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エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
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56.彼の人を思う

 体の震えが治まってから、私たちは生徒会室に向かった。

 アレフ様がノックをすると、出迎えてくれたのはティチェル様。



「まぁ。アレフレッド殿下、リリアーナ様、よくいらっしゃいました。どうぞ、お入りください」



 ティチェル様に案内されて中に入ると、ジョナス様が席に座って、何かを書いている。

 クラウディオ様はいない。



「兄上は、いないのですか?」


「ええ」



 ティチェル様は、困った表情でジョナス様を見る。



「クラウディオ殿下は、学園を欠席されているんだ。リリアーナはもう、動いて大丈夫なのか?」


「はい。昨日はご迷惑をおかけいたしました。助けていただき、ありがとうございます」


「俺たちは何もできなかった。小さくなったリリアーナを、シンクレア先生の所へ運んだだけだ」


「ええ。ご無事で何よりですわ」


「お陰で助かりましたわ。あの、クラウディオ殿下はいかがなさったのですか?」


「俺も、今朝は会っていませんね」


「詳しいことは俺もわからないが、魔法を使った影響だと思う。かなり魔法を唱えていたからな」


「確かに、兄上は魔法があまり得意ではありませんが、休むなんて……」



 そう言って、アレフ様は考え込んでいる様子だった。



「怪我はされていないのですよね?」


「ああ。俺達も、シンクレア先生に治療を受けたから、それは無いはずだ。クラウディオ殿下は時々休まれることがあるから、心配は無用だ」


「いつも次の日になったら、何事も無かったように登校されてきますわ。それと、リリアーナ様が元の姿に戻れて安心しました。お姿が小さくなって、肌も土気色に変わっていましたよ」



 私の手を取ってティチェル様が話す。

 もしかしたら、サンクチュアリが効いていなかったら、今の私は……。

 クラウディオ様は大丈夫なのかな?

 アレフ様が考え込んでいるのがとても気になる。



「お助けいただき、ありがとうございました。それでは、失礼いたしますわ」


 私の言葉に、ティチェル様が残念そうな声で言う。



「あら、今お茶を淹れますわ。せっかくですからゆっくりしていってください」


「俺達も急ぎの仕事も無いしな」


「いえ、申し訳ありませんが、今日はこれで失礼いたします。また改めて、お邪魔させていただきますわ」


「そう? また来てね」


「ええ」



 私は、考え込んでいるアレフ様の袖を引っ張ると、驚いたように私を見た。

 いつもと違う、余裕の無い表情を見せるアレフ様に、私はとても不安になった。

 もしかして、クラウディオ様に何かあったのでは? と。



「それでは、失礼いたしますわ」


「もう、いいのか?」



 会話を聞いていなかったのね。

 アレフ様が私に聞く。



「ええ」


「ジョナス、ティチェル嬢、それでは、また」


「ええ。良い休日をお過ごしください」


「ああ」


「ごきげんよう」



 生徒会室を出て、学園を出てから私は黙り込むアレフ様に声をかけた。



「アレフ様。クラウディオ様のところへお見舞いに行きたいのですが、連れて行っていただけますか?」


「ああ。俺も行くから、一緒に行こう。多分、大丈夫だと思う」


「ありがとうございます。あの、サンクチュアリと言う魔法は、難しいのですか?」



 MSGだと司祭(プリ―スト)系の職業のキャラが使える魔法で、使えるようにするには、取得条件がある魔法だった。

 魔法の効果範囲にいれば、敵からの物理攻撃以外の攻撃を無効化できる。

 その代り、回復魔法のレベルを上げることができなくなるので、魔法を覚えるか覚えないかで判断が分かれる魔法だった。



「難しいかと聞かれると、答えることが難しいな。どんな状況だったのかわからないし、俺は失敗したことが無いから」



 そう言うと、呪文を唱え出す。



「サンクチュアリ」



 私の周りが、淡い光の空間に包まれる。



「これが聖域(サンクチュアリ)だ。発動させるには条件があって、自分の立っている場所や、離れすぎた場所に掛けることができない。それと、闇属性のモノに直接掛けることはできない」



 闇属性の者。

 私が闇に傾いていたから、中々掛からなかったってことなの?



