24.夢でもいいから
生徒会室に辿り着いた。
私は、息を整えてからドアをノックすると、すぐにドアが開く。
「君は……」
驚いた表情のジョナス様が立っていた。
「ごきげんよう、ジョナス様。あの、クラウディオ殿下はいらっしゃいますか?」
「ベンフィカ嬢か。悪いが、クラウディオ殿下はいらっしゃらない。すぐに戻ってくると思うから、中に入って待っているかい?」
ジョナス様の申し出に、一瞬躊躇する。
すぐに戻ってくるなら、外で待つより中で待っていたい。
でも、公式設定で言う、プレイボーイであるジョナス様。
老若男女、来る者拒まず、自分からも攻めていくキャラ。
さすがに普通の男性には手は出さないけれど、男の娘はOKと書いてあった。
TPOも忘れて口説いてしまい、生徒会長から叱責されることもしばしば。
一応、王族の婚約者に手を出すことは無いよね?
ゲームでは、主人公の前でだけだったのかもしれないし。
「はい。ご迷惑でなければ、お願い致します。」
「フ。そうこなくちゃな」
ジョナス様は一度、生徒会室から出てドアの前を空ける。
「ようこそ、ベンフィカ嬢」
私の隣に立ったジョナス様は、肩に手を添えて招き入れてくれた。
「失礼致します」
リリアーナとしては初めて入るけれど、ゲームでは、ジョナス様イベントで度々登場する。
カフェでも思ったけれど、ゲームと全て同じって面白いね。
「まずは、こちらのソファーに座って寛いでいてくれ。今、何か飲み物を用意してくるからな」
「あの、お構いなく」
「遠慮するなって。丁度、俺も1人で暇を持て余していたんだ。君が来てくれて助かったよ」
「そう言っていただけると、助かりますわ」
少し待っててくれと言って、ジョナス様は続き部屋へ行ってしまった。
その部屋はミニキッチンになっている。
1人になり、案内されたソファーに座って周りを見渡す。
座った位置から見る生徒会室は、ゲーム画面の生徒会室のままだ。
じゃ、このソファーに座って、ジョナス様とイベントが起きていたのね。
初期の頃だと、会話中心のイベかしら?
ジョナス:シャムエラ、俺に会いに来たのか?
A:こんにちは。ジョナス様!
▽ B:どうしても会いたくて……。
最初から飛ばすと好感度が下がるキャラが多い中、ジョナス様は慣れていらっしゃるからか、Bを選ぶとすぐに小イベントが発生する。
どうしても会いたくて……。
を選択すると、
「俺に仕事の手を止めさせるとは、イケナイ子だな」
ゲームと同じセリフに驚いて声のした方を見ると、センターテーブルに飲み物が載ったお盆を置き、面白そうに笑いながらジョナス様が近付いて来る。
声に出てた?
驚いていると、ゲームの様にジョナス様は私の隣に座る。
違う、ダメだよ。
私は今、ジョナス様を攻略しに来たんじゃない!
慌ててソファーから立ち上がって、ジョナス様から離れる。
「フ、ハハハハッ。冗談だよ。」
ひとしきり笑うと、ジョナス様はお盆から飲み物を差し出してくれた。
そして、私が座っていたソファーの向かいにある、1人掛けソファーに座る。
「あ、あの……」
「からかって悪かった。さすがの俺でも、未来の第2王子妃に手は出せないさ」
本当かしら?
疑心暗鬼になって、ついジョナス様をじぃっと見つめてしまう。
「本当に悪かったよ。そんな目で見ないでくれ。さあさ、せっかく淹れた紅茶が冷めちまうぞ」
「いただきますわ」
私はまだ、疑いの目を向けながらソファーに座り直し、紅茶を飲む。
マスカットの爽やかな香りが広がる。
「おいしい」
「フ。そうだろ? 俺が淹れたんだからな」
ニヤリっと笑うジョナス様を見て、本当はコーヒーばかり淹れてるのを、ゲームで知っているのよって言いたくなった。
まぁ、本当に紅茶はおいしかったので言わないけど。
ん?
視線を感じて、顔を上げると、
「俺からは無理だが、ベンフィカ嬢から飛び込んでくるのには拒まないぜ?」
そう言ってジョナス様はパチっとウインクをした。
一気に顔が熱くなる。
「そんなこと、絶対にありえません!」
「どうだかな」
どうして、そんなに自信たっぷりなのー!!
早く帰ってきてよ、クラウディオ様ー!!
私の心の叫びは空しく響く。
結局、ジョナス様は生徒会室には戻られなかった。
どうしたんだろう?
私は紅茶を2杯いただいて、ジョナス様に寮まで送ってもらう。
断ったんだけど、押し切られてしまったのよね。
「すまなかったな。クラウディオ殿下が戻られなくて」
「予測不可能なことですもの。仕方ありませんわ」
「ハハ。予測不可能か。……そうだな」
寮の前に辿り着いた。
1人で帰るより、やっぱり楽しいね。
「ジョナス様、送っていただいて、ありがとうございました。あと、ごちそうさまでした。」
「構わないさ。俺も丁度帰るところだったしな」
丁度と言っても、女子寮と男子寮は校舎からは方向が逆の位置にある。
「遠回りでは?」
「フ、そうだな。じゃ、お礼としてこれからは、リリアーナと呼んでもいいか?」
え?名前?
「別に構いませんが」
「そうか。じゃ、お礼はこれでお終いだ。じゃあな。リリアーナ」
にこやかに笑うジョナス様。
立ち去らないところを見ると、この場合、私が寮に入ればいいのかな?
「ごきげんよう、ジョナス様」
私はお辞儀をして寮に入る。
「気付いていないんだな。俺はノックに気付いてドアを開けたわけじゃなかったんだが」
ジョナス様が何かをつぶやかれたように聞こえたけど、振り返ると、ジョナス様は私に背を向けて歩き出していた。
その日の夜。
初めてリリアーナの夢を見た。
小さい頃の私とアレフ様とクラウディオ様、そして見たことのない少女。
5歳くらいだろうか?
幼稚園児くらいに見える。
「クラにいさま~。アナさま~。わたしたちも、いっしょに行きたいですわ」
小さなリリアーナが言うと、困ったような表情をするクラウディオ様とアナ、多分、アナマリア様。
飴細工のような透き通るようなブロンドの長い髪。
雪のような白い肌に桜のような淡い桃色の唇と瞳。
とてもかわいい、美少女だ。
「わたしたちも連れて行ってください。お兄さま」
「お願いですわ。アレフ様と2人だけお留守番だなんて、イヤですわー」
「陛下に頼んでみましょう?」
澄んだ可愛らしい声だった。
「アナは甘すぎるぞ」
「いいではありませんか、ね?」
子供のクラウディオ様が赤くなってる。
「仕方ない。ここで少し待っていろ」
そう言ってクラウディオ様が王宮に向かって歩き出す。
喜んでいる私たち。
眠りが深くなったのか、そこで夢は途切れてしまった。
少し、遅くなりましたが、暑中お見舞い申し上げます。
暑い中、お読みいただきありがとうございます。




