27.女子会は池のほとりで
私は鏡を見ては、ため息をついた。
瞼の腫れが中々引かないのだ。
泣いたとしてもほんの10分くらいだったと思うのに、目の周りが赤くぽってりと腫れている。
冷たいタオルと温かいタオルを交互に当てていると言うのに、治らない。
せっかく、明日は会えるのに。
「お嬢様、あまり気にしすぎも、よろしくありません」
珍しく、ミセスブラウンがハーブティーを運んできた。
置かれたティーカップとソーサーを持ち、尋ねる。
「これは?」
「ローズティでございます」
「珍しいわね。いつも紅茶を淹れてくれるのに」
カップから、バラの高貴な香りが漂う。
色は赤いのかと思ったけれど、淡い黄色味を帯びたピンク色をしていた。
いただきます、とつぶやいて口を付ける。
バラの芳香な香りとかすかに感じる甘さ。
「最近のお嬢様はハーブティーを嗜んでいると聞いたものですから」
「時々勧められるのよ。うん、とてもおいしいわ。ありがとう」
「恐れ入ります。お嬢様バスルームの準備もできております。本日は、お早目に休まれてはいかがですか?」
「そうね。眠ったら腫れも引いてるかしら?今日はもう、お風呂に入って休むわ」
「かしこまりました」
今日はバスタブの中にバラの花びらが浮かんでいた。
これ、自分でやると後始末が大変なのよね。
バラが一番好きな花ってわけじゃないけれど、バラって特別な気分にさせてくれる。
自分が特別だと言われているみたいで。
ミセスブラウンの気持ちが嬉しかった。
起きてから真っ先に鏡で確認すると、瞼の腫れが引いていた。
良かった。
まだ腫れているようなら、休もうかと思っていたのよね。
私は、水色の制服に袖を通し、登校した。
瞼の腫れが治まると、次の問題はダンパのエスコートをどう頼むかよね。
新歓ダンパは3日後。
悩んでいる余裕は無い。
無いんだけど、なんて頼めばいいのだろう?
それに、誤解だとしても抱き付いただなんて噂を聞いちゃうと、恥ずかしいし。
今思うと、自分でも大胆なことしたかもしれない。
あのときは、頭が重くて、それで、
うわあああああああっ!!
会ったときにどんな顔をしたらいいの?
会えないのが嫌だ、って考えていたハズなのに。
自分がどうしたいのか、私にもわからないよ。
とりあえず、問題は後回しにして、学生の本分は勉強よね!
と、こんなときだけかもしれないけれど、勉強優先と言うことにして教室に駆け込んだ。
アレフ様に会わなかったことにホッとして、自分の席に座る。
授業が始まっても、私は会ったらどうしよう? と、そのことばかり考えていた。
「リリアーナ様。リリアーナ様?」
「あ、なあに? エイミー」
突然、話しかけてきたエイミーを見る。
エイミーは、ちょっと困った顔をしていた。
また何か、心配掛けてるのかな?
「ランチの時間になりましたわ。クラスの皆さまは、カフェに行かれたようですが、わたくしたちはどうなさいますか?」
本当だ。
教室には、ほとんどの生徒がいなくなっている。
「今日は、ずっと心、ここにあらず、ですね。昨日はあのまま帰られましたし、何かあったのですか?」
「う、うん。アレフ様が停学になっていたことでちょっと、ね」
「殿下と言えば、今日は登校していらっしゃいますわ。先程、華組の前を通ったとき、とても人が集まっていましたわ」
「急に停学になって、それなのに、すぐ登校してきたからかしら?」
「どんなお話をされていたのかは確認しなかったのですが、女子生徒が多かったようでしたわ。リリアーナ様がいらっしゃると言うのに」
「クラスが違うし、もしかしたら知らない方もいるんじゃないかな」
「ですが」
「婚約したのは、8年も前のことだもの。忘れられていても仕方のないことよ。それより、カフェに行きましょ」
私たちが教室から出ようとしたところで、シャムエラがやってきた。
「あ、リリアーナ、エイミー。ランチがこれからなら、一緒に食べましょう! 昨日のお礼にお弁当を作って持ってきたの」
「まぁ。シャムエラ様がお作りになったの?」
「そうよ。よく、家で作るのを手伝っていたから、味には自信があるのよ!」
