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エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
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48.魔法と剣への扉

 ヒュンッヒュンッ!

 あちこちから、空を切る小気味良い音が聞こえる。

 剣術の先生、ビクトリア女史から配られたスモールソードを、上から下へと振り下ろす。

 今日は、このスモールソードで1時間素振りをするらしい。


 希望者は、ショートソードやロングソードを選ぶことができ、私とシャムエラはスモールソード、エイミーはショートソード、メリッサはロングソードを選んでいた。

 スモールソードは軽めに作られた物で、大きさも他の2つより小さいけれど、ずっと片手で振り回していたら筋肉痛になりそう。

 恋する乙女に、筋肉痛は似合わないと思うんですけれど。



「シャムエラ様、楽しいですか?」



 私は動きを止めて、隣で同じく素振りをするシャムエラに聞いた。



「そうね。あまり楽しくは無いけれど、基礎ってそういうものでしょ? うまくなって、男子みたいに試合形式の練習ができるようになったら、楽しくなるかもしれないわ」


「楽しく思えるのでしょうか? 私はもう、腕が痛くなってきましたわ」



 左手で、剣を持っている右腕を揉んでみると、普段より硬い気がする。



「リリアーナ様、少し休憩なさってはいかがですか? ビクトリア女史も、休みながらでいいとおっしゃっていましたもの。休憩されてる方も沢山いらっしゃいますわよ」



 エイミーの言う通り、ほとんどの女子は素振り開始から5分程で休憩を始める生徒が増えていた。

 休憩しているほとんどは、男子の練習風景に歓声を上げている。


 男子たちは皆、MSGのファイターの初期装備のような、鍔付きの兜、皮の鎧、籠手、ブーツを履いていた。

 使用している剣は、飾り気の無いロングソードで、メリッサが選んだロングソードと同じものだ。

 時折り、防具にHITすることもあるらしく、その度に女子の歓声が大きくなった。

 中でも、アレフ様とロイク様の練習を見ている女子が多い。

 アレフ様の圧倒的な攻撃に、防戦一辺倒になりながらもカウンターを狙うロイク様に、声援がすごかった。



「なんか、アレフ様はいじめっこのようですわね」



 ここぞとばかりに放った、ロイク様のカウンターを易々と躱し、更なる攻撃を繰り返す。

 レベルの差は一目瞭然だった。



「リリアーナ様がそう言うと、アレフレッド殿下がかわいそうです」



 女子の中で、唯一、ロングソードで素振りをしていたメリッサが呟くように言う。

 確かに、アレフ様とロイク様の練習を見ている女子のほとんどは、ロイク様を応援していた。



「そうですわね。せめて、私だけはアレフ様を応援しないといけませんわ」



 声に出して声援を送ることはできないから、心の中で『頑張って』と、言う。



「リリアーナ様、発想が時々ズレてるです」


「そこが、リリアーナ様の魅力ですわ」


「楽しむ分にはいいわよね」



 頬を膨らませて3人を見ると、シャムエラとエイミーは誤魔化すように笑い、メリッサ様は肩を竦めた。



 素振りを再開したメリッサの横へ行き、私も素振りを再開する。

 アレフ様たちの練習を見て、何か大事なことを忘れているような、デジャブのような既視感がある。

 なんだろう?

 最近、気になる事が多い気がするわ。

 釈然としない気持ちを振り切るかのように、私はスモールソードを振り下ろした。



 3,4時間目、ランチも終わり、5時間目の魔法学の時間になった。

 今日は、それぞれの属性の初級魔法の練習と言うことで、呪文を1つずつ習った。

 それぞれ属性の呪文の前に「エル・ディ・サージュ」と言うらしい。

 五属性の初級魔法の呪文は、木はカピン、土はペドラ、水はアークア、火はフォーグ、風はベント。

 例えば、風の魔法なら 『エル・ディ・サージュ・ベント』となる。

 スターロッドを持って、呪文を唱えるクラスメートを見ながら、私はどうしようかと悩んでいた。

 私が呪文を唱えたところで、魔法は発動されない。

 プロテクトが掛かっている状態で魔力を抑え込むことさえできていないのに、今の状態でプロテクトを壊さないように魔力を使って、魔法を発動させるなんてできない。

 それをわかっていて、敢えてやるか、コントロールの練習ををこっそりするか。

 考えていると、ナザリト先生が近くに来た。



「どうした?」


「呪文を唱えていたらいいのか、魔力のコントロールをしていたらいいのか、考えておりましたの」


「ふむ。初級魔法なら、何か起きてもすぐに打ち消せる。呪文の練習をしてみてもよいだろう」


「わかりました」



 私はスターロッドを構え、静かに深呼吸をしてから一気に呪文を唱えた。



「エル・ディ・サージュ・ベント」



 私の言葉に呼応するようにスターロッドが輝き、ロッドの先を中心に全方向へ青く輝く風が吹いた。

 風は私に触れる事なく、見えない壁にでもぶつかったかのように消える。



「今のは?」


「ああ。魔法が発動している。魔力の目立った問題は無いようだ。プロテクトも弱まってはいるが、機能はしている。呪文を使用するのがいいのか、それとも他の要因があるのか。」

