81.GWイベント第2弾 ~終焉~ 拝謁2
残酷な描写があります。苦手な方はご注意下さい。
頑丈だけれど飾り気の無い王宮と比べ、小さいながらも華やかで荘厳華麗な造りの小さな家。
外灯に照らされた小さい庭には池から作られた小川が流れ、黄色い水仙や勿忘草、色とりどりの春の花が咲いていた。
花宮の名称にも納得できる。
「かわいいお家ですね」
「覚えていらっしゃいませんか? 8年前に、この花宮で婚約の儀をされたのでございますよ」
「……残念ながらあまり覚えていませんわ。泣き叫んで壁や天井を壊したとしか」
プロテクトを外した時に流れ込んできた過去の記憶は、婚約発表まで。
発表後、ここで過ごした記憶は無かった。
「そのようなこともございましたね。花宮は儀式用の建物なので、神殿と同じ働きを持っています。その建物を崩壊させたのは、リリアーナ様だけでしょうな」
「ふふ。もうしませんわ」
「よろしくお願い致します」
ハメスさんは微笑むと、扉に付けられたノッカーを叩いた。
すぐに扉が開き、中から1人の少女が出てきた。
「はい。どなた?」
「ハメスにございます。宿泊者、リリアーナ様をお連れ致しました」
「リリアーナ……記憶しているわ。お入りなさい」
それだけ言うと、少女は花宮の中へ入って行った。
「私は、ここで失礼させていただきます。何かございましたら、先程の少女へお申し付けくださいませ」
「わかりました。ハメスさん、色々ありがとうございます」
「おやすみなさいませ」
「おやすみなさい」
玄関を上がるとすぐにリビングとダイニングが見え、先程の少女がソファーに座ってTVを見ている。
「おじゃまします」
私の声に少女が振り返った。
はちみつ色のブロンドがふわりと舞い、黒真珠を思わせる神秘的な瞳が私を真っ直ぐ見つめる。
「久し振りね。1人なの?」
「はい」
「……アレフレッドは仕方ないか」
少女がTVに目を向けると、レイドボスとの戦闘が映し出されていた。
大きな目玉に毛むくじゃらの腕や岩、木が生えている。
沢山の冒険者や騎士がいる中に、アレフ様がいた。
魔法を駆使しながら剣を振るい、的確にモンスターにダメージを与えていく。
鬼気迫る迫力で戦うアレフ様はまるで知らない人のよう。
モンスターの前で変わったステップを踏みながら攻撃をしている人が叫ぶ。
「来るぞ!」
一斉に外套で身を隠す。
攻撃に参加していなかった魔術師たちが魔法を掛け、その直後に大きな目玉から暗い光のようなものが放たれ、映像が途切れた。
「マジックアイテムが破壊されたか。邪視が使われたとなると、ようやく戦闘が終わったのね」
「どういうことですの?」
「あのモンスターはイビルアイ。大きな目から様々な状態異常を起こす光線を発するの。特に死の間際に出すのが邪視と言って、さっきのもやもやした物がそう。マジックアイテムの効果を打ち消したり、精神と肉体にもダメージを与えるわ。あのもやを直接浴びなければ問題はないから、外套やマントで身体を護ればある程度は防げる。TVカメラは防ぐことができずに壊れてしまったってところね」
「アレフ様は大丈夫でしょうか?」
「闇属性に耐性のある光属性なんだもの、大丈夫でしょ。今の邪視を防げなかった者がいないことを願うばかりね」
TVの映像が回復し、戦闘が終わった後の様子が映し出される。
イビルアイの残骸や運ばれていく負傷者。
ここって、学園の森?
森様子は無残で、木々は焼け焦げ、途中で折れたり根の部分がむき出しになって倒れている。
「学園の生徒にも被害者がいるのかしら?」
「いるでしょうね。発見の報告も、学園からの連絡だったから。次のレイドボス出現まで30分。このまま戦い続けていたら、戦いに慣れていない騎士たちの負担が大きくなるわね」
少女はソファーから降りて、キッチンへと向かった。
「何か飲むでしょ? 最初だけ淹れてあげるわ」
「お手伝いいたします」
少女のいるキッチンへと向かう。
誰も見ていないTVには、現生徒会役員の3人と、次の生徒会役員の中心になるであろうアレフ様とクリフ様、そして、シャムエラとメリッサ様が話し合う様子が映し出されていた。
「TVを見ていていいのよ。貴女の分はついでなのだから」
「普段、分刻みのスケジュールで過ごしておりますの。何もしないでTVを見ていると、逆に不安になりますわ」
「そう。損な性分ね。けれど、嫌いじゃないわ」
少女が淹れてくれたココアは、どこか懐かしくとても甘かった。
2時間おきに出現するレイドボスは、人と接するまでは戦闘状態にならないらしく、発見が難しいらしい。
9時を過ぎて10時になろうとしているのに、次のボスは見付かっていないみたい。
TVでは、エストレイア学園の生徒や先生に怪我人はいないとテロップが出ている。
国内外からの貴族や王族の子息女が通っているのだから、出しておかないとパニックになるでしょうね。
「リリアーナ。私はそろそろ戻るわね。何があったか知らないけれど、今の貴女も好きよ。おやすみ」
「ありがとうございます。おやすみなさい」
パチンッと音が聞こえそうな勢いでウインクをし、少女の姿は消えた。
移動魔法かしら?
