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エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
45/98

45.気持ちは嬉しいけれど、相談する先、間違ってます

 寮の前でアレフ様と別れ、部屋に戻った私はそのままバスルームに行く。

 制服を脱ぎ捨てて、勢いよくシャワーを出した。

 


「冷たっ」



 出したばかりの、まだ温まっていない冷たい水が、容赦なく降り注いだ。

 浴室の鏡に映る私を見つめ、MSGのリリアを思い起こす。



 山に囲まれた森をウロウロする、白髪のような鈍い銀色の長い髪をした少女。

 小さいスマホの画面だし、1度しか見た事が無いから詳しい姿はわからないけれど、もしかして似てる? 

 それとも、気のせい?

 なぜだか、MSGのリリアが頭から離れない。



 リリアとは、初心者向けのクエストで、素材を集めていた時に遭遇したのよね。

 画面の端にリリアが見えたと思ったら、私も舞のキャラも倒されていた。

 彼女を中心に、風属性最強の呪文、テンペスタージュと言う、嵐を起こす魔法が広範囲で打ち出されていたらしい。

 低レベルの私には無かったが、舞はデスペナルティ(デスペナ)で経験値とお金が半分になって、とても悔しがっていた。


 テンペスタージュ。

 私のベールに包まれた中で起きている嵐と、そっくりだった。



 シャワーは温かいお湯に変わり、白い肌はうっすらと上気し、薄い桃色に染まる。

 私は考えるのを止めて、暫くシャワーを浴び続けた。



 バスローブを身に着け、濡れたままの髪をそのままにしてバスルームを出た。

 帰ってすぐ、バスルームへ直行した私を心配したのか、立って待っていたミセスブラウンに



「ただいま」



 とだけ言って、ベッドルームに向かう。



 ソファーに誰かがいたような気がしたけれど、気にせず、ベッドルームのドアを閉めた。

 すぐにドアが開き、慌てた様子でミセスブラウンがやってくる。



「お嬢様、何と言う恰好をされていますか。すぐに、お着替えくださいませ」


「今日は、もう休みますわ。ミセスブラウンも、今日は下がってよろしいですわよ」



 はしたないと注意されると思ったのに、予想に反してミセスブラウンは恐れを抱いた様な声で繰り返す。



「お嬢様、いけません。あ……」


 ミセスブラウンの言葉が途中で止まる。

 不思議に思ってミセスブラウンを見ると、怯えた様子で固まっていた。



「どうかしましたの? ミセスブラウン」


「どうもしないよ、リリー。さぁ、ミセスブラウン。リリーも、ああ言っていることだし、今日はもう下がっていいよ」



 アレフ様の声?

 よく見ると、固まったミセスブラウンの肩に手がある。

 ミセスブラウンの身体が1回転し、入れ替わるようにドアで隠れていたアレフ様が入ってきた。

 短く何かを告げ、アレフ様は静かにドアを閉めた。



「何故、女子寮の、私の部屋にいらっしゃいますの?」


「リリーの様子を心配したミセスブラウンから連絡が着たんだよ。まさか、そんな恰好で歓迎されるとは、夢にも思っていなかったけれど」


「え? あっ!」



 私は自分の姿を見て、慌ててバスローブの胸元をきつく閉じ、アレフ様に背を向ける。

 それで、ミセスブラウンは恰好を注意していたのね。

 ちゃんと言ってくれれば、すぐに着替えたのに。

 ああ、でも、私の様子が心配で言えなかったのか。

 背を向けたまま、私は話しかける。



「アレフ様」


「なに?」


「着替えますので、暫く、そちらの部屋でお待ちいただけますか?」



 少し間が空き、背中から抱きしめられる。

 一気に心拍数が上がる。



「もう、休むんだろ? そのままでいいよ」



 私は、顔だけ振り向いて言う。



「いいえ。お尋ねしたいことがありますの。折角ですから、教えていただきたいですわ」


「うん。何?」



 アレフ様の手が私の顎に触れる。



「ですから。一度、着替えますわ。お放しになって、んっ」



 キスをされ、思わず目を閉じる。



「アレフ様、私の話を聞いてください」


「聞いてるよ。何を教えてほしいんだ?」


「まず、お放しください」


「それは無理だな」



 そう言ってされたキスは、今までとは違うキスだった。

 時折り漏れ出る声は、私なのか、アレフ様なのか、聞こえてくる音は何の音なのか、わからない。

 顎に添えられたアレフ様の手が、私をなぞるようにゆっくりと下へ動いて行く。

 次の瞬間、衝動のまま動いた私のグーパンチは、クリティカルを叩き出していた。



*******************************



 気まずい。



 窮鼠猫を噛む、とでも言うのだろうか?

