表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクリプス  作者: 元蔵
第1章 全身全霊をかけてあなたに恋します
2/98

2.君に送る小夜曲~セレナーデ~

 目を閉じたままの状態で瞼の向こうから明るい光を感じる。

 ゆっくりと目を開けると、皆既日食なんて始めから無かったかのような眩しい太陽が顔を出していた。

 ……そんなに長い間、目を閉じていたかな?

 見なかったのと、見れなかったのでは大分意味が違う。



「舞~。目を閉じてたら、その間に皆既日食が終わっちゃってたよ」



 少し損をした気分になって振り向きながら舞に話しかけたが、舞はいなかった。

 突然話しかけた私に驚いたような表情をしたのは、見たこともない男子生徒だったのだ。

「あれ? 舞?」



 驚いて辺りを見回しても、舞はいない。

 先程とは違う、見たこともない教室に変わっていた。



「えっ? ここ、ドコ?」



 思わず呟きながら、もう一度、周りを見渡してみる。

 授業中らしく、教壇には先程までいなかった教師が立ち、何かについて話している。

 席に座っている生徒たちは、皆、同じデザインの服を着ているけれど、私の通っている高校の制服とは違った。

 勿論、顔見知った生徒は誰もいない。

 黒板に書かれている文字は日本語だったけど、書かれている内容を見ても何の教科なのかわからない。

 早鐘を鳴らすような心臓の音を聞きながらも、何かわかるものが無いかと必死に探す。

 クラスメートを見ても誰も知っている人はいない。

 それどころか、髪の色や瞳の色が赤や青、ピンクに緑、金銀と、とにかくカラフルだ。

 校則違反どころの騒ぎじゃない、日本人じゃないよねって思うくらい。

 制服も、グレーと紺のブレザーだったのに、赤、青、黄色、水色、緑、黒、ピンクの色違いで女子はワンピースにボレロ、男子は同じくブレザーだけど、違うデザインだった。

 ふと、ピンクと青の制服に見覚えがあるような気がする。

 なんだっけ?

 と、考えていると、



「リリアーナ様。どうされたのですか?」



 前の席に座っていた茶色い髪の女子が振り向き、小声で話しかけてきた。



「リリアーナ?」



 私は呼ばれた名前を繰り返す。

 この名前は知っている。

 私がやっている乙女ゲームの登場人物の名前だ。



「ええ。リリアーナ様、先程から何と言うか……普段と違うご様子でしたので、何かあったのですか?」



 おっとりと笑う彼女の顔にも何となく見覚えがあった。



「だい  「そんなに私の授業は退屈かね? リリアーナ・ベンフィカ」



 『大丈夫よ』と言おうとした言葉は、そのまま私の中で『大丈夫じゃないです』に変わった。

 ギギギーーと錆びついた音を立てて開く扉のように顔を上げると、目の前には教壇の前にいた教師が恐ろしい表情で立っている。

 ゲームの攻略対象の一人、魔法学の先生、ナザリト・リヴァプール様。



「め、滅相もございません。ナザリト先生。ただ、少し眩暈がして気分が優れないのです」



右手を口許に当てて、少し芝居がかった口調で言い、様子を伺っていると、



「まぁ。それはいけませんわ、リリアーナ様。」



 茶色い髪の女子が慌てて立ち上がった。



「ナザリト先生。わたくし、リリアーナ様をリラックスルームにお連れいたしますわ。よろしいでしょうか」



 そう言うと私の手を取り、立ち上がらせる。

 予想してなかった動きについていけずによろめいた私を見て、



「フン。構わん」



 と言って、ナザリト先生は教壇の方へ行ってしまった。


 うわぁ。

 ゲームのまんまだわ。

 と、ナザリト先生の後ろ姿を見ながら、茶色い髪の女子に手を引かれて教室から出た。




「リリアーナ様、大丈夫ですか?」


「え、ええ」



 茶色い髪の女子の質問に曖昧に答えながら、私は自分の状況を考えていた。




 皆既日食を見ていたら、乙女ゲーム『君に送る小夜曲~セレナーデ~』略して、君セナに登場するリリアーナ・ベンフィカと呼ばれるようになっている。

 これってドッキリかな?

 それにしても、なんでリリアーナなんだろう?

