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エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
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66.冒険者の資格

「皆様、リリアーナお嬢様が戻られました」



 ゴメスさんが扉を開けて話す。



「遅くなってごめんなさい」



 部屋に入ると、アレフ様と目が合った。



「先に飲み物だけ届くから驚いたよ」



 アレフ様の言葉に笑ってごまかす。

 メイドとシェフたちの会話を聞いていたなんて言えない。



「リリアーナ様、こちらへどうぞ」


「はい」


「ありがとう、ゴメス。下がっていいよ」



 ルークお兄様の言葉に、ゴメスさんが会釈する。



「はい。失礼致します」



 マキシ様にアレフ様の隣へと案内される。

 私が座るのを見て、ゴメスさんは扉を閉めた。



 テーブルには世界地図が広げられ、タブレットとノートPCを確認しながらアレフ様とルークお兄様が話している。

 この世界地図は、MSGのマップと同じもの。



「場所は大体わかったが、本当にこの材料で作れるのかよ? 無駄足になるだけなんじゃないのか?」


「やってみないとわからないだろ」


「確かにそうだ。集まったら、SNS送るから」



 ルークお兄様が地図に書き込まれた印を見ながら言う。

 


「悪いな」


「ワープポイントからの距離はそれ程遠くない。あくまで余暇を利用するだけだらか、気にするな」


「それじゃ、俺」



 アレフ様が立ち上がり、マキシ様を見る。

 無言で頷くマキシ様。

 うわぁ、絵になるなぁ。



「ああ。僕はそろそろロナウドを起こしてくる」



 普通にしていればルークお兄様も素敵なのに。

 ちょっと残念だわ。



「ところで、私に何かお手伝いできることはありますか?」



 2人が、いいえ。

 マキシ様も3人が驚いた表情で私を見た。



「そうだ。リリアーナを1人にして大丈夫だろうか?」


「かと言って、掲示板を使うから連れてはいけないぞ」


「リリアーナ様にも、冒険者になっていただけばよろしいのでは?」



 控えめにマキシ様が提案する。



「リリアーナには酷だと思う。そんな思いをさせたくはないよ」


「プロテクトで魔法もうまく発動しない。剣術の授業風景を見る限りじゃ、剣で敵を倒すこともできないだろう。誰か護衛を付けていれば、昨日のようなことは起こらないんじゃないのか?」



 何だか言いたい放題だわ。



「なぜ、冒険者になる必要がありますの?」


「昨日のようなイベント空間に入る掲示板やワープポイントは、冒険者じゃないと使用できないんだよ」


「マキシが冒険者の資格を昨日取ったけれど、2時間位掛かったんだ。筆記試験が30分。実技の準備や移動もあるから、戦闘は一気に済ませたのだろう。合格してからカード発行までにも1時間位待たされたし」


「私の所為で、お時間を取らさせてしまいましたのね。大変申し訳ございません」


「持っていなかったのだから仕方がない。急がせて悪かった」


「僕としては、お前が持っていたことが驚きだったよ。しかもそのレベル。いつの間に上げたんだ?」



 ルークお兄様の質問に、マキシ様がハッとした表情でアレフ様を見た。

 マキシ様もご存じでは無かったの?



「内緒。俺も貴族のボンボンがカンストしてるなんて信じられないな」



 カンスト!?

