45.気持ちは嬉しいけれど、相談する先、間違ってます
寮の前でアレフ様と別れ、部屋に戻った私はそのままバスルームに行く。
制服を脱ぎ捨てて、勢いよくシャワーを出した。
「冷たっ」
出したばかりの、まだ温まっていない冷たい水が、容赦なく降り注いだ。
浴室の鏡に映る私を見つめ、MSGのリリアを思い起こす。
山に囲まれた森をウロウロする、白髪のような鈍い銀色の長い髪をした少女。
小さいスマホの画面だし、1度しか見た事が無いから詳しい姿はわからないけれど、もしかして似てる?
それとも、気のせい?
なぜだか、MSGのリリアが頭から離れない。
リリアとは、初心者向けのクエストで、素材を集めていた時に遭遇したのよね。
画面の端にリリアが見えたと思ったら、私も舞のキャラも倒されていた。
彼女を中心に、風属性最強の呪文、テンペスタージュと言う、嵐を起こす魔法が広範囲で打ち出されていたらしい。
低レベルの私には無かったが、舞はデスペナルティで経験値とお金が半分になって、とても悔しがっていた。
テンペスタージュ。
私のベールに包まれた中で起きている嵐と、そっくりだった。
シャワーは温かいお湯に変わり、白い肌はうっすらと上気し、薄い桃色に染まる。
私は考えるのを止めて、暫くシャワーを浴び続けた。
バスローブを身に着け、濡れたままの髪をそのままにしてバスルームを出た。
帰ってすぐ、バスルームへ直行した私を心配したのか、立って待っていたミセスブラウンに
「ただいま」
とだけ言って、ベッドルームに向かう。
ソファーに誰かがいたような気がしたけれど、気にせず、ベッドルームのドアを閉めた。
すぐにドアが開き、慌てた様子でミセスブラウンがやってくる。
「お嬢様、何と言う恰好をされていますか。すぐに、お着替えくださいませ」
「今日は、もう休みますわ。ミセスブラウンも、今日は下がってよろしいですわよ」
はしたないと注意されると思ったのに、予想に反してミセスブラウンは恐れを抱いた様な声で繰り返す。
「お嬢様、いけません。あ……」
ミセスブラウンの言葉が途中で止まる。
不思議に思ってミセスブラウンを見ると、怯えた様子で固まっていた。
「どうかしましたの? ミセスブラウン」
「どうもしないよ、リリー。さぁ、ミセスブラウン。リリーも、ああ言っていることだし、今日はもう下がっていいよ」
アレフ様の声?
よく見ると、固まったミセスブラウンの肩に手がある。
ミセスブラウンの身体が1回転し、入れ替わるようにドアで隠れていたアレフ様が入ってきた。
短く何かを告げ、アレフ様は静かにドアを閉めた。
「何故、女子寮の、私の部屋にいらっしゃいますの?」
「リリーの様子を心配したミセスブラウンから連絡が着たんだよ。まさか、そんな恰好で歓迎されるとは、夢にも思っていなかったけれど」
「え? あっ!」
私は自分の姿を見て、慌ててバスローブの胸元をきつく閉じ、アレフ様に背を向ける。
それで、ミセスブラウンは恰好を注意していたのね。
ちゃんと言ってくれれば、すぐに着替えたのに。
ああ、でも、私の様子が心配で言えなかったのか。
背を向けたまま、私は話しかける。
「アレフ様」
「なに?」
「着替えますので、暫く、そちらの部屋でお待ちいただけますか?」
少し間が空き、背中から抱きしめられる。
一気に心拍数が上がる。
「もう、休むんだろ? そのままでいいよ」
私は、顔だけ振り向いて言う。
「いいえ。お尋ねしたいことがありますの。折角ですから、教えていただきたいですわ」
「うん。何?」
アレフ様の手が私の顎に触れる。
「ですから。一度、着替えますわ。お放しになって、んっ」
キスをされ、思わず目を閉じる。
「アレフ様、私の話を聞いてください」
「聞いてるよ。何を教えてほしいんだ?」
「まず、お放しください」
「それは無理だな」
そう言ってされたキスは、今までとは違うキスだった。
時折り漏れ出る声は、私なのか、アレフ様なのか、聞こえてくる音は何の音なのか、わからない。
顎に添えられたアレフ様の手が、私をなぞるようにゆっくりと下へ動いて行く。
次の瞬間、衝動のまま動いた私のグーパンチは、クリティカルを叩き出していた。
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気まずい。
窮鼠猫を噛む、とでも言うのだろうか?
