80.GWイベント第2弾 ~終焉~ 拝謁1
テェゼーナ師の私室に入ると、ナザリト先生が電話をしていた。
「わかりました。今、戻ってきましたので、すぐ伝えます。――おかえり」
「ただいま、ナザリト。今の電話は誰から?」
電話を置いてナザリト先生が答える。
「国王陛下の執事からだ。リリアーナ・ベンフィカ、本日の謁見はアレフレッド殿下が不在の為中止になったが、代わりに会食をするそうだ。 急がないと間に合わなくなるぞ。」
会食!?
会食って私だけ参加するの?
そもそも、行くと言っていないのに決定事項なんだ。
「ご連絡ありがとうございます。ナザリト先生、フェルナンド様、失礼致しますわ」
「うん。またね、リリアーナ!」
満面の笑顔で手を振るフェル様に、手を振る。
令嬢らしからぬ私の態度に、ナザリト先生がとても驚いた顔をしていた。
アレフ様の宮に戻ると、待ち構えていたメイドたちの手によって着替えが始まった。
花弁に似せられて作られたドレスはヤマユリをイメージして作られたよう。
珍しいショート丈のドレスだ。
「リリアーナ様」
「どうぞ」
「失礼致します」
扉を開け、ハメスさんが入ってきた。
「リリアーナ様、アレフレッド殿下が不在なので会食をキャンセルされても問題ございません。お受けしてよろしいのですか?」
「失礼になりますわ。昨日も挨拶だけでお帰りいただきましたもの」
「左様でございますか。今回の会食は少しばかり、強引に思えましたので。失礼致しました」
「いいえ。お気遣いありがとうございます」
不安が無いと言えば嘘になる。
表情に現れていたのかな?
私は気持ちを隠すように微笑んだ。
「では、参りましょう」
「はい」
差し出されたハメスさんの手を取り、立ち上がる。
会食と言っても非公式らしく、国王と王妃の食堂で行われるそう。
食堂の扉の前に立っている騎士が私たちに気付き、扉を開ける。
「リリアーナ様、ご到着でございます」
中に伝えると、騎士は深く頭を下げた。
反射的に頭を下げたくなる衝動を押さえ、前を通る。
教室程の広さの中央に少し大き目なテーブル。
そこには既に、国王陛下と王妃様が座っていた。
「リリアーナ・ベンフィカ侯爵令嬢にございます」
「おお。ハメス、急に悪かったな。さぁ、リリアーナ。まずは掛けるがよい」
国王陛下が向かいの席を指し示した。
「国王様、王妃様、お待たせして申し訳ございません。本日はご招待いただきまして、ありがとうございます」
私は挨拶を済ますと、ハメスさんが引いてくれた席に座る。
すぐにグラスが運ばれてきた。
これって、お酒よね?
「プロテクトは、無事外れたようですわね」
「はい。ご心配お掛けいたしました」
「よい、よい。王家の妃として相応しいことだ。さっそく始めよう。乾杯」
「はい。乾杯」
国王陛下の言葉に慌てて、私はグラスを持ち上げた。
昨日のアレフ様と国王陛下のよそよそしさはなんだったんだろう?
アレフ様エンドにちょっとだけ登場する、優しそうな国王陛下と王妃様そのものの2人にほっとし、和やかに食事が始まった。
前菜から順番に運ばれてくるメニューに合わせ、付いてくるお酒がコロコロと変わる。
気になることは何度もお酒を勧められ、気を利かしたハメスさんが一見、お酒に見えるハーブティーを持ってきてくれたこと。
「ところでリリアーナ。あなたはアナマリアを覚えているかしら?」
「ええ。モーガン侯爵令嬢には、たった2人の王子の婚約者として、とても仲良くしていただいていましたわ」
「そうでしたわね。公式行事では本当の姉妹のようでした。懐かしいですね。……アナマリアが亡くなって2年が過ぎようとしているのに、クラウディオは次の婚約者を決めようとしないわ」
「まだ、お気持ちの整理が付いていないのではありませんか?」
「次期国王であるクラウディオは、国の為にも早く婚約者を決めなければならん。それが第1王子として生まれた者の宿命だ。それを放棄することはいかぬ」
「クラウディオの意思も尊重したいけれど、王妃となると誰でもいい訳にいきません。身分や出自、何よりも強い魔力の持ち主でないといけないの」
「え? 魔力で、ございますか?」
そんな事、初めて聞いたわ。
「そうだ。ソルーア王国の神話にある通り、王族は女神の末裔。直系の男子には、女神の力を受け継いでいる。王妃になる者には、女神の力に対応できる強い魔力が無いと命を落としてしまうことがあるのだ」
「命を落とすのは、英霊に認められなかったからではございませんの?」
「一般的には、そう伝えております。ですが、考えてごらんなさい。子孫が決めた伴侶を、先祖が反対するかしら? しませんよね」
「魔力は皆持っているが、幼い頃から強い者、成長と共に魔力が強くなる者と様々だ。もし、王妃の資質に魔力が関係すると知れば、己の家系から魔力の強い者を養女にしたりする家が出てくる。事実、選ばれた者よりも魔力が強いからと、選考のやり直しを要求された時代があった。中には、一時的に魔力を高める秘薬を娘に飲ませて死なせてしまったと言う件もあったのだ。それ故、英霊の話を広め、魔力については次代の王と王妃になる者にしか伝えなくなったのだ」
「不要なトラブルを防ぐためと、考えていただけたらいいわ」
「そうですか。ところで、そのお話を何故、私にされますの?」
先程の話の内容だと、私は知らされる立場ではないはず。
私の不安を他所に、国王陛下と王妃様はニコリと微笑む。
まるで、気付いているでしょう?
