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エクリプス  作者: 元蔵
第3章 全身全霊をかけてあなたを祝福します
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85.恋と友情のファイアーボール

「随分遅かったですけれど、どうかされたのですか?」


「あら? リリアーナ、何持ってるの?」



 シャムエラがプレゼントに気付いた。

 ルカ先生からいただいたプレゼントは小さかったので制服のポケットに入れてあるけれど、さすがにクリフ様からのプレゼントは大きかったので手に持っていたから。



「クリフ様から誕生日プレゼントをいただきましたの。それで遅くなりまして。いただきます」



 プレゼントをテーブルに置くと、すぐに運ばれてきたAセットを食べ始める。

 遅くなったので、お腹はペコペコだった。



「……どうかしましたの?」



 会話が止まってしまったので、シャムエラ、エイミー、メリッサの3人を見ると、顔を見合わせているようだった。



「被ってしまったのは仕方ないです」


「そうですわね。考えることは皆、同じようですわ」


「そうね! サプライズではなくなってしまったけれど、リリアーナ、お誕生日おめでとう!」


「えっ?」



 3人共、同じようにラッピングされたプレゼントを持っていた。

 同じお店で買われたのかしら?

 ううん、それよりも。



「私の誕生日を、ご存知でしたの?」


「当然ですわ。わたくしが、お2人にお話しいたしました」


「そういう訳。リリアーナ、今すぐ開けて見て!」


「3人で選んだのですよ。気に入ってもらえると嬉しいです」



 プレゼントはシャムエラがイチゴのクッション、メリッサからイチゴの絵が描かれたティーカップ、エイミーからは腕時計だった。

 クッションとティーカップは、君セナで登場する物と同じ。


――『私とお揃いなの』


『お揃い? ありがとう。庶民の好みを知るのもとても大事なことですわ』


 なんて言いながら、後日、部屋に遊びに行くと、ばあやこと、ミセスブラウンにお礼を言われるのよね。

 リリアーナがプレゼントを自慢して、とても大事にしているって。


『何を言うの、ばあや。庶民の趣味を私が気に入るなんてありません! 陛下にご報告するために取っておいているだけですわ!』


 って、真っ赤になって言うエピソードがあるのよね。

 素直に喜べばいいのに。


 あら?

 腕時計は、リリアーナが常に着けていた物と同じものだわ。

 リリアーナが腕時計を見ているイラストもあるのに、持っていなかったのよね。

 そもそも、侯爵令嬢なのに持ち物が全然無いのが変なんだけれど。

 腕時計を着け、左腕を見せる。



「どうかしら?」


「さすが、エイミーが選んだ物ね。すごく似合っているわ!」


「ありがとう、エイミー。大事にするね」


「喜んでいただけて、ホッとしましたわ」


「クッションとティーカップはどうですか?」


「お2人もありがとうございます。こちらはお部屋で使わせていただきますわ。寮の部屋は家具と勉強道具しか無いので、とても殺風景で困っていましたの」


「えー、何もないの?」


「私が使っているカップは、お客様にお出しする物と同じでしたわ」


「まぁ! 驚きですわ」


「意外ね。リリアーナはお嬢様でしょ? 沢山かわいい物に囲まれているんだと思っていたのに」


「想像つかなかったです」



 ええ。

 私も本当にそう思う。





「今日の授業は火属性の魔法、ファイアーボールを行う。この魔法は魔力の込め方が弱いと発動しない場合もある。コントロールも難しく、ファイアーボールを唱えられなければソーサラーは向いていないと考えていい。所謂、ソーサラーの登竜門だ」



 眠気を誘う午後の授業は魔法学。

 威力が大きい魔法と言うことで、中庭で行っていた。

 心地良い春風に吹かれ、ナザリト先生の難しい説明はまるで子守歌のよう。

 うつらうつらしていると、見かねたエイミーが話しかけてきた。



「2年生が剣術の授業をしているようですわ。女子も防具を付けて行うのですわね」


「ヴィクトリア先生の気迫が違うわ。休んでいる生徒が1人もいないのね」



 開いたままのドアから競技場の様子が見え、男子も女子も防具を身に着けて激しい打ち合いをしていた。

 その中で1人だけ、ジョナス様は兜を被っていなかった。

 この世界では珍しい、黒い髪が余計に目立つ。

 相手も弱い訳ではなさそうなのに、剣を軽く往なしては相手の隙ができた所へ剣を打ち込んでいた。


「打ち合いと言うよりは、指導をしているようですわね」


「本当」

 


