表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
54/98

54.ランチタイムは気付かれず

 教室がある、校舎を見上げた。

 昨日のことは、私の記憶違いか何か?

 いつもと変わらない校舎の姿が、そこにあった。



 少し早い時間だからか、まだ誰もいない教室。

 どういうこと?

 現実離れした建築技術でもあるの?

 魔力の暴走なんて無かったようにしか思えなかった。

 鞄を置き、私は教室を出る。

 行先は職員室、ナザリト先生のところだ。

 階段を下りて職員室の前でノックをし、ドアを開けた。



「失礼します」



 君セナの通りだと、職員室は入り口側から、1年生、2年生、3年生の担任の先生の席で、その奥に教科担任の机が並んでいたはず。

 職員室の奥を見たが、ナザリト先生の姿は見えなかった。

 まだ、来ていないのかな?

 どうしようか迷っていると、私に気付いたルカ先生が話しかけてくれた。



「おや? リリアーナ、どうしましたか? 職員室に来るなんて珍しいですね」


「おはようございます、ルカ先生。ナザリト先生に用事がありましたの。まだ来ていらっしゃらないようですので、また後で来ますわ」


「ああ、ナザリト先生なら席にいるようですよ」


「え? いらっしゃるのですか?」


「ええ。ナザリトの席はこちらです」



 ルカ先生の案内に付いて行くと、職員室の奥の席で少し前かがみになったままナザリト先生は眠っていた。

 机の上にある整列された本の影になって見えなかったのね。

 ノートパソコンのキーボードの上に手が置かれたまま、書類を徹夜で作成していたのかな?



「ナザリト、起きなさい。お客様ですよ」



 ルカ先生が容赦無く、ナザリト先生に声をかける。



「あの、ルカ先生。お疲れのようですし、私はまた後で来ますわ」


「リリアーナ。そういう問題ではないのですよ。神聖な職員室で眠っていることが、問題なのです。ほら、ナザリト。起きなさい。そろそろ職員会議が始まりますよ」



 ルカ先生に揺す振られ、ナザリト先生が目を覚ます。



「ん、ルカ? 先生? どうしましたか?」


「どうしたもこうしたもありません。お客様ですよ」


「客?」



 そこで、ルカ先生の後ろにいる私に気付いたみたいだった。



「リリアーナ・ベンフィカか。どうしたのだ?」


「おはようございます、ナザリト先生。昨日の事で来ました。あの、職員会議が始まるのでしたら、また後で来ますわ」



 ナザリト先生が開いたままのノートパソコンをパタリと閉めた。



「そうだな。ランチの時間にもう一度、ここへ来てくれ。そのときに話そう」


「わかりました。お時間を取っていただき、ありがとうございます」


「ああ」


「それでは、失礼します。ルカ先生、ありがとうございました」


「いえいえ、いいですよ」


「失礼しました」



 私の所為で、ナザリト先生は対応に追われてしまったのかな?

 それなのに、ランチタイムの時間も私に割いてくれるのね。

 ナザリト先生に対して、申し訳ない気持ちで一杯になった。



 教室に戻るとエイミーが席に座っており、3,4人の男子生徒に囲まれて話をしていた。

 今日は休みじゃないのね。

 内心ホッとしつつ、私は自分の席に向かった。 



「リリアーナ様、おはようございます。どちらに行かれていたのですか?」



 私に気が付いたエイミーが、満開の花のような笑顔をほころばせる。

 クラスの男子がエイミーに釘付けになっていた。



「おはよう、エイミー。職員室に行っていたの。それより、エイミーは昨日お休みしていたけれど、大丈夫なの?」



 私が話し出すとエイミーの側にいた男子たちの視線がするどく突き刺さってくる。

 え? 私、邪魔?

 そんなことはつゆしらず、エイミーはニコニコとしている。



「少し、喉が痛いと申したら、休みの連絡をされてしまったのですわ。大したことありませんでしたのに」


「そうだったんだ。今はもう大丈夫なの?」


「ええ。痛めた原因も、歌のレッスンで発声方法が上手くできなかっただけですわ」


「そう、安心したわ。私、コレを取りに来ただけだから、また行ってくるわね」


「あら。では、ご一緒にわたくしも行きますわ」



 ひっ! なんかドス黒いエフェクトが見えるよ。



「1人で行くわよ。お話していたのでしょ? 中断させてしまって申し訳ないわ。では、皆さまごきげんよう」


「ごきげんよう!」


「え?」



 きょとんとするエイミーを覗いて、男子からは即刻、返事を返される。

 そんなに、私って邪魔だったのかな?

