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エクリプス  作者: 元蔵
第1章 全身全霊をかけてあなたに恋します
37/98

37.月明かりの下で気持ちを新たに

 軽く、触れるだけのキスは、額からすぐに離れた。

 さっきまでの気持ちとは裏腹に、期待を裏切られたような、物足りなさが心を占める。

 瞳を開くと、問いかけるような、何かを訴えるように見つめる瞳とぶつかった。

 徐に視線を逸らし、恐る恐るアレフ様の背に腕を回す。

 ぎゅっとしがみつくようにアレフ様の胸へ顔を埋め、私は頷いた。



 大胆かな?

 はしたないかな?

 はした、ない、よね。

 淑女のすることじゃないわ。

 離れようとしたら、骨が折れるのでは? と思うほど強く抱き締められた。

 痛い。

 肺の中の空気が、全て押し出されたかのように抱き締められる。

 痛いのに、応えるように、私も腕に力を込める。

 そして。

 ゆっくりとお互いの身体が離れていく。

 不思議と、抱き締められている時よりも鼓動が速くなった気がする。

 直視できずに、俯いたまま瞳を閉じると、唇に何かが触れた。



 ほんの数秒くらいだと思うけれど、緊張の為か、うまく呼吸ができなくて苦しい。

 ゆっくりと触れていたものが離れ、ほっとしていると。



「リリー」



 名前を呼ばれて瞳を開ける。

 微笑んでいるアレフ様が視界一杯に広がっていた。

 何もかもお見通しのようで、下を向こうとする前に顔に手が添えられる。

 下を向くのを諦めて、アレフ様を見つめると、更に甘い笑顔を浮かべていた。



「ちゃんと息をしないと、苦しくなるよ?」


「だって……」



 恥ずかしくてできないよ。



「じゃ、マウスツーマウスかな?」


「? まうす?」




 ネズミ? なぜ、ここでネズミなの?

 違う。

 マウスツーマウスは、どこかで聞いたことがあるような?



「人工呼吸だよ」



 そうだ、保体の授業で習ったんだ。

 って、えっ!

 思わず、首を振る。

 私の慌てる様子を楽しそうに笑う。



「そう? 残念だ」



 アレフ様が、瞳を閉じる。

 今度のキスは、長かった。



 お互いの息遣いが感じられ、気持ちが浮き立ってくる。

 胸の奥が疼くように痺れる。

 どうにかしたくても、胸の痺れは収まらなかった。

 段々、身体から力が抜けていく。

 背に回していた腕は、滑り落ち、だらりと下へ落ちる。

 足にも力が入らず、崩れそうになる寸前で、背中に回されたアレフ様の腕に支えられて何とか、立っている。

 特別に太いわけではないアレフ様の腕は、私を片腕だけで支えても、揺らぐことはなかった。

 唇が離れ、瞳を開ける。

 なぜか、視界が滲み、よく見えない。

 ゆっくり瞳を閉じると、私たちは啄むようなキスを繰り返した。



*******



 いつの間にか、アレフ様の胸にもたれ、寄りかかるように立っていたみたい。

 アレフ様に捕まりながら、自分の足でしっかりと地面に立つ。

 先程までの脱力感はどこにもない。

 もぞもぞと動く私に気付き、抱き締められる。



「なんだよ。気が付いたら、すぐ、離れようとするのか?」


「当然ですわ。ここは、ホールの庭園ですのよ? 誰かに見られたら大変ですわ」


「ダンスパーティは無礼講だろ。」


「そういう問題じゃありません。恥ずかしいではありませんか」


「それなら、もう、手遅れだろ。今更だ」


「そんなことを言わずに、お放しになってください」


「嫌だ」


「アレフ様!」


「じゃ、あと10秒」


「子供っぽいことを言わないでください」


「俺が、嫌だって言ってる事を言う、リリーが悪い」


「アレフ様!」


「早く数えないと、いつまで経っても10秒は始まらないぞ」


「もう!1、2、3……」


 一気に数えてやる。

 私は早口に数字を数え始める。


「4、5、6ふぐっ」



 私はアレフ様を睨みつけるように見上げた。

 口に、押えつけられた手は、離れない。

 悪戯っぽく笑いを浮かべている。



「リリーは、10まで数を数えることができないんだな。って、悪かったよ。そんなに睨むなよ」



 ようやく、アレフ様の腕の中から脱出した私は、周りを見廻す。

 誰もいなかったので、ホッとする。



「大丈夫だよ。リリーのあんな表情を、他の奴らに見せてやるつもりは俺にもないから」


「あんな表情って、私はどんな表情をしていたと言うのですか?」



 よっぽど、ひどい表情をしていたのかな?

