60.GWイベント 〜告知前〜
我が家の車ではなく、レンタカーにアレフ様とマキシ様が乗り込む。
「いってらっしゃいませ」
ゴメスたちが勢ぞろいして言う中、私はポツリと言葉をかける。
「お気をつけて」
あまり感じのいい声とは言い難い。
「行ってくる。午後までには戻るから」
「わかりましたわ」
私は視線を車に向けた。
わざわざレンタカーを使わなくても、車は沢山ある。
我が家の車なら、一緒に乗せてもらうことも可能だったのに。
見かねたように、マキシ様がアレフ様に話す。
「殿下。私がお護りいたしますから、リリアーナ様もお連れされてはいかがですか?」
「説明しただろう。俺たちだけで行く」
「あのご様子ですと、ウサギの家に閉じ籠ってしまいかねませんよ」
ちょっ! アレフ様も不安そうな顔してこっち見ないでよ!
「聞こえていますわ、マキシ様。……お約束ですもの。私のことはお気になさらず、どうぞいってらっしゃいませ」
「と言うことだ。マキシ、出してくれ」
「かしこまりました」
車は静かに走り出し、すぐに見えなくなった。
「よろしかったのですか?」
カナンが言った。
良くないよ。
王都のドラッグストアに行くくらいなら、私が一緒でも問題ないじゃない。
実際、2人の服装も変装ではなく普通の装いだった。
少し期待したけれど、アレフ様はいいとおっしゃってくださらなかった。
いいわけないじゃない。
でも、そう言ったところで困らせるだけ。
「いいのですわ。私にもやらなければいけないことがありますもの」
もしかしたら、元の世界に戻る方法が見つかるかもしれない。
魔力の暴走を防ぐ方法が見つかるかもしれない。
帰れなかったときのことも考えて、リリアーナの過去も調べられたら調べたい。
休みは3日間だけ。
そうよ!
やるべきことは沢山あるんだから!
「それでしたら、そのようなお顔はなさらければよろしいです」
カナンの言葉にムッとして言った。
「膨れてはいませんわ!」
「それは、そうですが」
「泣いてもいません」
「はぁ。可愛気がありません」
「ぐっ」
ため息混じりで言うって、どういう教育されているの!?
「お部屋に戻ります。アレフ様がお戻りになりましたら、教えて下さい」
「かしこまりました」
何なのよ!
酷い言い草ね!
私は誰もいなくなった道を歩き、屋敷に戻る。
ほとんどの者は、第2王子様であるアレフ様との昼食会の準備にかかり切りだ。
それなのにカナンだけは、私がいるから外にいてくれたのかな?
後ろを振り向いた私にカナンが気付く。
「いえ、私は人形遊びはちょっと……」
「私もしませんわ!」
前言撤回。
ただサボっていただけよ、絶対。
私は部屋に戻ると、本棚にある本を片っ端から読み漁り始めた。
物語や図鑑、普通の本ばかりだ。
アルバムくらいあってもよさそうなのにない。
引き出しの中は手紙やレターセットが出てきた。
エイミーからの手紙だわ!
手紙は後で読んでみよう。
人の秘密を暴くようで、申し訳ないけれど。
手紙の束はテーブルの上に運び、他は元の場所に戻した。
あちこちから出てくる宝石は、何なのかしら?
色も形も違うし、数もバラバラ。
宝石にしては作り物のような輝きで種類がわからない。
玩具かビジューなのかな?
どう言った基準で分けていたのか、見当も付かないわ。
クローゼットの中も調べていったが、何も見付からなかった。
空振りかぁ。
驚くくらい、何もないわね。
逆にそれが本人の個性なの?
何も見付からなかった所為かどっと疲れ果て、私はその場に座り込んだ。
そう言えば、この家に帰ってきてから何も飲んでいないわ。
気分転換に紅茶でも淹れよう。
私は部屋の中にあるティーセットを取り出して、紅茶を淹れる。
ふわりと広がる紅茶の香り。
そうだ。
不本意だけれど、ルークお兄様にアルバムがないか聞いてみよう。
大量の写真が出てきたらそれはそれで嫌だけれど、背に腹はかえられないわ。
あと調べていないのはウサギさんの家だけね。
マキシ様に『ウサギの家に閉じ籠ってしまいかねない』と言われたことを思い出す。
調べ物をするだけ。
別に閉じ籠るつもりはないんだから!
私は紅茶を一気に飲み干すと、クローゼットに戻った。
「おじゃましまーす」
キッチンの引き出しにはスプーンなどのカトラリーがあるくらいで、めぼしい物は何も無かった。
2階は外から覗く。
階段があり、女の子のお部屋になっている。
ベッドにウサギの女の子が座っていた。
嫌だわ。
何だか目が合ったように思えた。
「ちょっと、失礼するわね」
私のおもちゃなのだろうけれど、ここは女の子の部屋だ。
私は女の子の視線を感じながら、机の引き出しから日記帳と鍵を発見した。
鍵はどこの鍵だろう?
