77.GWイベント第2弾 ~開催中2~ おまじない
「レクラッサオ」
私たちが手伝い始めた頃は、回復魔法を唱える声があちこちで聞こえていたのに、今はロイク様の声しか聞こえなくなった。
怪我人が減ったというのもあるけれど、ほとんどの司祭たちがSPを使い果たしていたのだ。
「次の方は?」
ロイク様も何度も掛け続けた回復魔法で息が上がり、疲労の影が見えている。
「腕の骨が折れているそうですわ。待っている間に赤ポーションをお飲みになっています」
私は隣にいる、騎士の簡単な症状などを説明する。
重傷を負った人たちから先に治療されていて、今残っている人達は程度の軽い人たちばかりだった。
ソルシティの中心にある大神殿にも、街中の戦闘で怪我をした人たちが運ばれているらしい。
「そうですね。それほど腫れておりませんし、自然回復に任せましょう」
「なっ! そりゃないよ。今まで待たせておいて、回復無しなんて! さっきから見てたが、嬢ちゃんは1度も魔法を使っていないじゃないか」
「申し訳ありません。私は司祭様ではありません」
「そんな恰好をしていて違うって言うのか? 誰よりも綺麗に飾り立てて、位が高いんだろ。力の出し惜しみは良くないな。俺を魔法で回復してくれよ」
儀式の恰好のままだった私は、一目でマジックアイテムだとわかるアクセサリーを付けている。
司祭たちとは全く違う格好をしている反面、特別な服装をしていると思われたの?
「ほら、早くしろよ。後が閊えているんだからよ」
「え? 私が、ですか?」
回復魔法の呪文はわかる。
ロイク様を見ると、頷いてくれた。
やってみてくださいと、言うように。
私は、胸の前で手を組み合わせ、祈る。
「レクラッサオ」
当然だけれど、何も起こらない。
しかし。
「おお! 痛みが無くなったぜ! ありがとうな、嬢ちゃん」
そう言うと、騎士は自分の仲間たちの元へと行ってしまった。
魔法が掛かったの?
後ろにいるロイク様を振り返り見ると、呆れた様子でズレ落ちた眼鏡を直していた。
「魔法は発動していませんよ。それに、問題もありません。今の方は怪我もされておりませんでしたから」
「えっ? 赤ポーションをお飲みになっても、痛みが取れないとおっしゃっていましたのに」
「よくいるんですよ。怪我をしたと言い張る輩が。」
「……そうだったのですね。ふふ。一瞬、魔法が効いたのかと思ってしまいましたわ」
「回復魔法は、他の魔法と違って、呪文を唱えれば発動するものではありませんよ。魔力の他に信仰心が必要なのです。どちらか一方が欠けてもいけません。それゆえ、信心深い司祭でも魔力が低い為、回復魔法が使えない方もいるのですから」
「まぁ。その方は、かわいそうですわね」
プロテクトを外したからもしかしてと思ったけれど、何もできない私に、できるハズがないわね。
「お兄さんのロナウドは、信心深く司祭としても優秀な回復魔法の使い手です。リリアーナ嬢も素質はあると思いますよ。どうですか? これを機に、司祭の道を目指してみては? 私が付きっきりでサポートいたしますよ」
「あー。抜けがけは良くないんだから。リリアーナは属性魔法が似合うよ。魔法省にはベンフィカ公爵とルークもいるんだから」
ロイク様の言葉にフェル様が口を尖らせるように話す。
その様子がおかしくて、私は小さく笑った。
「ゆっくり考えてみますわ」
「僕もリリアーナと同い年だったら良かったな。そうしたら、一緒に学園に通えたのに」
少しふてくされたようにフェル様が言う。
フェル様が同じ学年だと年下キャラが1人になってしまうから、設定上あり得ないけれど。
「フェルナンド様もご一緒でしたら、もっと楽しい学園生活を送れるでしょうね」
「本当? 本当にそう思う?」
「ええ」
――――バタバタバタ――――
テラスがにわかに騒がしくなり、1人の騎士が勢いそのままにホールへ走りこんできた。
「大変だ! 今度は街道にレイドボスが出現した。冒険者が沢山集まってきているが、敵が強すぎる。司祭か司教、回復の手伝いに行ってくれ」
私たちの所にまで騎士の言葉は聞こえた。
案の定、ほとんどの人がSP切れで、魔法を使える司祭や司教はいない。
「もう、SPが残っている方は……」
先程まで回復魔法を使っていたのはロイク様だけ。
そのロイク様も息が上がり、SPは残り少ないはず。
「仕方ありませんね。ここにいる司祭たちで、SPが残っているのは私だけのようです。リリアーナ嬢、お傍を離れることをお許しください」
「私の事はどうでもいいのです。ですが、ロイク様もあまりSPが残っていないのではありませんか? 敵のいる場所へ向かうなんて危険ですわ」
「戦場に向かうのは初めてではありませんから。フェルナンド、リリアーナ嬢をナザリト先生の所へ連れて行ってください」
「うん。わかったよ。ロイク、気を付けてね」
私のわがままでここに来なければ、ロイク様は戦場に向かう必要も無かったハズ。
何か、私にもできることはないの?
そうだ。
「ロイク様、手をお貸しいただけますか?」
「手、ですか?」
「ええ」
差し出された右手を私は両手で包み込むと、建国の女神に祈った。
「ダールポーダー・マジア」
MSGで私が持っていたゴールデンキングロッドの特殊効果、SP回復。
自分のSPを回復することはできないけれど、他のプレイヤーのSPを回復することができる。
SP量が少ないクラスのプレイヤーや、SPを大量消費するスキルを使うプレイヤーに使うと喜ばれていた。
「リリアーナ嬢? 今のは、何ですか?」
ロイク様は戸惑うように右手を見ている。
魔力の動きはわからなかったし、ロッドが無いから効果は期待できないわ。
それに、目が覚めた時には見えていた魔力が見えなくなっていた。
変ね。
今は何もわからない。
「おまじないですわ。早くSPが回復しますようにって」
私はロイク様の手を離す。
「おまじない……。そう、ですか」
ロイク様は右手を見つめながら言った。
「ええ。あの、気を付けてくださいね」
「はい。リリアーナ嬢、おまじないありがとうございます。フェルナンド、頼みましたよ。では」
ロイク様はやってきた騎士と、2,3言葉を交わすとすぐに、ホールを出ていった。
「僕たちも、戻ろっか?」
「ええ、フェルナンド様」
私たちだけがホールにいても、手伝えることはもう残っていない。
テェゼーナ師の私室に戻った私たちを待っていたのは、ナザリト先生からのお叱りの言葉だった。
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