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エクリプス  作者: 元蔵
第1章 全身全霊をかけてあなたに恋します
34/98

34.主人公のイベ無双

 開場の時間になり、ホールに人が集まってきた。

 まだ、かかるのかな。

 壁を背に、1人で立っているのも退屈だよね。

 真剣な表情で、何かを話し合われているアレフ様がたを見て、こっそりとため息をついた。

 エイミーか、もしくはシャムエラ、せめて顔見知りのクラスメートでもいないかと探して見たものの、2人の姿は見えず、クラスメートにはペアのお相手がいるのを見て、お邪魔虫よねと諦める。

 携帯電話でもあればいいけれど、学園では持ち込み不可となっている。

 ミセスブラウンから持たされたポーチに、何か面白いものでも入っていないかな?

 ハンカチとポケットティシュー、生徒手帳とボールペン、あ、扇子が入っている。

 扇子を広げてみると、深緑色のクローバーが描かれている。

 よく見てみると、クローバーの中には数が少ないけれど、四葉のクローバーもある。

 妖精の遊び心かな。

 シロツメクサやアカツメクサも描かれ、とてもかわいい。

 扇いだら、魔法でも発動するかな?

 1人、扇子を扇いでみたけれど、小さな風が来るだけだった。



「おや。1人ですか?」



 ルカ先生だ。

 ルカ先生も普段のスーツではなく、黒いタキシードを着ている。



「はい。アレフレッド殿下は挨拶の打合せをしているので、待ち惚けですわ」


「そうでしたか。打合せが長引いていると言うよりは、来年以降の為に手順を確認されているのでしょう。クラウディオ殿下も、そのようにしていらっしゃいましたから」


「そうだったのですね」



 アレフ様の横に立つ、白いタキシードを着たクラウディオ様。

 襟と蝶ネクタイは濃紺で、袖口、ポケットにも同じ濃紺のパイピングがされている。

 真剣な表情で並ぶ二人の姿は、まるで1枚の絵画のようだ。

 思わず見惚れていると、ルカ先生の声が聞こえた。



「リリアーナは、両殿下の姿を見ているだけで、退屈とは無縁のようですね」


「そ!そんなことございませんわ」


「照れなくても、よろしいですよ」


「照れてなんておりません!」


「そうですか? では、そう言うことにしておきましょうか。では、私はそろそろ行きますね」


「はい。失礼いたします」



 にこやかに去って行く、ルカ先生。

 壁際に1人で立つ私を気に掛けてくれたのだろう。

 ゲーム設定に違わず、優しい先生だわ。

 ルカ先生の方を見ると、シャムエラが見えた。

 一緒にいるのは、隣国からの留学生、ウィサム・トゥールーズ様だ!

 隣国だからか関西弁を話すウィサム様は、当然のごとく攻略対象キャラの1人。

 最初の好感度は高く、アレフ様よりもすぐに親しくなれる。

 但し、彼を攻略するのは大変でイベントを沢山行っても一定の好感度からは、中々上がらなくなるのだ。

 ルカ先生が2人と話している。

 片方は留学生、もう片方は貴族では無く、一般家庭の生徒。

 気に掛けるのは当然よね。

 ん? あのメガネは、ロイク・チェルシー様だ。


 攻略キャラがクラスメートと担任と言うこともあって、3人も主人公の側に揃っているよ。

 うわー! 何を話しているんだろう?

 気になるけれど、遠いなぁ。

 んー。ここまで聞こえないかな?

 この場から勝手に離れることもできず、必死にシャムエラたちを見ていると、クリフ様に呼ばれた。



「リリー。お前、何やってんだ?」


「今、いいところなの。気にしないで」


「ハァ? 何がいいところなんだ?」


「主人公の側に、攻略キャラが3人もいるのよ! コレで……」


「主人公? 攻略キャラ? 何のことだ?」



 ここまで言って、誰と話しているか現実に戻る私。

 声のする方を見ると、クリフ様は一緒になって、私が見ている方を見ていた。



「意味、わかんねーよ。どういうことだ?」



 クリフ様が私を見て言った。

 ど、どうしよう?

 どうやって、誤魔化そう。



「ごきげんよう、クリフ様。素敵なお召し物ですわね。とてもお似合いですわ」


「へ? あ、ああ。リリーもよく似合っているぞ」



 私は社交辞令で誤魔化すことにしたら、クリフ様は突然の社交辞令にも難なく対応してくる。

 よし、話を逸らそう。



「ありがとうございます。妖精に頼んで作っていただいたのですよ」


「妖精? そりゃ、変わったところで仕立てたんだな」


「そうですか?」


「ああ。大体、どうやって妖精に頼んだんだよ」


「さぁ?」


「さぁ? ってお前、自分のことだろう?」



 呆れたように言うクリフ様に反論する。



「仕方がありませんわ。覚えていないのですもの。私は、仕上がったと連絡が着て、受け取ったのですわ」


「へぇ。まぁ、よく似合っているからいいんじゃないか」


「ありがとうございます。クリフ様」



 私たちが話していると、クラウディオ様とアレフ様がやってきた。

 私はクラウディオ様に対して、お辞儀をする。



「やぁ、リリアーナ。早くに来てもらったのに、ずっと待たせて悪かったな」


「恐れ入りますわ。クラウディオ殿下」


「更に、悪いが、アレフには挨拶が終わるまで、我々と一緒にいてもらうつもりだ。良ければリリアーナとクリフも一緒にこちらへ来ないか?」


「オレは別にどっちでもいいぜ」


「クリフ様はともかく、私は部外者ですし、ご迷惑では、ありませんか?」


「迷惑なことは無い。リリーを1人にしておくことが、逆に不安であるからな」



 そう言って、クラウディオ様はアレフ様を見た。

 視線を逸らすように、アレフ様は逆の方を見る。

 どうしたのだろう?

