72.GWイベント第2弾 ~告知前2~ テディベア
車は王都ソルーアシティを通り抜け、城門をくぐった。
橋を渡り、更に車は進む。
暫くして車内に取り付けられたTVにマキシ様が映った。
「殿下。まもなく宮殿に到着いたします。陛下と王妃は既に、殿下の宮にご到着されているようです」
TV電話みたいなものらしい。
「俺より先に来るなよ」
「殿下」
「わかっている。今日はすることが無くて暇だったんだろ。もうすぐ行くと連絡しろ」
「かしこまりました」
プツリとTVが切れた。
「悪い、リリー。国王と王妃に挨拶することになった。授業もあったし疲れているからって早めに切り上げるから」
「それでは失礼に当たりませんか?」
「元々、謁見は明日の予定だったんだ。違う目的で行くんだから、そのことに専念するべきだろ」
「そうですわね」
アレフ様の言う通り、プロテクトに専念しないといけない。
私は静かに答えた。
車が停まり、ドアが開いた。
「到着いたしました」
「ああ。降りるぞ」
「はい」
アレフ様の手を借りて、車から降りる。
王城から少し離れた離宮。
王族が住まう、王宮が目の前に建っていた。
絢爛豪華な王城とは違い、王宮は豪華さよりも、どことなく実質剛健のような雰囲気だった。
庭園には新芽の出始めたばかりのようで、青々とした中にスィートピーやガーベラのかわいらしい色を覗かせている。
「リリアーナお嬢様、私はここで失礼致します」
カナンが丁寧に頭を下げる。
「ハメス、カナンをベンフィカ公爵家に送ってくれ。リリー、行くぞ」
「はい。カナン、いってきますね」
カナンが無言で頷き、
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
そういって、頭を深く下げる。
アレフ様の後を付いて歩く私の姿が見えなくなると、カナンの姿は静かにその場から消えた。
王宮の長い廊下を足早に歩くアレフ様から、緊張のようなものが伝わってくる。
初めて出会った日のように、先を歩くアレフ様のスピードについていけず小走りのようになっていた。
マキシ様がそっと私の手を取ると、アレフ様に声を掛けた。
「アレフレッド殿下。恐れながら、歩くスピードを落とし下さいませ」
「ああ。リリー、すまない。 速かったな」
「ええ。ですが、国王様と王妃様をお待たせしているのですから、急がなければいけませんわ」
「向こうが勝手に待っているんだから、気にする必要はないよ。これは、俺の問題だ。悪かった」
アレフ様はマキシ様から私の手を受け取ると、ゆっくりと歩き出した。
扉を開け、螺旋階段を上る。
4階位の高さまで来ただろうか?
階段を上りきると、広いホールに到着した。
扉が三方向にあり、アレフ様はその内の1つの扉を開けた。
応接室の様な部屋に、国王様と王妃様がソファーに座ってくつろいでいた。
アレフ様が私の手を引き2人の前に歩いて行くと、王妃様が嬉しそうに顔を輝かせる。
「やっと帰ってきたか。アレフレッド」
国王様が待ちくたびれたようにポツリと言った。
私の手を離し、アレフ様は右足を後ろに引き膝は床に付かない程度に曲げる。
私も慌ててアレフ様の後ろで、右足を後ろに引き膝を折り曲げた。
姿勢は真っ直ぐっと思っても、慣れない姿勢に身体がグラつきスカートの裾を持つ手は若干震えてしまう。
慣れない所為もあるけれど、それよりも緊張とプレッシャーが大きい。
国を治める国王と王妃に会う機会なんて、日本に住んでいたら起こりえないはず。
短く切り揃えられたゴールデンブラウニッシュブロンドの髪。
眼光鋭く、威圧感のある国王。
イエローブロンドの髪を後ろで纏め、優し気な雰囲気で笑顔を見せる王妃様は、君セナのアレフ様そのものだった。
私が礼を取ったのを確認し、アレフ様が挨拶を述べる。
「ソルーア国第2王子、アレフレッド・ソルーアと、その婚約者、リリアーナ・ベンフィカ、ただいま戻りました」
「うむ。よく戻ってきた。リリアーナ、久し振りだな」
「はい。国王様、王妃様。ご機嫌麗しゅうございます」
ミセスブラウンと練習していたことだけれど、緊張するわ。