 見ている私たちに気付いたのか、ジョナス様は剣の動きを止めずに私たちを見ると、微かに笑いながらウインクをした。



「気付かれましたわ」


「ええ。見ているのは私たちだけでは無いのに」



 ジョナス様らしいと言うか、キザよね。

 そこが魅力なんだろうけれど。


 ナザリト先生の長い説明も終わり、ファイアーボールの練習が始まった。

 火属性が得意な生徒たちは、次々とファイアーボールを成功させ、大きさや、具現させる位置を調整している。

 隣では、エイミーが呪文を詠唱し『ファイアーボール』と唱えるとソフトボールサイズの火の玉が具現した。



「できましたわ。わたくしも、ソーサラーの才能がありますのね!」



 自分で作り出した火の玉を見つめたまま、とても嬉しそうに話す。



「おめでとう、エイミー。この呪文を唱えればいいのよね?」


「そうですわ。暗唱して一気に唱えるのがポイントですわ」


「え? 暗唱するの?」



 教科書に書かれている呪文を何度か繰り返して、私はロッドを構える。



「デスィッソ アマドッセ ケイマン エスフェーラ エル ディ サージュ ファイアーボール」


 ――プッ。

 クスクス……。



 私のロッドからは何も起きず、周りから失笑が起こる。

 近くにいたクリシュナとアンゼリカも笑っているのが見えた。



「リリアーナ様。『アマドッセ』ではなく、『アマドレッセ』ですわ」


「え? やだ、呪文を間違えたのね」



 教科書を確認すると、エイミーが言う通り、アマドレッセになっている。



「デスィッソ アマドレッセ ケイマン エスフェーラ エル ディ サージュ ファイアーボール」



 今度は間違えていないはず。

 けれど、魔法は発動されなかった。



「え? また間違えたかな? ですぃっそ あまどれっせ けいまん えすふぇーら  える でぃ さーじゅ ファイアーボール!」



 しかし、何度唱えても魔法は発動しなかった。



「リリアーナ様、私が先に呪文を唱えますので、続けておっしゃってくださいませ」


「クリシュナ様」


「リリアーナ様、ご覧になって」



 クリシュナと一緒に来たアンゼリカがロッドを構える。



「ファイアーボール」



 アンゼリカが詠唱無しで唱えると、ロッドの先からバスケットボールサイズの火の玉が具現した。



「え? 今、呪文は……」


「詠唱は省略致しました。リリアーナ様は、呪文を正しく詠唱することに囚われすぎです。本来、魔力を生成する為に唱えるのが、呪文の役割なのですよ」


「呪文は私に続けておっしゃって、魔力の生成に集中されるとよろしいですわ。さ、行きますわよ」


「は、はい!」



 魔力の生成って、魔力の見えない私にできるのかな?

 元々、この世界の住人ではない私にはできないんじゃ?

 そんな思いが心を占め、中々集中できない。

 クリシュナのロッドからはバスケットボールサイズの火の玉が具現されるのに、私のロッドからは何も現れなかった。



「クリシュナ様、せっかくお手伝いいただいたのに申し訳ありません。私、魔力を見ることも感じることもできませんの。魔力の生成なんて……」


「できないとでも、おっしゃるつもり? 私だって、魔力は見ることも感じることもできませんわ。そんな事できるのは限られた方だけよ」



 クリシュナは私の言おうとしていた言葉をピシャリと否定した。

 エイミーとアンゼリカも同意するように頷く。



「見えない物をどうやって生成していますの? やり方がわかりませんわ」


「リリアーナ様は難しく考えておられるのですわ。魔力を生成すると言っても、要は集めればいいだけのこと。こうですわ」



 深呼吸しロッドを構えると、クリシュナは叫んだ。



「集まりなさい! ファイアーボール!」



 クリシュナのロッドから、先程よりも大きな火の玉が具現した。



「魔力なんて見えなくても、命令して従わせればいいのですわ」



 荒い息をしながらクリシュナが言う。

 命令?

 そんな風に考えたことなかった。

 魔力が見えなくなったことで、私は魔法が使えないって思いこんでいるの?

 私はロッドを構え、集まれ集まれと念じながら呪文を唱える。



「デスィッソ アマドレッセ ケイマン エスフェーラ エル ディ サージュ ファイアーボール」



 ロッドの先にピンポン玉サイズの火の玉が具現した。



「できたの、かしら?」


「当然ですわ。この私が伝授いたしましたのよ。できて、当然ですわ」


「あっ! クリシュナ、大丈夫?」


「クリシュナ様……」



 クリシュナが足をふらつかせたので、アンゼリカとエイミーが支えるように手を取った。



「大丈夫。4回も唱えたのだから、疲れてしまっただけですわ」


「本当に、大丈夫ですの?」


「大したことありません。ただの魔力切れですわ」



 言葉とは裏腹に、クリシュナは苦しそうに見える。

 ナザリト先生も気付いたのか、クリシュナに声を掛ける。



「クリシュナ・コンサド、リラックスルームに行ってこい」


「はい」



 アンゼリカに支えられ、クリシュナが立ち上がる。

 私も付き添って行こうとすると、アンゼリカに手で制止された。



「私、1人で大丈夫ですわ」


「そうですわ。リリアーナ様はもっと練習が必要でしてよ」


「ええ。あの、ありがとうございます」


「お礼を言われることはしていませんわ。それよりも早く練習をなさいませ」



 クリシュナはそう言うと、アンゼリカを伴ってリラックスルームへと行ってしまった。



「もうすぐ、鐘が鳴るな。リリアーナ・ベンフィカは少し残れ」


「わかりました」



 私が答えると、鐘が鳴った。

お読みいただきありがとうございました。

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