みぞおちを抑え、ぐったりとソファーに横たわるアレフ様を前に、私は途方に暮れていた。
ミセスブラウンには、お茶の準備をしてもらっている。
着替え終わった私は、恐る恐るアレフ様の正面に座る。
「あの、申し訳ありませんでした」
無言のまま、アレフ様が私を見る。
こ、怖い!
「あの、大丈夫でしょうか?」
「……大丈夫じゃない」
「ミセスブラウンにお医者様を呼んでいただきますわ」
「……嫌なわけじゃないって言ったのに」
「ええっ! あれは、その、そんな意味ではなくて」
「俺の心は立ち直れないくらいボロボロだよ」
丁度、ミセスブラウンが紅茶を運んできた。
私がベッドルームから出てきたときは、オロオロしていたミセスブラウンだったが、今ではもう普段通りの彼女に戻っている。
あなたの主人が我が国の王子様に暴力を働いたというのに、その落ち着きようもすごいわよね。
まるで、罪人は私だけみたいじゃない。
いや、悪いのは最初から、私だけよね。
「その、ごめんなさい」
王族に危害を与えたとして、不敬罪で罰せられちゃったりするのかな?
しゅんっとなっていると、アレフ様が隣に座ってきた。
「冗談だよ。さすがに予想してなかったから受け身も取れなかったけれど、そんなに痛くはなかったから」
「アレフ様」
「逆に、無様な姿を見られたことがショックだよ」
「無我夢中だったので、記憶にありませんわ」
「そうか。……それで、話って何?」
「え?」
「さっき、言っていただろう? 尋ねたいことがあるって」
「そうでしたわ。忘れておりました。魔法について調べたいのですが、どうしたらいいのかわからなかったのです」
「それで、俺に?」
「そうですの。アレフ様は宮廷魔術師様から学ばれたのでしょう? ですから、授業で習うことよりもご存知でしょうから」
「そう言われても、俺とリリーでは属性も違うし、五大属性について俺から説明できることと言ったら、学園で習う基礎的なことと大差ないぞ。プロテクトのことも説明は受けたが、俺には扱えないからな」
「そうでしたか。では、風属性について参考になる本など、ご存知ではありませんか?」
「う~ん。この学園の図書室にも、魔法に関する書物はあるはずだ。明日の放課後、一緒に探してみよう」
「よろしいのですか?」
「ああ。構わないよ」
「ありがとうございます。私、考えてみたら図書室に行ったことがありませんでしたわ」
「そうだったんだ。本の数も多いし、調べ物をするにはいい場所だよ」
「そうなんですね。楽しみですわ」
君セナで、本が好きな攻略キャラがいることにはいたが、その人は2年生になったときにやってくる、外国からの交換留学生だ。
そのキャラとは図書室での放課後デートがお決まりのパターンだった。
そうよ!
これって、デートみたいじゃない?
新歓ダンパは学園行事だったし、補習ではナザリト先生もいるし、土日に会ったりしていたけれど、特に約束をして会うことはなかったわ。
もしかして、初めてのデート?
「ふふ」
思わず、笑いが声に出てしまう。
デートだ! デート!
何を着て行こう? って制服しかダメなのよね!
「なんだか楽しそうだな。そんなに、図書室が珍しいのか?」
「放課後に2人で会う約束をして、デートみたいですもの」
「今だって、一緒にいるけれど、何が違うんだ?」
「全然違いますわ」
「さっきのはダメで、デートはいいのか? 全く、訳がわからないよ」
笑って言う私に対し、溜息まじりでアレフ様は言ったのだった。
連休初日ですね。
段々、寒くなってきましたので、風邪など召さぬようご自愛ください。
お読みいただき、ありがとうございました。