ニコニコ顔でエイミーに話すシャムエラはとてもかわいくて、まるでゲーム画面から飛び出してきたようね。
今、シャムエラのお弁当を一緒に食べていたら、万が一、私がお弁当をゴミと間違えて捨てることも無いわよね。
「料理ができるなんて、素晴らしいわ。せっかくですもの、森で食べましょうか?」
「森? 森って行ってもいいの?」
大きな瞳を真ん丸にして言うシャムエラ。
「学園内の敷地内ですもの。問題ありませんわ。大きい池がありましたから、池のほとりでいただきましょうよ」
ゲームでは、お弁当を作ってきたときには、定番の場所だったのよ。
攻略対象者ではなく、真っ先に私と食べることになるなんて、ちょっと面白いね。
「そういえば、特別室からも池が見えましたわね」
「あのときはごめんね。すぐ帰ることになっちゃって」
「ふふ。気にしていませんわ。わたくしもアルコールに気付かないほど舞い上がってしまったのは、よくありませんでしたから。丁度、良かったのですわ」
「ねぇ? 特別室ってなに?」
「今は秘密ですわ」
「えー? 何よそれ!」
プクっと口を膨らますシャムエラ。
「わたくしたちが勝手にお話することは、憚れますもの」
「まぁまぁ。森に行く前にカフェのショップで飲み物だけ買って行きましょう」
「そうね。お腹が空いたわ。早く行きましょう!」
ゲームに出てきたときに大笑いした、午前の紅茶を買って、私たちは森に行った。
池のほとりまで行ったけれど、特別室から見えた桜の木は見えない。
少し、期待したんだけどね。
「考えたら、敷物が無いわね。どうする?」
「ハンカチならありますわ」
エイミーがポケットからハンカチを3枚取り出す。
いつも、そんなに持ち歩いているのかしら?
「そうね。私は、自分のがあるからいいわ」
「私も、ハンカチならあるわ」
わたしたちはハンカチを敷いて座る。
シャムエラのお弁当は、特別室で食べた豪華なお弁当ではなかったけれど、ミニトマトやブロッコリー、卵焼きにウインナー、小さく握られた色取りどりのおにぎりが入っていて、見た目もかわいらしい。
「うわぁ。かわいいですね。コレ、全部シャムエラ様が作られたの?」
私が言うと、同調したようにエイミーが頷く。
「えへへ。早起きして、頑張ったのよ。さ、食べよう」
「ええ。「「いただきます!」」」
シャムエラからおさらとフォークを受け取り、私たちは銘々好きなものを食べていく。
「とてもおいしいですわ。ありがとうございます。シャムエラ様」
「うん。本当にとてもおいしいですわ。」
「ふふ。喜んでもらえて私も嬉しい。口に合わないんじゃないかな?って少し不安だったんだ!」
喜んでもらえてよほど嬉しかったのか、シャムエラは食べながら話し出す。
「学園のお料理はとても、おいしいけど、庶民の私にはちょっと、合わないのよね。だから、時々自分で作ることにしてるの。良かったらまた作ってきてあげるね。」
「本当ですか? 楽しみにしてますわ」
シャムエラが言う通り、ここの学園の料理はとても手が込んでいておいしい。
でも、私もシャムエラが作ったお弁当は、どこか懐かしく学園の料理よりおいしく感じた。
「私もお料理をしてみようかしら?シャムエラ様はどこでお料理したのですか?」
「え? リリアーナが作るの? 私は寮の調理室を貸してもらったけど、リリアーナは料理したことあるの?」
「いいえ、ありません」
こちらの世界では、と心の中で付け足す。
以前は学校の調理実習や、簡単なデザートは作ったことがある。
「怪我することもあるのよ? 危ないんじゃないかな」
「大丈夫ですわよ。そうですわ。今度は私が作ってきますから、また一緒に食べましょう」
「え……」
シャムエラは返事に迷ってるみたい。
エイミーは、なぜか目を逸らす。
「ちゃんと食べれるものか、確認して持ってくるから、安心してよ」
それでも、2人はあまりいい返事はしてくれなかった。
リリアーナはなんでもできる、完璧な令嬢じゃなかったのかしら?
確か、君セナの中ではそうだったハズなんだけど。
読んでくれてありがとう。
とても 嬉しいです。




