジア!」
魔法がちゃんと発動しているのかわからないけれど、SP回復を唱えた。
私の声に驚いた彼女が見せた一瞬の隙に、アレフ様の攻撃が命中する。
「ギヤァアアー! 小娘、舐めた真似を!」
傷口を押さえながら、彼女が私を睨んだ。
ひとっ飛びで目の前に来ると、私に向かって鋭く尖った爪を振りかざす。
「させるか! エクスプロッシオン!」
彼女が爆発を受け、横へ吹き飛んでいく。
「ボンバルイス!」
凝縮した光の渦が爆発する。
その爆風の中へアレフ様が飛び込んでいき、断末魔の叫びが聞こえた。
お読みいただきありがとうございます。




