17.甘いお誘いは悪魔の囁き
昨夜は散々な目に遭ったわ。
エイミーに連れられて部屋に戻ったのはいいけれど、意識がハッキリしてくるにつれて頭痛がし始めた。
更に、何故か怒っているミセスブラウン。
お酒だなんて、私は気付かなかったわよ。
見た目も味もサイダーだったし。
君セナは全年齢対象のゲームだから、お酒は出てこなかったんだから。
さて。
今日は土曜日、休日だ。
この学園に入学してから、初めてのお休みの日。
自宅へ行ってみようか、寮に残ろうか?
それとも、アレフ様に会いに行こうか。
……私服姿はどんな格好何だろう?
よし、約束はしていないけど、行ってみよう。
アレフ様は夏季・冬季休暇以外は、寮にいることが多かったから。
部屋を出て、アレフ様の部屋がある男子寮の前まで行くと、規則正しく風を切るような音がする。
誰がいるのかと思って見たら、アレフ様が剣の素振りをしていた。
声を掛けていいものか迷っていると、アレフ様が私に気付く。
「リリー? 何か用か?」
「はい。あの、これどうぞ」
私はハンカチを取り出して渡す。
「ああ。サンキュー」
アレフ様は受け取ったハンカチで汗を拭くが、小さなハンカチはすぐに汗でビショビショになってしまう。
「お邪魔でしたでしょうか?」
「いや、丁度休憩しようと思っていたところだ。構わないよ」
拭いた後からも、汗が滝のように流れてくる。
今度はタオルを持ち歩こうかな。
アレフ様が持っている剣を見ると、剣は鈍く光っている。
剣を初めて見たけど、真剣なのだろうか?
「その剣は、本物なのですか?」
「練習用の剣だから刃は付いていないよ。これでも、ぶつかると怪我はするけどね」
そう言って剣を見せてくれたけど、正直なところ、よくわからなかった。
「アレフ様は、ここでずっと剣の練習をされていたのですか?」
「うん。日課だったしな。素振りをしていると、何だか落ち着くんだ」
剣を軽く振る。
何気ない自然な動きなのに、ヒュッと音を立てて剣はとても速く動いた。
2回、3回と繰り返すうちに、一定のリズムを刻むようになり、ステップが組み合わさっていく。
動きも激しさを増し、同じ動きを繰り返しているように見えたが、私にはアレフ様の動きを追うことができなかった。
ザシュッ
大きく振りかざした剣の切っ先が、音を立てて地面にめり込む。
どうしたのかと、剣から視線をずらしてアレフ様を見る。
斜めに突き刺さった剣を垂直にし、剣に掴まるようにアレフ様はしゃがんだ。
「休憩するんだった」
「そう、言ってましたね」
笑いながら言うと、つられたようにアレフ様も笑ってくれた。
「はは。じゃ、戻るか。リリー、行くよ」
「はい」
地面に触れないように剣を持ちながら歩く。
そんなアレフ様の後を付いて行く。
この後の出来事に、ちょっぴり期待を持ちながら。
アレフ様のお部屋に案内された。
ゲームでは、存在しか明かされたことがない、王族専用の寮だ。
ソファーに座ったものの、落ち着かず、辺りをキョロキョロ見回す。
「自由にしてていいよ。飲み物を頼んでおくから」
そう言うと、バスルームに行ってしまわれた。
自由にってそんなの無理だよー!
男子の部屋に遊びに行っていたのは、小学校の低学年の頃まで。
しかも、アレフ様のお部屋。
私は気持ちが悪くなる位、緊張していた。
紅茶を飲んでいると、さっぱりとした様子のアレフ様が戻ってくる。
Tシャツにデニムのジーンズ姿だ。
「悪い。待たせたな」
コーラのペットボトルをラッパ飲みしながら。
「いえ。全然」
緊張の為か、ごく自然にラッパ飲みしているからなのか、違和感が無かった。
アレフ様がソファーに腰かけると、タイミングを見計らったようにコーヒーが運ばれてくる。
「ああ。ありがとう、ハメス」
コーラを飲みながら言うアレフ様。
ん?
ラッパ飲み?!
「アレフ様、ラッパ飲み?!」
思わず声に出てしまった。
「ん?ペットボトルは、こうやって飲むのが普通だろ?」
「えっ……」
確かに、日本では普通だったけど、仮にも一国の王子が、ラッパ飲みなんてする?
「お行儀が悪く見えますわ」
少し咎めるように言うと、ハメスさんと呼ばれた執事も援護するように言ってくれる。
「さようでございます、殿下。せめて、グラスにお入れください。面倒なら私がご用意をいたしますので、勝手に冷蔵庫から取り出さないでください」
「いいだろ。このまま飲んだ方がウマイんだ」
「まっ!」
あまりに子供っぽい言い訳に驚いていると、
「そうだ。リリーもこのまま飲んでみろよ。このまま飲むと、絶対ウマく感じるから」
と、言って、ペットボトルを渡されてしまった。
え?
コレを飲むの?
このまま?
の、飲んでみたいような、ダメなような。
だって、か、間接キス……だよね?
ペットボトルを持ったまま、アレフ様を見る。
グイッといけ! みたいなジェスチャーをしていた。
ハメスさんを見ると、笑ってから私が持つペットボトルを取り上げてしまった。
「こちらは没収いたしますぞ」
「なんでだよ」
「リリアーナ様がお困りだったでしょう。レディを困らせてはいけません」
「レディって?」
アレフ様は私の方を見て笑うように言う。
ちょっと、それは酷いと思うよ。
「レディでございます。殿下は学園に入学してから、ハメを外し過ぎでございます。我が国の第2王子として、もっと分別のついた行動を取っていただきとうございます。それでは、リリアーナ様、ごゆっくりどうぞ」
「は、はい。ありがとうございます」
アレフ様を盗み見すると、怒った様子でコーヒーを飲んでいた。
お読みいただきまして、ありがとうございます。




