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エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
70/98

70.邪魔?

 学園に戻ると、冒険者のイベントがあったことが嘘みたいだわ。

 昼休みになり、私たち4人はカフェへと歩いて行く。



「だから言ったのです。ジョナスとデートなんて、行っちゃダメですって。それなのに、お姉ちゃんは出かけたのですよ。自業自得なんです」


「えー? でも、それはジョナス様が悪い訳ではないでしょ。本当に悪いのは、デートを邪魔した人たちじゃない」


「ジョナスの日頃の行いが悪いから、デートに邪魔が入るのです」



 休みの間に、ティチェル様とジョナス様は街へデートに行かれたらしい。

 2人でいるところにジョナス様を想う女子が割り込み、気付けば10人ぐらいのグループでショッピングをしたそうだ。



「ティチェル様がおかわいそうですわ。……リリアーナ様は、何かお探しですか?」


「ええ。生徒手帳が見付からないの。皆様、申し訳ありませんが、私は教室に戻りますね。先にお食事していてください」


「わたくしも一緒に行きますわ」


「いいわよ。多分、鞄の中だと思うし。エイミーも2人と一緒に食べていて。それでは、ごきげんよう」



 エイミーの申し出を断り、私は教室へ戻る。

 誰もいない教室に入ると、私の机の上に生徒手帳が置いてあった。


 誰かが気付いて、置いてくれたのかな?

 生徒手帳を持ち上げると、下にメモが見えた。



『今日の放課後、屋上でお待ちしております。必ず1人で来てください。』



 綺麗な字で書かれたメモに、名前は無かった。

 一瞬、メモことヨハンを思い出す。

 でも、2人きりで話をする理由は想像つかない。

 男子からと言うよりは、女子からかな?

 エイミーに相談したら、絶対に付いてくるんだろうな。



 メモを見て悩んでいると、教室のドアが開いた。

 ドアの音に身体がビクっと震え、思わずドアを見る。

 入ってきたのは先日、アレフ様に告白をした2人組だった。

 ドアの音に驚いている私を見て、彼女たちも驚いた様子で話しかける。



「リリアーナ様、どうかなさったのですか?」


「なんでもありませんの。カフェに行く途中、生徒手帳が無いことに気付いて戻ってきただけですわ」


「お1人で、ですか?」


「ええ」



 私が答えると、2人は顔を見合わせている。

 生徒手帳とメモをポケットに入れて、2人のいるドアへと向かった。



「それでは、私はこれで」



 2人の横を通り過ぎ、ドアを開けようと伸ばす。




「リリアーナ様、お待ちください。メモには放課後と書きましたが、今お時間いただけますか?」


「では、このメモはあなた方が?」


「はい。改めまして、私はコンサド伯爵家の娘、クリシュナでございます。こちらは、モンテディア伯爵家令嬢のアンゼリカ・モンテディア嬢でございます」


「リリアーナ・ベンフィカでございます。どうぞ、よしなに」



 学園内では、身分や階級上の差別や贔屓は原則禁止している。

 けれど、ほとんどの生徒は家名のみではなく親の爵位も言う人が多く、この2人もごく自然と名乗ったのだろう。

 私が顔を上げると、待っていたかのようにクリシュナ様が話始めた。



「リリアーナ様、王妃を目指してはみませんか? 第2王子の婚約者(フィアンセ)ではなく、第1王子の婚約者を。アナマリア・モーガン侯爵令嬢がお亡くなりになってから2年が過ぎようとしているのに、第1王子様は婚約者を決めようとはしません。このままでは婚約者を巡って争いが起こるのが先か、後継ぎができずに国が廃れてしまうか。最近では、第2王子を後継者にと望む声も出ていることをご存知でしょうか? そのような声が高まれば、内戦が起きますわ。」


「内戦だなんて大袈裟ですわ。クラウディオ殿下が婚約者をお決めにならないのは、まだ気持ちの整理が付いていないからだと思います。それに、私はアレフレッド殿下の婚約者。今のお話は聞かなかったことにいたしますわ」


「第1王子の婚約者を選定するパーティに欠席していたのは、リリアーナ様だけ。第2王子の婚約者が中々決まらなかったのは、既に決まっていたアナマリア様を廃してリリアーナ様を第1王子の婚約者にと言う声が多かった所為との噂はご存知でしょうか?」


「その噂は存じ上げません。父が言うには、第2王子の婚約者候補を何度か辞退したと申しておりましたわ」



 クリシュナ様が黙ってしまうと、アンゼリカ様が話し始める。



「では、なぜ去年行われた婚約者を選定するパーティで、第1王子様はリリアーナ様としかダンスを踊られなかったのでしょうか?」



 そんなこと、わかるはずがない。

 返答に困っていると、ドアが開いた。

 シャムエラが元気よく入って来る。



「リリアーナ、遅いよ! いつまで探しているの? 見付からないならって、あれ? お話し中だった?」


「シャムエラ様……」


「リリアーナどうしたの? そんなに驚かれたら、私もびっくりしちゃうわよ」



 大きな目を更に大きくさせるシャムエラ。

 まるで暗い雲の切れ間から太陽が覗かせたように、暗い雰囲気を吹き飛ばしていくよう。

 少し、勇気が湧く。

 クリシュナ様とアンゼリカ様は、入ってきたシャムエラの対応を相談されているようだった。



「クリシュナ様、アンゼリカ様。ダンスのことは私に知る由もございません。先程も申し上げました通り、私はアレフレッド殿下の婚約者です。それ以上のことを望みません。今のお話は無かったことにしてください」



