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エクリプス  作者: 元蔵
第2章 全身全霊をかけてあなたについていきます
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38.新歓ダンパのその後

ブックマークが100件を超えました。

ブックマーク、感想や評価をしてくださった皆様、感謝の気持ちでいっぱいです。

本当に、ありがとうございます。

 4月21日。

 起きてすぐに、日課となった行動を開始する。

 まず、カーテンと窓を開ける。

 この騒々しい、鳥の鳴き声にも慣れてきたわ。



 次に向かうのは姿見。

 日光に当たったことがないような、白い艶やかな真珠を思わせるような肌。

 長い睫に縁どられた、大きなエメラルドグリーンの瞳。

 品よく整った鼻に、薄く小さめの唇。

 日の光を浴びて銀色に光り輝く、淡いプラチナブルーの髪。

 鏡の中の少女は、困ったような、どこか落胆したように笑う。



「おはよう。リリアーナ(リリー)



 決めたんでしょ?

 私は、リリアーナを好きになるって。



「おはよう」



 鏡には、親しい友人に向けるような優しい笑顔のリリアーナが映っていた。



 さてと。

 今日は何をしよう?

 日課の1つである、日記帳を開く。

 見ると、昨日の日記が未記入だった。

 帰宅したらすぐに寝てしまったんだわ。

 昨日の予定日記の下に、昨日の出来事を書いていく。

 ダンスは1曲しか踊らなかったのよね。

 踊れないなんて恥ずかしいから、ダンスは習わないといけないわ。

 その後、庭園に行って……。

 突然、鮮明に昨夜の出来事を思い出す。

 な、ななな、なんで、キス、してるの?

 何度もしていたわよね?

 しかも、私から抱き付いた?

 う。

 うわぁぁぁぁぁああああああ!!

 頭を抱え込み、私は机に突っ伏した。



 後悔はしたくない。って決めたばかりなのに、私は早くも後悔をしていた。



「お嬢様。カモミールティーをお持ちしました」


「ありがとう、ミセスブラウン。いただくわ」



 私は身体を起こすと、ミセスブラウンからティーカップを受け取った。

 早速、カモミールティーの香りを楽しむ。

 そうよ、落ち着くのよ。

 どうせまた、恥ずかしくても2~3日も経てば、会いたい気持ちが勝るんだもの。

 気持ちが落ち着くまで、会わなければいいのよ。

 とにかく、日記には事実を書かなければいけないわ。

 一口、カモミールティーを飲んでから、日記に向き合う。

 書いたら、昨日の部分をしばらくは読まないようにしないと。

 私がティーカップを置くと、遠慮がちに、ミセスブラウンから呼びかけられる。



「お嬢様」


「なにかしら?」



 ペンを置き、ミセスブラウンを見ると、黒いタキシードを持っていた。



「昨夜、お嬢様がお召しになっていた、タキシードの上着でございますが、別々にクリーニングされるより、ご一緒にされたらよろしいかと存じます。できれば、今日中にアレフレッド殿下にお返しされるのがよろしいかと思われます」


「え!!」


「お嬢様。どんな時でも、大きな声は出さないものでございます」


「そ、そうね。失礼したわ。悪いけれど、ミセスブラウン。アレフ様に、お返ししておいてくださる?」



 私の言葉を聞いたミセスブラウンの表情が、見る見るうちに険しくなった。



「お嬢様。ご自分がお借りしたものを、他人に返させるとは、以ての外でございます。目下の者に借りた場合ならば、それも許されるでしょう。ですが、アレフレッド殿下は、この国の第2王子様なのでございますよ。婚約者フィアンセだからこそ、礼節をわきまえた行動をしなければなりません」


「ですけれど、心の準備が」


「心の準備、でございますか?昨夜はあれ程、仲良くされていらっしゃったではありませんか。アレフレッド殿下がお帰りの際には、殿下と……ふふ」



 笑顔で話すミセスブラウンとは裏腹に、私は目の前が暗くなっていく気分だった。

 殿下と? 殿下と、って何?! 

 私は、昨日、みんなの前で何をしたの?



「う」


「う?」


「うわあぁぁぁぁぁあああああああ!!!」



 私は、思わず机の中に隠れこむ。



「お、お嬢様?」



 慌てるミセスブラウンの声が聞こえたけれど、そんなの知らない!



「嫌! 嫌と言ったら嫌です! お願いよ、ミセスブラウン。お願いだから、アレフ様にお返ししておいて!」


「お嬢様?!」


「そうよ! ハメスさんにお渡しすればいいのよ。どうせ、アレフ様にお返ししたところで、ハメスさんが持って行くんだから! そうよ。そうしましょう!」


「だ、誰か! 誰か、ここへ! お嬢様がご乱心遊ばされました! 早く! 誰か!!」



「嫌ー! 2,3日だけでいいの! お願いだから、私のこと、放っておいてー!!」



 机の足にしがみついた私を、ミセスブラウンが引き離そうとする。

 粘ったつもりだったけれど、私は応援に駆け付けたメイドたちに、あっけなく机から引きずり出されてしまった。

 そのまま、ご丁寧にタキシードの上着を持たされ、寮から追い出される。



「リリアーナお嬢様。大変、申し訳ございません。ミセスブラウンの指示でございますので」



 私を外に連れ出した、若いメイドが謝る。

 さすがに、彼女を責めるのはお門違いだってことくらい、私にもわかるわ。



「ええ、わかっているわ。ところで、相談があるのですけれど」


「なんでしょうか?」


「私の代わりにコッソリと、あなたが行ってくれないかしら? 私は具合が悪くなったって言えば、問題ないでしょう? ミセスブラウンには、もちろん、秘密で。」


「ハメス・フラガ様に、リリアーナお嬢様がこれからお伺いする旨を、ミセスブラウンが伝えております。お嬢様に会えるのを楽しみにしていると、朝食もご一緒にいかがですか?とのことでしたので、ぜひにと、お返事させていただいております。行かなければ、朝食は抜きになりますよ」


