8.優柔不断に即決を求めるのは間違いですよ
主人公よりもアレフ様が暴走気味です。
必死に連れ戻しますが、中々止めてくれません。
私が座ったと同時に、アレフ様からメニューを渡される。
「はい」
「ありがとうございます。もう、お決まりですか?」
「まあな。こんなことで悩まないだろ、普通」
「そうですか? 私は優柔不断なので、すぐに決めかねます」
早く決めなきゃいけない、漠然と感じた私は、さっとメニューを見る。
ああ、もう! なんで単品の前菜から載ってるの! 昨日みたいなセットメニューはドコかしら?
選んでいる私を気にせず、当然の様に水を運んでくれたボーイに注文を始める。
ああ。
やっぱり、そうするわよね。
「今日のAセットとBセットを1つずつ。それと、コーヒーのブレンドをホットで」
「かしこまりました」
「2つも食べますの?」
ビックリして尋ねると
「腹が減ったから」
チラっと私の方を見て、事もなげに言った。
「そうですか。えーと、あの、では、私もアレフ様と同じAセットを1つお願いします。飲み物は紅茶をアイスで」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
メニューを見る暇も無い。
アレフ様の注文を真似て、飲み物だけはゲームの知識から注文をする。
君セナの世界では、飲み物も攻略対象キャラの好みに合わせて沢山種類があった。
クラウディオ様ならコーヒー、アレフ様は炭酸。
リリアーナも設定では紅茶が好きとなっていた。
そう思った所で、あれ? と気付く。
今、アレフ様はコーヒーを頼んでいたような。
クラウディオ様も同じことを思ったらしい。
「アレフもコーヒーを飲むようになったのだな」
「食事中にサイダーを飲むのを止めただけだよ。炭酸は今でも好きさ」
「ふむ。ここのコーヒーは王宮と同じ豆を使っているが、ブレンドは学園独自のオリジナルのようだ。私は結構気に入っている」
「へぇ。楽しみだな」
アレフ様の言葉遣いに違和感があるけれど、ご兄弟が楽し気な会話がとても絵になってるわ。
キラキラしていて何とも言えない雰囲気。
これがゲーム画面ではなく、現実だなんて信じられない。
ニマニマ笑っていると、クラウディオ様と目が合ってしまった。
マヌケ面を晒してしまった私を見てクラウディオ様は微笑まれると、立ち上がった。
「すまないが、これから生徒会の会議があるので、私は失礼する」
「生徒会長って大変なんだな」
「本当ですわね」
「何を言ってる。来年になったらアレフもやることになるんだぞ。学園生活を楽しめるのも今の内だ」
「ええ? なんで俺がやらなきゃいけないんだ?」
「当然のことだろう。王族としての務めだ。それに学園を取り仕切ることもできずに、国を治めることなどできないだろう」
まぁ、その通りですね。
実際にゲームでも1年生の10月にある生徒会交代でアレフ様は生徒会長になる。
それでも、アレフ様は納得がいっていない様子。
「兄上がいるんだから俺は国を治める必要は無い。宰相もクリフが叔父の後を継げばいいんだ」
アレフ様は一旦言葉を止め、一呼吸する。
そして
「そうだよ。俺はこの学園で剣術と魔法を極めて、冒険者になればいいじゃないか!」
?!
「なっ?!」
あまりの内容に言葉を失う。
クラウディオ様も同じで、立ったまま口をパクパクとしている。
アレフ様はゲームでは魔法も剣術も出来が良く、魔法大会でも上位の成績を修めていた。
身分の差に悩む主人公に
『君の身分は関係無いよ。第2王子とは気楽なものだから。でも、君が気にするなら王位を捨てよう。だから、僕を1人の男として見てほしい』
って、このセリフはそういう思いから来てたワケ?!
冒険者って何よ。
君セナの世界に冒険者って職業が存在するの?
「何を言っているのだ! 王族として生まれた以上、王族の務めを果たさねばならん。放棄は絶対許されぬぞ」
不愉快そうに言うクラウディオ様。
テーブルを叩き割りそうな勢いだ。
「わかりました」
小さくため息をつき、そう呟いたアレフ様はあっさりと引き下がる。
どことなく哀しげな表情を見せたがすぐに、
「冗談ですよ。そういうのもアリかなって思っただけです」
と、言って笑ったのだった。
カフェでの会話がまだまだ続きます。
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