58.こんな兄は私だって嫌です!
「お嬢様、いってらっしゃいませ」
「束の間のお休みですが、2人はゆっくりリフレッシュしてくださいね」
私は寮に残る、ミセスブラウンとケイティに話す。
今回は、カナンに家まで付き添ってもらうことにしたのだ。
「ありがとうございます。カナン、お嬢様を頼みますよ」
「わかりました。では、参りましょう。リリアーナお嬢様」
「はい」
何かあったら家族には、1ヶ月会わなかったからと言い訳を考える。
問題はアレフ様たち。
生まれ育った家のことがわからないなんて、絶対におかしいわよね。
更に、いないことをバレないようにするなんて、私にできるかな?
私、昔から隠し事とか嘘って苦手なのよね。
寮の前に停めてある立派な車から、若い男の人が降りた。
私より青みがかったプラチナブルーの髪。
少しきつめな印象を与える風貌の彼は、私たちに気付き、微笑んだ。
一瞬で、柔らかな雰囲気に変る。
昨日写真で教えてもらった、2番目のお兄様、ルークお兄様だ。
「おはようございます、ルークお兄様。まさか、お兄様がお迎えに来てくださるとは、思いませんでしたわ」
自然でありますように! と祈りながら、私も微笑みを浮かべ話しかけた。
「おはよう、リリアーナ。会えるのが待ち遠しかったよ。かわいい君が帰ってくるんだ。家の者に、任せられるはずがないだろう。入学する前は、こんなに会えなくなるなんて予想もしていなかった。これからは、毎週帰ってこないとダメだぞ。それとも、毎日僕が会いに行こうか?」
満面の笑顔で話すルークお兄様に、私は少し引き気味になる。
「も、申し訳、ありません。それだけは、ご勘弁をお願いいたしますわ」
少し表現が過剰、なのね、きっと。多分。絶対に。
昨日は、誰もこんなこと教えてくれなかったわ。
背筋に寒い物を感じながら、私は横目でカナンを見る。
ちょっと! メイドなのに、その呆れた表情を浮かべるのは、まずいんじゃないの?
「おはようございます、ルーク様。お約束がございますので、リリアーナお嬢様の婚約者であられます、アレフレッド・ソルーア第2王子殿下をお迎えいただきとうございます」
「チッ!」
カナンの言葉に舌打ちしたわよね、今。
「せっかく、感動の再会の余韻に浸って忘れていたと言うのに」
「思い出していただき、ありがとうございます。では、参りましょう」
「わかっているよ。さあ、リリーは車にお乗りなさい」
呆然としていた私は、気付けば助手席に乗せられていた。
「相変わらず、シスコンですか」
カナンが後ろの席に座りながら呟く。
やっぱりそうなのね。
車を運転する横顔は、真剣な表情で……。
私を見ていた。
「き! きゃぁぁぁぁああああ!! 前! お兄様、前を見て運転してくださいませ!危険ですわ!!」
横顔ではなく、真正面からこっちを見てるよ!
「オート操縦だよ。なんで僕が、第2王子なんかの迎えの為に運転をしなきゃいけないんだ」
王族に対して、『なんか』呼ばわりは良くないと思うのですが。
「ほら、見てて」
ルークお兄様がハンドルを回しても、車は真っ直ぐ走り続けた。
右折する場所では、何もしなくてもウインカーが点き、車は曲がって行く。
「すごい車ですわね」
「そうかな? オート機能は、それ程珍しいものではないけれど」
そうこうしているうちに、王族専用寮の前で車が停まった。
黒いスーツを着たアレフ様と、いつもの制服では無く、ハメスさんと同じスーツを着たマキシ様が立っている。
ルークお兄様のエスコートで車から降りる。
手を引かれたまま、アレフ様方の前に行く。
「おはようございます。アレフ様、マキシ様。お待たせいたしました」
私の言葉にアレフ様は微笑むが、目は笑っていないように見える。
「おはよう。今日は、お迎えまでしていただき、ありがとうございます。ルーク兄上」
「なんと恐れ多い。私の事は、ベンフィカ家ルークと、妹の事はベンフィカ嬢とお呼びください」
「お兄さ、 ひっ!!」
「うわっ!!」
咎めようとした私と同時に、カナンがルークお兄様を鞄で叩いたのだ。
地面に倒れたお兄様を踏みつけて歩いて来るカナン。
