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エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
53/98

53.目覚めると

「ディサパレセ マジア」


「レイサー ディ ルイス」



 甲高い何かが割れる音が鳴り響いてる。

 何も見えないけれど、音だけが聞こえるようになってきた。

 次第に雷鳴や風雨の音も聞こえなくなり、誰かが話す声が聞こえる。


「これで終わったか。ティチェル、そっちの様子はどうだ?」


「今は、眠っているようです」


「そうか。ナザリト先生、お疲れ様でした」


「ああ。お前たちもご苦労であった。今は早急に、ここを何とかせねばならない。ジョナス・プライアとティチェル・ファジアーノは、リリアーナ・ベンフィカをシンクレアの所へ運び、指示を仰げ。クラウディオ・ソルーアは、私と学園長室へ」


「はい。行くぞ」


「ええ」


「待て。……フォルサ」



 一瞬、全身が何かに優しく包まれるような感じがした。



「ジョナス、ティチェル、リリーを頼む」


「はい」



 声は聞こえるのに、身体の感覚が全くわからない。

 また、話し声も聞こえなくなった。





 何の味だろう?

 口の中で、チェリーのような甘酸っぱさが広がる。

 私、さくらんぼを食べたかな?

 ゆっくりと身体を起こし、周りを見渡す。

 私のベッドルームだ。

 朝にしては暗いな。

 今、何時だろう?

 カーテンを開けるため、ベッドから降りようとして私はベッドから落ちてしまった。

 なぜだろう?

 うまく体が動かせなかった。

 身体を起こしていると、ドアが開き、ミセスブラウンがやってきた。



「お嬢様、大丈夫ですか?」


「ええ。なんだか、身体がうまく動かないの」



 ミセスブラウンに手伝って貰い、私は立ち上がる。

 心なしか、ミセスブラウンが大きく見える気がした。



「ケイティ、お嬢様をお連れするのを手伝いなさい」


「は、はい」



 ベッドの反対側から、若いメイドが慌てたようにやってくる。

 私は、ケイティに連れられてリビングのソファーに座ると、ミセスブラウンが紅茶を運んできてくれた。

 甘いチェリーの香りがする紅茶を飲みながら、時計を見ると針は1時を指している。

 もしかして、夜中なの?

 そういえば今日は、何をしたんだっけ?

 あれ? 私、いつ帰ってきたのだろう?

 エイミーがお休みで、気付けば1人で……。



「ミセスブラウン、私はいつ、帰ってきたの?」



 なぜか、記憶があいまいだった。

 心配そうな表情を浮かべ、ミセスブラウンが教えてくれた。



「お嬢様は、クラウディオ殿下にと一緒にご帰宅されました」


「クラウディオ殿下と? 変ね。今日はお会いしなかったと思いますわ」



 何故、アレフ様じゃなくてクラウディオ様なんだろう?

 紅茶を一口飲む。

 目覚めた時にした、甘酸っぱいチェリーと同じ香りの紅茶。

 この味、前にもどこかで……そうだ、あのときのキスの味だ。

 アレフ様は、薬って話していたよね。

 そうよ。

 アレフ様はシャムエラと一緒に帰っって行ったじゃない。


 だからと言って、何故、クラウディオ様なの?

 私は確か、1人で教室にいて。

 胸が痛みだして、立っていられなくなって。

 そうだ、私。



 魔力を暴走させたんだ。



 少しだけ記憶がある。

 ナザリト先生の声がしたわ。

 生徒会の3人の名前を言っていたから、クラウディオ様が送ってくださったのね。

 学園はどうなったのだろう?

 私はソファーから降りて窓へ行き、カーテンを開けた。

 街灯のほのかな明かりでは、暗くてよく見ることはできない。

 しかも、この窓からだと私の教室がある校舎は、見えないのね。



「お嬢様、こんな時間にカーテンを開けるのは、よくありません。お疲れでしょう、お茶をお飲みになって、今日はお休みください」



 ミセスブラウンはカーテンを閉め、私をソファーへと戻す。

 聞いて、答えてくれるのかな?

