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エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
52/98

52.暴走

 べしゃっ。

 もうすぐ森を抜けると言うところで、私は勢いよく転んだ。

 なんで、こんなときに転ぶかな。

 いたた。

 立ち上がって、制服に付いた土を落とす。



「大丈夫かよ?」



 後ろからクリフ様の声がした。

 私はどんな顔をしていいかわからず、振り向かずに頷く。


「ええ。転んだだけですわ」


「先に走って行ったはずなのに、歩いて追いつくって、どんだけ遅いんだよ」


「仕方ないじゃありませんか」



 ヒールを履いて走ることに慣れていないんだから。

 止まっていても仕方ないので、クリフ様を見ずに私は歩きだした。

 追いつかれたのなら、走っても意味が無いもの。



「知らなかったんだな」


「当然ですわ。婚約は親が決めることですもの」


「そうだよな」


 落胆したようなホッとしたような声で、クリフ様が呟くように言った。

 校舎が見えてくる頃には、2人並んで歩いていた。



「リリー」


「はい」



 いつの間にか、少し先を歩いていたクリフ様が私を見ていた。



「嫌になったらでいい。辛くなったらでもいい、オレの所に来い。危なっかしくてほっとけねーんだよ。リリーのこと。……返事はその時でいい」


「その時って。そんな卑怯なこと、できませんわ」


「オレがいいって言ってんだよ!」


「よく、ありませんわ」


「いいんだよ。ずっと、知らないままでいられるよりは」


「そんな。そんなこと、できない」


 ちゃんと断らないといけないのに、他に言葉が出てこない。

 まるで、告白イベントみたいじゃない。

 主人公じゃないのに、どうして?

 こんなとき、どうしたらいいの?

 便利なリセットボタンなんて無い。

 誰か教えてよ。

 どちらともなく、視線を逸らす。

 お互い何も話さず、歩く。

 気まずい雰囲気の中、教室に着いた。



「じゃな」


「ええ。ごきげんよう」



 振り向いたクリフ様を恐る恐る見上げると、デコピンが飛んできた。



「いた! 何をしますの?」



 おでこを押えながら言うと、クリフ様が笑っていた。


 

「泣くのか笑うのか、どっちかにしろよ。すっげー変な顔してたぞ」


「色々突然すぎて、思考回路がショートしましたのよ」


「それは、悪かったな。次は、ルカの授業だろ? 子守歌聞いて寝てれば、スッキリするんじゃねーの?」


「授業中に眠ったりしませんわ」


「ああ、そうかよ。じゃあな」


「ええ。ごきげんよう」



 クリフ様が教室に入るのを見届けて、私は教室に戻る。

 エイミーがいない教室は、時間が過ぎるのが遅い気がするわ。

 鐘が鳴り、ルカ先生がやってきた。

 眠りはしなかったけれど、ルカ先生の素敵な声は珍しく右から左へと流れていってしまった。



 ぼけっとしている間にHRも終わったらしく、気が付けば教室には誰もいなかった。

 窓側に行き外を見ると、生徒たちが沢山歩いている。

 クラスメートの姿が見えることから、終わってからそれ程経っていないみたいね。

 そのまま暫く外を眺めていると、アレフ様が歩いているのが見えた。

 すぐ、シャムエラが走って行き、アレフ様と並んで歩きだす。



 今日はアレフ様とシャムエラが、一緒にいるところをよく見るわね。

 同じクラスだし、選択科目も同じものが多いんだから当然と言えば当然か。

 私なんて、国が幼い頃に決めただけの婚約者で、趣味も合わないから選択科目も別。

 更に迷惑ばかりかけている存在で。

 可愛くて料理もダンスも何でもできる主人公シャムエラが近くにいたら、誰だって恋に落ちるわよね。

 楽しそうに話す2人を、複雑な思いで私は見つめる。

 心なしか胸が痛む。

 2人の姿が見えなくなっても、私は外を眺め続けていた。

 ほとんどの生徒が帰ったのか、外を歩く生徒も時折り数えるだけだ。

 ふと、森での話を思い出す。



 トクッ。

 小さく胸が痛んだ。

 第1王子に婚約者がいないのに、第2王子にはフィアンセがいるせいで、国のバランスが崩れているの?

 娘に婚約破棄をさせてまで、大人は権力がほしいものなの?

 トクン。

 また、胸が痛んだ。

 私を第1王子の婚約者に、ですって?

 第1王子ではなく、第2王子に王位を継がせるって普通のことなの?

 確か、第1王子が王位を継ぐことになっているはずなのに。

 それって、クラウディオ様やアレフ様の意志じゃないわよね?

 恋する乙女ゲームなのに、政争なんて起きるものなの?

 ドクン。

 なんだろう?

 さっきから胸が痛い。

 ドクンッ。

 しかも、痛みの間隔が短くなってきているような?

 音が聞こえそうなくらい痛みが大きくなり、私は立っていることができずに座り込む。



「うっ」



 何かが弾けそうな痛みに、思わずうめき声が漏れた。

 弾ける?

 もしかして、私の魔力が暴走し始めたの?

 私が気付いたことが引き金になったのか、全身に痛みが走り、教室中に竜巻が現れた。



 嘘。



 私の指先から竜巻が次から次へと現れる。

 大小様々な竜巻が、イスや机を巻き上げていく。

 窓ガラスが割れる音、竜巻同士がぶつかり合って、その衝撃で壁や天井が吹き飛び崩れ落ちる。

 耳をつんざくような凄まじい音をたて、校舎が揺らぐ。

 轟音が鳴り響いた。

 晴れていた空は雨雲を呼び寄せ、雷雨となって空いた天井から降り注ぐ。



 どうしよう? 止まって! 止まってよ!!

 胸の痛みは治まらず、魔力の流れも感知することができない。

 せめて、スターロッドがあれば。

 胸を押えて周りを見渡しても瓦礫だらけで、私の机も鞄も見つけられそうにはなかった。



 不思議ね。

 これだけの雷雨の中、私は少しも濡れていないなんて。

 机が飛んできたけれど、私にぶつかる直前で何かに弾かれたように飛ぶ方向を変えた。

 竜巻同士がぶつかり合い、数が減っていくと比例するかのように、私から新しい竜巻が現れる。



 止まって!

 治まってよ!

 私の魔力なんじゃないの?

 これじゃ。

 まるで、リリアそのものじゃない!!



 私は、胸の痛みを堪えながら両手を前に出した。

 魔力どころか、プロテクトの印の部分も見付けることはできなかった。

 竜巻が消滅し、私の両の手から新たな竜巻が生まれる。

 天井を覆う雨雲の所為か、目の前がだんだん暗くなっていく。

 嫌だよ。

 モンスターだなんて……。



 助けて。


 誰かに名前を呼ばれたような気がしたけれど、確認する前に私は意識を手放した。


お読みいただき、ありがとうございました。

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