50.ぽっかりと心に穴が開く
「おはよう、諸君。今日の休みは、エイミー・フォーセット嬢じゃ。他に連絡事項は無いのう。HRは終わりじゃ」
ほっほっほ。
と言って、赤い服が似合いそうな、真っ白でふわふわな巻き毛と長い髭のおじいちゃん先生はすぐに去って行った。
こんなHRだから、いつも華組より先に終わるのよね。
私は、自分の前の席を見ながら、退屈な時間を過ごす。
考えたら、エイミー以外のクラスメートとあまり話したことが無かった。
3時間目の選択授業。
弓術・槍術・体術・薬草学の中から選ぶらしく、私は薬草学だった。
薬草学は、運動が苦手な生徒の為に作られたらしく、選択する生徒は少ない。
元々、運動が苦手な私にとって、リリアーナが薬草学を選んでいてくれて、とても嬉しかった。
「リリアーナ様。着替えがありますので、お先に失礼いたしますわ」
「ええ。ケガが無いよう、頑張ってくださいませ」
着替えの為に更衣室へ向かうクラスメートが教室を去って行くと、女子は私だけになった。
薬草学を選択しているのは3クラスの中でも10名程度。
雪組が1番多くて5人。
5人の中で、女子は私とエイミーだけなのよね。
私は1人で、薬草学の教室へと向かった。
気に掛けてくれているのか、いつもよりクラスメートと話をしているけれど、やっぱり寂しいものね。
ドアを開けると、まだ誰も来ていない。
窓際に歩いて行くと、剣道場が見え、沢山の生徒が走っていた。
やっぱり、走るくらいなら寂しいなんて平気よね。うん。
窓際の席に座り、走る生徒を見ていると、アレフ様とシャムエラが一緒に走っているのが見えた。
楽しそうに走る2人を見て、ちょっぴり私の心は落ち込んでいく。
シャムエラは、好きな人いるのかな?
もしかして、アレフ様だったりするのかな?
並んで走る2人の頬が赤く上気するのも、走っている為なのかそれとも違うことでなのか、離れた場所から見ている私には、わからなかった。
お願いよ。
まだ、もう少しだけ婚約者でいさせて。
私の願いは2人に通じているのか、確かめようもなかった。
「珍しいな。フォーセット嬢はどうしたんだ?」
教室に入ってきたクリフ様が、不思議そうな表情で言った。
「今日は、お休みですの。それなので、私は1人ぼっちですわ」
鬱屈していた気持ちを振り払うように、あっけらかんと言う。
「そうか。隣座るぞ」
と言って、私が返事をする前にイス座った。
「ええ、どうぞ。他の方も、まだいらっしゃらないのですね」
私もイスに座り直す。
「まだ、授業が始まるまで、時間があるからな」
「移動も短いですものね。そう言えば、クリフ様はどうして薬草学を選択したのですか?」
「ん? 運動なんて面倒だからな。リリーこそ、薬草学じゃないのを選べば良かったんじゃないか? 運動音痴も少しは改善されたかもしれねーぞ?」
「余計なお世話ですわ」
話している間に、他の生徒が入って来る。
その中に、ロイク様の姿も見えた。
「ロイク様も、薬草学でしたわね」
「ああ。アイツは、オレたちと違った理由で選んでいたぞ」
「そうですね。私は、将来、司教の道に進むために、薬草学を学んでいます」
私たちの会話を聞いていたのか、ロイク様が答えた。
「司教になるために、薬草の知識が必要なのですか?」
「ええ。魔法も、魔力が切れてしまったら使えませんからね。簡単な怪我なら、薬で治療をするのですよ。病気の方には飲み薬も処方します。」
「そういうことですのね」
病院みたいね。
お願いすれば、RPGみたいにセーブもできたりして。
私が脱線している間にも、2人の会話は続いていた。
「そういうことは、司祭や見習いがするものじゃねーの?」
「もちろんそうですが、出世するには他人に認められるスキルが必要なのですよ」
「ふーん。っと、ニコが来たか」
教室には、女性と見間違えそうな、色の白い綺麗な男性が入ってきた。
背が高く、少し低い声を除けば女性にしか見えない、ニコ・セルティック先生。
こんなに綺麗なのに、君セナに出てこないのが不思議でしょうがないわ。
「今日は、実際に薬草を育てている農園へ行ってみたいと思います。付いて来てください」
ニコ先生が教室を出て行くのを見ながら、小声でクリフ様が言う。
「なんか、ニコって、男なんだか女なんだか、わからない顔してるよなー」
「本当ですわね。初めてお会いしたときは、女性かと思いましたわ」
「リリーもか。あれだけ綺麗だと、男なのが勿体ないな」
「あら。男性でも、素敵だと思いますわ。それに、纏っている雰囲気は男性的ですし」
「そうですね。ニコ先生は外見はとても美しいですが、男性的な魔力をお持ちです。」
ロイク様が、先頭を歩くニコ先生の後ろ姿を見ながら話す。
魔力に男性、女性があるのかな?
