84.ライバルキャラの誕生日は裏設定みたいなものよね
翌週には授業も再開され、エイミーやアンゼリカが登校してきた。
2人が登校してきたことで私とクリシュナが一緒にいることはなくなったけれど、前よりは親しくなったと思う。
少しずつ日常に戻りはじめ、モンスターが街に現れたことなんて忘れかけた金曜日。
「それでは、今日の授業はここまでにしましょう。すみませんが、リリアーナ。プリントを集めて職員室まで運んでいただけますか?」
「はい」
「ありがとうございます。頼みましたよ」
授業が終わるとルカ先生はすぐに去って行き、私の机にはプリントが集まって来る。
一緒に行くと言うエイミーを先にカフェへ行かせ、私は1人で職員室に向かった。
「失礼致します」
職員室にいたのは、ルカ先生1人だけだった。
「ああ。すみませんね、リリアーナ。こちらに持ってきてくれますか?」
「はい。どうぞ、ルカ先生」
「ありがとうございます。あー、その」
なんだろう?
プリントを受け取ったルカ先生は、置くこともしないで話し続ける。
「ルカ先生、何かございましたか?」
「えっと、明日は貴女の誕生日ですね? 土曜日ですし、お家に戻られるのでしょうか?」
「ええ。エスタディオに行く予定です」
「そうですか。ロナウドやルークも誕生日にはエスタディオに行っていたので、貴女もそうだと思ったのですよ」
「決まりみたいですから」
「そのようですね。できれば明日、お渡ししたかったのですが、会えないとなれば仕方ありません。1日早いですが、お誕生日おめでとうございます。こちらはプレゼントです」
プリントを机に置くと、小さい紙袋を私に差し出した。
青と白のストライプの紙袋は手のひらサイズの大きさだ。
「いただいて、よろしいのですか?」
「ええ。頑張る貴女へのプレゼントです」
「ありがとうございます」
中には、青いバラと白いユリの絵が描かれた栞が入っていた。
「かわいい! ……ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」
私の言葉にルカ先生はホっとしたようだった。
「気に入ってもらえて、私も嬉しいですよー」
照れたように笑う、ルカ先生に再度お礼を言って、職員室から出た。
そのまま、私はカフェに向かう。
既に沢山の生徒が座っており、エイミーの姿は中々見付けられない。
辺りを見渡していると、クリフ様とロイク様が私に気付いて手を振っていた。
「よう」
「ごきげんよう。クリフ様、ロイク様」
「こんにちは。お久しぶりですね。あれから変わったことはありませんか?」
「何も、特にありませんわ。プロテクトの件ではお世話になりました」
「神職者として当然ですよ。私はその後の経過を診れなかったことが残念です」
ロイク様が食事の手を止めて、イスを引き、私に座るよう促してくれた。
エイミーを探しているから座ろうか迷っていると、クリフ様が
「リリー、明日は寮にいるのか?」
「いいえ、エスタディオに行きますの」
「そっか。明日、誕生日だもんな。ちょっと来い」
立ち上がったかと思うと、私の手を引いて入口へと歩き出す。
「誕生日? 明日ですか?」
ロイク様の呟く声を聞きながら、私は引きずられるようにカフェから出ていった。
クリフ様は学園を出て、迷うことなくすぐ脇の細道を進んで行く。
森の中は、若葉の清々しい香りに満ちていた。
「クリフ様、どちらに行かれるのですか?」
「俺の部屋だよ。急がないとランチを過ぎるだろうからな」
「クリフ様のお部屋に? 午後の授業もまだありますのに?」
「ああ! もう、うっせーな。ごちゃごちゃ言ってないで付いて来い」
王族の寮に入ると、私たちに気付いた執事たちが
「おかえりなさいませ」
と言うが、それ以上の事は何も言わなかった。
勿論、その場にいたハメスさんも。
「ちょっと座って待っていろよ」
モノトーンで統一された部屋に入ると、クリフ様は1人、奥の部屋へと入って行った。
ソファーに座り、運ばれてきたお茶に口付けていると、すぐに戻ってきた。
「待たせたな! 俺からの誕プレだぜ」
グレーの幾何学模様でラッピングされた箱を手渡された。
「ありがとうございます」
「早速、開けてみてくれよ」
「ええ」
丁寧にラッピングされた包みをはがし、箱を開ける。
中には、青いリボン上にバラやユリが飾られた髪飾りが入っていた。
花びらには夜露を思わせるようなクリスタルが輝いて、まるで今摘んだばかりの花で作ったブーケのよう。
「綺麗……」
「へへっ。そうだろ! 驚くのはこれからなんだけどな。付けてやるよ」
私のリボンを外し、箱から髪飾りを取る。
――カシャッ
見た目に反して、金属音がなる。
クリフ様は器用に髪飾りを付けると満足そうに頷いた。
「似合ってるぜ! じゃ、目を瞑ってろよ」
「え? 目をですか? 先に鏡を見せていただきたいのですが……」
「おいおい。俺がただの髪飾りを作ると思うか? いいから、目を瞑ってみろよ」
「ええ」
ただの髪飾りじゃない?
髪飾りとしても、とても綺麗なのに?
――カチ――
頭上でスイッチをいれたような音がして、ゆっくりと小川のせせらぎの音が静かに聞こえ出す。
目を閉じたまま、私は小川のせせらぎが聞こえる方を見た。
すると、辺り一面花畑へと変わり、小さな小さな小川が流れている。
「え?」
「おっと、目を開けるなよ。目を開けちまうと脳が混乱してしまうから、VRの映像が止まってしまうんだ」
「VR? この前の箱メガネと同じですの?」
「箱メガネってなんだよ! いや、確かに似てたかもしれねーけどよ。まぁ、これもただの髪飾りじゃ無くて、3DVRマシンなんだ。目で見るのではなく、直接、脳にシグナルを飛ばして映像や音を伝えている。これなら、ただ目を瞑っているだけにしか見えないだろ」
「お花が摘めるところも同じですのね。映像を止めるには、どういたしますの?」
「このボタンを押すと止まるんだ」
――カチ――
映像が止まったので、私は目を開けた。
「どうだった?」
鏡を差し出しながら、クリフ様は笑って言う。
「音も映像も以前のより綺麗でしたわ。見た目もかわいいです」
「そうだろ。リリー、わかってるじゃねーか」
「動画は、何でも見られるのですか?」
「あー。動画はこれしか無いんだよ。探せば他のヤツが作ったのがあると思うけど」
「アイドルのライブ動画をこれで見れたら、楽しいでしょうね」
「随分とミーハーな意見だな。けど、そういう方向性も有りか。外すぞ」
「お願いします」
外した髪飾りを箱に戻すと、クリフ様は器用にラッピングを施していく。
「ほらよっ」
「はい。クリフ様、ありがとうございます」
「なんだよ、照れるじゃねーか。まっ、リリーが喜んでくれたんなら俺も嬉しいぜ。さてと。戻るとするか」
「ええ」
カフェに戻ると、私に気付いたロビンさんがエイミーたちの席へ案内してくれた。
お読みいただきありがとうございます。
熊本・大分地震で被災された方へ、心よりお見舞い申し上げます。