 けれど、教えてはもらえなかった。



「リリーにも教えない。俺だけの秘密だ」



 そう言って、笑いながら髪を撫でられる。

 気になるのに。

 教えてくれないなら、最初から言わないでほしいわ。



「そろそろホールに戻るか。踊り疲れた奴らが増えて来る頃だろう」


「ええ」



 差し出された手を握り、静かに庭園を歩く。

 月の姫、かぁ。

 かぐや姫は月に帰ったのよね。

 なぜ、帰ったのかな?

 帰りたかったから? それとも、帰りたくなかったけれど、決まりには逆らえなかったのかな?

 私は?

 時が来たら、帰れるのかな?

 帰るときは、来たときと同じく、一瞬なの?

 こんなに好きになって、アレフ様のいない世界に戻されて、私は平気?

 ゲームのアレフ様と違って、悪戯なことはするし、子供っぽいし、少し我儘で。

 君セナをプレイしていたときに、想像していたアレフ様とは全くの別人みたいな、この世界のアレフ様。

 私は、今のアレフ様が好き。

 元の世界に戻ったときに、忘れてしまうのかな?

 隣を歩くアレフ様を見上げると、月の光に照らされて優しく微笑んでいた。

 微笑み返して、再び、前を向く。



 もし。

 全てを置いて元の世界に戻らなければいけなかったとしても、想い出だけは持って帰ろう。

 いつ戻ってもいいように、絶対に、後悔だけはしたくない。



 リリアーナは大嫌いだった。

 けれど、元の自分も、大して好きではなかったでしょ?

 それなら自分が自分を好きになれるように努力すればいいじゃない。

 私に起こった、説明できない不可思議な現象だけど、今を楽しむの。

 そうよ、君セナにも書かれていたじゃない。

 学園での3年間。どう過ごすか、プレイの仕方は貴女わたし次第って。



 テラスに近づくと、次第に人の姿が増え始めた。



「大分、遠くまで歩いていたのですね」


「そうだな。行きは話しながらだったから、気付かなかったよ」



 そういえば、ずっと考ごとをしながら歩いていたんだわ。



「あの、ごめんなさい」


「ん? 何がだ?」


「私、考え事をしていて」


「ああ。あんな風に見つめられたら、何も言えないよ」


「え?」



 1度だけアレフ様を見上げたけれど、それ以外にも、知らず知らずに見つめていたの?



「あの」


「キャー!!」



 私の声がかき消されるように、黄色い歓声が響く。

 アレフ様が、私の顔の高さに顔を近づけていた。



「ご、誤解されます!」


「俺たちは、国公認の婚約者フィアンセだ。問題ない」


「大いにありますわ!」


「他の者がいる前で、そんな表情をする、リリーが悪いんだ」


「誰がさせているんですか。誰が!」



 唸るような勢いで私が言うと、悪かったと笑いながら言って、ようやく普通の高さに戻った。

 ドレスコードの為、私はお借りしていた上着を返して、ホールに戻る。

 外と違って風が無いとは言え、少し肌寒い。

 ダンスを踊っているカップルは少なく、その内の2組は、シャムエラとクラウディオ様、もう1組はエイミーとジョナス様だった。

 その後、パートナーチェンジをして、シャムエラとジョナス様、エイミーとクラウディオ様が踊っていた。



 私が待ち望んでいた、新入生歓迎ダンスパーティーはこうして、幕を下りた。

この37話で、一応、(旧)あらすじの部分は終わりです。

38話ができたら、章管理を手掛けてみようかなと思っていたりします。

今、見ると、あらすじも異様に長いですよね。

色々といじるかもです。


お読みいただきまして、ありがとうございます。


色々弄り、古いあらすじも紛失したので、(旧)をつけました。2015/11/6


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