表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
57/98

57.ルビー

「おかえり」


「ただいま、です」



 私が側に行くと、飲んでいたコーヒーを一気に飲み干して、アレフ様は立ち上がる。



「それじゃ俺達は戻るから、兄上の事をよろしく頼む」


「かしこまりました」



 クラウディオ様の執事たちは、アレフ様の言葉に頭を下げた。



「何をボーっとしているんだ? リリー。行くよ」


「はい。失礼いたしました」



 私がお辞儀をすると、執事さんたちは表情を緩ませる。



「また、お越しくださいませ、リリアーナ様」



 私も微笑むと、アレフ様の部屋に戻った。

 ソファーに座ると、すぐにお茶が運ばれてくる。



「おかえりなさいませ」


「ただいま」


「また、お邪魔いたします。いただきまーす」



 紅茶を一口飲んで、ようやく人心地が付く。

 クラウディオ様が無事で本当に良かった。



「リリー、プロテクトの件だが、GW中に行うことが決まった。できれば2日の学校が終わった後で一緒に王宮へ行こうと思う。大丈夫か?」


「ええ。わかりましたわ」


「そこで、なんだけど」



 一瞬、ハメスさんの様子を伺うように見ながら、アレフ様は話す。



「はい」


「リリーは、明日からベンフィカ邸に戻るのだろう? 一緒に俺も行っていいだろうか?」


「それは、構わないと思います。確認してみますわ」


「よろしければ、私が確認致します」


「ああ。そうしてくれるか?」


「かしこまりました」



 ハメスさんが確認の為に部屋から出て行く。

 その様子を見つめるアレフ様の表情は、何故か真剣そのものだ。



「あの、私の家に行くことに、何かありますの?」


「ん? ああ、後で説明するよ」



 しばらくしてハメスさんが戻ってきた。



「殿下。ベンフィカ家から、歓迎いたしますとのことです。リリアーナさまとご一緒に、ベンフィカ家のお車でお越しくださいと。こちらからは、私1人が付き従う予定でございます」


「ああ。そのことだが、マキシを連れて行く」



 え? マキシって、マキシ様のこと?

 なぜ、マキシ様に頼む必要があるの?

 ハメスさんも驚かれているわ。


「マキシは今、王宮よりも、学園のカフェでの勤務がメインとなっております。話は致しますが、宜しければ理由をお聞かせいただけますか?」


「ハメスが、俺との約束を忘れているだけだろう。学園が休みの日は仕事をしない、それが条件だったはずだ」


「私のような爺は仕事をしていませんと、一気に呆けて老人になってしまいます」



 2人の会話は、なぜか芝居がかったように聞こえる。

 これは、ゲームの様に私に見せているの?



「兄上かクリフの部屋にでも行ってればいいだろ。それとマキシには、ルビーを頼むと伝えてくれ」


「ルビー、で、ございますね。かしこまりました」



 再度、ハメスさんが出て行くのを見て、不思議に思った事を尋ねた。



「マキシ様って、カフェにいらっしゃるボーイさんですわよね? なぜ、その方を連れて行かれるのですか?」


「マキシは、元々俺の専属だ。訳あって今はカフェにいるが、公式訪問などの場合、俺に付き従うのはマキシでなければいけない。ハメスはマキシの祖父であり、先王の専属だったことをいいことに、寮にまで付いてきただけなんだよ」


「そうでしたの。ですが、私の家に行くだけですわよね? ハメスさん、とても寂しそうでしたわ」


「うん。リリーの家に行くだけならね」



 言葉の歯切れが悪い。

 後で説明するって言ってたけれど、何かあるの?

 そこへ、ハメスさんが戻ってきた。



「殿下、マキシが明日からこちらへ来ると言っております」


「わかった。それと、今夜はリリーの食事も用意するように。今日は遅くなると伝えておいてくれ」


「かしこまりました」


「暗くなりますし、私はそろそろ戻りますわ」


「いや、し、暫く会えないんだ。もう少しいいだろう」



 そう言って私の手を引き、ベッドルームへと行く。

 暫く?

 3連休の内、明日も一緒にいるなら会わないのは2日だけよね?

 さっきから、なんなの?



「アレフ様?」



 ドアを閉め、部屋の奥まで行ってから、アレフ様は立ち止った。

 そして、小声で話し始める。



「悪いが、この3連休の間、ベンフィカ邸に泊まっていることにしてほしいんだ」


「それは構いませんが、実際には泊まらないと言うことですか?」



 もしかして私の家に行くと言って、実はシャムエラと一緒に過ごすおつもりなの?

 今日、私に用事があったのはその為だったの?