とでも言いたげに。
「リリアーナには第2王子との婚約を解消して、第1王子と婚約を要請したい」
「貴女は身体の弱さが問題でしたが、それも杞憂に終わりました。クラウディオも妹のように可愛がっているリリアーナなら反対しないでしょう」
「わ、私はアレフレッド殿下の婚約者として今日まで生きてまいりました。突然、お話をされてもそのようには考えられませんわ」
「心配することはありません。リリアーナはクラウディオの隣に立って、全てを任せればいいだけですわ」
「王妃になる為の婚約解消だ。名誉なことであって、不名誉にはならぬ」
「……私の事よりもアレフレッド殿下はこの事をご存知なのでしょうか?」
「正式には話しておらん。しかし、アレフレッドも王族の一員として、国の決めたことに反対はしないだろう」
そうよね。
アレフ様は国の事を一番に考えているもの。
今だって、危険を顧みずレイドボス戦に行かれているのだから。
「今すぐ、私の一存ではお答えしかねます。お時間をくださいませ」
「そうね。良い返事を期待していますわ」
「これで第1王子の事は心配がなくなるな。ところで、……」
その後、何を食べたか何を話したのか覚えていない。
「リリアーナ様、お立ちになられますか?」
一礼して、ハメスさんに支えられ立ち上がる。
「リリアーナ。別に部屋を用意した。本日からその部屋を使うように。ハメス、リリアーナを花宮へ案内してくれ」
「陛下、アレフレッド殿下にお話しされてからでもよろしいですか?」
「いつ連絡が取れるかわからぬのだ。先に案内しろ」
「かしこまりました。リリアーナ様、参りましょう」
「はい。国王様、王妃様、失礼致します」
きちんと挨拶をして退室したかな?
いいえ。
今となっては、そんな事どうだっていいわ。
国王陛下から、直々にクラウディオ様との婚約を話されるなんて思ってもいなった。
クリシュナ様たちが勝手に噂し、話していただけだと思っていたのに。
断ったら、家に迷惑が掛かる?
父や母、兄、そして家に仕えてくれている人たちを思い出す。
「大丈夫ですか?」
「え?」
一緒に歩いていたハメスさんが立ち止まっていた。
「突然のお話で驚かれたでしょう。お顔の色が良くありません。一度、アレフレッド様の宮に戻りましょう。ここからですと花宮は遠くにございます故、殿下の宮で休まれると良いでしょう。アレフレッド殿下は本日は戻られませんから、ご遠慮はいりませんよ」
「大丈夫ですわ。ご心配ありがとうございます」
「無理は禁物でございます。意にそぐわないお話でしたら、先程の件もすぐにお断りのお返事をしてよろしいのでございます」
「ハメスさん……」
「私がこう、申し上げるのはおかしいですか? 最近のお二人はとても微笑ましく、傍近くで仕えさせていただく私にとっても、心が和むのです。そう感じ取っているのは、私だけではないでしょう。リリアーナ様は王族ではありません。国の事よりも、一番にご自分の気持ちに正直になられなさい」
「ありがとうございます。ハメスさん。花宮へ案内してくださいませ。今、休んでしまいますと、そこで動けなくなりそうですわ」
「かしこまりました。花宮は王宮の一番奥、最近は暫くお使いになられていないお部屋でございます。王族の方も滅多に来られない場所でございます故、ゆっくりとお考えになられるにはよい場所でございましょう」
ハメスさんが説明してくれた通り、王城と繋がっていた王宮のさらに奥深く、ひっそりと佇む小さな家があった。
80話でキリ良く第2章を終わらせたかったのですが、少し長くなってしまったので続きます。
81話は、若干の残酷描写を含みますので、苦手な方はご注意くださいませ。
気付けば80話。
某ゲームが発売される前に完結させようと思っていた意気込みはどこへやら。
82話からは第3章に入ります。
話は恋愛メインに戻り、ガツガツ行く予定です。
これからもお付き合いのほど、よろしくお願い致します。
お読みいただきありがとうございました。




