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エクリプス  作者: 元蔵
第1章 全身全霊をかけてあなたに恋します
30/98

30.貴方の悪戯と微笑みに

 はぁ。

 アレフ様がため息をつく。

 なんでだろ?

 私、間違ったこと言ってないわよね。



「本当にリリーは、トロくて、ドンくさくて、泣き虫で、……何もわかっちゃいない」



 ギュっと、また腕に力が込められる。

 この細い身体のどこにそんな力があるの?

 締め付けられて、私の身体は痛みを訴える。



「痛いです。アレフ様」


「悪い」



 降ろしてはくれなかったけど、腕の力が少し緩まった。



「あの」


「なんだ?」


「誰かに見られたら困ります。そろそろ降ろしてください」


「困ることなど、何もないだろう」


「あります。恥ずかしいですし。それに、また停学になったらどうするんでしか?」


「やれやれ」



 また、私を抱きかかえるように持ち上げると、アレフ様は教室を移動する。



「リリーの席は、ここか?」


「はい。」



 片手でイスを引き、そこに座らされる。

 アレフ様から離れた瞬間、酷い虚脱感が私を襲う。

 思わず普通に座っていられず、机の上に、くたりと倒れこんだ。



「え、あれ?」



 身体に力が全く入らない。

 なんとか上半身を起こして、イスに座りなおす。


「前の席を直してくるから、しばらくそうしていろ。多分、ナザリトが説明しているから、見られたとしても停学にはならない。安心しな。」


「はい」



 机やイスを直すアレフ様をぼんやり見ながら、私は自分の状態を考える。

 魔法を使った反動なのかな?

 さっきまで、全然平気だったのに。

 ううん。

 気付かないように、アレフ様が支えてくれていたってことかな。

 何度も抱えなおされてたものね。

 それにしても、なぜ、私は魔法が使えないようにプロテクトされていたの?

 ぼんやりしていると、直し終わったアレフ様が戻ってくる。



「リリーの鞄はこれか?」


「はい。自分で持ちますわ」


「いや、いい」



 アレフ様は自分の鞄と2つを肩から下げ、私を持ち上げる。



「あの」


「まさか、まだ、自分で歩けるって思ってはいないよな?」



 うぐ。

 先に言われてしまった。

 もう少し休めば、歩けるかもしれないのに。

 黙った私を見て肯定したと判断したのか、アレフ様は抱きかかえ直し、歩き出した。

 校舎を出るまで、誰にも会わなくて、安堵する。

 もう、生徒たちはみな帰ったのだろう。



「重くないのですか?」


「ん? ああ。スゲー重い」



 やっぱり重いの?



「降ろしてください! 自分で歩きますわ!」



 掴まっていた手の角度を変え、上半身を持ち上げる。

 フラフラするが、気にしてはいられない。

 歩けなかったら、歩けるようになるまで休憩すればいいのよ。

 後は、足を下ろすだけ。



「うわ! リリー、止せ! 冗談だ! 暴れるのを止めろ!!」



 アレフ様は慌てて手近な木にもたれると、私が降りられない高さへと持ち上げる。



「きゃあ!」



 高さと角度が急に変わったことでバランスを崩し、思わずアレフ様の首にしがみつく。



「もうすぐ着くから。これ以上、心配事の種を増やさないでくれ」


「わかりました」



 私を抱えなおすと、また歩き出す。

 見たことのない道を抜けると、アレフ様の寮に着いた。

 こんなに近かったかな?

 寮の中には沢山の人がいて、私を抱えたまま寮を歩くアレフ様を、誰も咎めもしない。

 私は恥ずかしさのあまり、アレフ様で顔を隠した。



 しばらく時間が経ったと思うのに、まだ歩いてる。

 まだ、着かないのかな?

 そう、思っていると、声が聞こえた。



「そろそろ降ろして差し上げたらいかがですか。殿下」



 ハメスさんの声だわ。

 じゃあ、ここはアレフ様のお部屋に着いたってことかしら?

 そろそろってどういうこと?

