19.自己紹介
アレフ様の説得は、また明日にしよう。
私は寮の部屋に戻ってきた。
気になるのは仲が良かった、サンドラとアナマリアのこと。
私は今、リリアーナなのにリリアーナの記憶が一切ない。
私の所為ではないと思いたいけど、仲の良かった友達から忘れ去られたら悲しいよね。
「ねぇ、ミセスブラウン。」
「ごようでしょうか?」
すぐに返事をしてくれるので助かるわ。
「ええ。あの、サンドラ様について教えてほしいの。あと、アナマリア様のことも」
私の言葉に、キョトンとした表情をするミセスブラウン。
「私が教えることなどと。私より、お嬢様がお詳しいでしょう」
「いえ、ミセスブラウンから見て、どういう人なのかを教えてほしいのよ。お願いできるかしら?」
「はい。かしこまりました。では、サンドラ様からお話いたします」
「ええ。お願い」
「サンドラ様、サンドラ・ソルーア様は我が国の王位継承権第3位、第1王女様で在らせられます。まだ、13歳ながらも、聡明でお優しい方でございます。お嬢様が入学前に、ベンフィカ邸に遊びにいらしたときなど、私共にもお言葉を掛けてくださったりと、気さくな方でございますね。」
第1王女様、アレフ様の妹なのね。
気さくね、王族に対して滅多なことは言えないし、当たり障りなくとなるとこんなものかな?
「そう。じゃ、アナマリア様のこともお願い」
「さようでございますね。アナマリア様はモーガン侯爵家令嬢でございます。同じく王子のご婚約者と言うこともあって、頻繁にお互いのお屋敷を行き来しておりましたね」
やっぱりどういう人柄かってことは話してもらえないみたいね。
「うん。ありがとう、ミセスブラウン。ところで、亡くなられた原因って何だったのかしら?」
「2年前の夏季休暇に、モーガン侯爵領の別邸に行く途中、事故に遭ったと聞いております」
「事故?」
「はい。スピードを出した対向車が正面からぶつかってきたのだとか」
乙女ゲームなのに、嫌にリアルね。
出会い頭に正面衝突って、よく新聞やニュースになる見出しみたいじゃない。
「確か、最期のお別れをさせてもらえなかったので、お嬢様は葬儀中、ずっと涙をお流しになっていましたね」
「そうだったわね。ありがとう、ミセスブラウン。悪いけど、ミルクティーを持ってきてくれる?」
「かしこまりました」
友達が亡くなっていたなんて。
葬儀中、ずっと泣いていたのか。
嫌いだと思っていたけど、リリアーナのことが知りたくなった。
何が好きで、何を思って生きていたのだろう?
交友関係も、エイミーやサンドラ様、アナマリア様以外の方とは、どんなお付き合いをしていたのか。
実家に行けば、もっと詳しいことがわかるのかしら?
でも、家族なら、今の私が本当のリリアーナじゃないって気付かれるのでは?
そう考えると、家に帰る勇気はまだ出なかった。
翌日。
結局、家には帰らずに、アレフ様の寮の方へと行く。
今日はタオルと、冷やしてもらったコーラを持ってきた。
昨日のお詫びと、ダンスのエスコートをお願いする切っ掛けにもなるかと思って。
無駄骨かもしれないけど。
寮の近くまで行くと、剣を振る音や、何かに当たっているような音が聞こえる。
音のする方へ行ってみると、小さい枝を紐で結び、反対側の紐を木に括り付け、動く小枝を打ち付けていた。
動く小枝に当たらないようにステップを踏む姿は、まるで舞のように洗練された動きだ。
しばし、真剣な表情のアレフ様を見つめていると、後ろから可愛らしい声が聞こえてきた。
「あれぇ?ココ、ドコかしら?違う所に出てきちゃったみたい」
そう言って、木と木の間から顔を出したのは、君セナの主人公だった。
学校の制服姿ではなく、セーラー襟のツーピース姿で、とても似合っている。
キョロキョロしながら出てきた彼女は、私の前を素通りし、
「あ、アレフレッド殿下! ここで何をされているんですかぁ?」
と、真っ直ぐにアレフ様のそばへと向かった。
まぁ。
知らない人だしね、私。
ちょっぴりショックを受けながら、成り行きを見ていた。
「ん?ああ、同じクラスの……。何か用か?」
アレフ様は私をチラっと見てから、主人公を見て言う。
「同じクラスのって……。私は、シャムエラ・ポルトですよ。何度も自己紹介させないでください!」
「ああ。悪い」
そう言うと、アレフ様は私の方を向き、
「知り合いだったのか?」
「いえ。違うクラスですし」
ゲームではまだ知り合うことはないけれど、もしかしたら、交流できるかな?