「説明するから、ちゃんと聞いてくれよ。ただし、先に断っておくが、リリーを連れて行くことはできないからな」


「はい」



 私だって、自分の婚約者(フィアンセ)と友達のデートに付いて行く勇気なんて無いわ。



「また、変な誤解してるだろ。多分、リリーの考えていることとは違うよ。俺はマキシと、エリクサーの材料を集めに行ってくる。材料さえあれば簡単に作れるのに、売ってないなんて変だろ?」


「エリクサー、ですか?」



 シャムエラに会いに行くわけでは無いと知って、私は少し安心した。



「俺は今、手元に無いし、兄上もさっき、リリーが返した1つだけだろ。王宮に確認したら、5つしか無いから持ち出しは不可だと言われてたんだ。昨日、シャムエラ嬢にも教えてもらったんだが、ソルシティのドラッグストアでも、エリクサーが売られているのは見た事が無いらしいから」


「それは、とても貴重なものだからではありませんか?」


「冒険者が金稼ぎに作って売るような物なのに、変だろ」


「だから、冒険者の間だけで、出回っていると思われたんですか?」


「ああ。明日、マキシとソルシティで冒険者が集まるような店に行って話を聞いて来るつもりだ。エリクサーが売っていれば、それで良し。見つからない場合は材料を集めに行ってくるから、その間、俺がリリーの屋敷にいることにしておいてほしい」


「わかりましたわ。あの。失礼かもしれませんが、冒険者の方々なら簡単に作れると言う情報は正しいのでしょうか?」


「え?」


「アレフ様は、冒険者についてお詳しいですけれど、王宮にお住まいで、冒険者と会うことってありますの?」


「ああ。物語に憧れて、色々と調べたり、王宮に謁見で訪れる冒険者もいるんだよ。ハハハ。とりあえず、身分はわからないように変装して行くから、街の中は大丈夫だろ」


「そうですか。街で売っていればいいですね」



 アレフ様は頷きながら話す。



「頼むぞ。ハメスにバレないように行くのは大変なんだ。俺と2人だけのときはいいが、そんな顔していたらハメスが気付いてしまうからな」


「はい」



コンコン



 ドアをノックする音が響いた。

 ど、どうしよう? すぐに普通の態度なんてできないよ。



「ハメスか? 入っていいぞ」


「はい。失礼いたします。アレフレッド殿下」



 ドアが開き、ハメスさんが入ってきたのだろう。

 私は丁度、ドアに背を向けて立っているから見えないけれど、振り向かない訳にもいかない。

 笑顔?

 でも、私はそんなに器用じゃない。



「なんだ?」



 アレフ様は、君セナみたいに常に笑顔の王子様ではないけれど、堂々としていて不自然さは無い。

 私も振り向かないと、このままで背を向けているのは不自然だわ。

 意を決して振り向こうとしたら、アレフ様の指が私の顎に添えられる。

 強制的にアレフ様を向かされるとキスをされていた。



 後ろからドアの閉まる音が聞こえ、私はアレフ様から離れた。



「ハメスさんがいらっしゃったのに、何をいたしますの」


「仕方ないだろ。あれじゃ、速攻バレるって。しっかりしてくれよ」


「そうおっしゃられましても。そんな、器用なことできませんわ」


「まあ、いい。今なら違った意味で勝手に誤解する。行くぞ。あまり遅すぎると、俺が怒られかねないからな」


「そうですわね」


「えっ!?」



 珍しく、顔を赤くしてアレフ様が驚く。

 自分が言った事を、私も同じく思うことがそんなに驚くことなのかしら?


「せっかく作っていただいたお料理が冷めてしまいますもの。怒られて当然だと思いますわ」



 面白い、顔色がすぅーっと変わっていくわ。

 ……何か違ったのかな?



「……そうだな、ハハ。じゃ、行くか」



 ドアを開けてリビングに戻ると、ハメスさんがキッチンから顔を出す。

 ダメだ。

 見られた恥ずかしさで、思わずアレフ様の後ろに隠れた。



「食事の用意ができたのか?」



 何事も無かったように話し出すアレフ様に、ハメスさんがメニューの説明を始めた。

 そっか。

 顔に出ちゃうなら、見せなくても怪しまれない状況を作ったのね。

 私は、キッチンへ歩いて行くアレフ様を見つめる。



 あんな、一瞬の間に思いつくなんて。

 主人公(シャムエラ)に奪われるまで楽しめたらいいって思っていたけれど、やっぱり嫌だわ。

 しかも、政争で引き離そうとする人たちと、対抗しないといけないなんて。

 もしかしたら、本当にアレフ様を好きな令嬢が、親の権力を使ってくるかもしれない。



 できるかな? じゃない。

 できないと、いけない。



「どうした? リリー、来いよ」



 振り向くアレフ様に、自然と笑顔がこぼれた。



「はい」



 差し出された手に、私は歩み寄る。

 そうよ。

 モンスター(リリア)になる恐怖に比べたら、その他大勢の温室育ちの令嬢なんて怖くないわ!



「こういうときにリリーが転ばないなんて、なんか調子狂う」



 私が怒るのを予測してか、あらぬ方を見てアレフ様が呟いた。

 伸ばしかけた手が止まる。


「聞こえていますわ」



 ムッとして言うと、ハメスさんが静かに息を吐いたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