29.個人授業はプロテクト
どうしてこうなったのかな?
放課後。
私は自分の席ではなく、教卓の1番前の席に座る。
私の隣には、怖い顔をしたアレフ様が座っていて。
教壇の前にも、恐ろしい顔をしたナザリト先生がいて。
……この場から逃げ出してもいいでしょうか?
「始める前に、リリアーナ・ベンフィカ。なぜ男連れで私の補修を受けるのか、質問してよろしいか?」
声にも凄みを効かせながら聞かれると、まるで尋問を受けているよう。
「あの。申し訳ありません。先にお約束をしていて、その……」
説明はしたし、ちゃんと謝った。
だけど、アレフ様は教室から出て行くどころか、怒った様子で隣にいるのよ。
チラっとアレフ様を見ると、怒りの矛先をナザリト先生に向けたらしい。
「クラスは違いますが、同じ1年の生徒です。俺が補習に参加しても、不都合は無いでしょう」
「だが、アレフレッド・ソルーア。そなたは補習を受ける必要は無い。時間の無駄であろう」
「お言葉を返すようですが、この補習自体が無駄でしょう。リリアーナは魔法が使えない、と、学園に報告済みのはずです。」
え? それってどういうことなの?
ゲームでのリリアーナは魔法を使っていたわ。
それに、魔法が使えないのなら、補習を受けても意味が無いよね。
「確かに報告は受けている。しかし、生徒の為に最善を尽くすのが教師の役割だ」
「では、生徒の1人として、希望すれば一緒に補習を受ける権利はあるでしょう。無駄かどうかは俺が決めます」
怖い!
ナザリト先生は普段から怖いけれど、アレフ様もクラウディオ様と同等の威圧感を出している。
事の発端は、先程したアレフ様とのお約束に浮かれていた私が悪かった。
一度会ってしまうと、恥ずかしさなんてどこかへ飛んで行き、会いたい気持ちだけが残ってしまって。
今日の授業でも、私だけ魔法が発動しなかった。
やっぱり、浮ついていたのかな?
真面目にやっていたんだけどね。
「このクラスで1番魔力が高い、そなたが魔法を発動できぬとはな」
「すみません」
「放課後、残りなさい。補修を行う。他のものはここまでだ」
ここでチャイムが鳴った。
ナザリト先生は一度職員室へ戻り、クラスメイトたちは帰って行った。
アレフ様に説明すると、なぜだか怒り出し、そこへ、戻ってきたナザリト先生がやってきたのだ。
しばらく、睨みあうようにしていたが、
「好きにするがいい。では、始める」
「は、はい」
ナザリト先生が折れたわ。
できれば、補習を受ける所なんて見られたくないのに。
アレフ様は鋭い視線をナザリト先生に向けている。
それにしても、なぜ私は魔法が使えなくなったの?
学園にも報告済って、何か理由があるのかしら?
「まずは、これを渡そう」
ナザリト先生が取り出したのは、小さい水晶がはめ込まれたロッドだった。
「本来なら、両の手の平に魔力を集めるのが体感的にわかりやすいが、魔力の流れが理解できないと難しいだろう。杖は魔法のコントロールをしやすくするものだ。今回は、そのロッドを使ってみなさい」
「わかりました」
ロッドは20cm位で、少し長い鉛筆のようだ。
私はロッドを両手で持ち、水晶の先に風のイメージを送る。
そよそよ、そよそよ。
水晶の周りも、私の周りにも何も起こらない。
そよそよのイメージが問題なのかしら?
ロッドから視線をナザリト先生に向ける。
真剣な表情でロッドを見ていたナザリト先生が口を開く。
「ふむ。魔力の流れに動きが見られないな。では、リリアーナ・ベンフィカ、手を出せ」
言われたまま、ロッドを持った右手を前に出す。
「少し、無茶な方法かもしれぬが、魔力の動きを感じた方がいいだろう。失礼」
最後のセリフはアレフ様に向かって言った。
私もアレフ様を見ると、丁度、視線を逸らすように窓の方へ向けたところだった。
「よそ見をするな、リリアーナ」
慌ててナザリト先生を見ると、前に出した右手首を掴まれる。
?!
