86.自由都市国家リスロア
「魔力を感覚で捉えられる者は少ない。偶然、リリアーナ・ベンフィカの周りに、感覚が優れていた者が多いだけだ。魔力の暴走を危険視するあまり、少し混乱を与えてしまっていたようだな」
「私が思い込んでしまっていただけですわ。プロテクトを外した時に、魔力を感じることができましたの」
考える素振りをし、ナザリト先生が口を開く。
「恐らく、ロイク・チェルシーやフェルナンドたちの干渉の故だろう」
「そうでしたの」
ようやく、リリアーナのような完璧なライバル令嬢になれると思ったのに。
プロテクトが外れたからと言って、努力無しにLVUPなんてありえないよね。
ちょっと残念だな。
「そう落ち込むことでも無かろう。魔法はこれから学べば良い。学園で学ぶ以上を望むなら、私が専任で教えてやる」
「ありがとうございます。その時は、是非、お願い致します」
「そ、そうか。うむ。その時は真っ先に相談するように」
――キーンコーンカーンコーン……
鐘が鳴った。
急がないとおじいちゃん先生のHRに間に合わない。
「はい。それでは……」
「待ってくれ」
ガシっと肩を掴まれる。
「え? あの?」
「す、すまない。話はそれだけじゃなくてだな。これを受け取ってくれるか?」
私の肩を掴んだ手を離し、ナザリト先生は慌てた様子で小さな包みを取り出す。
なによ急に。
ビックリするじゃない。
「これは?」
ドキドキと早鐘を打つ胸を押さえ、尋ねる。
「た、誕生日プレゼントだ」
「ありがとうございます。見てもよろしいですか?」
「うん。いや、もうHRが始まるだろう。帰ってから開けてくれないか」
「わかりました」
開けるのを止め、私は両手で包み込む。
ナザリト先生はフイっと視線を逸らすと苦笑した。
「フ、困ったな。私としたことが、お前がプレゼントを見てがっかりする様子を見るのが怖いとは」
この言葉、誕生日のスチル絵の!?
逆光でよく見えないのが残念だけれど、ゲームのアルバムに収納されているボイスと同じだ。
「それじゃ、校舎に戻るか」
並んで歩くと、思いついたようにナザリト先生が口を開いた。
「月曜日は研究室にいるから、感想を言いに来てもいい」
「はい。ごきげんよう」
「ああ。月曜日に」
職員室のある2階でナザリト先生と別れ、私は教室へと急いだけれど既にHRは終わっていた。
プレゼントはアロマキャンドル。
火を点していなくても、微かに爽やかな香りがする。
アロマシャンドルを机に置き、今日頂いたプレゼントを机の上に並べ、シャムエラから貰ったクッションをどこに置こうか迷っていると、ノックの音がしてミセスブラウンが入ってきた。
「お嬢様、ロナウド様がお見えになりました」
「わかりました。今、参ります」
クッションを抱えたまま言うと、ベッドの上に置いた。
「そのクッション、まぁ! 机の上にも。どうされたのですか?」
「誕生日プレゼントにいただいたのよ」
「左様でございますか。ただ、お嬢様のお部屋には相応しくないように思えます」
「そんなことありませんわ。友達がくれたのよ。勝手に処分したら怒りますからね」
「学業に関係無い物は、寮に持ち込んではいけない決まりでございますのに」
ため息交じりに言った。
この部屋に何も無い原因はミセスブラウンだったのね。
*******
今回は私の誕生日だから、ミセスブラウンたち3人も一緒だった。
領地のエスタディオまでは、ソルシティ空港から飛行機で2時間。
冒険者だったら掲示板のワープを使えるから一瞬で着くのに。
「私が冒険者でしたら、掲示板で移動できましたのに」
まさか、初めて乗る飛行機が異世界でなんて。
案内された席は、ロナウド兄様と2人だけの個室だった。
ミセスブラウンたちは他の席らしい。
「急にどうした?」
私の言葉に、ロナウド兄様は、読み始めたばかりの本から視線を上げた。
「冒険者だと掲示板が使えるのでしょう? 飛行機で2時間かかるところを一瞬で行くことができるではありませんか」
「掲示板を使うには冒険者になった後で、ゲートのワープポイントを登録しないといけない。冒険者になっただけでは使用できないな」
「そうでしたの。今日、冒険者になっていたとしても使えなかったのですね」
「そうだ。リリアーナが冒険者になりたいと言うのなら、父上も反対しないだろう。16歳の誕生日に冒険者でない者はリリアーナくらいだ」
「リスロアは元々冒険者が治めていた自由都市国家だったと聞きましたが、どういう経緯で領地になりましたの?」
「リスロアがソルーア王国になってからだ。そうだな。フライトの時間は暇なことだし、リスロアの歴史でも説明しよう」
「お願い致します」
「昔、リスロアには5つの古代遺跡があった。その周辺に冒険者が集まり、冒険者向けに商売をする者が集まり、次第に5つの街ができた。しかし、人が集まるとトラブルも増える。リスロア地方はモンスターも強く、どこの国にも属していなかった為、冒険者がそれぞれの街をまとめるようになったのだ。なったと言っても、リーダーとしてまとめるグループもなく、街の住人の争いが冒険者グループの争いに変わっただけだった。
