23.今の私にできること
「ふぅ」
午前の授業が終わり、思わず私の口からため息が漏れる。
途中に休憩時間があったけど、ぶっ通しで魔法学の授業と言うのは疲れてしまった。
魔法は、血液の様に体を巡っている魔力を、意志の力で練るように収束させて発現させる。
今日の授業内容は魔法の発動までだった。
みんな、手のひらの上で五属性を象徴する、火、水または氷、風、草の芽や葉、石や砂が具現しているのに対し、唯一、私だけが何も発動しなかった。
使わないようにしたんじゃない。
使えなかった。
さすがに凹むわぁ。
「元気出してください。リリアーナ様。今日は調子が悪かっただけですわ」
エイミーが励ましてくれたけれど、落胆は隠せなかった。
「うん。次は頑張ってみるわ」
少し投げ槍な言葉になってしまう。
だって、私だけ発動しないって、罰ゲームみたいでしょ。
「リリアーナ様は幼少の頃から魔法がお上手でしたし、次回は大丈夫ですわ」
だといいんだけど。
「そうだね。じゃ、ゴハン食べに行こうか?」
「はい。リリアーナ様」
気持ちを切り替えて、私はエイミーとカフェに向かった。
落ち込んでもできないものはできないのだから、落ち込むだけ損だわ。
注文をして、空いてる席に座る。
今日はマキシ様はいらっしゃらないみたい。
「マキシ様に会えるのを楽しみにしてましたのに」
「お忙しいのでしょう。きっと」
私としては、会わなくてホッとしてるんだけどね。
さすがに醜態をさらしてばかりじゃ、恥ずかしいもの。
それにしても、今日はいつもより騒がしい。
入学後、初めての休み明けだからか、週末に行われる新勧ダンパがあるからかな?
そう言えば、結局、アレフ様はエスコートをしてくれるのかしら?
ちゃんと確認しておかないとね。
「あら、アレフレッド殿下ですわ」
エイミーの声に顔を上げると、丁度、アレフ様が2階から降りてくるところだった。
急に静まり返るカフェを、どことなく、硬い表情をして足早に歩いて行く。
「アレフ様?」
私のつぶやきが聞こえたのか、アレフ様が一瞬だけ私を見る。
しかし、すぐに視線を戻し、歩調を変えることなく、カフェから出て行ってしまった。
「何かあったのでしょうか?」
「わかんない」
アレフ様が出て行くと、カフェは先程までの騒がしさに戻る。
何か、とても嫌な胸騒ぎがする。
その理由を知ったのは、放課後だった。
午後の授業が終わり、華組の教室に向かうと、アレフ様は既にいなかったのだ。
もう、帰ったのかな?
教室を見渡すと、クリフ様がうんざりした表情で、シャムエラと一緒にいる。
まぁ、クリフ様がうんざりした表情をするのは、ゲーム開始の頃だといつものことよね。
ふと、朝の出来事が頭を過ったが、クリフ様は根に持たないタイプだ。
普通に話したら大丈夫。
私はクリフ様の前まで歩いて行った。
シャムエラが私に気付いたので、こんにちは、と軽く挨拶をして。
「クリフ様」
「あ? リリーか、どうした?」
「アレフ様はもう、お帰りになられましたの?」
「アレフは停学になっただろ。聞いていないのか? リリーは停学にならなかったのか?」
意外そうにクリフ様が言ったけれど、私には寝耳に水だった。
「え? 停学ですって? なぜですの? それに、私もですか?」
驚いている私を見て、
「あー。そうだよな。リリーはそうだよな。」
と、1人したり顔で頷いている。
「どういうことですの?」
「いや。本人たちは無自覚だったんだろうな、とな。」
「無自覚? ですか?」
「リリー。お前、……朝、多分、階段で転んだろ?」
少し、ふて腐れたような表情でクリフ様が言う。
それにしても、いなかったのになんで知ってるんだろう?
「ええ。転びかけたところを、アレフ様に助けてもらいましたけど」
「それが噂になったんじゃないか? 見ていた奴らからは、リリーが転んだんじゃなくアレフに抱き付いたように見えたんだろ。アイツ、動き早いからなって、あー! 何、オレに言わせてんだよ!! チッ」
乱暴にイスから立ち上がると、クリフ様は鞄を持って教室から出て行ってしまった。
突然のことに、ただ、見送ってしまった私に追い打ちが襲う。
「あー。クリフトス様~!! もう! せっかく、クリフトス様とお話していたのに。邪魔しないでよね!」
シャムエラはそう言うと、クリフ様を追いかける様に教室を出て行った。
え?
私、邪魔しちゃった……わね。
それは間違いないわ。
私が来た所為でクリフ様が帰っちゃったし。
そんなつもりはなかったけれど、ゲームの通り、お邪魔虫リリーになってしまった。
ごめんね、シャムエラ。
それよりも、今はアレフ様よ。
周りから見たら、私がアレフ様に抱き付いたように見えた?
たしかに、アレフ様との距離は近かったような、気もするけど。
そんなつもりは——。
「あれ? まだ、残ってる人がいたんですねぇ。もう、下校する時間ですよ? おや?」
教室の入り口に攻略対象キャラの1人、華組の担任のルカ・ユベントス先生が立っていた。
「あなたは華組の生徒ではありませんね」
穏やかな表情で教室に入ってくる、ルカ先生。
貴族ではない主人公が、学校に馴染めずにいるのを心配して話しかけてくれたり、相談に乗ってくれたりする。
誰にでも優しく、一部の先生や生徒から貴族でないからと、辛く当たられたりすると、庇ってくれる優しい先生だ。
「私は、雪組のリリアーナ・ベンフィカでございます」
ぺこりと、淑女の礼をする。
「ああ。あなたがリリアーナ・ベンフィカですね。もしかして、アレフレッド殿下にご用だったのですか?」
「はい。停学になられたとお聞きしたのですが」
「そうですね。私どもは停学にしなくても、と話したのですが、生徒会長のクラウディオ殿下が『王族が風紀を乱すとは罷りならん』と言いましてね。アレフレッド殿下も話し合われて、停学処分を受けたのですよ」
「そうだったのですか。あの、停学はいつまでですか?」
「今日を含めて、5日ですね。土曜日の新入生歓迎ダンスパーティには出席されますよ」
ううん。
逆に参加できなくていいと思ってるに違いない。
でも、それじゃ私が困るわ。
「停学中のアレフ様に会うことは許されるのでしょうか?」
「とんでもない。リリアーナ、それぞれの学生寮は、異性が立ち入ることを禁止していますよ」
驚いた表情のルカ先生を見て、更に、私も驚く。
私、アレフ様のお部屋に案内されたけど……。
「停学を短くすることはできませんか?」
「うーん。難しいですね。私どもは停学の必要は無いと思っているのですが、クラウディオ殿下がお決めになったことですしね」
「クラウディオ殿下は、今、どちらにいらっしゃいますか?」
「そうですね。生徒会室か、もしくはもう、寮に戻られているかもしれませんね」
「ありがとうございます。ルカ先生。さようなら!」
私は生徒会室に行くべく、教室のドアに向かう。
「ええ。さようなら、リリアーナ。あなたに幸運の女神が微笑むことを祈っていますよ」
ルカ先生の祝福の言葉を背に、私は生徒会室へ走って行った。
ここで、このサブタイトルを付けたことを後々後悔しそうな気がします。
数字だけにしようか、サブタイ本当に悩みます。
お読みいただきましてありがとうございます。




