4.ばあやさんはミセスと呼ばないと怒るのです
ちょっと短めです。
「つ、疲れたー」
思わず、ベッドに倒れこむ。
今日は色々なことがあり過ぎて、このまま眠ってしまいそうだ。
「なんですか、その姿は。はしたないですよ」
「ばあや……」
「何かおっしゃいましたか? お嬢様」
「なんでもございませんわ。ミセスブラウン」
起き上がり姿勢を正すと、栗色の髪を頭のてっぺんでおだんごにした、年配の女性が立っていた。
君セナでは『ばあや』と呼ばれていたハズの彼女。
当然のように、ばあやと呼んだら子供みたいだと注意され、食事をすればマナーが悪いと注意され、歩いていたら立ち居振る舞いに品がないと注意され、話しかけたら言葉遣いが悪いと注意され、何をしても注意されと、お説教尽くしだったのだ。
ただでさえ自分の状況がよくわかっていないのに、こんなに怒られたら落ち込んじゃうよ。
「今日はもう、休むことにします。おやすみなさい、ミセスブラウン」
「左様でございますか。では、これでわたくしも下がらせていただきます。おやすみなさいませ」
ミセスブラウンが部屋から出ていくのを見てから、用意されたワンピースに着替え、ベッドの中に潜り込む。
そして、午後のことを思い出していた。
あの後。
恥を忍んでフォーセット嬢に名前を聞き、エイミーと呼ぶことにした。(茶色い髪の女子はエイミー・フォーセットと言うらしい。)
シンクレア先生と別れて教室に戻った私は、次の授業の教科書を開いて軽く読む。
数学は、中学1年生の問題内容で、これならわかるから大丈夫ね。
問題はその他の科目だった。
リリアーナは何でも卒なくできるパーフェクトな令嬢だったハズ。
それなのに、私が理解できたのは数学だけで他の教科は何もわからなかった。
そもそも、薬草学って教科なんてあったかな?
日本の学習内容と全く違うし、魔法やスポーツなど、文化も違う。
今までリリアーナがどのように過ごしてきたか等の記憶は私には一切無い。
ここには、最初にあれこれ教えてくれるチュートリアルも無い。
親切な協力者もいない。
ゲームなの? それとも、現実なの?
わからない。
突然、説明も無しに連れてこられても、楽しむには無理がある。
寮の部屋に行き、家探しをする勢いで服や持ち物を見てみたけど、元の世界に戻る方法がわかるものは何も無かった。
ううん。
そもそも、持ち物が全く無かった。
豪華な部屋に、あるのは制服の色違いや私服が数着、ドレスとアクセサリーも5点ほど。
あとは勉強道具が机の引き出しに入っているくらいだった。
全部でこれだけ?
たしか、侯爵令嬢よね?
持ち物が少な過ぎるわ。
これじゃ、何もわからないじゃない。
これからどうしたらいいのだろう?
それとも、朝起きたら元の世界に戻っているのかな?
そう思って、早く眠ることにしたのだ。
どうか、起きたら。
『いやー。変な夢見ちゃった!』
って舞と笑い飛ばしていますように。
そう、願いながら目を閉じると、あっという間に眠りに落ちた。
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