ロイク様って、プロテクトされた状態の私の魔力もわかる程の実力の持ち主なのよね。
「ま、後ろ姿は少し華奢な男にしか見えないな」
「そうですわね」
農園に着くと、大小様々な植物が植えられていた。
それまで私たちと話していたロイク様は、ニコ先生の側で真剣に話を聞いている。
薬草について学び始めたばかりの私たちには、わからない内容を深く話しこんでいた。
「本当に、ロイク様は薬草を学ぶために、この教科を選んだのですね」
ロイク様とニコ先生の話す様子を眺めながら、つぶやく。
「運動が嫌で選んだ、俺たちとは違うな」
「本当ですわね。耳が痛いですわ。ですが、クリフ様は、運動はお好きではなくても、上手にできますよね? 槍術や弓術でも良かったのではありませんか?」
「そりゃ、やってできなくはないけどよ。小さい頃から、何でもできるアレフと一緒にいたからな。比べられるのが嫌で、やらなくなったんだよ。周りが比べなくても、否応に力量差が自分にもわかるしな」
「そうでしたの。確かに、アレフ様と比べられますと、辛いですわよね」
「ああ。……だから。リリーがいると、安心するんだぜ。オレ」
「まぁ! 私の運動音痴も、少しはお役に立てることがありますのね」
「えっ? ああ。そうだな……」
「私は、小さい頃から転んでばかりいたそうですものね。お恥ずかしいけれど、悪いことばかりではありませんのね」
ふふ。何だかちょっとおかしくて笑っていると、クリフ様もぎこちなく笑っていた。
頬がぴくぴくしてるのは、照れてるからかな?
その様子もおかしくて笑っていると、ロイク様が呆れたように私たちを見て言う。
「それじゃ、ダメですよ」
だめ?
そうよね、いけないいけない。
今は授業中なのに。
授業が終わり、教室に戻ろうとしていた時のこと。
「キャー!」
前を歩いていた、2~3人の女生徒が歓声を上げる。
彼女たちが見ている方向には、柔道着のような白い服を着た男子生徒がいて、その中にはアレフ様もいた。
ゴールデンブラウニッシュブロンドの髪に、柔道着って違和感があるわね。
アレフ様たちはこちらを見ることも無く、建物の奥へと消えて行った。
「なんだよ。また、アレフを見ていたのか」
溜息をつきながらクリフ様が言う。
「ええ。あの白い服に、アレフ様方のような髪の色は違和感がありますよね?」
「そうか? 普通だと思うが」
クリフ様はロイク様を見る。
今の、そうか? って言い方、アレフ様と一緒ね。
「そうですね。違和感も、特に何も感じませんよ」
「そうですか」
みんなは元々この世界の住人で、ここでの出来事に対して私と感じ方が違って当然なのよね。
私だけが違うって、何だか寂しいな。
エイミーがいない所為か、今日は孤独な気持ちをひしひしと感じるわ。
「なんだよ。フォーセット嬢がいなくて寂しいのか?」
頭をぼふぼふと叩きながら、クリフ様が言う。
「そんなこと……す、少ししか思っていませんわ。ですが、エイミーが休むのは初めてなので、心配しています。ええ、寂しいのではなくて、心配ですのよ」
心配なのは本当だもの。
なぜ休んだのか、知らされていないのも不安だった。
「そっか。リリー、今日の昼飯、一緒に食うか?」
「よろしいのですか?」
「ああ。いいから言ってんだよ」
怒ったように、フィッと視線を逸らされる。
「せっかくのお誘いですもの、ご一緒させていただきますわ」
「そうこなくちゃな! 食べ終わった後で、最新のメカを持って行くから見せてやる」
「まぁ。今度は何をお作りになられたのですか?」
「それは、見てからのお楽しみだな。4時間目が終わったら雪組の教室に行くから、待ってろよ」
大好きなメカの話だから、とても嬉しそうに話すのね。
「ええ、次も移動教室なので、もしかしたらいないかもしれませんが、待っていてくださいね」
クリフ様と一緒に食事をするのは、初めてよね。
メカを見せてくれるのも、君セナのイベントみたいで楽しみだわ。
50話となりました。
いつも読んでくださっている皆様。
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ブックマークしてくださった方。
ありがとうございます。
コピペ方法に問題があったのか、文字数が確認できていなかったんですよね。
今更ながら、投稿している文字数にバラツキがあることを気にするようになりました。
そんなことを考えていたら、49話が長くなってしまい更にショックです。
400字程度で投稿してるのもあるので、とりあえず、どうにかしたいです。




