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エクリプス  作者: 元蔵
第1章 全身全霊をかけてあなたに恋します
31/98

31.わがままな想い

婚約者の読み方を《フィアンセ》に変更しました。

それぞれのページの1番最初に書いた『婚約者』にだけルビを振っています。


 ノックされ、ドアが開く。

 ハメスさんだ。



「殿下。ミセスブラウンは後5分程で、こちらに到着するそうです」


「わかった」


「それと、ナザリト先生から連絡がございました。」


「ナザリトから?」



 怪訝そうにアレフ様が尋ねる。



「はい。今日のことで、後で報告したいとのことです」


「わかったと伝えてくれ」


「承知しました。次に、」


「まだ何かあるのかよ?」



 アレフ様の声に苛立ちが込められてきたわ。



「はい。此度のことが、クリフトス様のお耳に入ったようで、これからこちらに向かうと連絡がございました」



 さすがに慣れているのか、アレフ様の様子にもハメスさんは動じないわね。



「わかった。断ったところで、来るだろうしな」


「ああ。その通りだよ」



 声がする方を見ると、クリフ様が立っていた。



「早いな」


「隣の部屋だしな。って、本当にリリーが来ているのか。クラ兄にバレたら、大目玉だぜ?」



 え? 私?

 そう思ったのは、私だけじゃ無かったらしく、アレフ様も聞き返す。



「クリフ、用件は何についてだ?」


「ハァ? 入学前にクラ兄と約束しただろ。この寮に女子生徒は連れてこないって。忘れたのかよ?」


「入学前か。……ああ。そう言えば、そんな約束をしたような気がするな。忘れていた」


「ルカ先生もおっしゃっていましたわ。『それぞれの寮は、異性の立ち入りを禁止しています』って。私、王族専用の寮なので許されているのかな?と、思っていたのですが」


「そんなワケあるかよ! アレフ、お前、最近忘れっぽいぞ! どうしたんだよ。」


「ああ、すまん。気を付けるよ」


「ったく。ところで、何かあったのか?」



 クリフ様が、私たちの正面にあるソファーに座りながら聞いてきた。

 ハメスさんが飲み物を運んでくれたので、それぞれグラスに手を伸ばす。



「ああ。そっちの件でクリフが来たのだと思っていたんだよ。実は、リリーに掛けていたプロテクトが解けかかっているんだ。それで今、ミセスブラウンに来てもらうところなんだ」


「ふーん。オレ、そのことあまり知らねーんだよな」


「大したことではないよ。リリーは生まれたころから魔力が高かったから、些細なことで無意識に魔法が発動していたんだ。それで、自分の意思でコントロールできるようになるまで、魔法が発動しないようにしたんだよ。また王宮が壊されたら、大ごとになるから」


「王宮? お前らの婚約発表の次の日に壊れた離れって、もしかして」


「ああ。情報操作をして隠蔽したけれど、寝ぼけたリリーがやったんだよ」


「私、そんなことをしたのですか?」



 私の問いに2人は呆れたような表情を浮かべる。

 さすがは従兄弟ね、そっくりだわ。


「やれやれ。やった本人が覚えていねーとはよ」



 仕方ないじゃない。

 本人リリアーナの過去はゲームでの知識しか知らないんだもの。


「プロテクトの所為かもしれないけれど、忘れるとはなぁ。俺は、建物が崩れ、悲鳴が聞こえる中、リリーが泣き叫ぶのを宥めたんだ」


「うわ……。なんで、リリーは泣いてたんだよ?」



 クリフ様の問いに、私は首を振る。

 知らないものは答えようがない。



「ああ。お気に入りのぬいぐるみが俺に変わったと思ったらしい、。更に見知らぬ部屋だったことに驚いたって言ってたな。……とんだ婚約の義だな」



 アレフ様。よく覚えているのね。



「確か、反対側の床に落ちていたぬいぐるみを見せたら、泣き止んだんだよな」


「アレフ、お前、よく生きていたな」


「ハハハッ。全くだ」


 笑うアレフ様に、クリフ様はため息をつき、立ち上がる。



「じゃ、オレ。そろそろ戻るぜ。あんま、クラ兄が怒ることすんなよ。オレにまでトバッチリが来たら堪らねえからな」


「何、言ってんだ。兄上が怒るのは趣味みたいなものだろ。俺が怒られているからクリフにいかないだけだ。少しは感謝しろよな」



 歩いていたクリフ様はドアの手前で振り返る。



「感謝なんかするかよ。じゃあな」


「ああ」



 部屋を出て行くクリフ様と入れ替わるように、ミセスブラウンを伴ったハメスさんが入ってくる。



「殿下、ミセスブラウンが到着いたしました」


「ああ。わざわざ来てもらって、すみません。ミセスブラウン」



 座ったままアレフ様が話しかけると、ミセスブラウンはとても優雅にお辞儀をする。

 しかし、どことなくぎこちなかった。



「勿体ないお言葉でございます、殿下」


「まずは座ってください。早速で申し訳ないですが、聞きたいことがあります」


「はい。失礼いたします」



 ミセスブラウンが緊張した面持ちでソファーに座るのを見て、ふと、思った。

 私は、このままアレフ様の横に座っていていいのかしら? と。

 いつもはミセスブラウンからお小言をもらっている私だけど、ベンフィカ家で雇っているメイドなのだから主従関係にあるのよね。

 正確な主はベンフィカ侯爵だろうけれど、この場にはいない。

 アレフ様は話を聞くだけと言ったのだから話を聞く以外はしないと思うけれど、いつもと違う口調に私にも王者の風格が漂う。

 緊張するのは仕方のないこととは言え、こんなに緊張したままのミセスブラウンをそのままにしていいものかな?



