30.貴方の悪戯と微笑みに
はぁ。
アレフ様がため息をつく。
なんでだろ?
私、間違ったこと言ってないわよね。
「本当にリリーは、トロくて、ドンくさくて、泣き虫で、……何もわかっちゃいない」
ギュっと、また腕に力が込められる。
この細い身体のどこにそんな力があるの?
締め付けられて、私の身体は痛みを訴える。
「痛いです。アレフ様」
「悪い」
降ろしてはくれなかったけど、腕の力が少し緩まった。
「あの」
「なんだ?」
「誰かに見られたら困ります。そろそろ降ろしてください」
「困ることなど、何もないだろう」
「あります。恥ずかしいですし。それに、また停学になったらどうするんでしか?」
「やれやれ」
また、私を抱きかかえるように持ち上げると、アレフ様は教室を移動する。
「リリーの席は、ここか?」
「はい。」
片手でイスを引き、そこに座らされる。
アレフ様から離れた瞬間、酷い虚脱感が私を襲う。
思わず普通に座っていられず、机の上に、くたりと倒れこんだ。
「え、あれ?」
身体に力が全く入らない。
なんとか上半身を起こして、イスに座りなおす。
「前の席を直してくるから、しばらくそうしていろ。多分、ナザリトが説明しているから、見られたとしても停学にはならない。安心しな。」
「はい」
机やイスを直すアレフ様をぼんやり見ながら、私は自分の状態を考える。
魔法を使った反動なのかな?
さっきまで、全然平気だったのに。
ううん。
気付かないように、アレフ様が支えてくれていたってことかな。
何度も抱えなおされてたものね。
それにしても、なぜ、私は魔法が使えないようにプロテクトされていたの?
ぼんやりしていると、直し終わったアレフ様が戻ってくる。
「リリーの鞄はこれか?」
「はい。自分で持ちますわ」
「いや、いい」
アレフ様は自分の鞄と2つを肩から下げ、私を持ち上げる。
「あの」
「まさか、まだ、自分で歩けるって思ってはいないよな?」
うぐ。
先に言われてしまった。
もう少し休めば、歩けるかもしれないのに。
黙った私を見て肯定したと判断したのか、アレフ様は抱きかかえ直し、歩き出した。
校舎を出るまで、誰にも会わなくて、安堵する。
もう、生徒たちはみな帰ったのだろう。
「重くないのですか?」
「ん? ああ。スゲー重い」
やっぱり重いの?
「降ろしてください! 自分で歩きますわ!」
掴まっていた手の角度を変え、上半身を持ち上げる。
フラフラするが、気にしてはいられない。
歩けなかったら、歩けるようになるまで休憩すればいいのよ。
後は、足を下ろすだけ。
「うわ! リリー、止せ! 冗談だ! 暴れるのを止めろ!!」
アレフ様は慌てて手近な木にもたれると、私が降りられない高さへと持ち上げる。
「きゃあ!」
高さと角度が急に変わったことでバランスを崩し、思わずアレフ様の首にしがみつく。
「もうすぐ着くから。これ以上、心配事の種を増やさないでくれ」
「わかりました」
私を抱えなおすと、また歩き出す。
見たことのない道を抜けると、アレフ様の寮に着いた。
こんなに近かったかな?
寮の中には沢山の人がいて、私を抱えたまま寮を歩くアレフ様を、誰も咎めもしない。
私は恥ずかしさのあまり、アレフ様で顔を隠した。
しばらく時間が経ったと思うのに、まだ歩いてる。
まだ、着かないのかな?
そう、思っていると、声が聞こえた。
「そろそろ降ろして差し上げたらいかがですか。殿下」
ハメスさんの声だわ。
じゃあ、ここはアレフ様のお部屋に着いたってことかしら?
そろそろってどういうこと?