 張り付かせた笑顔が剥がれ落ちる前に、私は教室を離れた。

 当然、職員室に戻る訳も無く、行くあての無い私はトイレへと向かった。

 エリクサーのお陰か、元の大きさに戻った私の姿が鏡に映っている。

 ケイティが結んでくれた、ポニーテールの巻かれた毛先で遊びながら、ランチタイムのことを考えていた。



 あっという間に時間が進み、4時間目の剣術も終わった。

 更衣室に向かう途中で、シャムエラが話しかけてきた。



「ねぇ? 今日はこのままカフェに行く? それとも一旦、教室に戻る?」


「わたくしはどちらでも構わないですわ」


「私はどちらかと言うと、このまま行きたいです」



 エイミーとメリッサが歩きながら答える。

 何だか、1人だけ違う回答をするのって言いにくいわね。



「申し訳ありませんが、お約束がありますの。私は先に一度、教室に戻らせていただきますわ」


「まぁ、残念ですわ」


「ごめんね」


「へぇー。そうなんだ。いいわよね、リリアーナは」


「シャムエラ様は、何かご存知ですの?」



 ナザリト先生と会うのを、何故知っているのかな?



「んー。まあね。あれ? シャワー浴びないの?」


「ええ。急ぎますし、今日はあまり汗が出ないように注意してましたの」


「そっか。早く行きたいよね。私たちはシャワーを浴びてきましょ。じゃ、頑張ってねリリアーナ!」



 何故か、シャムエラが1人納得をして、快く送り出してくれた。

 よくわからないけれど、いっか。

 私は、バラのエッセンシャルオイルで作られたスプレーで身体を拭くと、急いで着替えて更衣室を出た。



「失礼します」



 職員室に入ると、担任のおじいちゃん先生が私に気付く。



「おや、リリアーナ・ベンフィ()カ、どうしたかな?」


「ナザリト先生に用事がございますの」


「そうじゃったのか。ナザリトは、どれどれ」


「ノエル爺さん、ここにいます」


「そうか。じゃぁまたな、リリアーナ」


「ええ、ごきげんよう」



 おじいちゃん先生はルカ先生の隣の席に戻って行った。

 ナザリト先生に視線を戻すと、驚いた様子で私の後ろを見ている。



「ナザリト先生? 私の後ろが何か?」



 私も後ろを見たけれど、特に何もない。

 私の声にハッとして、ナザリト先生は話し始める。



「ああ、いや。何でもない。話は昨日のことだったな。食事をしてから話そう。付いて来い」


「はい」



 君セナでは職員室の奥にある扉の向こう、その奥にカフェへ繋がるドアがあった。

 ナザリト先生もそこへ行こうとしているのね。

 まさか、現実にナザリト先生とカフェで食事をするなんて、想像もつかなかったわ。

 自動ドアが開き、生徒が使うカフェとは少し趣きが違ったカフェに入る。



「メニューは学生用と同じだ。Aセットでいいか?」


「はい」



 入り口側の券売機のような機械を操作してナザリト先生は奥まった席に座り、私に手で座るよう促した。



「あの、失礼いたします」


「ああ。」


「あまり、窓が無いのですね」


「窓から生徒に見られると、落ち着いて食べることができない。当然の配慮であろう」


「そうなんですか。せっかく綺麗な景色が見られるのに残念ですわ」



 特別室から唯一見れる桜は、こうやって作られたのね。

 私が座り、水が運ばれたところでナザリト先生が口を開く。



「昨日は、華組に忘れ物をして取りに行ったのだ。階段を上った所で轟音が鳴り響き壁が壊れる音がした。急いで行ったら、リリアーナ・ベンフィカが倒れていた。その前の状況は私はわからん。先に何が起きたのか、説明してくれるか?」


「はい」



 一旦言葉を止め、言葉を整理してから話し始めた。



「放課後、胸の痛みに気付いて、痛みが段々大きくなりました。その痛みでプロテクトが弾けてしまうのではないかと不安に思ったのです。その瞬間、胸から全身に痛みが走りました。それから、竜巻が現れ始めたのです。止めることもできず、魔力の流れもわかりませんでしたわ。両手から竜巻がいくつも現れましたの。竜巻同士がぶつかって消滅したり合わさって大きくなり、数が少なくなると私から新たに作り出されて行きました。天井が無くなった空には雨雲と雷がやってきて、まるで嵐の中にいるようでした」