驚きのあまり、声にならない悲鳴が漏れる。
ナザリト先生は私の様子も気にせず、集中しているようだ。
段々、私の身体から何かをごっそりと奪われるような感覚と、疲労感が襲ってくる。
「魔力の流れを感じるのだ。これがそなたの魔法だ」
ナザリト先生がそう言って、何かを呟く。
突如、私の持つロッドから、30cm位の竜巻が出現した。
くるくる回る小さいつむじ風。
初めて見る、自分の魔法。
まるで、バレエのようにくるくる回っているようだわ。
「こんな形で、無理やり発動させるとは」
「そうだな。少し無茶をしたようだ。プロテクトを外さない限り、1人では魔法を発動することは、まだできないだろう」
「当然です。宮廷魔術師、テェゼーナが掛けたのですから」
「師がかけたのだったか」
どういうことなんだろう?
私の過去を話しているのよね?
テェゼーナって来年入学してくる攻略対象キャラ、フェルナンド・テェゼーナ様と同じセカンドネームだわ。
サクサク進めちゃったから、年下キャラとしか覚えてないけれど。
小さいつむじ風が小さくなっていく様を見つめていると、苦しそうに見えてかわいそうに思った。
つむじ風が消え、ナザリト先生が私の手首を離したとき、先程と同じようにロッドの先に力が流れるように感じる。
「あ……」
さっきの魔力の流れよりも少なく、疲労感もほとんどない。
それなのに、消えかけたハズのつむじ風が大きくなった。
「きゃあ!」
つむじ風はたちまち大きくなり、1m位になった。
私の前にあった教壇が持ち上げられ空中を舞い始める。
私の身体からロッドの先に魔力が流れていくのがわかるのに、止めることができない。
近くの机やイスも舞い上がり、つむじ風、いや竜巻は2mほどの大きさに成長していた。
「リリー!」
アレフ様に腕を引かれ、竜巻から遠ざけるようにアレフ様の背後に回される。
「リリアーナ、ロッドを離せ。そうすれば、これ以上は大きくならない」
ナザリト先生が叫ぶ声を聴き、私は近くの机の上にロッドを置く。
そうすると、魔力の流れが止まり、竜巻はだんだん小さくなっていく。
小さくなるにつれ、空を舞っていた机やイスなどが上から降ってきた。
逃げなきゃ。
そう思っても恐怖で身体が全く動かない。
アレフ様が振り返ったと思ったら、抱き寄せられ、かかえられるように壁側まで移動していた。
「大丈夫か?」
「ええ。私は何ともありません。アレフ様は?」
「俺は平気だ」
アレフ様に返事を聞き、ほっとしてナザリト先生を見る。
「大丈夫だ」
ナザリト先生は短く答えると魔法を唱え、竜巻は完全に消えた。
「やはり、プロテクトの効果が弱まっているな」
「どういうことです?」
「先程のもそうだが、プロテクトが完全なら私が介入しても魔法は発動されないのだ。だが、発動した。更には、私の介入も必要が無い状態にまで、プロテクトが弱まっている。」
「そうですか。それを確認するために、補習をしたのですね。他の生徒を巻き込まないために」
「ああ。予定外だったが、そなたがいて助かった。礼を言う」
ギュっとアレフ様の腕に力が入る。
「礼には及びません」
「そうか。リリアーナ・ベンフィカ、今日の補習はここまでとする、帰っていい」
「はい。あの、ありがとうございました」
ナザリト先生はこちらを一瞥すると、教室を出て行った。
「全く。今日は厄日かよ。次から次へと問題が起こりやがって」
「あの、ご迷惑をおかけしました」
「ああ、いや。リリーに言ったわけじゃない。リリーの所為でもないしな」
ボヤくように言うと、アレフ様は少し前かがみの姿勢になる。
え? ちょっと!
うう。どうしよう?
「アレフ様?」
「なんだ?」
「その。そろそろ、降ろしてくださいませんか?」
アレフ様の返事は無く、代わりに更にきつく力が込められる。
私はずっと、抱き寄せられたままだったのだ。
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