アレフ様が止まるのを待ってみるものの、一向に止まる気配はない。
私は隠していた顔を上げる。
「着いたのですか?」
前にも見た、アレフ様のお部屋だ。
笑いを堪えているハメスさんがいる。
アレフ様を見上げると、ムッとした表情でハメスさんを睨みつけていた。
「ハメスが言うから、リリーが気付いたじゃないか」
「さすがにリリアーナ様がおかわいそうでございます、殿下。そして、私は限界でございます」
ハメスさんは後ろを向き、笑っていた。
「アレフ様? どういうことですか?」
私は疑いの籠った目でアレフ様を見上げる。
「リリーがいけないんだ」
「そ、それは、事の発端は私ですけれど、でも」
なぜ、ハメスさんはこんなに笑っているの?
「殿下はお部屋に戻られてからも、お部屋の中を歩き回ったのです。リリアーナ様が気付くまでとおっしゃって」
え? なんですって?
「降りる、降りると言っていただろ。だけど、何も言わなかったら後10分くらいは気付かなかったんじゃないか?」
ドサッ。
笑って私を抱えたまま、アレフ様はソファーに腰を下ろす。
腕は回されたまま。
「酷いです。からかっていたのですね」
私はアレフ様の腕をずらし、アレフ様の隣に移動する。
「それに、もう、何ともありませんわ」
まだ身体が重い感じがするが、動けないと言うほどではなくなった。
「からかって悪かったな。そう、怒るな」
「怒ってなんかいません」
私は勢いよくそっぽを向いた。
まだ、アレフ様の笑い声が聞こえるので、そのまま他所を向き続ける。
しばらくそのままでいると、ポフっと頭を触られる。
アレフ様を見ると、優し気に笑って私の頭をなでている。
「機嫌直せよ」
そんな笑顔、反則じゃない。
思わず見惚れていると、そんな私に気付いてか、さらに優しく微笑んでいる。
もう。
何も、言えないじゃない。
私、今、どんな顔しているんだろう?
「ハメス」
「いかがなさいましたか」
後ろからハメスさんの声がした。
そうよね。
当然いるわよね。
「ミセスブラウンに、すぐ、ここへ来るよう連絡を頼む」
「かしこまりました。既に、リリアーナ様がこちらにいることは連絡済みでございますが、どのようなご用件にいたしますか?」
「りりーのプロテクトが解けていると。王宮に連絡する前に、詳しい話が聞きたい」
「承知いたしました」
かすかにドアが閉まる音が聞こえた。
「そう言えば、何か用があったんじゃないのか?」
頭を撫でていた手が、髪を梳くように動かされる。
「あの、アレフ様も話があるって言ってましたわ。アレフ様から話してください」
「うん……」
しばらく無言で、アレフ様は私の髪を梳くように弄ぶ。
「くすぐったいですわ」
「ああ」
アレフ様は一度、瞳を閉じる。
せっかく巻いてもらったのに、 私の巻き髪はどんどん無残に崩れていく。
「すまなかったな」
ポツリとアレフ様が言った。
「え?」
アレフ様は私を真っ直ぐに見つめて、言葉を続ける。
「停学になったことで、心配をかけてしまったな」
「いえ、停学になったのは、私の所為ですもの」
「泣かせるなと、兄上に叱られたよ」
「クラウディオ殿下が」
「あと、転ばすなともね」
「まあ。それは余計ですわ」
少し口を尖らせるように言うと、アレフ様は短く笑う。
そして、表情を戻し、改まって言う。
「ありがとう」
「どういたしまして」
私たちは自然に笑いあった。
「ところで、リリーの用事は何だったんだ?」
アレフ様が思い出したように言う。
え?
このいい雰囲気の中で言わせるの?
私は少し考えてから言った。
「 31 の後で言いますわ。」
「なんだよ? それ」
「今はまだお話しできません」
もう!
こんなところで思い出さないでよ。
いいムードが台無しだわ!!
残暑お見舞い申し上げます。
気付けば投稿を始めてから1ヶ月が経ち、この話で30話となりました。
ブックマークをしてくださった方、ありがとうございます。
投稿しても、誰にも読んでもらえないんじゃないかと思っていたので、正直なところ、とても驚いています。
よろしければ、お気軽に感想や評価をしてもらえると更に嬉しいです。
このようなあとがきをも、最後までお読みいただきありがとうございます。
これからもお付き合いの程、よろしくお願いします。
2015年8月14日 元蔵(こんな名前ですが一応女です)




