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エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
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62.GWイベント ~開始~

 マキシ様が運転する車が、屋敷の前に停まった。

 ゴメスさんが出迎えに行くと、ドアが開いてアレフ様が降りてくる。



「おかえりなさいませ、アレフレッド殿下」


「リリアーナはいるか?」



 焦った様子のアレフ様に、ゴメスは落ち着いた口調で答える。



「お嬢様はご自分のお部屋でございます。どうぞ」


「そうか」



 ホッとした様子でアレフ様が言うのを見て、ゴメスは微笑みながら扉を開ける。



「お邪魔します」



 アレフ様はそう言って、屋敷の中に入って行った。

 入れ違いでやってきたマキシ様に、ゴメスが不思議そうに尋ねる。



「マキシ様。殿下は一体、どうなされたのですか?」


「冒険者向けの掲示板にイベントのお知らせを見まして、リリアーナ様に何かあったのではないかと気にされていらっしゃるのです。書かれていた姫の名前が、リリア様と、リリアーナ様のお名前と似ておられたのも原因の一つかと」


「リリア様ですか。そう言えば、リリアーナお嬢様がお小さい頃の呼び名も、リリア様でしたな」


「それは、本当ですか?」


「はい。大きくなられてからは、皆様、リリアーナ様とお呼びしておりますが、幼少の頃はリリア様とお呼びしておりました」


「申し訳ありません。殿下に伝えて参りますので、失礼致します」


「わかりました。侯爵がお戻りになられましたら、ご連絡いたしましょう」


「はい。お願い致します」



 マキシ様が礼をして、屋敷の中へ入って行く。



 帰ってきてすぐにお嬢様の心配とは。

 穏やかに笑うと、ゴメスはゆっくり屋敷の中に戻った。



 アレフ様は階段を駆け上がり、1番奥にある部屋のドアを開けた。

 部屋に、リリアーナの姿は無かった。



「リリー?」



 アレフ様の声に、クローゼットからカナンが出てくる。

 カナンの表情は真っ青だ。



「アレフレッド殿下。リリアーナお嬢様が……」


「リリアーナがどうかしたのか?」


「ウサギの家に本を持って入られた後、お姿が見えなくなりました」


「つまり、リリアーナはいないのか?」


「はい。お部屋からは出られておりません。本が倒れたような音がして、確認しましたらお嬢様の姿が見えなくなってしまって」


「リリー!」



 アレフ様がクローゼットに入り、ウサギの家の前まで行く。

 先程まで無かった壁ができていて、中が見えなくなっていた。



「なんだ、この壁。さっきまで無かったのに」



 アレフ様が壁に触りながら呟く。

 まさか、本当にリリアとしてイベントが開始したのか?

 時計を見上げると、正午まであと10分ほどだ。

 イベント開始なら、もう間もなく始まる。



「リリー、中にいるのか? いるなら、返事をしてくれ!」



 アレフ様が叫ぶ声に、後ろから声が反ってくる。



「さっきから、騒々しい。何をしているんだ?」



 ルークお兄様が、クローゼットの入り口から顔を出す。



「ルーク。リリアーナがいないんだ。どこに行ったか知らないか?」


「せっかくの休暇なのに、お前が付いてきたから嫌で隠れたんじゃないのか?」


「なっ!」

「ルーク、いいかげんにしないか!お久しぶりにございます。アレフレッド殿下」



 ルークお兄様を諫め、ロナウドお兄様が頭を下げる。



「ロナウド。部屋にいるはずのリリアーナがいないんだ。何か、知らないか?」


「いえ。申し訳ございません」


「いや、執務中だったのだろう。知らなくて当然だ」


「ん? 何だこれは?」



 ルークお兄様がアレフ様の隣に行き、不思議そうにウサギの家を見ていた。



「以前から、あったんじゃないのか?」


「こんなもの、僕は見たことがない」



 ルークお兄様の答えに、ロナウドお兄様も同意する。



「私も見たことがありません。この家について、わかる者がいないか確認してきましょう」


「ああ。頼む」



 ロナウドお兄様が出ていくのを見届けてから、ルークお兄様はウサギの家に触れた。



「よくできているな」


「さっきまで、こちら側に壁は無かった。邪悪な感じはしない。寧ろ、光の属性か、結界のようにも感じるが……。」



 おもむろにバスタードソードを抜くと、剣を構えた。




「殿下! どうされたのですか?」



 マキシ様が慌ててクローゼットの中に入ってきた。



「リリーがいないんだ。ルークが言うには、この家は昨日まで無かったそうだ。何か、秘密があるのかもしれない」



 言うが早いか、アレフ様は剣を振るった。

 甲高い音が響き、火花が散った。



「殿下、ゴメス殿から聞いたのですが、リリアーナ様は幼いころ、リリア様と呼ばれていたと言うことです」


「なんだと?」



 剣を止めて、マキシ様を振り返る。

 2人の様子に不思議に思ったルークお兄様が口をはさんだ。



「ああ。本当だよ。僕たちがリリアと呼んでいたから、周りもみんなそう呼んでいた。それがどうかしたのか?」


「大ありだ。もしかしたら、リリアーナは連れ去られたのかもしれない」



 アレフ様が壁に剣を打ち付ける。

 何の変哲もないバスタードソードは、耳障りな音を立てて剣は中ほどで折れた。

 ルークお兄様は飛んできた剣先を躱す。



「危ないな。力任せに扱うなよ」


「くっ!」



 悔しそうにアレフ様が剣柄を握りしめ、ウサギの家を見た。

 玩具であったなら、いや、普通の家だったなら壊れるだろう衝撃にも、傷一つ付いていない。



「リリーを、どこへやったんだ!」



 ダンッ!



