32.ミセスブラウンの会話の後で
私は困ってしまって、ミセスブラウンとハメスさんを見る。
ミセスブラウンは驚いた表情で固まっていた。
「申し訳ありません。最近のアレフ様は何かと、あのような態度でして」
ため息をつきながら、ハメスさんが言う。
ゲームのアレフ様は感情の波が無いのでは? って思うくらい常に穏やかだったけれど、普通に考えると、それって感情が偏ってるようなものよね。
今のアレフ様は、人間味溢れてるような気がする。
ゲームのアレフ様とは似ても似つかないし、王子らしくないって言うシャムエラの言葉の通りだけれど。
それにしても、ナザリト先生と何かあったのかな?
「ハメスさん。アレフ様のところへ行ってもよろしいですか?」
「構いませんが、少し時間を置いた方がよろしいかと存じます」
「ありがとうございます、ハメスさん。けれど、今、このままにしてはいけない気がしますから」
開いたままのドアをノックして、私はアレフ様が入った部屋へ入る。
部屋はベッドと机があり、クローゼットの前には乱雑に剣や鉄アレイが置かれている。
アレフ様はベッドの端で俯いて座っていた。
「アレフ様」
呼びかけると、驚いたように振り向く。
ノックの音も聞こえないくらい、今度は落ち込んでいるのね。
「そちらに行ってもよろしいですか?」
「ああ」
私がアレフ様のそばに行こうとすると、反対に立ち上がって、ドアに向かって行く。
部屋から出て行くの?
「迷惑でしたか?」
「いや、そんなことはないよ」
アレフ様はドアを閉めると、私の方へ戻って来る。
「立っていないで座ったらどうだ?」
「ええ」
返事をしたものの、どこに座ったらいいのかわからなかった。
部屋には、学習用の机とイスはあるが、ソファーは無い。
ベッドに腰掛けるのは少し気恥ずかしい。
アレフ様を見ると、彼はさっさとイスに座ってしまった。
仕方ないわ。
私はちょこんと、ベッドに浅く腰掛ける。
ここでアレフ様は寝ているのね。
恥ずかしさが込み上げてくるけれど、なるべく平静を装う。
意識しなければ大丈夫よ。
「それで? どうしたんだ?」
「どうしたって、突然、部屋を出て行かれたのですもの。気になって来たのです。ミセスブラウンなんて驚いてフリーズしてしまいましたわ」
「ああ。それは悪かったな。ミセスブラウンが悪いわけじゃないんだ。わかってるよ、俺が悪いことくらい」
アレフ様はまた、俯いてしまう。
手紙を読んでから来れば良かったわ。
「手紙を読んでいないのでわかりませんが、なぜ、そんなにお怒りになって、そんなに落ち込んでいらっしゃいますの?」
「それ、本人に直接聞くか?」
言われてハッと気付く。
「ごめんなさい。……でも、話してもらわないとわかりませんから」
アレフ様は俯いたまま
「そうだよな」
と、小さくつぶやく。
そして、顔を上げて言った。
「今日は悪かったよ。反省する」
少し考えてから、アレフ様は改めて話しかけてきた。
「なぁ、リリー」
「はい」
「ナザリトに残るように言われたら、俺も一緒にいていいか?」
「私は構いませんが」
私の答えに明るく笑う。
「ハハハ、そうだよな。リリーはそうだよな」
なぜ、笑い出すのだろう?
もしかして、私変なこと言ったのかな?
それとも、ちょっとバカにされてるの?
「なぜ、笑うのですか」
「いや、安心したんだよ」
少し、腑に落ちないものの、アレフ様の機嫌は直ったみたいね。
本当になんだったのかな。
「そう言えば、リリー」
「なんですか?」
「ミセスブラウンの話の後に言うって、言ってただろう?」
忘れてた!
新歓ダンパのエスコート!
「あの、ですね」
「ああ」
今日、他の女子生徒への断り方を見ていると、私と踊りたくないと言うよりは、ダンスをしたくないのかな?と思えてくる。
嫌なことを無理強いしている気持ちに思えてくる。
でも、やっぱり私はアレフ様と踊りたい。
「新入生歓迎ダンスパーティのことです」
思い切って言ってみると、案の定、呆れたような表情をされる。
「また、それかよ」
「何度でも言いますわ。私はアレフ様と一緒に踊りたいのです。それに、そうですよ。今日、私がいるからって断っていたじゃないですか! もし、私と踊らないって知られると、今日よりも沢山申し込みに来られるかもしれませんよ。いいのですか?」
「逆切れかよ。脅されてるんですけど」
「今日だって、クラスの皆さまがとても迷惑されてましたわ。それで、私、あの場に行ったのですよ」
「そうだったのか?」
「正確には、連れて行かれたようなものですけれど」
「そうか。色々と悪かったな」
ふっと、微笑まれたアレフ様は、イスから降りて私の前に立つ。
何だろう?
見上げていると、アレフ様は畏まったように片膝を着く。
そして、私の右手を取ると、私の目を見て囁くように言った。
「リリアーナ、私にダンスパーティのエスコートを任せてくれないか?」
はい、と返事をしたつもりだったけれど、声は掠れて出なかった。
そんな私を見て、アレフ様は更に優しく微笑む。
「ありがとう」
と、つぶやいて私の指先に軽くキスをした。
もう! 止めてよ!
なんなのよ!
ドキドキしてばっかりだと、心臓に悪いんだから!!
お読みいただき、ありがとうございます。




