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エクリプス  作者: 元蔵
第1章 全身全霊をかけてあなたに恋します
29/98

29.個人授業はプロテクト

 どうしてこうなったのかな?



 放課後。

 私は自分の席ではなく、教卓の1番前の席に座る。

 私の隣には、怖い顔をしたアレフ様が座っていて。

 教壇の前にも、恐ろしい顔をしたナザリト先生がいて。



 ……この場から逃げ出してもいいでしょうか?



「始める前に、リリアーナ・ベンフィカ。なぜ男連れで私の補修を受けるのか、質問してよろしいか?」



 声にも凄みを効かせながら聞かれると、まるで尋問を受けているよう。



「あの。申し訳ありません。先にお約束をしていて、その……」



 説明はしたし、ちゃんと謝った。

 だけど、アレフ様は教室から出て行くどころか、怒った様子で隣にいるのよ。

 チラっとアレフ様を見ると、怒りの矛先をナザリト先生に向けたらしい。



「クラスは違いますが、同じ1年の生徒です。俺が補習に参加しても、不都合は無いでしょう」


「だが、アレフレッド・ソルーア。そなたは補習を受ける必要は無い。時間の無駄であろう」


「お言葉を返すようですが、この補習自体が無駄でしょう。リリアーナは魔法が使えない、と、学園に報告済みのはずです。」



 え? それってどういうことなの?

 ゲームでのリリアーナは魔法を使っていたわ。

 それに、魔法が使えないのなら、補習を受けても意味が無いよね。



「確かに報告は受けている。しかし、生徒の為に最善を尽くすのが教師の役割だ」


「では、生徒の1人として、希望すれば一緒に補習を受ける権利はあるでしょう。無駄かどうかは俺が決めます」



 怖い!

 ナザリト先生は普段から怖いけれど、アレフ様もクラウディオ様と同等の威圧感を出している。



 事の発端は、先程したアレフ様とのお約束に浮かれていた私が悪かった。

 一度会ってしまうと、恥ずかしさなんてどこかへ飛んで行き、会いたい気持ちだけが残ってしまって。


 今日の授業でも、私だけ魔法が発動しなかった。

 やっぱり、浮ついていたのかな?

 真面目にやっていたんだけどね。



「このクラスで1番魔力が高い、そなたが魔法を発動できぬとはな」


「すみません」


「放課後、残りなさい。補修を行う。他のものはここまでだ」



 ここでチャイムが鳴った。

 ナザリト先生は一度職員室へ戻り、クラスメイトたちは帰って行った。

 アレフ様に説明すると、なぜだか怒り出し、そこへ、戻ってきたナザリト先生がやってきたのだ。



 しばらく、睨みあうようにしていたが、



「好きにするがいい。では、始める」


「は、はい」



 ナザリト先生が折れたわ。

 できれば、補習を受ける所なんて見られたくないのに。

 アレフ様は鋭い視線をナザリト先生に向けている。

 それにしても、なぜ私は魔法が使えなくなったの?

 学園にも報告済って、何か理由があるのかしら?



「まずは、これを渡そう」



 ナザリト先生が取り出したのは、小さい水晶がはめ込まれたロッドだった。



「本来なら、両の手の平に魔力を集めるのが体感的にわかりやすいが、魔力の流れが理解できないと難しいだろう。杖は魔法のコントロールをしやすくするものだ。今回は、そのロッドを使ってみなさい」


「わかりました」



 ロッドは20cm位で、少し長い鉛筆のようだ。

 私はロッドを両手で持ち、水晶の先に風のイメージを送る。

 そよそよ、そよそよ。



 水晶の周りも、私の周りにも何も起こらない。

 そよそよのイメージが問題なのかしら?

 ロッドから視線をナザリト先生に向ける。

 真剣な表情でロッドを見ていたナザリト先生が口を開く。



「ふむ。魔力の流れに動きが見られないな。では、リリアーナ・ベンフィカ、手を出せ」



 言われたまま、ロッドを持った右手を前に出す。



「少し、無茶な方法かもしれぬが、魔力の動きを感じた方がいいだろう。失礼」



 最後のセリフはアレフ様に向かって言った。

 私もアレフ様を見ると、丁度、視線を逸らすように窓の方へ向けたところだった。



「よそ見をするな、リリアーナ」



 慌ててナザリト先生を見ると、前に出した右手首を掴まれる。

 


 ?!