「そうか。その後のことになるが、私がディサパレセ マジアを使っていると、異変に気付いた生徒会がやってきたのだ。クラウディオ・ソルーアがサンクチュアリを使って、ようやくそなたから魔法が発動しなくなったのだ」


「クラウディオ殿下が魔法を?」


「そうだ」



 料理が運ばれてきたので、会話が途切れる。

 運んでくれた方に軽く会釈をしてナザリト先生を見ると、同じように会釈をしていた。

 その姿が何故か、子供っぽく映る。

 っぷ。かわいい。

 君セナでは見なかった光景ね。

 ゲームで完全攻略をしたはずなのに、知らない一面が次から次へと出てくる。

 この世界に来た日の、怖いイメージから一転するわ。

 ううん、そもそも。

 私が今まで知らなかっただけで、攻略対象者様は全員素敵な方ばかりじゃない。

 それがわかっていてなんでこんなに、気持ちがフラフラしてときめいちゃうのよ。

 ゲームじゃなく、リアルで恋愛経験があったら、また違ったのかな?



「リリアーナ・ベンフィカ、どうした? 冷める前に食べたらどうだ?」


「は、はい。いただきます」



 思考の海に流されかけた自分を手繰り寄せ、私は食べながらナザリト先生の話に耳を傾けた。



「それで、と、そうだな。クラウディオ・ソルーアのサンクチュアリが成功するまでが大変だったが、成功した後は私とクラウディオとで魔法を消滅・相殺させた。ティチェル・ファジアーノが言うには、そなたが魔法を発動させるごとに、少しずつ衰弱していき小さくなっていった。終わった頃には大きい制服にくるまれた、子供の姿になっていたらしい」


「ミセスブラウンの話ですと、7歳くらいの姿だったそうですわ」



 ナザリト先生が頷く。



「シンクレアにそなたを任せた後、私は今回の影響で自動修復されなかった校舎の対応に追われていた。その他の事は、生徒会に聞いたらいいだろう」


「わかりました。あの、自動修復とは一体、何のことでしょうか?」


「そんなことも知らぬのか。壊れた建物などが数秒後には直る魔法のことだ。魔法や剣術の技で建物が壊れても、数秒後には元通りになる。今回は私のディサパレセ マジアが干渉してしまったらしい。その対応で学園に泊まり込む羽目になったのだ」



 そっか。

 だから、校舎は元通りになっていたのね。



「私の所為で、申し訳ありません」


「いや、そなたの所為ではない。偶然の結果だ。報告書の数が多くて時間がかかっただけに過ぎない」


「そのディサパレセ マジアとは、どういう魔法なのでしょうか?」


「魔法を消滅させる魔法だ。そなたの魔法にかけたつもりが、校舎にも影響をおよぼしてしまった。それだけのこと」


「それでも、私の魔法が発動しなければこのようなことは起きなかったですわ。申し訳ありませんでした。それと、お話ししていただき、ありがとうございました」



 私が頭を下げて謝ると、ナザリト先生は柔らかく微笑んでいた。

 えっ? なんで?

 迷惑かけたのよ。

 それなのに、なんで笑っているの? なんで私はドキってするの!!

 何だかとっても変よ。



「元々はそなたが包括する魔力に、気付くであろう闇の者たちから護るためのプロテクトだったが、漏れ出た魔力から闇の者たちに気付かれてしまった。漏れ出た魔力を辿り、そなたに侵食しプロテクトが弱まった。今回のようなことは、これからも起こり得る。もし、そなたの身体が持たなければ、消滅してしまうか、もしくは闇に落ちてしまうだろう」


「それは、モンスターになってしまう、と、言うことでしょうか?」


「……そう言うのが適切だろう」



 やっぱり、リリアになっちゃうんだ。

 MSGのリリアを思い浮かべ、恐怖心が募る。



「落ち込むな。そうならぬようにしているだろう。師とも連絡をして、プロテクトを外す日程調整をしている。今の所、GWに行う予定だが、」


「GWですか? 急ではありませんか?」


「元々、早急に対応するようにしてあったからな。もしかして、聞いていなかったのか? 」


「誰からも、聞いてはおりません」


「そうか。3日に王宮へ行き、翌日外す予定だ。その後はケースバイケースでの対応となる」


「王宮で行うのですか?」


「ああ。師が動きやすいからな。……少しは食べないと体が持たないぞ」


「はい、ごめんなさい」



 私は慌ててセットに付いていた海藻サラダを手に取った。

 あれだけ話していたナザリト先生は既に食べ終わっている。

 何だか、とっても理不尽だった。

お読みいただきありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