表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
65/98

65.ベンフィカ公爵家の人々

 ミセスブラウンが必ずいる寮とは違い、自分の部屋にはメイドがいない。

 いつまでもバスローブ姿だと風邪を引きかねないので、私がアレフ様の部屋まで着替えを取りに行くことにした。

 いくらアレフさまが私の婚約者とは言え、娘の向かいの部屋を用意するのはおかしいと思うわ。

 用意したのは、絶対にカナンね。

 絶対に、文句を言ってやるんだから!



 念のため、ノックをしてから扉を開けた。

 ベッドの上に置かれた鞄を見付けて持ち上げる。

 鞄から出すより、重さが軽減された鞄のまま運ぶ方がいいわよね。

 部屋を出ると、隣の部屋からマキシ様がちょうど出てきた。



「おはようございます。マキシ様。昨日はよく眠れましたか?」


「はい。リリアーナ様は、もう、動かれてもよろしいのですか?」



 そうおっしゃるマキシ様の、鳶色の瞳は少し赤かった。

 本当はよく、眠られなかったのかな?



「ええ。ふふ。申し訳ありません。車の中で眠ってしまって。私はただ、あの部屋にいただけですのに」


「滅相もございません。リリアーナ様がいた部屋ですが、魔力濃度が異常に濃く、私やロナウド様は足を踏み入れることができませんでした。そんな部屋に10時間程もいたのです。何ともないはずがありません」



 魔力濃度が濃いとどうなるんだろう?

 マキシ様とロナウドお兄様は、確かにドアのところにいた。

 そんなところに、アレフ様とルークお兄様はやってきてくれたの?



「そうでしたの。もう、私は大丈夫ですわ。お助けいただきありがとうございます。よく、私がいる場所がおわかりになりましたね。誰にも気付かれないと思いましたわ」


「偶然ですが、エリクサーを購入した店でイベントのお知らせが聞こえたのです。冒険者資格のない私にも聞こえたのです。不思議なこともあるものですね」


「そうでしたの。今、エリクサーを購入したとおっしゃいましたが、売っていたのですか?」



 アレフ様方の目的は、エリクサーだったのよね。



「はい。2個だけですが、購入できました。それで今、アレフレッド殿下を探していたのですが、殿下は部屋にいるのでしょうか? お呼びしても返事が無かったものですので」



 マキシ様の視線は知れずと私の持つ鞄に向く。

 部屋から出てきた私が持っているのだし、一目瞭然よね。



「えーと。……マキシ様は朝食はお済ですか?」


「いえ、まだですが」


「では、先に朝食をお召し上がりください。その頃には、アレフ様もお部屋にいらっしゃるはずですわ。では、私はこれで」


「リリアーナ様?」


「失礼致します」



 私は逃げるように自分の部屋へ戻った。

 バレバレかな?

 扉にもたれて一息付く。



「リリー、おかえり。どうしたんだ?」


「マキシ様がアレフ様をお探しでしたので、朝食を先にお召し上がりになるようにお伝えいたしましたわ」


「悪いな」


「いえ。それより、早くお着替えください。風邪を引かれますわ」


「ああ。ここ借りるな」


「どうぞ」



 バスルームに続く、パウダールームの扉の前でアレフ様は鎖を外す。

 上に放り投げてキャッチすると、その鎖を見つめている。



「リリー? さっき、風呂の前に剣が無かったか?」


「剣? ありませんでしたわ。さすがに剣が置かれていたら、私にもアレフ様がご入浴中だと気が付きます」


「そうだよな」



 もう一度、鎖を上に投げてキャッチしながらアレフ様が言う。



「その鎖のネックレス、預かりましょうか? さすがに水に触れると傷みますものね」


「え?」


「先程も床に落ちていたから、ウサギさんに掛けておいたのですわ。そこらへ置くのでしたら、私がお預かりいたしますよ」


「さっきは、リリーが近付いても、反応しなかったのか」


「何がですか?」


「これ、マジックアイテムの1つなんだよ。危ないから近付くなよ」



 アレフ様が鎖に何かをしたのか、鎖は姿を変えて大きな剣になった。



「今は、俺の意思で変化させたけれど、俺が身に付けていない時に誰かが近付くと、剣の姿に変わるものなんだ。持っていたら自由に変化させることができる、護身用の剣だ」



 剣は鎖の姿に戻る。

 落ちていたのではなく、見えないように置いていたのね。

 それを、私は拾い上げてしまったの。



「では、預かったら危ないですわね」


「そうだな。変化しなかったからと言って、常に変化しないとは限らないから。……さっきは本当にびっくりしたよ。普通に入ってくるし、その」


「そこからは、思い出さないでください!」


「ああ。着替えてくる」



 アレフ様がパウダールームに入って行く。

 なんで剣に変化しなかったのよ。

 ……見られちゃったじゃない。

 私は鎖にちょっとだけ不満をこぼした。



 部屋を出ると、悲痛な表情をしたルークお兄様がやってきた。

 怖いですわ。お兄様。



「リリアーナ、体は大丈夫なのか? その、痛くなかったか?」


「ええ。もう、大丈夫ですわ。痛みもありません」


「その、初めてだったのだろう? 辛くはないのか?」



 昨日のことよね?



「ええ。ずっと休んでいましたもの。魔力濃度が濃いってマキシ様から聞きましたけれど、身体も元に戻りましたし、平気ですわ。」



「魔力濃度? 僕が聞いているのは、今日、コイツに嫌なことや痛い思いをさせられなかったかってことだよ」


「アレフ様にですか? そんなこと、アレフ様がするはずございませんわ」


「え? そう、なのか?」



 ルークお兄様の視線が、私からアレフ様に移る。

 さっきから、お兄様は何をおっしゃりたいの?