 私はシャムエラと一緒に教室を出ようと、彼女たちに背を向ける。



「お待ちください、リリアーナ様」



 クリシュナ様の声に私は振り返る。



「国が決めた婚約でしょう。その相手が第2王子から第1王子に替わるだけ。それで王妃になれるのよ? この国の女性の中で1番の権力を持てるのよ? それを何故断るの?」


「……それほど、私が邪魔ですか?」


「邪魔? そうではなく、第1王子の婚約者の候補になってほしいだけですわ。第1も第2も然程変わらないでしょう?」


「そういう理由で、私をアレフレッド殿下の婚約者からおろすのですか?」


「リリアーナ様? 何のことをおっしゃっているかしら?」


「クリシュナ様はおっしゃっていたではありませんか。殿下をお慕いしていると」



 狐につままれたような顔をした後、2人は噴き出すように笑いだした。



「おほほほほ! おお嫌だ。まさかこの前のことを本気にしていたなんて。アレフレッド殿下がおっしゃっていたように、あれはお芝居ですわ」


「え?」


「私のおじい様がしつこくて断れなかっただけ。王子様の婚約者に選ばれたら我が家も安泰ですが、私は候補に入れなかった。それにしてもまさか、リリアーナ様が信じていたとは思いも由りませんでしたわ」



 そうだったのね。

 2人は笑っているけれど、私は内心ほっとしていた。

 誰であれ、ライバルは少ない方がいい。



「そんなに笑うのは失礼じゃない!」



 横からシャムエラが叫ぶと、2人はシャムエラを嘲笑うかのように話す。



「一般入学が、私に指図しないでいただきたいわ」


「そうよ。庶民にはわからないでしょうけれどね」



 シャムエラは何も言い返さなかった。

 家柄や生まれは自分で選んだものでもないのに、酷い言い草だわ。



「クリシュナ様、アンゼリカ様。今の言葉は良くありませんわ。シャムエラ様にお謝りくださいませ。学園の規則でも、身分や階級などの差別を禁止しています」


「そんなこと、守っている生徒や先生は少ないですわ。話が逸れましたが、リリアーナ様。お心変わりしましたら、是非一番に私たちに報告してくださいね」


「それでは、私たちはこれで。ごきげんよう」



 2人は、私とシャムエラの横を通り教室を出て行った。



「申し訳ありません。私の所為で嫌な思いをさせてしましましたわ」


「謝らないで。リリアーナの所為ではないし、よくあることだから。」



 君セナと同じく、よくあることなのね。

 ゲーム画面で言われてもムカつくのに、直接言われて私なら耐えられないわ。



「もう。リリアーナったら! あなたが落ち込んでどうするのよ。私は平気よ。だってリリアーナたちは普通に接してくれる。だから私は大丈夫。 それよりも早くカフェに行きましょう。ランチタイムが終わってしまうわよ」



 シャムエラは強いなぁ。

 ニッコリと微笑むシャムエラに、私は勇気付けられた。



「ええ。そうですわね」



 教室を出て階段を降りる。

 時間が遅くなったからか、既に教室に戻る生徒とすれ違う。



「ねぇ、リリアーナ」



 シャムエラは、いつになく神妙な面持ちで尋ねてきた。



「どうかしましたか?」


「うん。さっきの話だけれど、リリアーナが第2王子様の婚約者から第1王子様の婚約者に変更するって話は、本当なの?」


「いいえ、違いますわ。私はアレフ様の婚約者です。第1王子で在らせられるクラウディオ殿下の婚約者様は、2年前に事故でお亡くなりになりました。それからトラブルが起こっているようですわ。クラウディオ殿下もアナマリア様を思ってか、婚約者を決めかねているようですし。……王家に嫁ぐには、王家の英霊に認められる必要があるそうです。幼い頃に婚約の儀を済ますと認められやすいそうなのですが、大きくなってからだと認められることが難しくなるようですの。それで、私をと言う方がいらっしゃるそうですわ。」


「何よそれ。当人の気持ちも無視して、勝手な話ね」


「本当ですわ。私は第2王子様ではなく、アレフ様をお慕いしていますのに」



 私がそう呟くように言うと、シャムエラは



「頑張ってね」



 と言って、肩を叩いた。



 カフェに着くと、エイミーとメリッサが私たちに気付き手を振っていた。



「遅くなって申し訳ありません」



 エイミーの横に座ると、直ぐにお水とAセットが届けられた。

 先に注文を済ませていてくれたのね。



「遅かったので、心配したのですよ。リリアーナ様は階段でも時々転ばれているですし」


「そんなに転んでばかりいません」


「リリアーナ様、言葉に説得力がありませんわ」


「もう、たまにしか転んでいませんわ!」



 私が叫ぶように言うと、3人は顔を見合わせて笑った。

 つられて私も笑う。

 3連休で起こった嫌なことを、全て吹き飛ばすかのように。

気付けば70話となりました。

お読みくださっている皆様に感謝を。


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