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エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
63/98

63.GWイベント ~第1弾終了~

かちゃ



 何度目の音だろう?

 私は、笑顔を浮かべてドアを開けた人たちに話しかける。



「お助けくださってありがとうございます」



 段々とわかってきた。

 ドアを開けた人と接する時間は、約10秒。

 彼らは、私を助けに来た冒険者。

 この扉の前にいるBOSSモンスターを倒して、捕らわれたリリア姫を助けに来てくれた勇者様ご一行。

 報酬は魔晶石5個と称号が1つ。

 ソロでは厳しいので、パーティ推奨。

 繰り返しプレイ可能だけれど、報酬は最初の1回のみ。

 この私がいるイベントの特別な空間は、戦闘終了後、街へ戻るまでのローディング時間なのか、それともイベントムービーなのかはわからない。



「わぁ。可愛いお姫様ね」


「こんな子を閉じ込めるなんて、悪い奴だ!」


「リリアちゃん、また来たよ!」


「あれ? さっきより小さくなってない?」


 口々に話しては、消えていく冒険者たち。

 助けられたはずの私を、ずっとその場に残して。

 チャンネルが異なるのか、同時にいくつかのドアが開くこともあった。

 けれど、私はここからは出られない。

 誰も、本当の意味で私を助け出してくれる人はいなかった。



バタン!



 勢いよくドアが開いた。

 怯えちゃダメ。

 怯えた様子を見せると、もっと怖い目に合う。

 どうせ、10秒よ。

 我慢しなきゃ。



「あなたは誰? 私のせいで、そんな、大けがをされたのですか? 大丈夫ですか? 助けてくれてありがとう」


「そうだよ。お嬢ちゃんを連れだした悪い奴は滅茶苦茶強くてね。へへ。でも、こんな可愛い子なら、助けがいもあるってものよ」


「早く、街に戻って治療してね」


「ああ。ありがとよ」



 スプラッター映画ばりの姿に、思わず吐き気がこみ上げてくる。

 私を捕らえた敵を倒せば、ここでの戦闘は終わり。

 そう考えてか、傷が酷くても回復をしない冒険者がたくさんいた。

 本人たちは平気なのだろうけれども、その姿を直視するのは恐ろしい。



 思わず悲鳴を上げた私に激昂してくる冒険者もいた。

 私を連れて行こうとする冒険者もいた。

 この部屋にある魔石を拾おうとする冒険者もいた。



 ここから出られないと言うことは、その者たちから私を守ってくれる場所でもあった。



 また増えた。

 消えて無くなったはずの魔晶石が、床に散りばめられたように積み重なっていく。

 まるで、魔石で作られたプールの中にいるみたい。

 姿が小さくなるにつれて、魔石の数も増えているようだった。

 何歳まで小さくなるの?

 着ていた服が大きくなっていた。



ガチャ



 またドアが開いた。

 これっていつまで続くのかしら?

 たった10秒。

 されど、恐怖の10秒間が始まる。





「行ってしまいますわよ? よろしいのですか?」



 侯爵夫人が窓を見ながら言う。

 



