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エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
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69.最期なんて言わせない

 静かに扉が開き、すぐに閉まる音がした。



「ん? 誰?」



 目をこすりながら、私は身体を起こす。



「悪い、起こしたか。まだ夜だから寝てていいよ」


「……わかりました」



 ベッドがきしむ音が聞こえたが、私はそのまま起きることなく眠りに就く。

 しばらくしてまた私は目を覚ました。

 首が痛い。

 それに、この匂いは何?

 目を覚ました理由は、不快感からだった。


 何これ?

 身体の上に何が乗っているの?

 この匂いはお酒?

 なんでこんな匂いがするの?

 少し顔を上げると、眠っているアレフ様が見えた。



 うっ。



 すごい臭い。

 首が痛かったのは、枕がアレフ様の腕に変わっていたから?

 高すぎて痛い。

 少し離れようと身じろぐと、反って抱きしめられる。

 ううん。

 押さえつけられているみたいだわ。



「痛い。痛いです、アレフ様」



 手の動く範囲でアレフ様をペチペチと叩く。



「ああ。悪い」



 腕の力が緩んだので、慌てて腕の中から抜け出した。

 私はベッドの端に行き、何度か深呼吸をする。

 うん、落ち着いたはず。

 私は落ち着いて後ろを振り返った。

 何かを抱えていたように腕を出したアレフ様が寝ている。

 気のせいではないみたいね。

 どうしてアレフ様は、ご自分の部屋ではなく私の部屋にいるの?

 お酒を飲まれているみたいだし、酔って間違えたのかな?

 こんなところ見られたら、またあらぬ誤解を受けちゃうじゃない。



『あー。もう、わかんねー奴がいるな。 つまり、若い男女が1つのベッドで夜を過ごしたんだ。その意味がわかんねーのかよ!』



 ふと、シェフの言葉を思い出す。

 慌てて自分の姿を確認したら、何かあったような様子は一片も見付からない。

 ほっと胸を撫でおろす

 でも、それって私に魅力が無いからなの?



「リリー? うわ。まだ、酒が抜けてない」



 身体を起こしたアレフ様が、頭を抱える。



「おはようございます、アレフ様。お水はいかがですか?」


「ああ。頼む」



 ベッドから降り、部屋に用意されていたミネラルウォーターをコップに注ぐ。



「どうぞ」


「ありがとう」



 コップを受け取ると、アレフ様は一気に水を飲み干した。



「大丈夫ですか?」


「うん。冒険者が集まる店に行ったら、話を聞く度に飲まされたんだよ。大した収穫は無かったのに」


「残念ですわね」



 手を差し出して空になったコップを受け取ると、私はテーブルにコップを置く。



「イベントは、どうなっていたのですか?」


「続いていたよ。ただし、リリアはいなかった。BOSSを倒したら、『リリア姫は救出されました』とメッセージが出ていたな。リリーがいた部屋に通じるドアも消えていたよ」


「そうですか」


「今日の24時でイベントは終わりだ。何事も無ければ、それに越したことはないさ」


「そうですわね。ところで話は変わりますが、その、なぜ私の部屋でお休みになっていたのでしょうか?」


「帰ってきたら、部屋に鍵が掛かっていたんだよ」


「えっ? 一体、誰が掛けたのかしら?」


「さあな。マキシは下がらせたばかりだし、ロナウドもルークも出てこないし、リリーの部屋は鍵が開いていたから」



 私の部屋って不用心よね。



「私、昨日はいつのまにか寝てしまったから、鍵を掛けていなかったですわ」


「マキシが扉の前にいたから、何も無かったと思うぞ。ルークは俺と一緒に出掛けていたしな」


「客人より、兄に注意しないといけないことに違和感を覚えますけれど」


「ははは。全くだな」


「ふふ」



 2人の笑う声が小さく響きあった。






 夕方、カナンがルークお兄様を連れて私の部屋へとやってきた。



「リリアーナお嬢様。お車の準備が整いました。侯爵夫妻もホールにてお待ちでございます。学園に戻りましょう」


「わかりました。カナン、休暇はどうでしたか? ゆっくり休めましたか?」


「はい。プライベートなので詳細は省きますが」



 大丈夫! 聞きませんから!