 アレフ様が壁を叩き付ける。

 すると、何もなかった壁に小さな窓ができ、ウサギの女の子が顔を出す。

 驚きのあまり、動けずにいる男たちを押しのけて、カナンが女の子に詰め寄る。



「リリアーナお嬢様はどこですか!? ご無事なのですか!?」



 女の子は何も答えず、手から何かを落とす。



「鍵?」



 咄嗟に受け取ったものを見て、アレフ様が言った。



「何の鍵だ?」



 アレフ様が顔を上げると、ウサギの家は忽然と消えていた。



「消え、た?」



 ルークお兄様が呟き、カナンがその場にペタンと座り込んだ。

 1階の時計が、かわいらしい音楽を奏で始め、ゴメスさんがやってきた。



「皆様。侯爵と侯爵夫人が戻られました。こちらへお越しください」



 ゴメスさんが不思議そうな顔をする。



「おや? どうかなされましたか? カナン、座り込むなどと、はしたないですよ。さぁ。ひとまず、こちらへお越しくださいませ」



「ああ。行くぞ、マキシ」


「はい」


 2人はゴメスさんの後に付いて部屋から出て行く。



「行くよ」



 カナンを立たせると、支えながらルークお兄様は部屋を出て行った。






ガチャ



 ドアの開く音が、白い空間に響き渡った。



「よっしゃ! 俺たちが一番乗りだな! 称号と魔石もゲットした! みんな、あるか?」


「あるある。当然だろ」


「姫って言うのはあれか? 小さいなー」


「お。コッチに気づいたぞ」



 私は音のする方へと、顔を向けた。

 ポッカリと穴が開いているのが見え、誰かがいた。



「皆さんが、助けてくれたの?」



 私は話している人たちを見る。

 そこにいたのは、血まみれの大男だちだった。



「き! きゃぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!」




 ベンフィカ公爵家では、アレフレッド殿下を交えての昼食会が行われていた。

 侯爵家当主、侯爵夫人、ロナウド、ルーク両お兄様。

 そして、アレフ様とマキシ様が席に着き、侯爵とアレフ様が話し合っていた。



「大体の経緯はわかりました。殿下の滞在に関する手続きは、私が行いましょう」


「ありがとうございます。ベンフィカ公爵。それで、先程の話についてですが、私はすぐにでも行かせていただきたいと思います」


「そのことに関しては、私に許可する権限がございません。御身を危険にさらすことになりますゆえ、お許しくださいませ」


「それでは、リリアーナ嬢をどうされるおつもりですか? 私たちが話し合っている間にも、危険な目に合っているかもしれません。一刻も早い方がいいのです!」



 侯爵夫人が控えめに口を挟む。


「アレフレッド殿下、ご理解くださいませ。私共は、ソルーア国の臣下でございます。王国の王子で在らせられる殿下を、危険とわかっていて送り出すことは致しかねます。例え、娘の命が係っていようとも、許される行為ではございません」


「今なら、娘1人の命で済みましょう。殿下に危険を負わせたとなれば、我が家は国の反逆一家となります。領民、仕える者全てを路頭に迷わせることは当主としてできません。そして、陛下や王妃様にまで我々と同じ悲しみをさせてしまうことになります。」


「私たちは我が子を2人、亡くすことになるのですわ」


「セリア」



 泣き始めた侯爵夫人を、いたわるように侯爵が言葉をささやく。

 2人の姿に、かける言葉は出なかった。



「申し訳ございません。私たちは、部屋に戻らせていただきます。殿下は王宮のようにとはいかないでしょうが、ごゆっくりお寛ぎください」


「ああ」


「では、失礼いたします」



 侯爵と夫人は部屋を後にした。



「まずは、食事にしましょう。始めてくれ」



 ロナウド兄様の声に、料理が運ばれてくる。

 力なく座るアレフ様をしり目に、2人のお兄様の指示は続く。



「父上たちの部屋にも運んでくれ。ワインじゃなく、ブランデーを付けてな」


「そんなことをしたら寝込むどころか、生死の境を彷徨うんじゃないのか?」


「3連休初日だ。寝て過ごさせれば良かろう」


「それもいいかもな。」


「両親には無理やりにでも食べさせてくれ。さて、アレフレッド殿下、食事をしながらで申し訳ありませんが、先程の話をもう一度、最初からご説明願えますか?」


「ああ」


「時間がないんだろ? もたもたするなよ」


「その、どういうことだ?」



 アレフ様は訝しむように尋ねる。



「リリアーナは僕の命だ。当然助けに行く」


「私はそこまで言いませんが、長兄として、か弱い妹を守る義務があります」


「それに、お前! さっきの鍵のこと、親父たちに話さなかっただろ! 誰にも渡すつもりがないなら、足手まといだけれど、連れて行ってやるよ」


「と、いうことです。私たちが殿下をお護り致します。マキシ様、よろしいですか?」



 ロナウドお兄様の言葉に、マキシ様は頷いて見せた。



「アレフレッド殿下、いかがなさいますか?」


「ロナウド、ルーク、ありがとう。準備が整い次第、行くぞ」

お読みいただきまして、ありがとうございます。

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