少女がいた空間を見つめる私に、TVから新たなレイドボス発見のニュースが流れてきた。
今回もソルシティ市街、それも王城に近い場所出現したとアイドルグループにいそうなイケメンキャスターが話している。
衛星などを使って探索をしているのに見付からないのは、国の技術に問題があると話す専門家や、冒険者ギルドのイベント情報の時間が正確では無いのだと討論している。
現場では、早く着いた冒険者のグループが戦闘を開始していた。
――プツッ。
私はTVを消して、ロフトへ上がった。
戦っている人たちには悪いけれど、1人で見るのは勇気がいる。
少女がいなくなった花宮は、とても静かで孤独だった。
プロテクト解除の疲れか、はたまたその後の魔法の練習の所為か疲れが押し寄せてきて、ベッドに入るとすぐに私は眠りに就いた。
突然、けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音で目が覚める。
体を起こし、探しても目覚まし時計は見付からない。
目覚まし時計じゃない。
身体から警笛を発するかのごとく不快感に、私は顔を顰めた。
「こんな所にいるとはね。随分と探したわ」
誰もいないはずの部屋から、低い女性の声が響いた。
その声を聴いた瞬間。
まるで、飛行機が離陸するときの様な重力が掛かったように身体が重く、ガタガタと震えだした。
押し潰されそうな圧迫感。
寒くも無いのに止まらない体の震え。
堰を切ったように流れ出す涙。
一瞬で、私の心は恐怖一色に塗りつぶされた。
吹き抜けになったリビングから、音も無く何者かが浮かび上がる。
暗闇の中に浮かびあがるその姿は、不思議と自らが淡く光っていた。
この世の者とは思えない美しい端正な顔立ちに、紅い瞳、異様な程黒い唇。
妖艶な微笑みを浮かべた姿からは、禍々しい気。
「ほう」
彼女が一言呟く。
一瞬で私は腕を掴まれていた。
彼女の目の前に引きずり出される。
なされるがまま、恐怖のあまり抵抗らしい抵抗もできない。
悲鳴も出ない。
「魂が壊れないのは、時として残酷なものね。こんなに恐怖を感じるなら、一瞬で壊れていたら楽だったでしょうに。せめて一口で食べてあげるわ」
彼女が黒い唇の端を上げて笑った。
ゆっくりと、キスをするように彼女の顔が近付いて来る。
「かはっ!」
背中に衝撃が走り、うまく呼吸ができない。
激しく咳き込んでいると、身体が持ち上げられた。
「何故? 触れられないの?」
彼女が言うように、私を持つ彼女の手と私の首の間には薄い膜のような空間があった。
「祝福か、忌々しい!」
――ドサッ!
壊れた人形のように壁に打ち捨てられる。
「ようやく見つけたと言うのに、何もできないなんて。私の物にならないなら、燃やしてしまいましょう」
私の身体が炎に包まれたと思ったら、熱さを感じる前に炎が消えた。
立て続けに炎が飛んできたけれど、彼女が言った祝福のおかげか全て一瞬で消えていく。
彼女が苛立ちを募らせ、水、氷の塊、岩弾も飛んで来たが、私を傷つけることは無かった。
「私たちの仲間にもなれず、食事にもなれないなんて、本当に役立たずね。――また来るわ」
彼女の姿が一瞬にして消える。
何者だったの?
身体を起こし、壁にもたれかかる。
恋する乙女に暴力イベントなんて、いらないんだけど!
呼吸をする度に、壁や床に打ち付けられた身体が酷く痛んだ。
その日。
夜11時のレイドボスは見付からなかった。
真相は不明。
私の所に現れたのではないかと言う人もいたけれど、昨夜現れた彼女の事は誰にも話していない。
4日以降のレイドボス戦はボス自体のレア度が下がったこと、市街地での戦闘が無くなったことで、国軍主体の戦闘から冒険者主体の戦闘に切り替わったそう。
勝利ムードに包まれたソルシティは、冒険者が沢山集まりレイドボスから出たレアアイテムのオークションが頻繁に行われ、GWが終わった後もお祭りのような賑わいを見せていた。
温かくなったり寒くなったりしていますね。
私は6年ぶりにインフルエンザに罹りました。
まだまだ流行っているようですので、皆様もお体をご自愛ください。
お読みいただきありがとうございまいた。