 驚きのあまり、声にならない悲鳴が漏れる。

 ナザリト先生は私の様子も気にせず、集中しているようだ。

 段々、私の身体から何かをごっそりと奪われるような感覚と、疲労感が襲ってくる。



「魔力の流れを感じるのだ。これがそなたの魔法だ」



 ナザリト先生がそう言って、何かを呟く。

 突如、私の持つロッドから、30cm位の竜巻が出現した。

 くるくる回る小さいつむじ風。

 初めて見る、自分の魔法。

 まるで、バレエのようにくるくる回っているようだわ。



「こんな形で、無理やり発動させるとは」


「そうだな。少し無茶をしたようだ。プロテクトを外さない限り、1人では魔法を発動することは、まだできないだろう」


「当然です。宮廷魔術師、テェゼーナが掛けたのですから」


「師がかけたのだったか」



 どういうことなんだろう?

 私の過去を話しているのよね?

 テェゼーナって来年入学してくる攻略対象キャラ、フェルナンド・テェゼーナ様と同じセカンドネームだわ。

 サクサク進めちゃったから、年下キャラとしか覚えてないけれど。



 小さいつむじ風が小さくなっていく様を見つめていると、苦しそうに見えてかわいそうに思った。

 つむじ風が消え、ナザリト先生が私の手首を離したとき、先程と同じようにロッドの先に力が流れるように感じる。



「あ……」



 さっきの魔力の流れよりも少なく、疲労感もほとんどない。

 それなのに、消えかけたハズのつむじ風が大きくなった。



「きゃあ!」



 つむじ風はたちまち大きくなり、1m位になった。

 私の前にあった教壇が持ち上げられ空中を舞い始める。

 私の身体からロッドの先に魔力が流れていくのがわかるのに、止めることができない。

 近くの机やイスも舞い上がり、つむじ風、いや竜巻は2mほどの大きさに成長していた。



「リリー!」



 アレフ様に腕を引かれ、竜巻から遠ざけるようにアレフ様の背後に回される。


「リリアーナ、ロッドを離せ。そうすれば、これ以上は大きくならない」



 ナザリト先生が叫ぶ声を聴き、私は近くの机の上にロッドを置く。

 そうすると、魔力の流れが止まり、竜巻はだんだん小さくなっていく。

 小さくなるにつれ、空を舞っていた机やイスなどが上から降ってきた。

 逃げなきゃ。

 そう思っても恐怖で身体が全く動かない。

 アレフ様が振り返ったと思ったら、抱き寄せられ、かかえられるように壁側まで移動していた。



「大丈夫か?」


「ええ。私は何ともありません。アレフ様は?」


「俺は平気だ」



 アレフ様に返事を聞き、ほっとしてナザリト先生を見る。



「大丈夫だ」



 ナザリト先生は短く答えると魔法を唱え、竜巻は完全に消えた。



「やはり、プロテクトの効果が弱まっているな」


「どういうことです?」


「先程のもそうだが、プロテクトが完全なら私が介入しても魔法は発動されないのだ。だが、発動した。更には、私の介入も必要が無い状態にまで、プロテクトが弱まっている。」


「そうですか。それを確認するために、補習をしたのですね。他の生徒を巻き込まないために」


「ああ。予定外だったが、そなたがいて助かった。礼を言う」



 ギュっとアレフ様の腕に力が入る。



「礼には及びません」


「そうか。リリアーナ・ベンフィカ、今日の補習はここまでとする、帰っていい」


「はい。あの、ありがとうございました」



 ナザリト先生はこちらを一瞥すると、教室を出て行った。



「全く。今日は厄日かよ。次から次へと問題が起こりやがって」


「あの、ご迷惑をおかけしました」


「ああ、いや。リリーに言ったわけじゃない。リリーの所為でもないしな」



 ボヤくように言うと、アレフ様は少し前かがみの姿勢になる。

 え? ちょっと!

 うう。どうしよう?



「アレフ様?」


「なんだ?」


「その。そろそろ、降ろしてくださいませんか?」



 アレフ様の返事は無く、代わりに更にきつく力が込められる。

 私はずっと、抱き寄せられたままだったのだ。

お読みいただきましてありがとうございます

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