43.ベタな出会いイベントなんて、発動しないでよ!
マキシ様の後に付いて、3階へ向かう。
チラリと見える横顔は、とても真剣で硬い表情をしている。
話しかけていいものか迷っているうちに、3階へ着いてしまった。
「アレフレッド殿下。リリアーナ様がご到着でございます」
「ああ。ありがとう、マキシ。下がっていいよ」
「はい、失礼いたします」
マキシ様は、アレフ様と私に一礼をして、このフロアーから出て行ってしまった。
いつものマキシ様らしくない。
そう思ったけれど、私の知っているマキシ様は、カフェでの様子しか知らないのよね。
「リリー、どうした? そんなところに立っていないで、座ったらいい」
「はい。失礼いたしますわ」
アレフ様の正面の席に座ると、すぐに紅茶が運ばれてきた。
紅茶を運ぶマキシ様の横顔を見ても、なぜか余所余所しい。
いつもは、笑顔で運んでくれるのに。
私、何かしたかな?
「友達と一緒だったんだろう? 呼び出して悪いな」
「いえ、大丈夫でしたわ。それより、どのようなご用ですの?」
紅茶を飲みながら尋ねた。
「うん。ナザリトが、今日の放課後に魔力を確認すると言っててね。リリアーナの都合はどうかと思ってさ」
「そうでしたか。私は今日で構いませんわ」
「そうか。次の選択は、リリーは美術か?」
「ええ。アレフ様は音楽でしたわね。3時間目の選択科目も違いますわよね」
「せめて選択科目くらい、同じ教科だったらいいのにな」
「本当ですわね。次回は、同じものを選びましょう」
「そうだな。呼び出してすぐで悪いが準備もあるし、そろそろ行くか」
3階には時計がなく、授業の開始や終了を告げる鐘の音も聞こえにくい。
「そうですわね」
私たちは席を立ち、並んで歩きだした。
「音楽の授業では、どのようなことをしていますの?」
「ただ曲を聞いてることが多いな。午後だし、昼寝にはピッタリだよ」
「まぁ。先生に注意されませんの?」
「リラックスすることが大事だって、ほとんどの生徒が寝ていても注意されないよ。先生も目を閉じていて、寝てるみたいだよ」
「先生も、ですか。美術は、毎回絵を描いていますのよ。今日は外で写生をするので楽しみです」
「へぇ。全然違うな」
「ただ、先生も一緒に絵を描いていますわ。指導をされないと言う点では、同じかもしれませんわね」
「ハハ。そうか」
「それでは、放課後ですわね」
「ああ、後でな」
アレフ様が華組の教室に入るのを見届けてから、私は雪組の教室に入った。
まだ何人か生徒が残っており、エイミーとメリッサの姿が見える。
「あら? シャムエラ様は一緒じゃありませんの?」
「おかえりなさいませ、リリアーナ様。シャムエラ様は音楽の授業だそうで、別々ですわ」
「そうだったの」
「私は、美術なので、写生を一緒にしようと思います」
「ふふ。メリッサ様、完成したら見せてくださいね」
「いいですよ。リリアーナ様もエイミー様も見せてくださいです」
「ええ」
「わかりましたわ。さて、そろそろ参りましょうか?早く行かないと、いい場所が無くなってしまいますわ」
エイミーの言葉に、慌てて私はスケッチブックと鉛筆を用意する。
「いつも待たせてごめんね、エイミー」
「とんでもないですわ」
笑って答えたエイミーは、既に歩き始めていたメリッサの方へ歩いて行く。
スケッチブックとペンケースを両手で抱え、廊下へ出てしまった2人を追い駆ける。
「あ!」
「リリアーナ様!」
珍しく2人が大きな声を出したと思ったら、私は思いっきり誰かにぶつかっていた。
「きゃあ!」
「うわ!」
大きな音がしたと思ったけれど、それ程痛くない?
「リリアーナ様、大丈夫ですか?」
エイミーとメリッサの心配そうな声がする。
大丈夫、と言おうとして、先に声がかかる。
「早く、降りてくれませんか?」
この声は!
目を開けると、私はロイク・チェルシー様を押し倒していた。
「キャッ! すみません!」
慌てて後ろに下がると、ゴチンとドアに後頭部をぶつけてしまった。
痛い。
毎度のことながら、そそっかしいな、私って。
「申し訳ありません。その、大丈夫でしょうか?」
「ああ。私は平気ですよ。怪我なら治せますからね。それよりも。今、頭をぶつけたでしょう。見せてください」
「いえ、丈夫ですわ」
「大丈夫な音じゃありませんでしたよ。ここら辺かな?」
私の頭に、手を伸ばすロイク様。
「いたっ」
「ここですね。」
ロイク様が、何か歌のような言葉を言うと、私の後頭部が温かく感じ、痛みが引いていく。
「痛く、ない、ですわ」
「はい。完了です」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
ロイク様は立ち上がると、どうぞと、私に手を差し伸べ、立ち上がらせてくれた。
私はロイク様と知り合いなのかな?
「あの、ご自身の怪我は治さないのですか?」
「私は男ですので、これくらいは平気です。次から、教室を出る時は気を付けてくださいよ」
「はい。気を付けますわ。あ、あの……」
「ん? ああ。私はロイク・チェルシーです」
「私は、リリアーナ・ベンフィカでございます。治していただきまして、ありがとうございました。ロイク様」
「お安い御用ですよ。では、私はこれで」
音楽室へ向かうロイク様にお辞儀をして、ホッと溜息をつく。
治癒魔法かぁ。
今の呪文、聞いたような覚えがあるわ。
ヒール? なんだったかな?
「大丈夫でしたか? リリアーナ様」
「ええ。癒し魔法ってすごいのね。本当に、一瞬で痛みが消えたわ」
「不幸中の幸いですね」
「そうですわね。さあ、行きましょう」
美術の授業は、今日は下書きで、来週に色塗りをして提出となった。
先生は指導することも無く、私たちと一緒に絵を描いている。
この先生は攻略キャラじゃないけれど、眉目秀麗で、筆よりも重い物なんか持ったことが無さそうな、繊細なイメージだ。
美男美女ばかりだわ。
もし、杉本和香のままの姿でこの世界に来ていたら、浮いた存在になること間違いないわね。
あらすじを短くしてみました。
最後の3行を付けるか付けないかで、迷いました。
後悔は、
多分しません。
お読みいただき、ありがとうございました。