「そう。休めたようなら何よりですわ」



 アレフ様を見ると黙って頷かれたので、先に私は部屋を出る。

 アレフ様が部屋を出るとき、カナンが一言、『ヘタレ』そう呟く声が聞こえた。

 カナンったら!

 一言、言おうと振り返る。



「ほら、行くぞ」



 振り向いた私に何事もなかったようにアレフ様が言うので、そのまま横に並んで歩く。

 後で絶対に文句を言ってやるんだから!

 階段を下りると玄関扉の前に父母とロナウド兄様が並び、横2列に家の者たちが並んでいる。



「リリアーナ。またいつでも戻ってきなさい」


「はい。お父様」



 軽く抱き寄せられて右頬にキスされる。

 髭がチクチクと当たり、少し痛い。



「リリアーナさん、お友達とは仲良くね。ミセスブラウンの話をよく聞くのですよ。それから……プロテクトを外すのが怖かったら、すぐエスタディオに戻っていらっしゃい。お母様が、必ず何とかいたしますから」



 左の頬にキスをされ、抱きしめられた。

 そっか。

 アレフ様がいらっしゃるから家の者総出でお見送りをしてくれたのだと思っていたけれど、プロテクトを外した後、私が命を落とす可能性は0じゃない。

 もしかしたら、今生の別れになるかもしれない私へのお見送りだったのね。



「お母様。ありがとうございます」



 本当の娘ではないけれど、精一杯頑張ってみるわ。

 母の背に腕を回し、しっかりと抱き合った。



「母上」



 遠慮がちに話すアレフ様の声がした。

 母の腕が私を離す。

 見ると、母の腕にアレフ様の手が添えられていた。



「私の目の前で、リリアーナにそのようなことを言うのはお止めください」


「申し訳ございません、殿下」



 頭を下げて詫びる母に、アレフ様は再度話しかける。

 私を後ろから抱きしめながら。 



「母上。私がリリアーナをお護りします。ですから、ご安心して任せてください」



 母は私たちを見ると、ぽっと頬を赤くした。

 何も言えなくなった母に代わって、父が話す。



「不肖の娘でございますが、私どもにとってはただ一人の可愛い娘。どうか、くれぐれもよろしくお願い致します」


「はい、父上」


「王宮へは長期休暇以外、特別な事情が無いと戻られない決まりですが、我が家は違います。お好きな時にお戻りください」


「ありがとうございます」


 ようやくアレフ様の腕から解放された私に、ロナウド兄様が近寄ってきた。



「元気で」


「はい。ロナウドお兄様も」



 右側のおでこにキスをされ、私たちはベンフィカ公爵邸を出た。

 アレフ様方と王族専用の寮の前で別れ、私の女子寮の前で車が停まる。

 同じように、令嬢たちが乗った車が何台か停まっている。



「リリアーナ様」



 後ろからエイミーの声がした。



「偶然ね。エイミーも、今戻ってきたの?」


「ええ。そうですわ。たった3日ですが、お逢いできず寂しかったですわ」


「本当ね」



 私たちが話していると、ルークお兄様が鞄を持って近付いて来た。



「リリアーナのお友達ですか?」



 エイミーがルークお兄様の声に顔を上げると、ハッとした表情になった。

 ルークお兄様は、エイミーの様子には気付かずに会釈をして話し出す。



「ご挨拶が遅れました。初めまして、ベンフィカ公爵家次男、ルークでございます。妹がいつもお世話になっております」



 深々と礼をするルークお兄様に、戸惑った様子を見せたエイミーだったが、すぐに気品ある笑顔を浮かべて挨拶を返す。



「わたくしは、クラスメイトのエイミー・フォーセットでございます。リリアーナ様には大変親しくしていただいております」



 エイミーもスカートの端を持ち上げ、深々とお辞儀をする。

 2人の姿は貴族らしく華麗だった。



「エイミー・フォーセット嬢? 失礼しました。貴方とは以前、お茶会でお逢いしたことがありましたね」



 エイミーの顔がほんのりと赤く染まった。

 ルークお兄様を真っ直ぐに見つめ、二コリと微笑む。



「覚えていただいていたなんて、光栄でございますわ」