そんな淡い期待を持って、私はシャムエラに自己紹介をする。
「はじめまして。私は1年雪組の、リリアーナ・ベンフィカです。どうぞ、よろしくお願いします」
軽くワンピースの裾をつまみ、軽くお辞儀をする。
気のせいかしら?
一瞬、すごい嫌そうな表情に見えたのは。
「はじめまして! 私は、殿下と同じ華組のシャムエラ・ポルトです。よろしくね! リリアーナ!」
ニッコリと笑った顔は、私が大好きだったシャムエラの顔だった。
さっきの嫌そうに見えたのは、気の所為よね?
「ええ。シャムエラ様」
ゲームみたいに、わざとじゃなくても嫌な思いをさせないように気を付けなくっちゃね。
私もニコニコと朗らかな笑顔を浮かべる。
これで、第一印象は悪くないハズ。
「まぁ、殿下。すごい汗ですよ。」
「ああ、剣の修練をしていたからな」
アレフ様が額の汗を手で拭う。
タオルを出そうかと思ったが、私より早くシャムエラがハンカチを取り出す。
「殿下。ハンカチで良ければ、お使いください」
「ありがとう」
シャムエラがアレフ様のそばに行き、ハンカチを渡すのかと思ったら、そのままアレフ様の汗を拭き始める。
えっ!!
「何するんだ。止めろ」
「いいじゃありませんか。照れないでくださいよ」
「ふふふ。殿下って子供みたーい」
「なんだよ、それ」
アレフ様がシャムエラのハンカチを取ろうと手を伸ばすが、サッと避けるシャムエラ。
「きゃー。内緒です!」
逃げるように離れる。
まるで鬼ごっこのように。
少しずつ、私から離れて行く2人。
私、背景になってる?
すぐそばの距離にいるのに、存在をすっかり忘れられている。
どうしよう?
コーラはぬるくなっちゃったかな?
コレが、ゲームの主人公、シャムエラの存在感かぁ。
帰ろうか迷っていると、寮からクリフ様が出てきた。
「よう。」
「こんにちは、クリフトス様。これから、お散歩ですか?」
「なんで、オレが散歩なんかするんだ。森で昼寝するんだよ」
昼寝って、まだ午前中なのに。
「眠るんだったら、ベッドで眠ればいいじゃないですか」
「昼間っから寝てっと、うるさい奴がいるんだよ、ファ……」
大きなあくびが出る。
「また、夜更かしをしたのですか?」
ゲームのクリフ様はよく、夜更かしをしては趣味の機械や発明をしていたのだ。
「まあな。それで、すっげー眠いんだよ」
「ちゃんと、夜に眠らないと、身体を壊しますわよ」
「わかってるんだがな。ん?」
クリフ様は、アレフ様とシャムエラがいることに気付くと、
「チッ。またアイツかよ。じゃあな、リリー」
「ええ。ごきげんよう」
クリフ様は、足早に森の方へ行ってしまった。
舌打ちまでして、嫌がるなんて。
まだ、シャムエラと打ち解けてないのね。
クリフ様は、攻略対象キャラの中では初期の好感度が低い。
私はどうしようか?
このままココにいても邪魔よね? 忘れられてるし。
私は、追いかけっこを止めて、仲良く話している2人を見つめ、ため息をついた。
読んでくれて、ありがとう(*´▽`*)