「ご本人が決めたのだろう。行かせてあげなさい。私たちの息子たちだ。心配いらないだろう」



 夫人は静かに頷いた。

 侯爵はブランデーのグラスを回す。



「ロナウドは、未だに私たちがアルコールに弱いと思っているのか」


「そのようですわね」



 クスッと夫人が笑った。

 リリアーナによく似た顔に、小さく皺が刻まれる。



「昼食にブランデーだなんて」


「邪魔者は、眠っていろと言いたいのだな」


「どういたしますの?」


「眠っているわけにいかないだろう。王宮へ行き、国王、王妃両陛下にご説明をして来なければなるまい」


「許されるかしら?」


「陛下の娘を助けに、我が家の息子が3人、仲良く出かけて行ったんだ。許すしかないだろう」


「まぁ」



 夫人が笑う様子を見て、侯爵は頬を緩ませた。



「もう、行ったか?」


「ええ。車で行かれましたわ」



 外には、見送っていたゴメスの姿もいない。



「そうか。では私も出かけてくるとする。支度を頼む」


「かしこまりました」


 夫婦はバスルームへと歩いて行った。





がちゃり


ガチャッ


ギィィィィ



 ドアがいくつか開く音がした。

 彼らは私の姿は見えても、お互いの姿は見えないし、話し声も聞こえないようだった。

 けれど、私の声と姿は全てのチャンネルに繋がるらしく、注意しないと変な会話になってしまう。

 ずっと、よそ見をして会話をしてしまうことにもなりかねない。

 いっそのこと、魔石に埋もれて見え無くなればいいのに。

 ドア越しに怒声を浴び続ける気力は、もう残っていなかった。


「姫って子供かよ」


「まぁまぁ。姫って言っておきながら、婆さんだったらどうするんだ? 艶女、美魔女でも、キツイぜ! それなら幼女の方がお姫様っぽいよ」


「リリア姫~。助けに来たよ。お兄さんと一緒に行こうか」


「お、生きてる。リリア姫~」


「あ」



 ぐしゃっ。

 ワンピースの裾を踏んでしまい、私は頭から転ぶ。

 着ていた服はぶかぶかになっていた。



「大丈夫? リリア姫」


「はい。だいじょうぶです。たすけてくれて、ありがとうございます」



ガチャガチャ。



 また?

 話してる途中で開くなんて。

 私が新たに開いたドアを見る。



パキン

カシャーーーーン


 ガラスが割れるような音がして、ドアから誰かが入ってきた。


 嘘……。

 今まで誰も入れなかったのに。

 他のチャンネルにもこの部屋の様子は見えるらしく、フードを深く被った人の姿が見えているようだ。



「あれ? アイツ、リリア姫の側に行ってるぞ?」


「俺たちも入れるのか? あそこにある魔石を持って行ければ大金持ちになれるぞ!」


「何でアイツらだけ入れるんだよ! クソッ! もう1回やるぞ!」



 他のドアの人たちは、時間切れや強制終了で消えていく。

 他の人たちも入ってくるの?

 嫌だ。

 恐れていたことが起きてしまった。

 開いたドアから、また1人入ってくる。

 フードを目深く被っていて、顔は見えない。

 最初に入ってきた人が、私を抱きかかえて言った。



「本当に、あの頃のリリアだな。助けに来たよ、僕の姫」


「あの、たすけていただいてありがとうございました」



 エメラルドの瞳が柔らかく微笑んでいる。

 安心できそうなその笑顔に、なぜか悪寒が走った。



「多分大丈夫だ。みんな、フードを外していいぞ。って、何、リリーをビビらせているんだよ!」



 ひょいと私の体が他の手に渡る。

 この声って。



「あれふさま?」


「ああ。そうだよ。大丈夫だった?」



 外套の留め金を外し、私に掛けてくれる。

 私は大きく頷いた。 

 じゃあ、さっきの人は?

 フードを外すと、青色が濃いプラチナブルーの髪がハラリと垂れた。



「念のため、フードを被れと言ったのはお前だろう。リリアーナを返せ」


「誰が」


「ルークおにいさま……」



 思わず、アレフ様の首にしがみつく。

 さっきの悪寒はルークお兄様だったから? そう思うと、なぜか納得できた。



「すごい数の魔晶石ですね」


「リリアーナが作り出したのでしょう。何があったかは後にします。殿下、ルーク、こちらへ。街へ戻ります」



 マキシ様とロナウドお兄様がドアの向こうで私たちを呼ぶ。

 私はすっぽりとフードを被せられた。

 血なまぐさい臭いがしたと思ったら、身体が浮き上がるような感覚がした。

 ああ。

 こうやって、冒険者たちは帰って行ったのね。

 やっと、恐怖の10秒が終わったんだ。

 私はようやく、安堵することができたのだった。


お読みいただきありがとうございました

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