「そう、不安そうな顔をするなよ。多分、魔力の使い過ぎで疲れたんだろう。兄上は大丈夫さ」


「ええ。鞄を置いてきますね」


「ああ。ここで待ってるよ」



 私は女子寮の前にアレフ様を残し、1人部屋へ戻った。

 鞄を置き、ミセスブラウンに頼んでクラウディオ様から頂いたと言う、エリクサーを持って戻る。



「お待たせいたしました」


「ん? リリー。何を持っているんだ?」


「エリクサーです。昨日、クラウディオ様から頂いた薬の残りですわ」



 私は、手に持っていた瓶をアレフ様の目の前に差し出す。



「では、今、兄上はエリクサーを持っていないのか?」


「わかりません。これは貴重な薬なのですか?」


「貴重と言うのかな。在庫数が少ないんだ。作ろうと思えば簡単に作れるんだが、入手が困難なんだよ」


「簡単に作れるのに入手が困難だなんて、どういうことですの?」


「熟練の冒険者だったら、材料を集めて自分で作れる。市場に出ても冒険者仲間で売りさばかれてしまって、専門店で売られているのは極わずかだ。そのことを忘れて、俺は使い切ってしまったし」


「この前の薬と言うのは、エリクサーだったのですか?」


「ああ。よくわかったな」


「同じ味がしましたもの」



 言ってから恥ずかしくなってしまい、視線を逸らした。

 私の様子を見て、不思議そうな顔をするアレフ様に少しだけ怒りを覚える。

 もう! どんな飲ませ方したと思っているのよ!



 王族専用寮のアレフ様の部屋に着く。



「ハメス、兄上の部屋に行く。許可を取ってくれ」


「かしこまりました」



 すぐに指示が飛び、私の元に紅茶が運ばれたころには、許可が下りたようだった。



「殿下。クラウディオ殿下は、只今体調が万全ではないとのことです。長居はされないようにお願い致します」


「わかった。行くよ、リリー」


「はい。ハメスさん、ごちそうさまでした」


「ありがとうございます。いってらっしゃいませ」



 私は挨拶もそこそこに、先に行ってしまったアレフ様の後を追う。

 廊下に出ると、すぐ向かいのドアの前にアレフ様が立っていた。

 私が行くと、待ってましたとばかりにドアをノックする。



「ようこそおいでくださいました。アレフレッド殿下、リリアーナ様。どうぞ、お入りください」



 アレフ様が頷き、私は小さく、失礼しますと言って入る。

 部屋の造りは同じで、リビングを通ってベッドルームへと通された。



「失礼します」



 アレフ様の声に、ベッドの上で身体を起こして座っていたクラウディオ様が、にこやかに話す。



「よく来てくれたな、2人とも。こんな格好で申し訳ないが、ゆっくりしていってくれ」


「ああ、そうするよ。兄上、昨日はリリーを助けてくれて、ありがとうございます」



 アレフ様に先に言われたので、続くように私もお礼を言う。



「ありがとうございました。いただいたお薬のお陰で、身体も元に戻りましたわ。あの、クラ兄様は大丈夫なのでしょうか?」


「ああ。問題は無いのだが、今日は1日休むように言われてな。仕方なく、こうしているのだ」



 どことなく、笑った顔にも疲労の色が見える。



「いただいた、エリクサーが余りましたのでお返しいたしますわ。クラ兄様も、早く良くなってください」



 私がエリクサーを差し出すと、案内してくれた方が受け取った。



「そのまま、リリーが持っていて良かったのだぞ」


「とんでもございません。身に余る物でございますわ」


「兄上。こんな事を言うのは憚られますが、こんな危険を冒さずとも、俺を呼んでくだされば良かったのに。何かあったら、どうするつもりだったのですか?」


「うむ。様子を見に行った時には、私たちはリリーの魔法の範囲内にいて、リリーから離れると魔法や瓦礫が飛んできてしまってな。そこから動くことができなかったのだ。ティチェルだけは安全な所へ逃がしてやりたかったが、それも難しくて助けを呼ぶことはできなくてな」