 

「他の要因で、ございますか?」


「微かにだが、光属性の残滓がある。他には、何か薬を飲んだのだろう。そのどちらか、或いは両方がきっかけになったようだな」


「光属性の魔法も、薬も心当たりがありませんわ」



 私が答えると、エイミーが振り返る。



「癒魔法も、光属性の一種ですわ。昨日、ロイク様がおかけになった、癒魔法が関係しているのかもしれませんわよ」


「確かに、癒魔法は光属性と同じものだったわね」


「学園内で、許可なく魔法を使用することは禁じられているのだがな。何にせよ、丁度良い。今日は少しずつ魔法を使用して、貯まり過ぎた魔力を消化しよう。魔力の回復如何によっては、時間にゆとりが持てる」


「わかりましたわ」



「エル・ディ・サージュ・ベント」



 意識をすると、印の部分から魔力が流れてスターロッドに集まって行くのがわかる。

 青く輝く風が現れたかと思うとすぐに消えてゆく。

 ふと、火や水は具現してからどうなっているのだろうと、教室内を見渡してみる。

 私の風と同じように、具現したかと思うとあっと言う間に消えて、跡形も無くなっていた。



「エル・ディ・サージュ・アークア」



 エイミーの声に、スターロッドの先から、丸い球状の水が具現する。

 落ちるよりも早く消えていく様子は、まるで、シャボン玉みたいでかわいい。



 魔法が発動したことは、いい方向に向かっていると考えていいのよね。

 私の中の魔力は、相変わらず嵐のように吹き荒れているけれど。

 そう言えば、初級魔法の呪文に、聞き覚えがあるなぁと思ったら、MSGと同じだった。

 教科書には初級の呪文しか載っていないから、中級以降はわからなかったけれど、放課後、図書室で調べたらわかることよね。

 私は何度か呪文を繰り返し、元の世界には無い力を楽しんだ。



 放課後。

 約束した華組と雪組のドアに近い廊下で、アレフ様を待つ。

 こうやって待つのも、何だか照れてくる。

 隣のクラスなのに壁が1つあるだけで、とても遠く感じるわ。



 まだかな?

 華組は、まだHRをしているのか、誰も教室から出てこない。

 鞄から鏡を取り出し、髪型をチェックしたり、教室を出るクラスメートと挨拶を交わしていると、ようやく華組のドアが開き、シャムエラが出てきた。



「あら、リリアーナ。帰らないの?」


「ええ。その、用事がございまして」



 私は、鏡を制服のポケットへ仕舞いながら答える。

 コッソリと隠したつもりだったけれど、見えていたようだ。



「ふう~ん。明日のランチタイム、楽しみにしてるからね!」


「それは、どういう意味なのかしら?」


「今は、聞かないでおいてあげるって言う意味よ! じゃ、また明日ね」



 シャムエラが手を振って、廊下を歩き出す。



「ごきげんよう」



 一度、私の方を振り向いて笑顔を見せると、ピンク色の制服を翻してシャムエラは行ってしまった。

 視線を戻すと、アレフ様が華組から出てくるところで、目が合う。



「待ったよな。悪い」


「いいえ。私も先程、出てきたばかりですわ」


「ルカの話が長いんだよ。HR位、さっさと終わらせてくれよな」



 確かに、いつも華組は終わるのが遅い気がする。

 ナザリト先生との補習のときも、いつも雪組が先に終わってるものね。



「いいじゃありませんか。ルカ先生の素敵な声が聴けると思えば」


「男が男の声を聴いて、嬉しいと思うかよ」


「そうですか? 男性にも人気のある声優(こえ)なんですけれど」



 ルカ先生も私自身もそうだけれど、皆、主要人物は君セナの声優の声だった。

 私はルカ先生の声に惹かれ、アレフ様の次に攻略したくらいだ。



「なんだよ。リリーはルカの声が好きなのかよ」



 不機嫌さが籠った声に、思わず、心の中で思っていたことが口に出る。



「え? 私は、アレフ様の声が一番ス……図書室はこちらでしたわよね? 早く、参りましょう」



 私はアレフ様に背を向けて、先に歩き出した。

 若干、小走りになっているからか、水色のスカートがリズム良く跳ねる。

 不機嫌そうな表情が、驚いた表情に変化していくのがスローモーションで再生された。



「あ、ああ」



 コホン。

 背後から聞こえた咳払いが聞こえた。

 いつも、後ろ姿を追うか、隣を歩くのに私が先に歩くのは変な感じだ。


 そして。

 アレフ様が気付くまで、図書室の場所を知らない私は、縦横無尽に学園内を歩き回ったのだった。


お読みいただきましてありがとうございます。

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