 確か、冒険者レベルの上限は100だったはず。

 カナンに踏まれていた割には、以外とすごいのね。



「王子様に言われてもね。我が家は元々冒険者からの成り上がりだから、15歳になったら冒険者にならされるんだよ」



 2人のやりとりが続く横で、マキシ様が暗い表情を見せた。

 アレフ様は気付いていないご様子ね。


「マキシ様」


「はい。いかがいたしましたか?」



 私を向いたマキシ様は、いつもの笑みだった。

 あ、思わず声を掛けちゃったけれど、この場で聞くのは悪いわよね。



「その。冒険者カードって、どのような物ですか?」


「これが、冒険者カードですよ」



 マキシ様がポケットからカードを取り出す。

 見せてもらったカードには、ステータス画面が表示されていた。

 称号に姫の騎士って書いてあるわ。



「色々書かれていますのね」


「見辛いでしょう。ここを触ると、こうやって空中に大きく表示されます」


「これでしたら見やすいですわね。あら? 昨日始めたばかりで、もうレベルが45なのですか?」



 私のキャラはまだ20もいっていなかったのに。



「皆様と経験値が共有されていましたので、早かったようです」



 マキシ様が苦笑いを浮かべる。

 初心者にはさぞ、辛い戦闘だったのでしょうね。

 強いモンスターの名前は赤色で表示される。

 あまりにもレベル差がありすぎると名前は紫で表示され、まず倒すことはできない。

 そんなモンスターばかりを倒してきたんだろうな。


「そうだったんですね。冒険者資格を取得するのは、大変でしたか?」


「いいえ。筆記試験は簡単な読み書きの問題と四則計算に地理、実技はスタースライムと言う敵を倒して3色のスターゼリーを30個ずつ集めるだけです」


「3色と言うことは、全部で90個もですか?」


「はい。その通りです。固まっているところで範囲攻撃をしたら、すぐに集まります」


「冒険者になる前からマキシ様は実力がおありでしたのでしょう。私には、確かに無理そうですわ」



 気の利いた言葉って、そうそう出ないものね。

 いつもの笑顔で話すマキシ様から、動揺している様子は感じ取ることはできなかった。



 冒険者資格の試験は、MSGのチュートリアルと同じ。

 スタースライムとは、星の形をしたスライム状のモンスターで、MSGの中では1番弱いモンスター。

 3ダメージで倒せる位弱いから、私でも倒せるよね。

 90個ってところまで一緒じゃなかったらいいのに。

 ちょっと多いなぁ。



 私は立ち上がると、ティーセットが用意された一角に行った。

 アレフ様たちはまだ話しながらノートPCを見ている。

 ケンカ腰に話すけれど、実は仲が良かったりする?



「リリアーナ様。お飲み物でしたら、私がお淹れ致します」



 マキシ様が私からティーカップを取ると、紅茶を淹れ始めた。



「それでは代わりに、マキシ様の分をお淹れいたしますわ。何を飲まれますか?」


「いいえ。私は結構ですよ」


「そうおっしゃらず。おもてなしもできないのかと、怒られてしまいますわ」


「それでは今、お淹れする紅茶を一緒にいただきます」



 マキシ様が手に持つティーポットを見せた。

 大きめのポットは2~3人分は楽に淹れることができる。



「わかりました」



 2客のティーカップを用意して、氷を入れた2個のグラスにコーラを注ぐ。

 コーラを運ぶと、2人は無言でグラスを取った。

 一気にコーラを飲み、アレフ様は殻になったグラスを置く。



「マキシ。悪いが、リリアーナの護衛を頼みたい。さっき話していたイベントの確認は二手に分かれずに、俺とルークだけで行ってくる」


「なりません。アレフレッド殿下。今回のような場合、私が必ず側に置くのが決まりでございます」


「適材適所だ。リリーを守るのなら、俺よりもマキシが役に立つだろう。イベントについて調査するのは俺たちで行く」


「フラガ子爵、お願い致します。我が妹を御守りください。僭越ながら、殿下はこの僕がお護り致しましょう」



 ルークお兄様が胸に手を当てて頭を下げた。

 マキシ様ってお若いのに爵位をお持ちなのね。



「マキシ」


「仰せのままに」



 少し強めなアレフ様の言葉に、マキシ様は少し言葉を詰まらせるように答えた。



 2人はロナウドお兄様を無理やり起こして出かけて行ったみたい。

 置いて行かれた私とマキシ様は、ゆっくりと庭を散策していた。

 正確に言うと、暇を持て余した私の散歩にマキシ様が付き添ってくれている。

 水辺には水芭蕉が咲き乱れ、丁度見頃を迎えていた。



「私の所為で、マキシ様にご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ありません」


「リリアーナ様の所為ではございませんよ。それに学園でも、リリアーナ様をお護りするようにとの指示でございますから」


「学園でも? 別に、私は1人でも大丈夫だと思いますわ」



 私の言葉にマキシ様が笑う。



「昨日のようなことがあったのに、そう思えるのですね」


「続けて起きるものではないと思いますわ。それにもし起きてしまったら、誰が側にいてくださっても不可抗力のような気がいたします」


「私では、お役に立てないと?」



 マキシ様がからかうように笑いながら言う。



「違いますわ。我が家にだって護衛がいますのよ。それでも、ルークお兄様はマキシ様に頼まれたではありませんか」


「あの場にいたのが、私だけだったからかもしれませんよ?」


「マキシ様ったら!」 


「すみません」



 咎めるように言うと、マキシ様は尚も笑う。



「本当に違いますの。何かあったとしたら、それは私自身の、……私の弱さが問題なのですわ」



 私の言葉に、それまで笑っていたマキシ様が真面目な表情で跪いた。



「高貴な姫に忠誠を誓うことは、騎士にとって名誉なことでございます。我が主と共にリリアーナ姫に忠誠を。必ずや、姫をお護り致します」


「え? あの」



 突然のことに戸惑ってしまう。

 こういうのって、私も何か言わないといけないのかな?

 そんなのわからないよ。



「リリアーナ様、右手を」


「右手ですか?」



 マキシ様に右手を差し出すと、そっと下から手を添えられた。



「我が姫君に忠誠のキスを」



 そっと口付けるマキシ様に、最初に出会ったカフェでのキスが、主の婚約者に対する忠誠のキスだったことに私は初めて気が付いた。

 


お読みいただきありがとうございました。

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