 こういう時って普通は主人公でしょ。

 主人公のデフォルトの名前は、シャムエラ・ポルトだ。

 君セナは、主人公のシャムエラが王立エストレイラ学園で過ごす3年間をプレイするゲーム。

 一般家庭の女の子が貴族や王族が通う全寮制の学園で、玉の輿を目指すも良し、友情を育むも良し、知性あふれた仕事のできるカッコイイ女史(女子ではなく女史)を目指すも良しと言う、過ごし方は貴女次第☆と言うゲームである。



 攻略キャラは、見目麗しい王子様から貴族のご子息様やら優しい先生まで、10人+隠しキャラ2人の総勢12人。

 さっきのナザリト先生もその内の1人。



 リリアーナ・ベンフィカは、事あるごとに名前が出てくる、いわゆるライバルキャラ。

 学力テストの成績が悪ければ、『リリアーナ様は満点でしたわよ』とか、デートで服装のセンスが悪かったら『リリアーナ様だったらもっと素敵に着こなしていただろう』とか。

 何かと話題に出てくるのに、リリアーナ本人は中々出てこない。

 2年生で同じクラスになってようやく出てきたと思ったら、取り巻きの茶色い髪の女子が主人公に対し、悪口を言ってくるのよね。

 それを聞いたリリアーナが『彼女は守るべき一般庶民なのよ。優しくしてあげなくてはいけませんわ』と庇っているのか貶しているのかわからない登場の仕方をする。



 一言で表すと、ムカつくキャラ。



 しかも、私の大好きな第2王子様、アレフ様の婚約者で、アレフ様を落とすにはリリアーナとの友情も上げないとグッドエンドにならず、ノーマルエンドになってしまう。

 でも、友情を上げすぎるとリリアーナとの友情エンドになってしまうと言う、



 なんとも邪魔なキャラ。



 友情エンドって何よ!

 あなたも攻略対象者の1人だとでも言うの?!

 イベントに乱入し、主人公が攻略しているキャラの好感度をガッツリ落としてイベント発生キャラと一緒に去って行ったり、早起きして作ったお弁当をゴミだと思って捨てたりする。

 本人は良かれと思ってやっているみたいだけれど、主人公には尽く裏目に出る、それがリリアーナ・ベンフィカだ。

 なんで、私がリリアーナ・ベンフィカなの?!

 君セナの中で一番嫌いなキャラなのに!



 主人公になりたかったよ!!



 冬の日本海をバックに叫んでいる自分を想像して何かをギュッと握りしめる。

 荒々しい波が断崖絶壁にぶつかって飲み込んで、そして静かに戻っていく。

 そんな様子を想像して余韻に浸っていたが、傍と気付く。



 違う違う。そうじゃない。そうじゃないよ!

 考えるトコはソコじゃない。

 そもそも、なんで私はここにいるの?

 さっきまで学校の教室にいたじゃない。

 ここは本当に君セナの、ゲームの世界なの?

 もし、そうなら。



 どうやって元の世界に戻れるの?





 目の前が暗くなっていくような気がした。






「……リリアーナ、さま……?」



 ハッとして声がした方を見ると、茶色い髪の女子が怪訝そうに私を見ていた。

 思わず彼女の手を強く握りしめていたのだ。



「あ。ご、ごめんなさい。痛かった?」



 慌てて手を離す。



「いえ。大丈夫ですわ」



 白い手をさすりながら、茶色い髪の女子はニッコリと笑う。

 いけないいけない。

 考え事に夢中で彼女のことを忘れていたよ。

 私をリラックスルームに連れて行ってくれる茶色い髪の女子こと彼女は、リリアーナといつも一緒にいる子だ。

 名前は、……名前は……。

 リリアーナの取り巻きの茶色い髪の女子。

 私が覚えていないだけなのか、名前が出てこない。

 ゲームの取説にも載っていなかったと思う。

 名前がわからないのはとても不便ね。

 しかも、いつも一緒にいるのに『名前何て言うの?』って聞いたらさすがに傷付くだろうし。

 もしかして、名前が無かったりするのかな?

 どうしよう?

 そう考えながら歩いていると、リラックスルームに着いた。



 コンコンとノックをして扉を開け、



「失礼いたしますわ」



 と、言って彼女が入っていく。

 確か、ゲームの中でリラックスルームには大きな姿見があったハズ。

 まずは、私がリリアーナ・ベンフィカになっているのか確認しよう。

 とりあえず、そこからだわ!



「失礼します。」



 少しうわずった声を出しながら、私はリラックスルームに入った。

読んでくれてありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