「僕の話を信じてリリアーナに手紙を送ってくれたのは、エイミー嬢、貴方だけでした。初めましてと言ってしまった僕の失態をお許しください」


「許すだなんて、恐れ多いですわ。お逢いしたのは小さい子供の頃でしたもの。わからなくて当然のことですわ」



 2人のやり取りを見ていると、カナンに後ろへと引き連れられていく。



「カナン? 何をするの?」


「シッ。お静かに。こういうのは、少し離れていないと最後まで観察できません」


「観察?」


「左様でございます」



 観察ねぇ。



「ルークお兄様はシスコンでなかったら、絶対に攻略対象になっていてもおかしくないわ。ライバル令嬢のお兄様と恋に落ちるって言うのもアリだと思うの」



 エイミーと知り合ったきっかけは、ルークお兄様だったものね。

 そういえばエイミーからの手紙には、全て必ず『ルーク様にもよろしくお伝えください』と書かれていたわ。

 律儀よね。

 同じ女子の目から見てもエイミーはかわいいし、さすが、クラス中の男子からダンスを申し込まれる程だわ。



「リリアーナ様は時折、とても残念な方に思えてなりません。お気の毒ですね」



 残念ですって?

 やれやれっと言った風にカナンに言われ、私は思わず食って掛かった。



「そう言えば、カナン。お風呂の準備ができているって言うから入ったら、アレフ様がいたんだけど、どういうことかしら?」


「ちょっとしたサービスでございます」


「どこがサービスですか! とても気まずくなったのよ!」



 私が言うと、カナンは真剣に考えこんで言う。



「おかしいですね。人間は裸の付き合いで親密になると言う情報でしたが、間違っていたのでしょうか?」


「多分、それは同性での話だと思うわ。まさかとは思いますけれど、昨夜、アレフ様のお部屋の鍵を掛けたりしていませんよね?」


「言いがかりはよしてくださいませ」


「そこで、なぜ目を逸らすのかしら?」


「黙秘いたします」


 カナンと話していると、ルークお兄様とエイミーが私たちの側へ近付いてくる。



「リリアーナ、僕はそろそろ家に戻るよ。プロテクトを外したら、アレフレッド殿下には重々気を付けるんだよ」


「プロテクトを外したら? 何か、関係がありますの?」


「大アリなんだよ。リリアーナが穢れると困るから詳しくは言えないけれども、とにかく気を付けるんだよ。いいね」



 ルークお兄様は私の左おでこにキスをした。



「エイミー嬢。妹をよろしくお願い致します」


「かしこまりましたわ。学園でのリリアーナ様のことは、私にお任せくださいませ。」



 ルークお兄様が帰ると、ようやく安心したのかエイミーの家の車も帰って行った。

 悪い虫扱いされていたりして。

 むしろ、追いかけられていたりする?



「ルークお兄様って、婚約者もいないし、恋人もいないのよ」



 寮に向かいながら、私たちは並んで歩き出した。



「まぁ、そうは見えませんのに」


「あとね、悪い人では無いから」


「ええ。それは存じておりますわ。お話していても、そのような感じはしませんし」


「そう? 良かったわ」



 私は胸をなでおろす。

 友達に自分の兄が嫌われるのは嫌だった。



「先程から、どうかされたのですか?」



 エイミーは、私の言動に首をかしげた。


「う、うん。エイミーの家の車が、ルークお兄様の車を追い駆けるように行ったから、悪い虫認定されたんじゃないかと思って。違うならいいのだけれど」


「まぁ! 後で家に連絡をしておきますわ。不快な思いをさせてしまって、申し訳ございません」


「ううん。フォーセット家の対応は間違いないと思うわ。だって、ルークお兄様だもの」


「それは、どういう意味ですの?」


「う、うん。悪い人では無いんだけれど、ちょっと過保護なのよ」



 私は、ルークお兄様の車が停まっていた辺りをもう一度見た。



「少し、度が過ぎる位」



お読みいただきありがとうございます♪

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