 なぜか機嫌が悪いみたい。

 私が行くと、アレフ様には迷惑なのかな?

 返答に困っていると、イライラした様子でアレフ様が言った。



「ああ、っもう! いいから、来い! 兄上、先に行ってます」



 アレフ様は私の手を掴むと、歩き出した。

 突然のことに、よろけながら付いて行く。

 後ろを振り返ると、みんなが話ながら苦笑いをしていた。



「やれやれ。アレフレッド殿下は、素直じゃないな」


「そう言うが、ジョナス。お前の行動が一因なのだぞ」


「わかっていますよ。ものすごい殺気を放っていましたからね」


「リリーが近くにいたのに、殺気を放つってどういうことだよ」


「ああ。リリアーナは、気付いてはいないさ。俺の陰にかくれていたからな」


「わかっていてやったのか。それだから、アレフが怒ったのだろう。何も知らないリリーが不憫だ」


「はいはい。反省しますよ。殿下。リリアーナには後で謝っておきます。たっぷりと時間を掛けてね」



 クリフ様が続いて話をされていたみたいだったけれど、離れすぎたからか聞き取れなかった。

 ホールの端の方とは言え、早足で歩く私たちは目立ってしまう。

 好奇な視線を浴び、恥ずかしくて仕方が無い。

 アレフ様は、ホールを突っ切ると、黒いドアを開けて入って行く。

 そこは、10人くらいが座ることのできるテーブルとソファーがある、応接室になっていた。

 勢いを変えず、そのまま奥の壁まで歩き、ようやくアレフ様が止まった。

 転ばずに済んで安堵をしつつ、上がった息を落ち着かせるため、深呼吸をする。



「アレフ様、私がいたら、迷惑ですか?」


「どうして、迷惑になるんだ?」


「なんだか、怒っていらっしゃるからですわ」


「怒ってなんかいない」


「怒っていますわ」


「怒ってない」


 怒ってるようにしか見えないけれど。

 アレフ様を見上げると、どう見ても怒っているようだ。



「リリー。さっき、ジョナスと何を話していたの?」


「え? ジョナス様とですか?」


「ああ」



 そう言うと、アレフ様は私をクルリと回し、立つ位置を変える。

 私を壁との間に閉じ込め、両腕で挟むように立つ。

 突然のことに、思考が付いていけない。



「?!」


「リリー? 言えないようなことなのか?」


「いえ。1人で退屈そうにしていた私を見かねて、飲み物を持ってきてくれたのですわ」


「それで?」


「いつもと違うと、褒めてくださいました」



 なんと言われたかまでは、恥ずかしくて言葉にはできない。



「ふーん。それで、ダンスに誘われでもした?」



 耳元で囁かれ、胸の奥がゾクゾクする。



「ちゃんと、お断りしました」


「そう?」


「ええ」


「ルカ先生とは?」


「ルカ、せんせい?」



 耳元で囁かれ、時々アレフ様の頬が私に触れる。

 触れる度に、心臓が身体から出てきちゃうんじゃないかって思うくらい激しくなった。

 声になっているのか、なっていないような声が私の口から漏れる。



「話し終わった後も、先生を追って見ていたようだけど?」


「それは、シャムエラ様が見えたから」


「シャムエラ? ああ、そう言えば、仲良さそうだったね」


「ええ。あの、アレフ様」


「なに?」



 耳元で話すのを止め、私の顔の前に、アレフ様のお顔が正面に来る。

 少しでも動けば、鼻がぶつかりそうな位近い距離で、不敵な笑みを浮かべている。

 怒ってはいない様子に、さっきまでの恐怖は消えたけれど、言いようの無い気持ちが胸を占める。



 視界には、アレフ様しか映らない。

 逃げることも目を逸らすこともできず、私は瞳を大きく見開く。

 私の胸を占めるこの気持ちは、不安なの? それとも、期待なの?

 少し、瞳が潤み、私は震えた声で話す。



「どうか、なさったのですか? なぜ、このような……。少し、辛いですわ。」


「そうだな。座ろうか」



 ようやくホッとして、アレフ様とソファーへ移動する。

 私に背を向けたまま、ポツリと言う声が聞こえた。



「悪い。リリーを泣かせたかったんじゃないんだ」



 私は、こくんと頷く。

 見えないことと、わかってはいたけれど。


お読みいただきましてありがとうございます。

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