 アレフ様が止まるのを待ってみるものの、一向に止まる気配はない。

 私は隠していた顔を上げる。



「着いたのですか?」



 前にも見た、アレフ様のお部屋だ。

 笑いを堪えているハメスさんがいる。

 アレフ様を見上げると、ムッとした表情でハメスさんを睨みつけていた。



「ハメスが言うから、リリーが気付いたじゃないか」


「さすがにリリアーナ様がおかわいそうでございます、殿下。そして、私は限界でございます」



 ハメスさんは後ろを向き、笑っていた。



「アレフ様? どういうことですか?」



 私は疑いの籠った目でアレフ様を見上げる。



「リリーがいけないんだ」


「そ、それは、事の発端は私ですけれど、でも」



 なぜ、ハメスさんはこんなに笑っているの?



「殿下はお部屋に戻られてからも、お部屋の中を歩き回ったのです。リリアーナ様が気付くまでとおっしゃって」



 え? なんですって?



「降りる、降りると言っていただろ。だけど、何も言わなかったら後10分くらいは気付かなかったんじゃないか?」



 ドサッ。



 笑って私を抱えたまま、アレフ様はソファーに腰を下ろす。

 腕は回されたまま。



「酷いです。からかっていたのですね」



 私はアレフ様の腕をずらし、アレフ様の隣に移動する。



「それに、もう、何ともありませんわ」



 まだ身体が重い感じがするが、動けないと言うほどではなくなった。



「からかって悪かったな。そう、怒るな」


「怒ってなんかいません」



 私は勢いよくそっぽを向いた。

 まだ、アレフ様の笑い声が聞こえるので、そのまま他所を向き続ける。

 しばらくそのままでいると、ポフっと頭を触られる。

 アレフ様を見ると、優し気に笑って私の頭をなでている。



「機嫌直せよ」



 そんな笑顔、反則じゃない。

 思わず見惚れていると、そんな私に気付いてか、さらに優しく微笑んでいる。

 もう。

 何も、言えないじゃない。

 私、今、どんな顔しているんだろう?



「ハメス」


「いかがなさいましたか」



 後ろからハメスさんの声がした。

 そうよね。

 当然いるわよね。



「ミセスブラウンに、すぐ、ここへ来るよう連絡を頼む」


「かしこまりました。既に、リリアーナ様がこちらにいることは連絡済みでございますが、どのようなご用件にいたしますか?」


「りりーのプロテクトが解けていると。王宮に連絡する前に、詳しい話が聞きたい」


「承知いたしました」



 かすかにドアが閉まる音が聞こえた。



「そう言えば、何か用があったんじゃないのか?」



 頭を撫でていた手が、髪を梳くように動かされる。



「あの、アレフ様も話があるって言ってましたわ。アレフ様から話してください」


「うん……」



 しばらく無言で、アレフ様は私の髪を梳くように弄ぶ。



「くすぐったいですわ」


「ああ」



 アレフ様は一度、瞳を閉じる。

 せっかく巻いてもらったのに、 私の巻き髪はどんどん無残に崩れていく。



「すまなかったな」



 ポツリとアレフ様が言った。



「え?」



 アレフ様は私を真っ直ぐに見つめて、言葉を続ける。



「停学になったことで、心配をかけてしまったな」


「いえ、停学になったのは、私の所為ですもの」


「泣かせるなと、兄上に叱られたよ」


「クラウディオ殿下が」


「あと、転ばすなともね」


「まあ。それは余計ですわ」


 少し口を尖らせるように言うと、アレフ様は短く笑う。

 そして、表情を戻し、改まって言う。


「ありがとう」


「どういたしまして」



 私たちは自然に笑いあった。




「ところで、リリーの用事は何だったんだ?」



 アレフ様が思い出したように言う。

 え?

 このいい雰囲気の中で言わせるの?

 私は少し考えてから言った。



  31  ミセスブラウンのかいわの後で言いますわ。」


「なんだよ? それ」


「今はまだお話しできません」



 もう!

 こんなところで思い出さないでよ。

 いいムードが台無しだわ!!

 

残暑お見舞い申し上げます。


気付けば投稿を始めてから1ヶ月が経ち、この話で30話となりました。


ブックマークをしてくださった方、ありがとうございます。

投稿しても、誰にも読んでもらえないんじゃないかと思っていたので、正直なところ、とても驚いています。

よろしければ、お気軽に感想や評価をしてもらえると更に嬉しいです。


このようなあとがきをも、最後までお読みいただきありがとうございます。

これからもお付き合いの程、よろしくお願いします。


2015年8月14日 元蔵(こんな名前ですが一応女です)


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