「どうしても、ダメ?」


「いってらっしゃいませ」



 非情にも、寮のドアは閉められてしまった。



「変ね。ベンフィカ家のメイドなのに。娘である私より、ミセスブラウンのお言いつけを守るなんて。それは、おかしいんじゃないの?」


「おかしくありません。いってらっしゃいませ」



 私のぼやきにも、ドア越しから返答される。

 思わず、ドア越しに話しかける。



「朝食も出さないで追い出すなんて、かわいそうじゃない?」


「朝の散歩の後に食べる食事は、おいしゅうございます」


「王族専用の寮に、食事を提供させるなんて、ずうずうしくないかしら?」


「あちらから、是非に、とのご用命ですので、ご安心ください」


「あっ。忘れ物!」


「後ほど、お届けに参ります」



 どうやら返してからではないと、寮にも入れてもらえないみたい。

 どうしよう?

 自分の部屋を見上げると、怒った表情のミセスブラウンと目が合った。

 しばらく見つめ合っていたけれど、根負けしたのは私だった。

 行けばいいんでしょ、行けば!



「いってきます」



 小さく呟いて、私はようやく歩き出した。

 行きたくないよ。

 なんで、朝食まで一緒に食べることになっているの?

 重い足取りで森を歩く。

 この森を抜ければ、王族専用の寮だ。

 そう言えば、さっき、あの子が気になることを言っていたような気がするわ。

 なんだったかしら?

 私はさっきのメイドとのやり取りを思い出す。

 そうよ。

 彼女はハメスさんのことを、ハメス・フラガ様と言ったんだわ。

 マキシ様と同じ、フラガ様と。

 ご親戚の方なのかな?

 私は、ハメスさんとマキシ様の顔を思い浮かべてみたけれど、あまり共通点は思いつかなかった。



 木がまばらになり、そろそろ森が終わる少し開けた場所に、アレフ様がいた。

 前回とは違い、剣を野球のバットのように構えている。

 素振りをするわけでもなく、微動だにしない。

 何をしているのだろう?

 近づいて行くと、アレフ様の声が聞こえてくる。

 何かを唱えているようだわ。

 もしかして、魔法?

 唱える声が大きくなり、呼応するように、剣の刃が光を増していく。

 アレフ様が何かを唱えた次の瞬間、音も無く、凄まじい閃光を放つ。

 あまりの眩しさに目を瞑ったけれど、光が目に焼き付いたようだった。

 目を開けても、周りが白く見えて何も見えない。

 木に捕まろうと手を伸ばしたけれど、木に触れることなくバランスを崩した私は、音を立てて倒れてしまった。



「誰だ!」



 初めて聞く、鋭い声に身体が竦み、私は声が出せなかった。



「リリー?」



 いつもの、アレフ様の声だ。



「何をしているんだ? こんなところで」


「お借りした、タキシードをお返しに参りました」



 声のする方に話す。

 眩しさと痛みで、目を開けることができない。



「すまない。光を見てしまったんだな。誰もいないと思って、油断していたよ。大丈夫か?」



 前髪を触れられる感触が伝わり、少しこそばゆい。



「多分、大丈夫だと思います。目を瞑りましたし、直視はしていないと思いますので」


「そうか。念のため、医師に診てもらおう」



 アレフ様はそう言うと同時に、私の身体が持ち上げられた。



「きゃ! 降ろしてください。自分で歩けますわ」


「無理言うなよ。目が見えないんだろう? どうやって歩くと言うんだ?」


「手を繋いでいただければ、歩けますわ」


「それじゃ、時間がかかるだろ。行くよ」



 軽く揺れ、動き出したのがわかる。

 何かあったら、当然のように運ばれているような気がするわ。



「絶対に、寮の前で降ろしてくださいね」


「ああ」


「あの、さっきのは魔法ですか?」


「うん。ルイスと言って、光属性の基本スキルだ。」


「あれで、基本なのですか?」



 ダメージを受けたわけでは無いけれど、もの凄い閃光を放っていたように見えたのに。



「基本と言っても、修練を重ねているから、それなりの威力はある。着いたぞ。立てるか?」


「はい。ありがとうございます」


「ああ」



 手を引かれ、寮のドアをくぐる。

 目を開けると、大分見えるようになってきた。

 すぐに常駐している医師に診てもらう。

 何ともなくてホッとしたけれど、冷やすなどの処置をしてもらったからか、大幅に朝食が遅れてしまった。



 ぐぅ。



 あまりかわいいとは言い難い音が、アレフ様の部屋で鳴り響く。

 恥ずかしくなって下を向いたけれど、正面に座ったアレフ様が視線を逸らし、笑いを堪えている姿が見えた。



お読みいただきまして、ありがとうございます。

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