カナンに聞けばわかるかな?
「しばらく借りるね」
女の子は当然だけれど、何も言わなかった。
『いいわよ』
なんて言われても怖い。
私は日記帳と鍵を持って、1階の壁に寄りかかった。
日記帳を開くと、『ようこそ』と書かれている。
丸みがかった女の子が書くような文字だ。
次のページを開くと、後ろ頭にゴツンと何かが当たる。
え?
今まで、何も無かったわよね?
後ろを振り向くと、ただの壁だったはずなのに、ドアがあった。
取っ手に手を伸ばすとドアはひとりでに開き、小さな真っ白な部屋に小さな白い箱が、ポツンと置いてあった。
罠、だよね?
どう考えてもおかしいもの。
本当なら、ドアを開けると壁になるはず。
それなのに、異様な雰囲気の空間があるんだもの。
手を伸ばせば届きそうな距離にある、それっぽい箱。
どうする?
罠だよね?
でも、手掛かりは何も見付けられていない。
もしかしたら、元の世界に戻る手がかりだったりする?
私はその真っ白な空間に入らないように、注意して手を伸ばした。
入らなければ大丈夫だよね?
指先が箱に触れる。
もう少し。
私は身体を乗り出して手を伸ばすしたそのとき、背中に何かがぶつかってきた。
ウサギのお母さんが倒れてきたのだ。
嘘!
私はバランスを崩し、部屋の中に入ってしまった。
激しいめまいと吐き気を覚え、すぐには身体を起こすことができない。
ようやく後ろを振り返ったときには、ドアは消えてどこにも無かった。
やっぱり、罠だよね。
当然じゃない。
隣にある箱を開けると、引き出しに入っていた宝石と同じような石が出てきた。
あ、これって魔力が結晶化したものなんだ。
色の違いはわからないけれど魔力の強さによって、大きさや輝きが異なっている。
MSGだと、魔晶石って言ったかな?
色は赤だけだったけれど。
これを集めてガチャを引いたり、装備品を作る時の素材としても使う。
プレイヤー同士での取引はできなく、クエストで集めるか課金して購入する、通称魔石。
使う方法はあるかな?
ここで使うことができたなら、出られるかもしれない。
真っ白な空間を見渡す。
壁もなくなったのか、広さや大きという感覚もわからなくなっていた。
念の為、魔石を1つ残して5歩程後ろへ下がる。
さっき、ここら辺にドアがあったはず。
手を伸ばしても、壁もドアらしきものもなかった。
諦めて、元の位置まで戻ると、溶けるように魔石は消えた。
今の行動で、使ったことになるの?
ただ、消えただけ?
残りは6個。
無くなるまでに、出なくちゃ。
それとも、ここからは出られないのかな?
何をどうすればいいのか、全くわからない。
白一色の部屋に、私と黄、赤、青、緑、橙、無色の6個の魔石が転がっていた。
出られないのなら魔力の暴走が起きても、誰にも迷惑をかけないかも。
案外、その為の部屋だったりして。
マキシ様の言う通り、ウサギの家に閉じ籠ってしまったわね。
あはは。ははは。
乾いた笑い声が、反響してこだました。
まただわ。
体が脈打ち始め、魔力が放出し始める。
激しくなる痛みで動けないでいる間に、魔石は3個消えていた。
いつのまにか髪はほどけ、銀色に鈍く光り出す。
「エル・ディ・サージュ・ベント」
不思議と魔法は発動しなかった。
暴走ではないの?
手のひらを見ると、心なしか小さくなっている気がするわ。
魔力が抜けていく感じがするのと関係があるの?
体が重くて動くことができなかった。
魔石がまた1つ消え、残りは2個。
誰か気付いてくれるかな?
って、無理だよね。
都合のいいことなんて、そうそう起きるはずがないもの。
ここのドアが消えているんだから、きっとウサギの家にあったドアも消えているわ。
どれだけの時間が経ったのだろう?
魔石が消えたら、私も同じように消えるのかな?
ようこそって書いてあったわよね。
私はどこへ招かれたの?
元の世界には戻れず、主人公じゃないから仕方ないのかもしれないけれど、恋だって成就していない。
自然からのプレゼントだって言われた皆既日食は、一体、なんの罰ゲームなのよ。
何とかこの話だけでも投稿できました。
明後日からしばらくは(家族が)時間が取れるので、まずはPCの設定を何とかやってもらわないと。
お読みいただきありがとうございますo(^▽^)o