5つの街の争いはしばらく続き、そこにモンスターの大群が押し寄せてきた。その時、祖先のアンドレア・ベンフィカが同じ街にいるグループのマスターと話し合いを設け、モンスターの討伐、冒険者ギルドの設立、街の統治を賭けて行うGVGを取り決めたのだ」
「GVG?」
「GroupVSGroupの略で、同じ条件でグループ同士の戦いを行い、統治するグループを決める大会だ。グループの統治に不満がある場合はGVG申請を行い、GVGを開催しなければならない」
「GVGでアンドレアのグループが勝利を収めましたの?」
「そうだな。いや、1回目のGVG優勝は違うグループだった。冒険者ギルド設立に力を注いでしばらく参戦できなかったのだ。その間も数回GVGは行われたが、最初の優勝グループが勝ち続け、街の中でそのグループの横暴が目立つようになった。
複数のグループが同盟を組んで倒したのだが、すぐに仲間割れ起こして、そのグループは分裂。丁度その頃、冒険者ギルドが完成しGVG申請をしたそうだ。アンドレアが率いるグループが統治するようになってからは、GVG申請も少なくなり、グループ名のエスタディオにちなんで、街の名前もエスタディオと名付けられた」
「エスタディオは、グループ名から付いたのですね」
「ああ。他の4つの街、ソシオ、サルビア、ミラージュ、シュポルトもグループ名から付いたそうだ。冒険者ギルドに加入するグループが増え、他の4つの街もGVGで決めたグループが街をまとめるようになった。
5つの街は王国に属さぬ冒険者の街、自由都市と呼ばれ、有事の際には互いに協力しあった。その姿は1つの国のように見えたのだろう。いつの間にか、自由都市国家リスロアと呼ばれるようになった。5つの街の中で統治グループが変わらなかったエスタディオが元首となったのだ」
「リスロアは、いつからソルーア王国になりましたの?」
「200年位前だ。先日のように、レイドボス級のモンスターの大群が押し寄せてきたらしい。街を守る為に戦ったが、たった一晩でミラージュが壊滅し次々と仲間は倒れていった。そこに偶然、お忍びで冒険をしていたソルーアの王子がエスタディオに来た。惨状を知った王子は救援を約束し、ゲートを通ってソルーアに戻った。
1つ誤算だったのは、王子はゲートを使えたからワープで国に戻ったが、王国軍は違う。彼が軍を連れて到着したのはそれから7日後のことだった。既にモンスターとの戦闘は終わっていたのだが、リスロアの状況を知った他国から宣戦布告されていた。
そのことを知った王子は国に戻るか迷った。リスロアを離れれば、ソルーア王国は他国間の争いに関与しないで済む。しかし、今離れれば、リスロアは戦争に負けてしまうことは明らかだった。
宣戦布告した国と言うのがソルーア王国とは仲が悪い国で、ソルーア軍に気付くと、宣戦布告無しにリスロアを占拠したと言いがかりをつけ、他の国にも触れ回った。リスロアを狙っていた他の国も便乗してソルーア王国を攻め立てた。
一介の冒険者としてではなく、王子として軍を率いてしまった立場上、王子は国内での立場も悪くなってしまった。王子に付いてきた王国軍の騎士たちは王子を支持し、王城にいる宰相や大臣たちは、リスロアにいる第1王子を廃し、第2王子を後継者として擁立するよう国王に願い出た。ソルーア王国は第1王子派と第2王子派に分裂してしまったのだ」
「分裂? それでは、リスロアの所為で、内戦が起きたのですか?」
「……内戦は起きなかった。起こさせなかったのだ。リスロアを助けてくれたソルーア王国に、ひいては第1王子に忠誠を誓う事を元首として提案し、4都市の承認を取った。ソルーア王国軍が来てくれなかったら、宣戦布告してきた国に敗れていただろう。戦争を回避する条件は隷属国になることだったから、戦っても戦わなくても悲惨な末路でしかなかった。
リスロアは都市国家を捨てて、ソルーア王国の一員になることを決めた。
ソルーア王国に忠誠を誓う為に、次期国王である第1王子と軍を呼び、会合を開く予定だった。運悪く、その間にモンスターの襲撃にあったのだと。王国軍の駐留を正当化したのだ。
すぐにソルーア王国に伝令を遣わし、リスロアはソルーア王国の一員となった。
リスロアを併合した功績を称え、第1王子が国王となり、リスロアの元首を務めていたベンフィカ家は爵位を受勲し、リスロアの領主となったのだ」
「そういう経緯があったのですね。それでは、我が家が第1王子派と言うのも……」
「ああ。この時からの忠誠だ。第1王子が誰になろうとも、我がベンフィカ侯爵家は第1王子を支持している。」
「それなのに、娘が第2王子の婚約者になってしまったのね」
「複雑だと言えば複雑だが、第1王子を支持することに変わりは無い。もし、アレフレッド殿下が謀反を企てたら、父上はこれ幸いと領地に監禁するだろう。リリアーナとセットでな」
「そうならないよう、願いたいものですわ」
「ああ、そうだな。……着いたようだ、降りるとしよう」
「はい。ロナウド兄様」
初めて見るエスタディオは、ソルシティに比べ高層ビルも少なく、MSGの世界にある街のようだった。
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