「アレフ様がそんな方だと、お思いですの?」


「何も、無かった? ああ。そうか、悪いね、リリアーナ。変なこと言って。僕の勘違いだから気にしなくていいよ」


「ええ」



 何なの?

 急に機嫌よく話し出すお兄様。



「ルーク、さっきから何が言いたいんだ?」


「いや、別に。おお、そうだ。昨日話していたの、協力してやってもいいよ」


「本当か?」


「ああ。冒険者掲示板のは、既にロナウドが調べていそうだけれどね」


「そのロナウドは?」


「多分寝てるよ、きっと。朝、弱いからな」


「そうか。とりあえず立ち話も何だし、部屋に入って話そう」


「いいよ」



 アレフ様のお部屋に入って行く2人に、私は声を掛ける。



「私、お飲み物を用意してきますわ」


「頼む」


「かしこまりました」



 笑って言うと、私は1階へと向かった。

 後ろから、2人の会話が聞こえる。



「本当に何もしなかったんだよな?」


「ルークに関係ないだろ! それに、そんなこと聞くなよ!」


「いや、リリアーナのあんな笑顔、久しぶりに見たからさ」



 2人の会話は暫く続き、私が階段を降り始めると、扉の閉まる音が聞こえた。



 キッチンに行くと、朝食の片づけで皆が忙しそうにしている。

 頼もうか、自分で用意しようか迷っていると、1人のメイドが私に気付いた。



「お嬢様、どうされましたか?」


「飲み物を用意していただきたいの。コーヒーと紅茶でいいかしら? あ、コーラってありますか?」


「はい。ございますよ。お嬢様、私がお運びいたしますから、お戻りになっていてよろしいですよ」


「ありがとう。カップは3客用意してもらえるかしら? 足りなかったら、私の部屋にある物を使いますわ」


「お嬢様、誰と飲まれるのですか?」



 後ろから、『馬鹿! 何聞いてるんだ!』と声が聞こえる。



「いいのよ。別に隠すことでもないし。アレフ様と、ルークお兄様、後からマキシ様がいらっしゃるの。後、私の分ですわ」


「え?」



 驚くメイドに、私は慌てて説明する。



「別に、ロナウドお兄様をのけ者にしたのではないわよ。ルークお兄様が、まだ寝ているだろうっておっしゃったからなの」


「……かしこまりました。お嬢様、すぐにご用意致します」


「ありがとう。よろしくね」



 なぜだか、憐れむような顔をされたのは気のせい?

 また、小声でメイドとシェフたちが話し出す。



「邪魔されたな、お嬢様」


「ルーク様もそろそろご自分の身を固めたらよろしいのに」


「朝も邪魔したんだろう?」


「ところが、朝食を運んだニウドが言うには、殿下がお嬢様のベッドで休まれていたって言ってたぞ」


「えー! 私、聞いてないそれ!」


「見間違いじゃないの?」



 小声だったのに、盛り上がってきたのか大声で話しだす。

 私の話よね?

 キッチンを出る手前で、振り返って見る。



「朝食の手配だって2人分だっただろ? しかもお祝い膳って注文で!」


「私が頼んだわけではないのですが」


「カナンが気を回したんだろ」


「ベッドからお嬢様を呼ぶ殿下の声は、男が聞いても色気があったらしいぞ。まだ若いのによ。お召し物も乱れてたって」


「それは、アレフ様の寝相が悪かったからですわ」


「お嬢様が隣に寝ていて、大人しく寝ていられる奴は男じゃねー」


「キャー! 聖女のようなお嬢様に何てこと!!」


「え? えーと?」


「あー。もう、わかんねー奴がいるな。 つまり、若い男女が1つのベッドで夜を過ごしたんだ。その意味がわかんねーのかよ!」



 イライラした様子で、1人のシェフが私を振り返って言った。



「え?」


「あ、お、お嬢様!?」


「まだ、いたんですか?」


「あ、うん。まだ、いました」



 それって、つまり。

 顔が一気に火照っていく。



「お嬢様、その今の話は……」


「あの。えーと、誤解よ! そんなこと無いんだから!!」


「お嬢様、照れなくてもよろしいですわ」



 メイドが笑って私を慰める。



「違います! 本当なの。照れてるからじゃありません!」


「どうしたのですか? 客人が来ているのに、騒がしいですよ」



 ゴメスさんが入ってきた。



「お嬢様、まだこちらにおいででしたか。お飲み物が届いたのに、お嬢様がお戻りになられないと心配されていましたよ」


「はい。今、戻りますわ」



 私はゴメスさんに言うと、キッチンにいる人たちを見る。



「本当に、その、誤解なの。信じてくださいね」


「はい。承知いたしました」


「大変失礼いたしました」



 信じてもらえていないわね。

 キッチンを出て、ゴメスさんに聞いた。



「あの、ゴメス。朝のことですが、ゴメスは気付いていましたの?」


「なにをでしょうか?」


「バスルームに、アレフ様がいたことに、です」



 ゴメスさんは、俯いて話す私の頭をなではじめた。



「扉の前に王家の紋章が入った剣がありましたので」



 やっぱり、そうだったのね。



「申し訳ございません。私の判断が間違っていたようでございます。ルーク様のおっしゃる通り、お助けするべきだったのですね」


「助けるって言われると語弊がありますが、教えてほしかったですわ。私、気付いていなかっただけですもの」


「お嬢様は婚約者でございますし、家より外に噂が広まることはないでしょう。ご安心ください」


「ええ」



 今はまだ婚約者。

 アレフ様も、そう接してくれている。

 ただし、それは君セナの設定通りなだけ。

 この3年間で婚約解消されるかもしれないのに。



 大丈夫、だなんて思うことはできなかった。


お読みいただきましてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