 私は気になっていたことを聞いてみた。

 


「この紅茶、何の薬が入っているの?」



 ミセスブラウンがハッとした表情を見せた。



「起きた時も、チェリーの味がしたの。この紅茶もチェリーの味がするわ」


「お嬢様をお運びになられた、クラウディオ殿下より頂戴いたしました。王家に伝わる薬で、エリクサーと言うそうです。精神を安定させて、魔力、体力を回復する効果があるのだとか。死の淵を彷徨っている状態からも回復できる反面、暫くは眠り続けてしまうそうでございます」



 ゲームで言うところの、状態異常回復と回復がセットになったようなものかな?



「クラウディオ殿下は、他に何かお話していかれたの?」


「はい。お嬢様の姿も、起きた時には元に戻られているだろうと。 ケイティ、鏡を持ってきてください」


「いいえ。ケイティ、鏡はいらないわ。私が鏡の前に行けばいいことだもの」



 ソファーから降りて、姿見に向かう。



「私が帰って来た時は、どれ位の大きさだったのかしら?」


「……7歳頃のお姿でございました」


「今もまだ、完全には戻っていないのね」



 鏡の中に、12歳くらいの幼い顔をした私がいた。



「お嬢様のお目覚めが、予想よりも早かったのでございます。不謹慎ではありますが、エリクサーを試したカナンはまだ、眠っているのです」



 カナン。

 この前、私を寮の部屋から追い出したメイドね。



「殿下がお持ちになった薬を毒見するなんて、とんでもないことだわ」


「申し訳ございません」


「……カナンは、本当に眠っているだけなの?」


「左様でございます」



 ミセスブラウンがとあるドアを開けると、規則正しい呼吸音が聞こえる。



「入っても、構わないかしら?」


「カナンですから、構わないでしょう。どうぞ、こちらへ」



 ベッドには、カナンが穏やかな顔で眠っていた。

 時折り、ニヤッと笑っているから大丈夫そうね。

 部屋から出てドアを閉め、ソファーに戻った私にミセスブラウンが困った顔をして言う。



「お嬢様、カナンの心配をされるのは、ありがたく思います。ですが、お嬢様も王家の薬を信用していないように聞こえますので、ご注意いただきとうございます」


「ふふ、そうね。気を付けるわ」



 2人で苦笑いを浮かべる。

 冷めた紅茶を一口飲むと、温かかった時より甘みが強く感じた。



「ねぇ、クラウディオ殿下は、校舎のことを何かおっしゃらなかった?」


「校舎について、でございますか? 何もお話されてはいらっしゃいませんでしたが、どうかなさったのですか?」



 天井や壁が崩れていたのに、何も言わないの? 魔法で直すことができたとか?



「いえ、少し気になっただけなの。あと、このエリクサーはまだあるの?」


「はい。ございますが、あまり飲み過ぎても体に負担がかかるので、今日はお止めしたらよろしいかと」


「そう。わかったわ。今日は遅くまでありがとう。2人とも、早めに休んでちょうだい」


「勿体無いお言葉でございます」



 ミセスブラウンと壁の側にいたカナンが、うやうやしくお辞儀をする。

 そっか、私が部屋から出ないとダメよね。

 私はベッドルームのドアまで歩いて行くと、振り返る。



「朝まで、もう一度休みますわ。おやすみなさい」


「おやすみなさいませ」



 私はベッドルームのドアを閉めると、ベッドに腰を掛けた。

 校舎はどうなったんだろう?

 気になって仕方が無かったけれど、強い眠気に襲われて私はそのまま眠りについた。



 朝起きると、カナンはまだ眠っているようだった。

 朝食のトーストを食べながら、ミセスブラウンに尋ねる。



「カナンは、毒見で沢山飲んだの?」


「いえ、一さじ舐めたくらいでございました」


「そう。大丈夫かしら?」


「カナンの倍以上、お飲みになられているお嬢様が平気でございますから、大丈夫でしょう」


「ふふ。そうよね」



 笑って、オムレツを口に放り込む。

 豪快にグラスに入った牛乳を一気に飲み干した。

 ミセスブラウンの眉が上がった気がするけれど、気付かないフリをする。



「突然だけど、今週末は家に行こうと思うの。いいかしら?」


「では、奥様にご連絡いたします。お迎えの車は、いつにいたしますか?」


「明日の午前中に頼めるかしら?」


「かしこまりました」


「ごちそうさまでした」



 今回のことで、家にも迷惑をかけるかもしれない。

 莫大な改修費を請求されるかも。

 自分の家かぁ。

 お兄ちゃんがいるんだっけ?

 元通りの姿か姿見で確認し、私は登校した。

お読みいただきありがとうございます

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