「アレフレッド、ここはあなたの部屋ですし、2人とも楽になさいな。こちらに座ったらどうかしら?」
「申し訳ありませんが、我々はたった今、戻ってきたばかりでございます。僭越ながら、これにて失礼したいと思います」
「そうだな。では、我らが退室しよう。2人とも、ゆっくり休むがよい。王妃、行くぞ」
「はい。アレフレッド、リリアーナ。また後でね」
「はい」
私たちが返事をすると、国王と王妃は部屋から出て行った。
「リリー、もう、いいぞ」
挨拶の姿勢のままでいた私の手を引き、続き部屋へと歩く。
「緊張してしまいましたわ」
「俺もだ。親だが、普段は滅多に会わないから」
「そうでしたの」
「ああ。2人とも公務で城を空けることも多かったし、国民との謁見の時間も諸外国と比べて長いから」
「お忙しいのですね」
「そうみたいだな」
そう言えば、アレフ様は父母ではなく、国王、王妃と呼んでいたわね。
私の両親には、父母と呼んでいたのに。
なんとなく距離を感じた。
10人位なら楽に寛げそうな広いリビングを通り、扉を開ける。
大きな天蓋付きのベッドが置かれているので、アレフ様の寝室よね。
「このフロアならどこにいても構わない。何かあったら部屋にいる者に言ってくれればいい。ここにいる間、寝室は俺たちしか入れないから安心して使ってくれ。ああ、清掃の時間だけはメイドが来るけれど。一応、こっちにもベッドがあるから」
寝室奥の扉を開けると、先程のベッドとは趣が異なったかわいらしい部屋になっていた。
少し小さめのベッドに天蓋からは幾重にも重ねられたレースが掛けられ、ベッドと同じ彫刻がなされたドレッサーが置いてある。
「あら?」
ベッドに近付くと、私の部屋にあったのと同じテディベアが置かれている。
ベッドに座り、テディベアを手に取った。
「アレフ様。私、少しこちらで休ませていただきますわ」
「ああ、わかった。食事は俺たちだけで食べるから着替えたらいい。鞄はそこにあるから」
「ありがとうございます。アレフ様もお着替えなさったら? 制服のままですわよ」
「俺は後で着替えるよ。暫くここにいるのなら、紅茶を持ってこよう」
「飲みたくなりましたら、自分で頼みますわ。着替えますので、そろそろ……」
「ああ。俺はリビングにいるから」
「わかりました」
アレフ様はそのままリビングに向かった。
「殿下、大変でございます」
「どうかしたのか?」
「はい。カナ……」
マキシ様、アレフ様、そしてゴメスさんの言葉の途中で扉が閉まり、その後の会話は聞こえなかった。
カナ?
もしかして、カナンのこと?
私は寝室の扉の前まで行くと、微かにアレフ様の声が聞こえる。
「……ないよ。精霊の考えることなんて。ルークもルークだ。どうやってペットにしたんだか」
「他の方が連れているペットとは全く違いますね」
「あんなの、捕獲できないよ。俺だって、最初は気付かなかったくらいだ」
「それで、魔法省ではCランクとおっしゃっていましたが……」
「ああ。今年入ったばかりだからな。くくっ」
精霊? ルークお兄様? ペット?
魔法ってことは、冒険者の話かな?
お兄様の事なら、私には関係ない話よね。
私はリビングに行くのを止めて寝室に戻る。
扉の鍵を掛けようとして、鍵が無いことに気付いた。
それに、客室を用意してもらえる話だったはずなのに、どう考えてもここはアレフ様の寝室。
……深く考えない方が良さそうね。
着ていたフォーマルなワンピースから、ゆったりとしたワンピースに着替えるとテディベアを抱きあげた。
家にあるテディベアと同じもの。
リリアーナはテディベアが好きだったのね。
アレフ様のお部屋にまであるなんて。
足の裏には、6月28日 10anos と刺繍がされてある。
6月28日はアレフ様のお誕生日。
もう1つのテディベアには、5月18日 10anos と刺繍がされていた。
多分、リリアーナの誕生日。
婚約が解消されたら、このテディベアはどうなっちゃうのかな。
君セナで語られなかった2人のテディベア。
知ることのできない想い出を抱きしめるように、私は2人のテディベアを抱きしめた。
お読みいただきありがとうございます。