「大変、失礼いたしました」
「あ、ああ」
カナンは何事も無かったように後ろへ下がると、ドアを開ける。
うちのメイドって一体。
ううん、カナンがおかしいだけなのかも。
「さぁ、今のうちにお乗りください」
「お兄様は大丈夫なの?」
「いつものことです。それよりも、リリアーナお嬢様。ぼやぼやしていますと、また助手席に連れられてしまいますよ」
「そ、そうね。アレフ様、どうぞこちらへ」
「ああ……」
さすがにアレフ様も驚気を隠せない様子で、ルークお兄様を見ながら車に乗り込んだ。
「私が運転いたしましょうか?」
マキシ様の申し出に、カナンがきっぱりと断る。
「いえ、そうしますと大変なことになりますので結構です」
大変……。
嫌な予感しかしないわ。
カナンはルークお兄様を運転席に座らせると、オート運転にして、車をスタートさせた。
何かブツブツとお兄様は呟きながらも、学園の敷地から出ると車の運転をオートからマニュアルに切り替える。
この休暇、無事に過ごせればいいけれど。
車は20分程走って、おとぎ話に出てきそうな白い洋館の前で停まった。
初老の男性が、にこやかにドアを開ける。
「ようこそお越しくださいました。アレフレッド殿下」
「ああ。ゴメスさんだったな。今日はよろしく頼む」
「はい、お久しぶりにございます。本日は、ごゆるりとお過ごしください」
「ありがとう」
ゴメスさんに答えると、アレフ様は車から降りた。
そのまま、車の中を覗き込むようにして手を差し出された。
「どうぞ、リリー」
ふわりとほほ笑むアレフ様の笑顔に、私の胸が高鳴る。
今日のアレフ様は、君セナの王子様なアレフ様そのものだわ。
きらきらしたエフェクトが私には見える!
「アレフ様……」
「リリー、早くおいで!」
差し出された手を取ることも忘れて見つめる私に、何故か緊迫感のある声を出す。
もう、急かさないでよ。
私は差し出された手にゆっくりと手を伸ばしたところで、私はカナンによって押し出される。
「ふぎゅ!」
「うわっ! とと」
突然、飛んできたバスケットボールを受け取るように、私をアレフ様がキャッチした。
「後がつかえております、リリアーナお嬢様。さっさと降りてくださいませ」
「はい。ごめんなさい」
「おわかりいただければ、結構でございます」
「この扱いは、普通なの? ルークお兄様は踏まれていたし、私は寮から追い出され、今日は押し出されたわ」
「普通でございます」
「これ、カナン。少しやりすぎですよ。おかえりなさいませ、リリアーナお嬢様」
カナンの言葉に苦笑いを浮かべながら、ゴメスさんこと、ベンフィカ侯爵家の執事長が話しかけてきた。
「ただいま帰りました。ゴメス、しばらくよろしくね」
「お待ちしておりましたよ。さあさ、お茶でもお飲みになられて、しばしおくつろぎください。只今、旦那様と奥様は外出されておりますが、昼食にはご一緒されますよ」
「まぁ。楽しみだわ」
「お忙しいのに、申し訳ない」
「滅相もございません。お2人とも、とても楽しみにされていらっしゃいます。私も、殿下とお嬢様の寄り添うお姿を見られるとは思っていませんでした」
「え? あっ、これはカナンが押したからですわ」
アレフ様から離れて言う私に、
「私の所為にしないでくださいませ」
後ろから、カナンがぴしゃりと言う。
「いや、カナンの所為だ。そうでなければ僕のリリアーナが、あんな男に抱き付くハズが無い!」
さっきまでどこにいたのか、突然、ルークお兄様が隣にやってくる。
「きゃあ! お兄様が出たー!」
「出たーって、人聞きの悪い。リリアーナ、さすがに僕も傷つくよ」
腕を掴まれた私は、助けを求めるようにカナンを見た。
「マキシ、なぜアレを放した?」
「申し訳ありません。かくなる上は、リリアーナ様をお助けしてきます」
「まさか、マキシ?」
アレフ様とマキシ様が話し合う後ろで、カナンとゴメスさんが言った。
「私にあんな兄がいなくて、本当に良うございました」
「今日は、にぎやかになりそうですね」
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