 みぞおちを抑え、ぐったりとソファーに横たわるアレフ様を前に、私は途方に暮れていた。

 ミセスブラウンには、お茶の準備をしてもらっている。

 着替え終わった私は、恐る恐るアレフ様の正面に座る。



「あの、申し訳ありませんでした」



 無言のまま、アレフ様が私を見る。

 こ、怖い!



「あの、大丈夫でしょうか?」


「……大丈夫じゃない」


「ミセスブラウンにお医者様を呼んでいただきますわ」


「……嫌なわけじゃないって言ったのに」


「ええっ! あれは、その、そんな意味ではなくて」


「俺の心は立ち直れないくらいボロボロだよ」



 丁度、ミセスブラウンが紅茶を運んできた。

 私がベッドルームから出てきたときは、オロオロしていたミセスブラウンだったが、今ではもう普段通りの彼女に戻っている。

 あなたの主人が我が国の王子様に暴力を働いたというのに、その落ち着きようもすごいわよね。

 まるで、罪人は私だけみたいじゃない。

 いや、悪いのは最初から、私だけよね。



「その、ごめんなさい」



 王族に危害を与えたとして、不敬罪で罰せられちゃったりするのかな?

 しゅんっとなっていると、アレフ様が隣に座ってきた。


「冗談だよ。さすがに予想してなかったから受け身も取れなかったけれど、そんなに痛くはなかったから」


「アレフ様」


「逆に、無様な姿を見られたことがショックだよ」


「無我夢中だったので、記憶にありませんわ」


「そうか。……それで、話って何?」


「え?」


「さっき、言っていただろう? 尋ねたいことがあるって」


「そうでしたわ。忘れておりました。魔法について調べたいのですが、どうしたらいいのかわからなかったのです」


「それで、俺に?」


「そうですの。アレフ様は宮廷魔術師様から学ばれたのでしょう? ですから、授業で習うことよりもご存知でしょうから」


「そう言われても、俺とリリーでは属性も違うし、五大属性について俺から説明できることと言ったら、学園で習う基礎的なことと大差ないぞ。プロテクトのことも説明は受けたが、俺には扱えないからな」


「そうでしたか。では、風属性について参考になる本など、ご存知ではありませんか?」


「う~ん。この学園の図書室にも、魔法に関する書物はあるはずだ。明日の放課後、一緒に探してみよう」


「よろしいのですか?」


「ああ。構わないよ」


「ありがとうございます。私、考えてみたら図書室に行ったことがありませんでしたわ」


「そうだったんだ。本の数も多いし、調べ物をするにはいい場所だよ」


「そうなんですね。楽しみですわ」



 君セナで、本が好きな攻略キャラがいることにはいたが、その人は2年生になったときにやってくる、外国からの交換留学生だ。

 そのキャラとは図書室での放課後デートがお決まりのパターンだった。

 そうよ!

 これって、デートみたいじゃない?

 新歓ダンパは学園行事だったし、補習ではナザリト先生もいるし、土日に会ったりしていたけれど、特に約束をして会うことはなかったわ。

 もしかして、初めてのデート?



「ふふ」



 思わず、笑いが声に出てしまう。

 デートだ! デート!

 何を着て行こう? って制服しかダメなのよね!



「なんだか楽しそうだな。そんなに、図書室が珍しいのか?」


「放課後に2人で会う約束をして、デートみたいですもの」


「今だって、一緒にいるけれど、何が違うんだ?」


「全然違いますわ」


「さっきのはダメで、デートはいいのか? 全く、訳がわからないよ」



 笑って言う私に対し、溜息まじりでアレフ様は言ったのだった。

 

連休初日ですね。

段々、寒くなってきましたので、風邪など召さぬようご自愛ください。

お読みいただき、ありがとうございました。

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