「ですが!」


「私だけ逃げろとでも言いたいのか?」



 クラウディオ様の声にハッキリとわかるくらい怒気が混じる。

 けれど、アレフ様も怯むことなく言い放つ。



「当然でしょう! 兄上は、この国の未来を第一に考えなければならない立場だ。一時の感情で、その身を危険に晒すことはあってはならない!それにナザリトがいたんだ。ナザリトはどうしたらいいか、テェゼーナ師から聞いて知っている。」


「アレフまでも、私にそう言うのか?」


「はい。俺達は王族としての務めを果たさねばならない。常日頃、兄上が言っている言葉ですよ。それが、どんな結果になろうとも」



 アレフ様手を固く握りしめ、言葉の最後は絞り出したかのように震えていた。

 クラウディオ様はそんなアレフ様の様子を見て、静かに話し出す。



「学園長にも言われ、ナザリト先生にはその場でも言われた。私もそうしなければいけないことは、わかっていた。しかし、できるわけがなかろう。国を考えると言うのなら、リリーだって守るべき国民の1人だ。闇に急速に変化していく姿を止められる可能性があるのは、私しかいなかった」



 クラウディオ様の瞳に悲し気な影がよぎり、深く息を吐いた。

 心を落ち着けるかのように。



「そして何より、アレフに私のような思いはさせたくなかった。あんな思いは、私だけでいい」


「……申し訳ありません。出過ぎたことを言いました」


「いや、単なる私の我儘に過ぎぬ」



 クラウディオ様は笑ってアレフ様の腕を叩く。



「皆、心配し過ぎなのだ。結果的に全員が助かったのだから、それに越したことはなかろう。それに、リリーの魔法に負けてしまう王では、国を治めることもできない。そうだろう?」


「フッ。そうですね。どんくさいリリーに後れを取る訳にはいきませんね」



 2人して笑い出す。

 私をおもちゃにするのは、止めていただきたいわ。



「何だか、とっても理不尽な扱いを受けてる気がしますわ」


「怒るなよ、リリー」


「すまないな、リリー」



 また、2人して笑い出す。

 ケンカしてるよりはいいけれど、釈然としないわ。

 ひとしきり笑った後、アレフ様が改まって話した。



「兄上、リリーを、リリアーナを助けていただき、ありがとうございました。お早い回復を祈っております」


「ああ。この連休中にゆっくりと治す。心配は不要だ」


「わかりました。それでは失礼いたします」


「ああ。リリー、少しいいか?」


「は、はい」



 一緒に部屋から出ようとしていた私は、クラウディオ様から呼び止められる。



「俺は先に行きますね」


「うむ」



 クラウディオ様が返事をし、アレフ様は部屋から出て行く。



「リリー、先程のアレフの言葉だが、リリーがどうなってもよいと言う意味では無いからな」



 先程、クラウディオ様だけなら、逃げることもできたとか言ってたことね。

 私は頷く。



「アレフは、自分が行っても間に合ったと思っているのだろう。何でも自分の思い通りにできると思い込んでいる。裏付ける実力があることは確かだが、過信しているのだ。リリーや皆を、失う覚悟があったとは思えない」



 そうかな?

 本当にそう思っていても、いいの?



「はい。ご心配ありがとうございます」


「……そうか。私の言葉では不安は取り除けぬか」


「そんなこと、ありませんわ」


「それなら、悲しげな顔で笑うな。逆効果だぞ」


「笑顔はアレフ様にしか見せられないのですわ」


「フ。減らず口を叩くとは。……アレフのこと、よろしく頼むぞ」


「かしこまりました。助けてくださり、ありがとうございます。早く良くなってくださいね、クラ兄様」


「うむ。リリーも気を付けるのだぞ」


「はい。それでは、私も失礼いたします」


「ああ」



 私は静かにクラウディオ様のベッドルームから退室した。


お読みいただきありがとうございます。

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