「失礼いたします」



 ハメスさんが紅茶を運んできた。



「リリーから、貴女が淹れる紅茶はおいしいと聞いていますが、ハメスの淹れる紅茶もよくできていますよ。良ければ、召し上がってください」


 アレフ様の言葉に、目を伏せるミセスブラウン。



「ありがたく存じます」



 アレフ様もミセスブラウンの様子に気付いているのか、中々切り出せずにいるようだ。

 でも、長引けば長引くほど、緊張は増すものよね。

 私はカップを持って立ち上がった。

 少しクラクラとするが、歩いてミセスブラウンの隣に座る。



「お嬢様」



 隣に座る私に驚くミセスブラウンに、私はニッコリと笑って、紅茶を飲む。



「ミセスブラウン、冷めてしまうわよ? それとも、冷たい物が良かったら、アレフ様秘蔵のコーラを持ってくるわ。隠し場所、バレバレなのよ」


「リリー、どうして知ってるんだ?」



 慌てるアレフ様に、ハメスさんの眼光が鋭くなる。

 適当に言ったのに、本当に隠しているのかな?



「滅相もありません。ありがたくいただきます」



 ミセスブラウンが紅茶を口にし、苦笑いを浮かべてアレフ様が話し始める。



「突然で悪いが、リリーのプリテクトについて知っていることを話してくれないか? 何分、俺も幼少のことで、詳しいことは覚えていないんだ」



 もう、先程の王子様風の話し方は止めたのね。

 ちょっと、ゲームのアレフ様っぽかったのにな。

 私がそんなことを考えていると、ミセスブラウンが静かに話し始める。



「あれは、建物の崩壊が収まった後、リリアーナ様は王宮の魔法院に運ばれました。当時7歳だったリリアーナ様の魔力は、宮廷魔術師様方を上回る力を秘めていたそうです。そこで、宮廷魔術師で一番魔力の強い、テェゼーナ様と大司祭様のチェルシー様でプロテクトの呪術を行っていただきました。詳細は私にもわかりかねますが、5時間ほど掛けて呪術は完成いたしました。そのときにいただいた、呪術に関する注意事項でございます」



 そう言って、ミセスブラウンは1通の手紙を取り出す。

 飾り気の無い白い封筒に、国教を表すダイヤの中心にハートを4つ並べて描かれたクローバーのマークと、もう1つは見たことがない三角形と逆三角形を組み合わせた六芒星で、中の六角形が目を表すようなマークだった。

 国教を表すマークは、攻略対象のロイク・チェルシー様が持っている持ち物に描かれているので、見たことがあった。

 ロイク様は華組の生徒で、大司教、いわゆるこの国の宗教のトップに君臨する人の孫って言う設定。

 登場キャラの内、唯一、癒し属性を持っているメガネキャラ。

 性格は癒し属性皆無で、怪我をしたら、お小言を言いながら怪我を治してくれる。

 小言が多いけれど、面倒見がいいタイプ。

 いけないいけない。

 思い出していたら、アレフ様とミセスブラウンで会話が終わってしまうわ。



「今まで、リリアーナ様のプロテクトは外れたことはありませんでした。万が一外れた場合には、掛け直すことは不可能だと言われております」



「ふぅん。確認して構わないかい?」


「はい。お確かめくださいませ」


「達筆過ぎて読みにくいな」



 苦笑いを浮かべながら、手紙を読んでいく。

 読み続けていくうちに、苦笑いから段々難しい顔をしていく。

 すぐ読み終わったアレフ様はイライラした様子で手紙をしまった。



「何もかも知っていたってことか」



 イラついた様子でつぶやいた。



「なんのことですか?」


「ナザリトだよ。何も知らないようなそぶりで話していたのに、テェゼーナ師が直接、ナザリトに頼んでいたんだ。プロテクトも16歳の誕生日の前には解けるから、リリーはコントロールする術を持たなければいけないと言うことも」


「それで今日、コントロールの方法を」


「だとしても、やり方が気に食わねー!」


「殿下。ナザリト先生は、兄弟子様であり、今はこの学園で教鞭を振るっている先生でございますよ」


「だから、なんなんだよ」


「殿下!兄弟子様には、敬意を払うべきでございます」



 アレフ様はムッとした様子で口ごもる。



「わかったよ。ナザリトから連絡が着たら呼んでくれ」



 そう言うと、アレフ様は立ち上がってお部屋から出て行ってしまった。


お読みいただきましてありがとうございます

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